上 下
13 / 308

013

しおりを挟む
 鍵と地図を貰ったので、家を見て置こうと思う。一度見て置けば転移できるしね。

 貴族街は王城の周辺にある。その中でもエイジが借りた家は西の端に位置する。西の端と言っても中央部には違いないので王城までは割と近い。また、冒険者ギルドも南西にあるので、東に借りるよりは利便性が良い。まあまあの立地である。

 家に近づくと似た様な大きさの家が数件並んでいる、どうやらこの辺は男爵家が多い様だ。目的の家に辿り着くと、まず、荒れた庭が目に入る。

「これは手入れが面倒そうだな。」

 庭はそれなりの広さがあるが、家は思ったよりこじんまりとしている。これで月50万は高くね?

 外壁も所々剥げが目立つ。塗りなおしが必要だろう。中に入ると床は思ったより頑丈だが、窓やドアにガタが来ている。

「修理が必要だな。この世界の賃貸って勝手にいじっても良いのかな?」

「構わんぞ。家とは基本そういう物だ。家具類も自由にして問題無い。」

「そう言えば、家具が付いてるんだな。」

 一通り部屋を回ってみる。1階部分は応接室、執務室、寝室、客室、執事の部屋、食堂、キッチンなどが並んでいる。風呂が付いているのにビックリした。しかも結構でかい。2階は主に使用人の部屋になっている様だ。12人位は住み込み出来そうだ。1階にも使用人用の部屋があったので合わせて15人位なら余裕で雇えるだろう。それからトイレが全部で4個もある。流石にこの規模だとその位必要なのかもしれない。

 家自体は悪く無い、問題は状態だな。これを修理するのに幾らかかるんだろう?憂鬱な気分になるエイジだった。

「なあ、ブラスマイヤー。こう言うのって魔法じゃ修理できないのか?」

「出来ない事も無いが、金を回すのが貴族の仕事だ。特にお前は白金貨50枚も貰っているからな。ここは商業ギルドに頼んだ方が賢いぞ。」

「そういう物か?まあ、当分は住めそうにないな。止まり木亭に戻ろう。」

 歩いて止まり木亭に向かう。1時間近くかかってしまった。

 宿屋に入ると既に夕食の時間らしい。幼女に勧められて席に着く。相変わらずここの飯は美味い。エールを追加で注文した。

 部屋に戻りくつろぎながらブラスマイヤーと話す。

「明日は商業ギルドへ行くとして、後は何をすれば良いんだ?」

「着るものが必要だな。貴族らしい格好をしないと舐められるぞ。」

「そういう物なのか?他には何かあるか?」

「馬車を買え。」

「馬車?」

「ああ、貴族は基本的に歩かない。特に王城へ上がる時は馬車が必要だ。」

 そう言えば、家に厩舎が付いていたな、そう言う事か。しかし貴族って意外と面倒だな。こんなんでスローライフ出来るのか?

 俺のスローライフのイメージって田舎の農村で自給自足なんだけどな。なんか、どんどん違う方向へ行ってる気がするぞ。

 まあいい、明日は商業ギルドに行って、服を買って、馬車を買う。いや、ちょっと待て、馬車って何処で売ってるんだ?

 翌朝、幼女に起こされ、食事を取って外出する。今日の宿泊代も渡して置く。目的地は商業ギルドだ。馬車も商業ギルドで買えるらしい。

 そう言えば冒険者なのに全然冒険してないな。

 40分程かけて商業ギルドに辿り着く。ギルドに着くと窓口に行き、家を直す職人の手配と庭の手入れの職人の手配を頼み、馬車が欲しい事を伝える。

「馬車は2頭立てでよろしいでしょうか?」

「ああ、それで頼む。あと馬も一緒に。」

「馬車は金貨20枚程度ですが、馬は高いですよ、最低でも金貨30枚はします。」

 ん?馬車が金貨20枚で、馬が1頭30枚、それを2頭。全部で金貨80枚?

 日本円で800万円って高級車が買えるじゃん。馬車高っ!

