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 昇級試験は朝から始まる。10時には始まるらしいので9時半にギルドの裏手に行ってみた。既に数人の受験者らしき冒険者が居る。

 暫く待つとギルドの職員が5名ほど現れる。

「集まった様だな。それでは試験を始める。魔法職は左手に集合。戦闘職はこっちだ。」

 そう言って、職員の1人が手を上げる。今回は魔法が間に合わなかったので戦闘職で試験を受ける。
 
 と言うか、月に一度の昇級試験と聞いて大規模な物を予想していたのだが思ったより人数が少ない。

 C・D・Eランクがそれぞれ1人ずつ。FとGが4人ずつの11人だ。それが2手に分かれるので更に人数が減る。

 戦闘職は7人だ。

「これから模擬戦をしてもらう。木刀を使うので危険は少ないが当たり所が悪ければ死ぬ事もある。気を引き締めて挑む様に。基本勝敗は関係ない。負けても内容が良ければ合格だ。」

 模擬戦はギルド職員と1対1でやるらしい。ギルド職員は元冒険者が多いので、高ランクの冒険者が潜んでいる可能性もある。

 こっそりブラスマイヤーに聞いてみる。

「本気でやった方が良いか?」

「止めて置け、それほど強い奴は居ない。最悪殺してしまうぞ。」

 昇級試験は思ったより温い様だ。まあGからFに上がるのにそんなに強い相手と戦わせないか?

 Cランクの冒険者から模擬戦が始まる。動きを見ているがスロー過ぎてあくびが出る。あれでCランクなら僕はもう少し上に行けるな。しかし、毎月試験を受けるのもだるいな。

 だんだんランクが下がって来て余計に見てるのが辛くなるので、魔法職の方へ眼を向けてみる。

 魔法職の試験もなんかだらだらしている。あれなら魔法職でも受けられたな。

 等と考えていたら名前を呼ばれた。どうやら順番が来たようだ。

「名前とランクを言え。」

「エイジ、Gランク。」

「5分間立っていられれば合格だ。始めるぞ。」

「解った。」

 ギルドの職員が中段の構えから、すっと前に滑る様に動く。ほう?以外に良く動くなランクが高いのか?そう言えば鑑定の魔法は覚えていなかった。あとで教わらなければ。等と考えているとやっと攻撃が来る。遅い。くるりと体を捻り相手の後ろに回り込み首筋にピタリと木刀を当てる。

「あの?もう少し真剣にやって貰って良いですか?」

 周りからざわめきが起こる。今の見えたか?とか何をしたんだ?と言った声だ。

 試験管のギルド職員も何をされたか解っていない様だ。

「俺は元Bランクだぞ、本気でやっていいのか?」

「問題は無い。頼む。」

「後悔するなよ。」

 そう言うとギルド職員は剣に虚実を交えて来た。いわゆるフェイントと言う奴だ、しかし、あまりにスローなのでフェイントがフェイントになっていない。

 何がやりたいんだろうと言う顔で、相手の木刀を叩き落として今度は顔面に剣先を向けてみる。

 再度ざわめきが起こる。今度は見えた様だ。

 別のギルド職員が1時中止を宣言して。何やら話し合いを始めた。そこへ、壮年の大男が現れる。

「なんだ?トラブルか?」

 どうやらこの大男はギルドマスターらしい。職員がそう呼んでいた。

 話を聞いたギルドマスターはニヤリと笑い。

「では、続きは俺がやろう。」

 そう言った。

 何故かは判らんがたかがFランクの試験にギルドマスターが出て来た。どう言うシステム何だろう?

「ちなみに俺は元Sランクだ。SランクとAランクでは格が1桁も2桁も違う。」

「元って事は今は違うんだろ?」

「元気が良いのは良い事だが、君は礼儀ってものを知る必要がある様だ。」

 そう言うと木刀を構える。両手剣だ。対するエイジは片手剣。片手剣の有利はスピード。破壊力と防御力では相手が上だ。

 しかし、こんなに早くSランクと相手が出来るとはラッキーだな。自分の実力を知りたかったんだよね。

 Sランクなら対等に打ち合えるだろう。そう思っていたが、様子がおかしい。この男からはAランクの魔物から感じる威圧感が無い。

 開始の合図と共にエイジは横に飛んでみる。流石にこれには反応する。Sランクは伊達じゃないか?

 今度はまっすぐ突っ込んで直前で左に回り込む。一瞬隙が出来るので胴に剣を撃ち込む。当然避けられるはずの剣は何故か当たった。

「え?」

 我ながら間抜けな声が出てしまった。ギルドマスターは倒れ込んでいる。

 あら?本気出してませんけど?

 またしてもざわめきが起こる。

「これは試験にならないな。特別措置を取る。ギルドマスター構いませんね?」

「うむ。これ程の手練れだ。ギルドに貢献してくれるだろう。」

「と言う事で君は、Cランクに昇格だ。」

 ん?どう言う事だ?

