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 翌日、大きくなったルシルと稽古をしたが、勝手が違う上に暗黒竜本来の力が戻っているせいか、とんでもない戦闘力を持っている事に改めて気づかされる。これでも魔神に勝てないとか、やはり世界は広いとしか言いようが無い。さて、僕は人の身でルシルを越えられるのだろうか?

 午後になって剣術の稽古を始めたら、セリーがルシルを何処かへ連れて行った。多分、大きくなったので服でも買うのだろう。セリーの服でもキツそうだったし。何処とは言わないが。

 僕はと言えば、ブラスマイヤーのしごきのお陰でだいぶ両手剣を使える様になっていた。使ってみると両手剣の方が手に馴染む。これは本格的に両手剣に持ち替えようかな?

 その頃セリーとルシルは王様と密談をしていた。

「この子が幼女?ワシにはセリーと同じくらいにしか見えんのだが?」

「理由があってひと晩で成長しました。」

「なんと面妖な。しかし、良いのか?この子を侯爵の嫁にして問題無いのか?」

「見た目はともかく数千年を生きるドラゴンです。叔父様でも言葉使いには気を付けた方が良いですよ。」

「心配するな。我は温厚なドラゴンで知られている。滅多な事で怒ったりはせんぞ。」

 国王陛下は見た目と言葉使いに戸惑っている。

「一旦ワシの養女と言う肩書を与える。それを持って侯爵に嫁いで貰うのだが、異存は無いか?」

「ふむ、エイジの嫁になれば良いのであろう?たやすい事だ。」

「セリーもそれで良いのだな?」

「はい、お願い致します。」

「ふむ、言いづらいが、その、色々と負けておらんか?」

「叔父様、言わないで下さい。大丈夫です、私は負けません。」

「なら良いのだが。」

 その日家に帰ったセリーはぐったりしていた。余程疲れたのだろう。

 そう言えば、勇者の話があったな。

「ブラスマイヤー現在、この国に勇者は居るか?」

「その様な反応は無いな。」

 やはり偽物か、化けの皮を剥ぐにはどうするのが一番効果的だろう?

 プレイースの問題もあるし、やる事が山積みだな。あれ?スローライフどこ行った?

