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045 お嬢様?

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 俺とルルイはレイチェルの家を後にして、食堂へ向かう。ローナの迎えだ。ローナを家に帰してから帰宅する。

 爺さんにレイチェルの事を話し、魔法を伸ばすにあたっての注意点などを聞いてから夕食にした。

 食後は部屋でレイチェルの為のカリキュラムを組んだり、昔爺さんに魔法を教わった時の事を参考に明日教えるべき点等を整理したりした。

 出来ればレイチェルの為に教本を用意したいのだが、事前の準備をしていなかったのですぐには無理だ。

 教本を作るにはノートPCとプリンターが必要だ。この国の言語をフォント化するのに最低でも3日は欲しい。

 電力も十分とは言い切れないのでソーラーパネルも増やしたい。出来れば本を作るのなら活版印刷の技術をこの世界に持ち込みたい。しかし、ゾンアマには活版印刷機は売って居ない。

 まあ、活版印刷に関する書物は売っているので技術者が協力してくれるのであれば再現は可能だ。

 まずはノートPCとプリンターで、本を多くの人に広めたい所だ。

 本が一般に広まれば識字率も上がると考えて居る。

 さて、翌日からは午前中に用事を済ませて、午後はレイチェルの訓練と言う日々が始まる。

 レイチェルは恐らく今までまともな魔法の教科書に出会った事が無かったのだろう。俺が教える魔法理論をスポンジの様に吸収して、どんどん魔法のレベルが上がって行った。もしかしたら賢者の爺さんが凄いのかもしれない。

 剣術についても俺とルルイとの模擬戦でかなり力を付けて行っている。3日もしない内にルルイと同じレベルで戦えるようになるとは、センスが良いのかもしれない。いや、先生が悪かったのかな?

 多分、基本能力が高かったのだろう。本人はDランクレベルになれれば良いと言って居たが、多分現時点で既にCランク相当の力がある。これから剣術と魔法の連携技を教えて行けば契約が終わる頃にはBランク相当まで上がるだろう。

 どうやら只のお嬢様の道楽では無さそうだ。もしかしたら本気でSランクを目指せるかもしれない。

 1週間もするとルルイでは相手がきつくなって来た。俺は相手の力を吸収して強くなれるので基本、剣術も魔法も俺が相手をする事になる。

「ご主人様。申し訳ありません。」

「ああ、問題無いよ。少しばかりお嬢様の力を読み間違ったのは俺にも責任があるしね。それにルルイが居なかったらこの依頼は受けられなかった訳だから、ルルイには感謝してるよ。」

 ルルイがレイチェルに負けて落ち込んでいたので励まして置く。

 俺との訓練でBランク相当の腕があるルルイが負けるとは想定外だ。更に魔法もかなりの腕に仕上がって来ているので、もしかしたら契約終了時にはAランク相当の力になって居る可能性だってある。

 マジかよお嬢さん。例のSランク冒険者、シャードだっけ?彼が居れば紹介したんだけど、今は他の街に行ってしまった様で見かける事は無い。

 あ、爺さんに紹介すれば賢者になる道も開けるかもしれないな。確か、レイチェルの目的は貴族になる事、賢者でも爵位が貰えるんだよね?

「なぁ、目的が爵位なら冒険者じゃなくても賢者と言う道があるんだが、知ってたか?」

「はい。知って居ます。ですが、賢者よりSランク冒険者の方が数が多いのはご存じですよね?私は確実な方を選択したのですが、間違って居ますでしょうか?」

 なるほど、そう言う理論も成り立つ訳か。しかし、どちらにせよ能力が突出していればなれる時はなれるんだよね。その辺がレイチェルには解って居ないらしい。まあ、魔法は独学って言ってたから、それが理由で冒険者の方へシフトしたのかもしれない。

「君がその気なら賢者を紹介するぞ。何も1つに絞らなくても良いんじゃ無いか?冒険者も賢者も両方選択すれば、貴族への道は広がると思うが?」

 俺がそう言うとレイチェルが真剣な顔で悩んでいる。悩む事では無いと思うが、選択肢は多い方が良いのは自明の理だと俺は思っている。

「私に賢者と言う選択肢を選べるほどの魔法の才があるとお考えですか?」

「ふむ、恐らく君は師に恵まれなかっただけだと思うよ。才の無い者は独学では魔法は使えない。それに冒険者と違って賢者には年齢制限が無い。挑んでみても損は無いと思うよ。」