「君の実力は最低でもAランクはある。だがギルドの規定で昇級試験では飛び級はCランクまでと定められている。なのでCランクだ。これ以上は1ランクずつ地道に上げて貰いたい。」

「はあ?ちなみに毎月試験は受けても良いのでしょうか?」

「構わない。特に君には早目にAランクまで上がって欲しい。指名依頼も出来るからな。」

「解りました。」

「と言う事でこれが合格の書類だ。受付に持って行けば処理してくれる。」

 そう言って何やら紙を渡された。試験はこれで終わりらしい。

 例の受付嬢の所へ行くと大いに驚かれた。彼女はミリムと言う名前だそうだ。旦那はギルド職員らしい。なんで結婚しても受付嬢を続けているのか聞いたら。空いてる窓口も必要と言う上の判断らしい。確かに僕の様な冒険者には空いてる窓口はありがたい。

 暫く待つとCランクのギルドカードが出来上がる。

 受付嬢からカードを受け取ると、次回の昇級試験もエントリーしたい事を伝える。

「そうですね。エイジさんの場合早目にBランクに上がる事をお勧めしますね。」

「何故だ?」

「Bランクならアイテムボックスを持っていても、変なちょっかいを掛けて来る者は居ませんから。」

「なるほど、そういう物か?」

「今日は依頼は受けますか?」

「いや、時間はあるが止めて置こう。掲示板を見て、CランクBランクの依頼がどんな物かだけ確認してから帰る。」

 Bランクの依頼は大したものが無かった。だが軒並み依頼の報酬が高い。ランクが上がればもっと報酬はあがるだろう。これは早めにSランクを目指そう。

 その日は時間が余ったので家で魔法の練習の続きをした。なかなか上手くいかない。

「魔法の適性が無いのかな?」

「いやいや、常人なら3年掛かる所を3日で習得して置いて何を言う。」

「そんなもんか?所で鑑定の魔法って難しいのか?」

「難しくは無いな。目に魔素を集めれば色々出来るぞ。」

「ほう?目に魔素を集めるのか?眼鏡の様なイメージかな?」

 そんな感じで魔素を操ると鑑定の魔法は難なく習得出来た。

「これは便利だな。で、色々出来るって言ってたが鑑定意外に何があるんだ?」

「簡単な所だと透視や遠見が出来るな。」

「透視は倫理的にどうなんだ?遠見は便利そうだな。索敵ってのは難しいのか?」

「索敵は魔力を薄く広く伸ばすだけだ。あとは波紋の様に魔力を操作すれば物にぶつかった時に反応する。」

 波紋をイメージか?これはイメージしやすいかな。思った通り一発で出来た。

「なるほどこれが索敵か?結構色々な物が引っかかるんだな。魔物に限定する事は出来ないのか?」

「索敵する時に魔素を感知するイメージを流せばよい。まあ魔物は魔素が濃いから比較的見つけやすいぞ。」

「なるほど、明日狩に行くから試してみよう。」

「お、明日は狩りに行くのか?」

「魔法も試したいし、金も欲しいからな。もう少し強めの魔物を狩ってみたい、可能か?」

「問題無い、任せて置け。」

 翌日はギルドに寄らずに狩りに出た。どうせ受けてもやらない依頼を受けるのは無駄だしな。その分遠くまで行けるし。

 南門を出て、例の熊の出る森を抜け更に奥へ行く。

「この辺りから魔物が強くなる。索敵の魔法を使ってみろ。」

 ブラスマイヤーに言われて索敵を使う。なるほど、魔物は魔素が多いから解り易いって言ってたがその通りだ。逆に魔物が居ると他の物を見つけるのが難しくなるほど反応がでかい。

「ところで何ていう魔物だ?」

「グレートボアだな。」

「ボア?蛇か?」

「いや、イノシシだ。凶暴で牙が武器弱点は眉間だな。毛皮と肉が素材なので綺麗に倒せ。」

「簡単に言ってくれるね。」

 まあ、実際簡単なんだけどね。まさに猪突猛進まっすぐに攻撃してくるので対応しやすい。なんでこれが高ランクなんだ?

 しかし、近くで見るとでかいな。軽自動車位はあるぞ。そんな魔物を10匹ばかり狩ってから。今度は魔法で倒す練習をする。森で炎は使えないので、主に空気と石の魔法を使う。だいぶ魔物に当たる様になったが、攻撃力が低いのか傷が殆ど付かない。

「もう少し威力の高い魔法って無いのか?」

「魔法はイメージだと言ったろう?今の魔法の威力を上げればよいでは無いか?」

「あ、そうか。」

 大砲をイメージして岩を飛ばしてみた。

 軽自動車が爆発した。

「お前は加減と言う物を覚えろ。」

 その日はそれで帰る事にした。ちなみにグレートボアは1頭金貨20枚だった。10頭で金貨200枚だ。
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