 それから1週間ほどして、ルキナとマークが戻って来たと報告があった。

「早速会おう。2時間後にセッティングしてくれ。」

 ルキナとマークの報告は予想以上にひどい内容だった。

「あの代官は只者じゃありませんね。一見誰にでも好かれそうな好々爺なのに、仮面を外すと悪魔が出て来るんじゃないかと思います。」

「実際、あの町はほぼ代官の支配の下にあります。特に冒険者ギルドを手中にしているのは不味いですね。」

「裏ギルド等の存在は?」

「そう言った物は無さそうです。あるとすれば教会ですかね?教会は金さえ積めば汚い仕事も平気でやりますよ。」

「で、2人ならどうする?」

「塩の流れを一旦止めては如何でしょう?」

「今、このタイミングで塩の流れを止めるのか?」

「王都の情勢ですか?少なくとも1か月は持つと踏んでいます。その間に片が付けば問題無いですよね?」

「自信があるようだな。解った任せるよ。やってみてくれ。僕も独自で動く予定なので、また向こうで会うかもね。」

 ルキナとマークは帰って早々だが、またプレイースに飛ぶらしい。

 僕も明日はプレイースに飛ぶ予定だ。

 翌日稽古を終えた僕はルシルを連れてプレイースに飛んだ。セリーでは無くルシルなのは戦闘が予想されるからだ。

 まず、冒険者ギルドへと向かう。ギルドに入ると視線が全てルシルに向かう。

 窓口のお姉さんにギルドマスターに会いたい旨を伝える。小さいギルドだからか、意外にもすんなり会えるそうだ。

 ソファに座って待っていると、ルシルにちょっかいをかけたい冒険者がうろうろしている。正直煩わしい。

 10分ほどすると、ギルドマスターの方が下へ降りてきた。なんと言うか威厳の無いギルマスだ。

「俺に用事があるって言うのはどいつだ?」

 僕は立ち上がって挨拶した。

「で、何の要件だ?」

「新しい領主が来るという話は聞いていますか?もし、ギルマスで居続けたいのであれば代官と手を切る事をお勧めします。多分近い内に代官は役職を剥奪されるでしょう。」

 するとギルマスの目つきが変わる。

「ほう?それを言いにわざわざ来たのか?しかも女連れで?」

「わざわざと言うか、ついでですね。この後色々行くところがあるので。」

「こう見えても俺は元Aランクの冒険者でな。」

「ほう?僕は現役のSランクですがなにか?」

 周囲を囲んで成り行きを見守っている冒険者たちからざわめきが上がる。

「貴様の様な小僧がSランクだと、どうせ金で買ったランクだろう?」

「試してみるかい?」

 この挑発に意外にもギルマスは乗って来なかった。

「俺も一応ギルマスをやってる位だ、見る目はあるつもりだ。お前さんも怖いが、そっちの嬢ちゃんはもっと怖い。これは代官も年貢の納め時って事だろうな。」

 ほう?ここでその冷静さは評価出来るな。

 懐から貴族の証を取り出し。エイジ・フォン・ゼルマキア侯爵と名乗りを上げる。

「こ、侯爵様ですか?」

「ふむ、ギルドは暫く、無関係を通してくれ。代官に付いたら怪我をするのはそっちだぞ。」

「解りました。ギルドは静観する事にします。」

 ギルドを辞し教会へ向かう。教会は町のほぼ中央にあり。特徴的な外観で遠くからでもすぐに判る。

 教会に入ると若いシスターが迎えてくれた。

「何の御用でしょうか?」

「ああ、ちょっと込み入った話なので司祭様を呼んで頂けますか?」

 若いシスターは少々お待ち下さいと言って奥へと入って行った。

 入れ替わる様に出てきた司祭は意外にも若い。20歳位だろうか?

「失礼ですが、司祭様にしては若い気がするのですが?」

「ああ、例のクーデターの粛清で前任の司祭は解雇されました。」

「なるほど、そう言う事ですか。ところで、その前任の司祭様が代官と癒着して悪事を働いていたのもご存じですか?」

「え?いや、その話は初めて聞きました。そこまで腐っていたとは。」

 ふむ、この教会は大丈夫そうだな。

「私は新領主様の依頼で動いています。1か月ほどで良いので代官とは接触しないで頂きたいのですが可能ですか?」

「私は問題無いのですが、前任の司祭の部下である、司祭見習いが何やらこそこそと動いているのは把握しています。」

「ふむ、小物ですね。それは放って置いて構いません。あとで一斉に掃除しますので。」

 そう言って教会を出る。これでルキナとマークが少しでも動きやすくなれば良いのだが。

 そうだな、ついでに漁村も覗いて行くか。何か情報が得られるかもしれないし。

 北に向かい歩いていると、サーチになにやら引っ掛かる。魔物では無い人間だ、だが悪意が隠せてない。

 しかし、ギルドと教会は抑えたはずだ。どこからの襲撃だ?

「ルシル、殺すなよ。」

「解っておる。」

 襲撃者は20人近い。町と村の境を狙う辺りかなり計画性が高い様に思われるが、僕がここへ来るかどうかは事前に解らないはずだ。

 となるとかなり統制の取れた裏組織が存在する事になる。

 襲撃者たちが僕たちを囲う様に展開する。

 あえて気付かないふりをして進んで行く。町と村の間の短い街道へ入った途端、襲撃が始まる。

 飛び道具は僕が魔法で無効化する。あとはルシルに任せよう。ルシルは動かないで敵を誘っている。それに気づかない馬鹿が10人程でルシルを囲んだ。

 次の瞬間10人がまとめて吹っ飛んだ。ご愁傷様。とりあえず、10人の身に着けている物を剥ぎ取り、ストレージに仕舞う。残りの10人は逃げて行くが、それでいい。サーチで追いかける。何処に逃げるかでアジトが解るだろう。

 どうやら教会らしいな。司祭見習いだったか?僕と司祭の話を聞いていた様だ。

 襲撃者は恰好から行けば冒険者だな。やはり、裏組織と言うべきグループが存在する様だ。

 漁村に辿り着くと、この間の女性が居たので声を掛ける。

「済みません。この村の人達ってどういう風に魚を食べるんですか?」

「新鮮な魚は何もせずに焼いただけでも美味しいですよ。」

「干物とかは作っているんですか?」

「ああ、魚は基本保存食だからね。」

「町の魚は臭くてマズそうでしたよ。」

「町の連中は魚の扱い方を知らないんだよ。」

「お勧めの干物を適当に20人前位欲しいんだけど、大丈夫?」

「干物なら幾らでもあるよ。1枚銅貨3枚で良いよ。」

「じゃあ、適当に見繕って50枚程頼むよ。」

「かなりの量になるよ、持てるのかい?」

「一応アイテムボックス持ちなんですよ。」

「ほう?冒険者かと思ったら商人もやってるのかい?」

「いえいえ、冒険者が本職です。ところで塩田を見たいんだけど、どっちに行けば良いのですか?」

 あっちだよと女性が指さしたのは西だった。銀貨1枚と大銅貨5枚を払って西へ向かう。西に2キロ位あるくと塩田が見えて来る。かなり大きい。働いている人も多く。100人位は居るだろうか。

 塩田に近づくと衛兵の様な男に止められた。

「ここは立ち入り禁止だ。帰れ。」

「塩を買いに来たのですが、何処へ行けば良いでしょう?」

「ん?それなら、代官の許可を貰え。」

「代官様ですか?商会が扱っているのでは無いのですね。解りました。」

 そう言って、塩田を後にする。正直言って王都の50%を担うにはこの塩田では小さすぎる。倍の規模は必要だな。ここも改革しなければ。

 塩田の横に幾つかの小屋があるが、あれが塩の精製工場だろうか?

しかし、これだけやりたい放題やって咎められないって、王都からの査察って本当に入っているのか?

 まあ、やるべき事は解った。一旦戻ろう。

 転移で家に帰る。
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