「確かにそうですわね。冒険者は寿命が短いと言うのは誰もが知っている所。それに比べて魔法使いは歳を重ねても勉強が続けられます。」

 その通りだ。まずはSランク冒険者を目指して、駄目だと判断してから賢者を目指しても遅くない。そして、その才能がレイチェルにはある。

 と言う事で、契約終了まであと1週間と言うタイミングで俺はレイチェルを賢者の爺さんに紹介する事にした。

 俺とルルイとレイチェル更にはメイドを引き連れて、家に帰る。まあ、この町は安全だからメイドは普通のメイドっぽい。身のこなしから察するに戦闘メイドでは無さそうだ。

 お嬢様の家から爺さんの魔道具店まで若干の距離があり45分程掛かってしまった。まあ、メイドさんの歩くスピードに合わせたと言うのもあるが。

 魔道具店に着き、中に入り爺さんにレイチェルを紹介する。

「ほう?これはお主が鍛えたのか?」

「いや、魔法は独学だそうです。俺は基礎理論を教えただけだから実質お嬢様の素質になると思います。」

 爺さんは魔法感知の才能が優れている。俺も練習中だが、爺さん程上手くは行かない。その爺さんがレイチェルを見て唸っている。

「これは凄い逸材じゃのぉ。ワシが直接指導したい所じゃが、お主の弟子になっておるのじゃろ?」

「いえ、家庭教師の期限はあと1週間もありませんので、お爺さんが良ければ弟子にしてやって下さい。」

 まあ、無理だと言うのなら俺が面倒を見ても良いのだが、これから商売が忙しくなる事を考えると爺さんの弟子になった方がレイチェルの為だ。

「あの、この方が賢者様ですか?」

 俺と爺さんで勝手に話を進めて居たせいか、レイチェルが割って入った。

「ふむ、いかにもワシがルーベル・ドナートじゃ。よろしくなお嬢ちゃん。」

「賢者ルーベル・ドナートと言えば、この国でも1,2を争う天才ではありませんか?別名、深淵の錬金術師とも呼ばれている。生ける人間国宝とさえ言われて居ますよね?何故こんな田舎に?」

 あれ?爺さんってそんなに有名なの?

「ワシは王都の空気が苦手でな。この町はワシの故郷でもあるんじゃよ。」

「賢者様に師事出来るとはこれ程の名誉はありません。是非よろしくお願いいたします。」

 どうやら、これで依頼は成功しそうだ。あと1週間程剣術の稽古を付けて、魔法は爺さんに丸投げしよう。

 2週間の依頼料は金貨4枚だ。これは全部ルルイに渡そう。俺は、食堂のオーナー利益があるから金には困って居ない。って言うか、既に1日の食堂の純利益が金貨2枚越えになって居る。

 2号店は食堂の純利益の3倍を目指しているので、結構真剣に考えないと難しいかもしれない。

「じゃあ、お嬢様を家に送ってからローナを迎えに行って来ます。明日から連れて来ますのでよろしくお願いしますね。」

 賢者の爺さんにOKを貰えたので明日からは剣術の稽古をしてからここに戻る事になる。問題は依頼期限が過ぎた後だな、レイチェルが自分で通う形になるが、護衛はメイドさんで大丈夫かな?

 まあ、その辺は帰り道に話し合おう。

 魔道具店を後にして帰路に着くがレイチェルはご機嫌だ。水を差す様で悪いが、大事な事なので話して置こう。

「勝手に決めてしまったが、御父上の許可は取れるのか?」

「問題無いですわ。相手は賢者様だから、爵位を持たない父上より格上になるのですわよ。」

 なるほど、確かに貴族の息子とは言え3男では爵位が無いから爵位を持つ爺さんの方が格上になるわけだ。

「でも、君の家から魔道具店までは結構な距離があるぞ。護衛とかは考えなくて良いのか?」

「ならば、残りの1週間で護身になる魔法を教えて貰えませんか?」

 ふむ、お嬢様とは思えない考え方だが、理には適っているな。そして、このお嬢様にはその才能がある。

 どうやら、このお嬢様は知力も高い様だ。マナー違反だから鑑定魔法は使わないが、恐らくその辺の冒険者より遥かに高い数値が出そうだ。
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