「必要なので手配をお願いします。止まり木亭に泊まっているので手配が出来たら連絡ください。」

「解りました。お名前は?」

「エイジ・フォン・ゼルマキア男爵です。」

「ゼルマキア男爵様ですね。承りました。」

 ふぅ。緊張した。いきなり800万の買い物をしてしまった。次は服だな。

 この世界平民は基本古着を着る。なので新品の服は売って無い。貴族は全てオーダーメイドで服を揃えるのだそうだ。

 商業ギルドで聞いた店にやってくる。なんか高級そうな店だ。

「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件で?」

「貴族に叙されたので服を新調したい。王城へ着て行く物を2着と平服を4枚作ってくれ。」

「解りました。では採寸させて頂きますので奥へどうぞ。」

 奥へ通されて、あちこち測られる。20分程だったが物凄く疲れた。

「デザインはどうなさりますか?」

「良く解らないので任せるよ。どの位で出来る?」

「そうですね。2週間程時間を頂きます。」

「解った。止まり木亭に泊まっているので出来たら連絡をくれ。」

「畏まりました。」

「ちなみに全部で幾らになる?」

「そうですね金貨45枚位になると思いますよ。」

「解った。」

 店を出てホッとする。つか洋服で450万円ってなんだよ?ブランド品か?

 貴族になった途端金銭感覚がマヒするぞ。

「おい、ブラスマイヤー、忘れ物は無いよな?」

「とりあえずは大丈夫だな。」

「まだ時間あるけど、何処か行くか?」

「ドラゴンでも狩りに行くか?」

「また、大騒ぎになるのは勘弁してくれ。」

「ストレージの解体機能を使えば問題ない。」

 ん?解体機能なんぞや?

「ストレージに入れた物は加工、解体、合成、コピー等が可能だ。」

「それ、もっと早く言ってくれればこんな事にはならなかったのでは?」

「いや、成人したての低ランクがドラゴンを解体したとか言ったら大騒ぎになるぞ。それに、素材もまともに買い取って貰えない可能性がある。」

「まあ、確かに。」

「だから低ランクのうちはドラゴンは丸ごと売るのが儲かる。高ランクになったら解体して素材ごとに売った方が儲けになるって事だ。」

「一応考えているんだな。」

「一応とはなんだ。」

「高く売れるワイバーンとか狩りに行こうぜ。」

「ワイバーンか、あれは結構面倒だぞ。」

「そうなのか?」

「まあ、行ってみれば判る。」

 頭の中に地図と映像が流れ込んで来る。映像に集中し鮮明になった所で転移発動。

 ここは渓谷の底?

「ワイバーンはこう言う所に好んで巣を作る。鳴き声が聞こえたら上を見ろ。」

「上ねぇ?」

 って、既に何か飛んでるし。

「あれってワイバーン?」

 そう聞くと同時に鳴き声が聞こえた。

「ワイバーンがやっかいなのは飛ぶ事だ。しかもかなりの高さを飛ぶ。あれを落とすのには魔法の正確なコントロールが要求される。」

「100メートル位あるぞ、あそこに届く魔法ってあるのか?」

「ロックアローがお勧めだ。ちなみに羽が弱点だぞ。」

 よし、じゃあ一丁やってみますか。そう言えば攻撃魔法を使うのも久しぶりな気がするな。

 イメージして、ロックアロー!

 って、30メートル位しか飛ばないし。

「イメージが足りないな。ちゃんとワイバーンの羽を打ち抜くイメージをしろ。」

「やってるんだけどなぁ」

 何度か試すが、やはり飛距離が足りない。何故だ?アローって矢だよな?矢が100メートルも飛ぶイメージって無いんだよね。じゃあどうする?銃だな。ここはライフルをイメージしよう。

 羽を良く狙って。ロックライフル!

 バシュ!っと音がして、ワイバーンの羽に穴が開いた。小さな穴だがワイバーンはバランスを崩して落ちて来る。

「あんな小さい穴で飛べなくなるの?」

「ワイバーンはドラゴンの亜種だ、羽ではなく魔法で飛んでいる。羽に穴が開くとバランスを崩す物なのだ。」

「なるほど、そういう物なのか?」

「ほら落ちて来るぞ、首を刈れ。」

 落ちて来るワイバーンを追いかけて地面に叩きつけられたタイミングで首を刈る。そのままストレージに入れた。

 コツを掴めば簡単だ。そのあと全部で5匹のワイバーンを狩った。

 狩ったは良いが今度は帰るのに難儀した。止まり木亭をイメージして転移したのだが何故か男爵邸に転移した。

「あら?なんでここに?」

「お前のホームがここに設定されているんだろう。」

「ホーム?」

「ああ、拠点と言う奴だな。ここを家と頭で認識したから自動更新されたのだろう。」

「そういう物か?しかし、ここからギルドまで結構あるぞ。」

「どっちみち止まり木亭に帰るのだろう?だったら同じ方向だ。」

 ギルドに着く頃には薄暗くなっていた。ちなみにワイバーンは5匹で白金貨1枚になった。馬車代くらいにはなった様だ。
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...