うちの婆ちゃんが異世界で魔王をやっていた件

埼玉ポテチ

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004 挫折

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 翌朝は珍しく10時前に目が覚めた。朝食を食べてから例の家に向かう。

 鍵をキッチリと閉めてから、市場へと向かう。ちなみに、市場で露店を開くには商業ギルドに銅貨5枚払えば良い。俺は昨日の内に出店の手続きをして、場所も確保して置いた。

 まあ、大抵の露店がほぼ毎日出店しているので、新人の俺は、あまり良い場所は取れない。一番良い場所は大手の商会が占めているので、一般人の出店は市場の出入り口から離れた場所になる。

 なんとなく感覚的に考えると広場の中央が一番良い場所に思うかもしれないが、実は出入り口の付近が一番売れる場所になっている。つまり、外側が良い場所で中央に行くに従って悪い場所と言う風になる訳だ。

 まあ、長年開かれている市場なので、買い物客はルートが決まって居る者も多い、つまり、そのルートの近くに出店出来れば、自然と客が集まると言う事もあるので、一概に場所が悪いから売れないとは限らない。

 特に生活必需品を売る店の近くは当たりと言う風に言われているのだが、現在俺が割り当てられた場所の近くには野菜を売る店が多い。野菜を売る店は絶対数が多いので当然場所が良い所から売れて行く。
 
 つまり、この場所はハズレと言う訳だ。まあ、珍しい物を売れば、客引きにはなるかもしれない。あくまでも当初の目的は1万円を3万円にする事だ。少しくらい時間が掛かっても良いので、この世界での商売を学べれば問題無い。そして、出来るなら1品でもヒット商品が出れば嬉しい。

 俺はゴザ代わりのブルーシートを地面に敷いて、店を開く準備に掛かる。周りを見ると、野菜などを売っている者はゴザの上に直に商品を並べているが、小物や道具などを売って居る者はテーブルを使っている。

 一応俺もテーブルは用意して来たのだが、この場で取り出すと、アイテムボックスを持っている事がバレてしまう。どうした物か思案する。

 商品は事前にバッグに入れ替えたのだが、テーブルまでは頭が回らなかった。

 何処かに丁度良い物陰でもあれば良いのだが、そうそう都合良くは見つからない。

 よく見ると、ゴザの上に布を敷いて民芸品の様な物を売っている店もある。今日はアレを真似て凌ぐしか無いかな。

 手に持ったバッグから取り出した様に見える感じでアイテムボックスから布を1枚取り出す。一応販売用の布なのだが、仕方がない。これをブルーシートの上に敷いて、商品の展示用に使用する事にした。

 今日用意した商品は主に文房具と生活必需品だ。婆ちゃんに見せたけど、何もアドバイスはくれなかった。悠人が選んだのだから、まずはそれで感触を掴んでみれば良いとだけ言われた。

 異世界ラノベ知識を総動員して、資金も潤沢に使えば、短期的に莫大な利益を得る事は可能だと考えて居る。だが、仕事として長く続けるには、知識を小出しにして、徐々に稼ぐ様にしないと長続きしない。

 特に、この世界の経済を混乱させるような稼ぎ方をするのは不味い。それだけのポテンシャルを持っている商品は沢山ある。だが、ある種そう言ったオーバーテクノロジーは禁じ手だ。婆ちゃんもそれは望んでいないはずだしね。

 俺はまだ、この世界の文化を把握し切れて居ない。まずは、この世界に混乱を起こさない程度の商品で勝負するしか無い訳だ。

 そこまで考えて用意した商品なのだが、婆ちゃんの反応がイマイチだったのが、少し気に掛かるが、とりあえずは頑張ってみるしかない。既に商品は仕入れてしまったのだから。

 商品を布の上に綺麗に並べて展示して行く。作業は10分位で終わったので後は客を待つだけだ。その間、周りの状況も確認する。この場所で何がどの位売れるのか、これは実際に見ないと解らない。

