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 地下室に転移すると黒い靄が充満していてイマイチ状況が解らない。サーチを掛けると魔物の反応が結構ある。かなりの魔人が生まれている様だ。

 食事やお酒に魔人化を促進する薬でも入っていたのだろうか?このままでは魔人が増える一方だ。転移の魔法で魔素を地上へ転移する。地下室の魔素濃度が一気に低下する。魔人化の途中の人間は苦しみだす。既に魔人化している者は弱体化しているはずだ。

 2人の制御された魔人が来る前に片を付けたい。しかし魔人になっていない者も混じっている。どうする?

 とりあえず、完全に魔人化している者を切って行く。そうしないと他の者が危ない。およそ20名強。

 魔人化途中の人間は多分、このまま弱体化して行き死に至るだろう。残る冒険者は25人程度かな。

 生き残った冒険者達に一応の説明はするが、どの位の人数が納得してるだろうか。

 あれ?儀式を行ったのは神官だったよな?司祭と神官って違うの?

「ブラスマイヤー、神官と司祭って違うのか?」

「ああ、司祭は教会の幹部、神官は国から派遣された者たちだ。」

「って事は、国の内部にクーデターの首謀者が居るって事になるね。」

 そんな事を話していると、巨大な気を持つ何かが近づいて来るのが解る。

 多分例の魔人だろう。

 正直冒険者たちは邪魔だ、冒険者ギルドへ転移で飛ばす。

 2人の男が地下室へ入って来る。一見人間に見えるが、背中にビリビリと来る程の殺気を放っている。

「どう言う事だ?貴様何をした?」

 ほう?喋るのか?

「ちょっと害虫駆除にね。」

「面白い。が、余計な事をしてくれた様だ。」

 地下室のドアをあけ放った事により、魔素が急激に流れ込んできている。

 突然1人が消える。早い!だが、まだ捉えられるスピードだ。突っ込んで来るタイミングで背中を両拳で叩き落す。もう1人が驚いた顔をした。感情もあるのか?

 もう一人は黒い靄を体に纏う。そっちに気を取られている間に最初の一人は態勢を立て直している。こちらも黒い靄を出し始めている。どうやら戦闘態勢がこの状態の様だ。

 2人には聞きたい事がある。出来れば殺さずに済ませたいが、難しいか?2人が同時に消える。動きは見えている、ルシル程の圧倒的な速度は無い。攻撃を躱しながら、一人を足を掛けて転ばせる。連携が崩れたタイミングでもう1人にバインドを掛けるが弾かれた。

 流石は魔人と言うべきか、魔素の扱いは向こうが上かもしれない。仕方が無いので剣を抜いた。

 再度魔人が高速移動に入る。さっきより1段スピードを上げてきた。これ以上になるとキツイな。一人はやむを得ないか。2人の連携を読み、軌道上に剣を置く、1人の魔人の腕が飛んだ。

 流石に再生の能力は無い様だ。腕を飛ばされた方の魔人の動きが若干だが鈍くなる。バランスの問題だろうか?

 瞬動と転移を駆使して背後を取る。背中から心臓を貫いたが、動きは止まらなかった。首を落とさないと駄目なのか?魔物だから核があるのかもしれない。

 瀕死の魔人の首は簡単に落とせた。問題はもう1人の方だ。こっちの方が、厄介な動きをする。

 多分、元になった人間が武術の達人か何かなのだろう。動きは捉えられるが、こちらの攻撃が受け流される。

 僕は大きく逃げる振りをして、扉の近くまで飛びのいた。

 剣をスッと前に突き出し、後ろ手で扉を閉める。これで密室完成。

 地下室内の魔素を転移で地上へ飛ばす。魔人が途端に、膝をついた。

「どうした?」

「貴様何をした?」

「聞いているのはこちらだ。お前に命令を下した者の名を言え。」

「言うと思うのか?」

「思わんな。だが、一応聞くのが礼儀だろう?」

「ふむ、どうやら今回のクーデターは失敗の様だな。」

「その通り、朝には第2王子も拘束されるだろう。教会がどうなるかは分からんが相応の処罰が下るだろうな。」

「騎士団長は?」

「死罪だろうな。」

 騎士団長?しまった。そこまで手が回っていたとは。早く伝えないと。

「話は終わりだな。殺せ。」

「済まんな、出来れば生かしたまま捕えたかったのだが、思ったより強かった。」

 魔人の首を落とす。最後に笑った気がした。

 急いで王城へ転移する。もう、夜明けが近い。この時間なら宰相が起きているはずだ。緊急事態なので宰相の執務室へ転移する。しかし、そこに宰相の姿は無かった。

 何処だ?