 右隣は農家の奥さんらしい年配の女性で、売って居る物は根菜、多分芋の一種だと思う。左隣は鍛冶屋なのか、鋤や鍬の金属部分。鉈や鎌、包丁やナイフ等をテーブルに並べている。

 そう言えば冒険者ギルドがあるって事は武器屋や防具屋があるって事だよね?って事はそれなりの数の鍛冶屋があるのかな?鍛冶屋と言うとドワーフのイメージがあるが、まだ、この世界に来て亜人は見ていない。

 左隣の鍛冶屋の商品を見る限りでは、この世界の金属加工技術はあまり進んで居ない様だ。

 そう言えば、ハサミとかあるのだろうか?100円ショップにもハサミは売っているが、需要がありそうなら仕入れて見るのも面白いかもしれない。

 既に11時を回って居るが、客の流れはまばらでこの辺りの店で買い物をして行く者は少ない。やはり場所が問題なのかな?

 とりあえず、周りの店を観察してみるが、どの店も食材か生活必需品を扱っている。恐らく、この市場を利用する庶民は、生活するのに精一杯で娯楽にまでは手が回らないのかもしれない。

 幾つか、民芸品や木工品を扱っている店もあるが、たぶん他の町や村から来た者を対象にしれいるのだろう。

 結果から言うと、俺の用意した商品は1つも売れなかった。5時間程店を開いて居たのだが、訪れた客は数人。商品についての質問すらされなかった。

 まあ、両隣の店も似た様な状態なので、俺だけが特別では無いようだが、この世界には無い珍しい商品を並べたのに、この結果はどうも納得が行かない。

 店を片付けて、帰路に着く。家に帰って婆ちゃんに報告すると、予想通りと言った答えが返って来た。

「1つも売れないと言うのは極端だが、まあ、売れないのは当然だろうね。」

「え?どう言う事?婆ちゃんはこの結果を予測していたの?」

 俺は何を間違えたのだろう?婆ちゃんの言葉を待つ。

「悠人はスーパーに買い物に行く時。だいたい何を買うか決めてから行くだろう?そこに、見た事も無い、使い方も解らない。値段さえも解らない商品が売って居たら、買うかい?」

「あ!」

 そう言う事か。俺の売っていた商品は俺には馴染みのある商品だが、向こうの世界の人にとっては完全に未知の商品って言う訳だ。そりゃあ、珍しいとは思っても買う気にはならないよな。

 なら、どうすれば良い?デモンストレーション?実演販売みたいな事をすれば良かったのか?

「悠人は、魔法を使いたいと思った時、本屋へ行こうと思ったんだよね?それって日本人の発想だよ。向こうの世界では魔法を使いたいと思ったら、魔法屋へ魔法を買いに行く。前にも言ったと思うが、日本の常識が通用しない世界だと言う事を理解した方が良いね。」

 そうだった、昨日婆ちゃんに魔法の本が無いかと聞いたら、向こうの世界では本で何かを学ぶと言う習慣が無いと聞いていたのに。

 これはもう一度市場調査からやり直しかな?

「婆ちゃん。明日、もう一度向こうの世界を良く見て来るよ。」

「ふむ、それが良いさね。」

 どうやら、婆ちゃんの掌の上で踊っていた様だ。2度同じミスを繰り返さなければ儲かる様になるとも言っていた。明日はもう少し踏み込んで向こうの世界を体験して来よう。

 今回の失敗は向こうの世界に全く存在しない商品を持って行った事だ。ならば、向こうの世界でも使われて居る物の発展形を持って行く事を考えるのが良さそうだ。

 まあ、折角仕入れた商品を廃棄するのは勿体ないので、そっちも売る事を考えないとね。

 考える事は沢山あるが、今日は早めに寝て、明日は何時もより早めに向こうへ行って、向こうの朝と言うのも経験してみよう。

 そう言えば、ネットで注文したパイプベッドと寝具が届いているが、思った以上に大きく、どう考えても車には乗りそうに無い。どうしようと考えて居たら、アイテムボックスに入るんじゃ無いかな?と思い付き、試しに入れて見たらすんなりと入った。

 アイテムボックスの仕組みと容量がイマイチ把握しきれていないが、どの位の大きさの物がどの位の量入るのだろう?