「ブラスマイヤー。宰相の居場所が解るか?」

「近衛騎士団の部屋だな。」

 急いで近衛騎士団の部屋へ向かう。勢いよく飛び込んで来た僕に何事かと剣に手を掛ける者も居た。

 宰相がそれを手で制す。

「何事だ?」

「魔人は無力化しました。ただ、王国騎士団が奴らの手先になっている様です。」

「なんだと?そこまで大掛かりな事になっているとは。」

「動く前に止めないと本当に内戦になりますよ。騎士団長を捕縛できれば止められるはずです。」

「騎士団長か、やっかいだな。」

「何故です?」

「騎士団長はこの国で一番強いから騎士団長をしている。」

「ん?近衛騎士団より強いんですか?」

「純粋な戦闘力なら騎士団長に勝てる者はまずいないだろうな。」

「あー、僕が相手しましょうか?」

「そうしてくれると助かるな。」

 なんか周りからざわめきが聞こえるんですが。

「で、何処に行けば騎士団長に会えますか?」

「おそらく、騎士団の練習場に集合するはずだ。そこを待ち伏せるのがよかろう。」

「解りました。では後の事はよろしくお願いします。」

 騎士団の練習場は王城の西に隣接されている。兵舎もあるので、ここに集結すると言うのはあながち間違いでは無いだろう。

 練習場へ近づいて行くと人の気配がある。まだ夜明け前だぞ?

 更に近づくと警戒する動きが見て取れる。まだ日は昇って無いがだいぶ明るくなってきているので、顔までは解らないが人の数位は解る。

「何者だ?」

「えーと、初めましてかな?エイジ・フォン・ゼルマキア伯爵です。」

「伯爵が何の要件ですか?」

 4人の男が並んでいる。多分、一番背の高いがっしりとした男が騎士団長だろう。

「あー、クーデターは失敗に終わりました。大人しく投降する気はありますか?」

 何を言ってるんだこいつと言う顔でこちらを見ている4人。

「抵抗するなら痛い目にあって貰いますが、どうします?」

 腰の剣に手をかける3人。騎士団長は動かない。

 3人にバインドをかける。魔人と違って弾くような真似は出来ない。

 騎士団長がゆっくりと動く。

「魔法使いか?」

「いや、剣も使いますよ。」

「ほう?俺相手にそれを言うか?」

 騎士隊長が両手剣を背中から片手で引き抜く。なんと言うか両手剣と言うより大剣だな。

「俺を止めないとクーデターは終わらないぞ。」

「ふむ、なら止めましょう。」

 瞬動で近づくが思ったより切り返しが早い。身体強化のスキルかな?右から回り込んでみるが、剣を置かれていたので、転移で左に飛ぶ。流石に驚いた様だが、こちらの斬撃は躱された。王国一の剣士と言うのは伊達では無さそうだ。

 何度か打ち合ってみるが、やはり分が悪い。この位の剣術が使えれば聖剣も使えるのだろうか?

 まあ、僕の戦闘は剣と魔法の組み合わせだ。馬鹿正直に剣で打ち合う必要は無い。

 バインドを放つが剣で切られた。ならばと重力魔法で相手に負荷をかける。

 流石に動きは鈍るが、数瞬で逃げられた。思ったより魔法攻撃を研究している様だ。まあ、僕の魔法の腕は大したことないからね。勝てるのはおそらくスピードだけだろう。あとは転移を上手く使うしかない。

 ルシルとの稽古を思い出しながら、技を繰り出して行く。よく考えたらルシルとの稽古って武術の稽古なんだよね。僕は剣士のはずなんだけど、なんでだ?

 残像を利用して左右から同時に襲い掛かる様に見せかけるが、どうやら見切られている様だ。だが、相手が動く瞬間に転移を使うとこちらが有利に変わる。右でも左でもない上だ。

 騎士団長が珍しく無様に転がりギリギリ避けた。負けるより無様さを選ぶところが怖い。

「面白い技だが2度目だ。同じ技を2度見せてはいけない。」

 お?ルシルと同じ事を言っている。一撃必殺って奴だね。

 だがね、転移出来るのが人間だけとは限らないのだよ。

 これを卑怯と呼ぶかどうかは騎士団長次第だが。僕は剣の試合をしてるんじゃないんだ。

 ストレージから短剣を3本取り出す。1本目を騎士団長の右肩に転移させる。

 突然の痛みに何が起きたか理解するまで時間がかかる。その間に2本目を左足の太ももに転移させる。

「絶対に当たる短剣。次は心臓に行くよ。」

「ちょっと待て、それは剣士としては卑怯だとは思わんのか?」

「いや、僕は剣も使える魔法使いですので。」

「そうか、魔法を無効化出来ない時点で私の負けか?」

「大人しく投降して貰えると助かるのですが。特に部下の為にね。」

「解った。投降しよう。」

 知らない間に朝日が昇っている。多分、第2王子も拘束されているだろう。

 これで、今回のクーデター騒ぎはひとまず終わりだ。あとで国王に呼ばれるだろうが。

 疲れたので帰って寝よう。
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