 翌朝は7時前に目が覚めた。婆ちゃんも既に起きている様だが、朝飯は要らないと言うと、そう言うと思ったと言って、手作りのサンドウィッチを持たせてくれた。

 車の運転もだいぶ慣れて来て、7時ちょっと過ぎに例の家に辿り着く。すぐさま、向こう用の衣服に着替えて、戸締りを確認しながら、家を出る。

 市場へと向かうが、何時もより人通りが少ない気がする。この時間だとこんな物なのかな?

 市場に着いたのが8時半頃、辺りを見回すと、まだ半分位しか露店が開いていない。なるほど、農家等は早起きをして、収穫をしてから市場に出店するので、市場から遠い人だと、開店が遅れる訳だ。

 まあ、この時間でも食堂等は仕入れをするので、そう言う所に食材を卸している店舗は早めに店を開けている様だ。

 要は需要と供給って事だな。商売の基本の1つだ。

 なるほど、市場と言うのは時間帯で客層が変わって来るんだな。その辺も意識しないとイケない様だ。

 とりあえず、開いている露店を中心に売って居る物を細かくチェックして行く。その中で、日本で売られて居る物と似ている物を探して行く。

 例えば、刃物等はこちらでも日本でも似た様な物だ、だが、こちらの刃物は鍛冶屋が作る1点物、当然それなりの値段がする。極端な話、包丁なんかは日本では100円ショップで買えるが、こちらで買うと1万円近くする。しかも、切れ味は100円ショップの物の方が上だったりするのだ。

 まあ、こちらの包丁は研ぎ方次第では切れ味も上がるのだろうが、やはり鉄で作られて居るので手入れを怠ると錆びが出る。その点、100円ショップの包丁はステンレス製なので、殆ど手入れをする必要が無い。

 勿論、日本でもそれなりの包丁を購入すると1万円どころか、その数倍はする。だが、そう言う包丁は、この世界ではオーバーテクノロジーになりかねない。

 鍛冶屋のレベルの問題もあるが、包丁を見る限り、武具屋で売っている剣もその品質はたかが知れているだろう。恐らく、切れ味よりも丈夫さが求められているのかもしれない。

 まあ、冒険者が持つような直剣に日本刀の様な切れ味を求める方がおかしい。それに日本刀だって、数人も切れば、切れ味は落ちる。

 魔物を相手にする事を考えれば、切ると言うより殴ると言う感じかもしれない。

 冒険者と言えば、この町には冒険者ギルドがあるので、冒険者登録している者は1万人を超える。実際に活動している冒険者は5千人程度だろう。実に人口の5分の1が冒険者だ。

 こうなると、商売をする上でも冒険者を無視する訳には行かない。冒険者がどの様な生活を送って居るのかも把握して置く必要がありそうだ。

 ラノベ知識だと冒険者と言うのは魔物を倒して糧を得る、英雄的職業だが、実際のこの町の冒険者は何でも屋と狩人の中間の様な職業らしい。

 ちなみに、露店では肉は販売されて居ない。肉を販売出来るのは冒険者ギルドから魔物の肉を卸して貰っている商店のみになる。これは肉の値段が競争で高騰しない為の手段らしい。

 この世界には畜産農家と言うのは居ない。肉に関してはほぼ100%冒険者ギルドを通す事になる。これは肉の素材が全て魔物だからだ。

 一部、卵を得る為の養鶏農家やミルクを得る為のヤギ農家はあるが、そう言った農家から肉が販売される事は無い。老いた鶏やヤギ肉より、美味しくて安い魔物の肉が沢山あるからだ。

 そう言った面でも日本とはだいぶ常識が違うのが解る。婆ちゃんも言っていたが、常識や価値観が違う事を頭に入れて置かないと失敗する。
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