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036 力?

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 翌朝、ローナが迎えに来て、3人で市場に向かう。何時もの光景だが、途中冒険者ギルドの横の道で、見覚えのある顔を見つけてしまった。

 例のSランク冒険者だ。名前は確かシャードだったかな?彼が明らかにこちらに向かって歩いて来る。嫌な予感しかしない。

 10メートル位の距離で目が合うとシャードは右手を軽く上げて挨拶をする。俺は軽く会釈をして、そのまま横を通り過ぎるつもりだ。だが、5メートル位の位置でシャードが声を掛けて来た。

「やあ、この間の件考えてくれた?」

「いや、今の所、俺は冒険者になるつもりは無いですよ。魔物は怖いですし、戦い方も知りませんからね。」

 そう言うと、シャードは顎に手をやって、ふむと呟いた。

 次の瞬間。シャードの姿が消えた。いや、そう思った時には目の前に奴の顔があった。ニヤリと笑う。何故か、俺の左手が勝手に動いた。なんだ、これ?と思ったら、シャードの右手を掴んでいた。

 どうやらシャードは死角から右手で攻撃を仕掛けていたらしい。

「ほう?寸止めするつもりだったが、まさか掴まれるとは思わなかったよ。」

 そう言ったシャードは今度は前転する要領でケリを入れて来た。またしても勝手に動く体、シャードのケリを最小限の動きで躱していた。どうなってんだ?

「嘘だろう?手加減はしたが、初見で躱せる技じゃねぇぞ。」

 その台詞は俺が言いたい。

「やはり俺の感は正しかった様だな。君は強い。恐らく、最低でもAランク冒険者の上位の力がある。俺はこの国に居る7人のSランク冒険者の中でも2番目に強いと自負している。その俺の攻撃を初見で躱したんだ、少なくとも戦い方を知らないと言う言葉は信じないぜ。」

 いやいや、そう言われても、体が勝手に動いただけだし。って言うかなんで2番目?そこは1番でも良いのでは?

「とにかく俺は冒険者になるつもりはありませんので、付きまとうのは止めて下さい。」

「Sランクになれば貴族になれるんだぜ?その能力がありながら、何故飛び込まない?」

 俺はその問いには答えずに先を急いだ。恐らく、自分でも答えが出なかったのだと思う。
 
 ローナとルルイが何か言いたそうな顔をしていたが、何も言わなかった。多分俺の顔が怖い顔になっていたのだろう。

 しかし、さっきの現象は何だ?体が勝手に動いた。眼で追えて居なかったにも関わらずだ。現代日本で24年間暮らしていたが、武術等とは縁の無い生活だった。

 そう言えば、ステータスに『武術の心得』と言うのがあったが、アレが原因なのだろうか?

 だとしても、自分でコントロールできない力に頼って戦いに身を投じるのは危険だ。もし、冒険者になるとしても最低ランクからじっくりと鍛えないと、この世界では生きて行けない気がする。

 あれ?そう言えば、ステータスの詳細に年齢の項目が無かったぞ。この世界の俺って何歳なんだろう?

 24年間の日本の記憶はあるが、この世界に来る時に何らかの力が働いて、俺の体は作り替えられた可能性がある。確信は無いが、あの異常なステータスは明らかに俺が生まれついて持っていた物では無いと思われる。

 そうなると俺は一体何歳なんだ?この世界では生まれたての0歳児か?でも見た目は殆ど変わって無いんだよね。

 そう言えば、俺が24歳だと言うと皆が驚く。成人したて位に見えると口を揃えて言う。この世界の成人は15歳だ。そうなると俺のこの世界での年齢は16、7歳位なのだろうか?

 最初は外国人あるあるだと思っていた。この世界の住人は地球で言えばヨーロッパ系だ。なので日本人の俺は若く見られるのだと思い込んでいた。

 だが、ここに来て自信が無くなって来た。ステータスの詳細を見たのもあるが、何故か、細胞レベルで若返ったと感じる時があるんだよね。

 他人の鑑定をしても年齢は出ない。これって何か意味があるのだろうか?ローナやルルイは普通に自分の年齢を口にしていた。年齢と言う概念はちゃんとある訳だし、成人年齢が15歳と言うのもキッチリとしている。

 そう言えば亜人と人間では年齢の感覚が違うのだろうか?エルフやドワーフは人間より長く生きると言うのがファンタジーのお約束だが、この世界ではどうなんだ?

 確か、古代魔法文明はエルフが作ったと言われている。爺さんが言っていた。現代の魔法の基礎を作ったのはエルフだと。まだ人間族が生まれる前からエルフは文明を築いていたらしい。だが、人族の台頭と共にエルフたちは森へとその居住地を移して行ったと言う。

 もし、鑑定魔法を創ったのがエルフだとして、エルフが人族と違う時間を生きているのだと仮定すると、年齢と言う概念はあまり意味を成さないのかもしれない。そう考えると、ステータスに年齢が表示されないのも頷ける。

 しかし困ったな。自分の年齢を知る方法が無い物か?誰かに俺は何歳でしょう?と聞いたら頭がおかしいと思われるぞ。

「なぁ、ローナ。この国で自分の年齢を証明する方法ってあるのか?」

「年齢ですか?ならば教会へ行けば、洗礼を受けた日にちが解りますよ。洗礼は6歳の誕生日に行うので、何年何月に洗礼を受けたと証明されれば、そこから逆算で、現在の年齢が解りますよ。」

 なるほど、だが、俺は洗礼を受けていない。その場合はどうなるんだ?

 すると横からルルイがちょっと良いですか?と声を掛けて来た。

「冒険者ギルドに登録しているのであれば、ギルドカードに魔力を流せば年齢と犯罪の履歴が出ますよ。これは犯罪の証拠にもなりますので、町の外に出る時や入る時に門番がギルドカードを確認するのはその為です。」

 俺は冒険者ギルドカードをアイテムボックスから取り出した。

「これに魔力を流せば良いのか?」

「はい、見るのは表では無く裏面です。」

 カードをひっくり返して、魔力を少しずつ丁寧に流してやる。いきなり流すと爆発しそうな気がしたからね。

 この国の言語で『18歳 犯罪歴無し』と表示された。名前とかは表面に書いてあるからこれだけで良いのか?

「18歳ですか?あれ?前に24歳って言ってませんでしたっけ?」

 俺のカードを覗き込んだローナに突っ込みを入れられた。しまった、一人の時にやるべきだったか。

「ああ、実はな。俺は記憶が曖昧な部分があってね。昔の事をあまり覚えて無いんだ。」

「そうなんですか?ではさっきのあの冒険者との戦いは?」

 あら?さっきはスルーしてくれたのに今更?

「正直俺にも解らない。自分があんな動きが出来るなんて思っても居なかったよ。一番驚いているのは俺だよ。」

 そう言いながらルルイを見たら何やらニマニマした顔をしている。

 どうした?と聞いたら。私の方がお姉さんですねと言われた。え?そこなの?ローナとルルイでは引っ掛かるポイントがずれている様だ。

 まあ、良い。ズレているルルイに乗っかって有耶無耶にしよう。急がないと遅刻するぞとローナを促し、少し早足で歩く。

 2人も慌てて早足になる。なんとか誤魔化せたか?

 食堂についてしまえば、仕事が忙しくてそれどころじゃ無くなるし、2人には忘れて貰えるとありがたい。

 それよりもだ、俺の年齢が18歳と言うのはちょっと驚きだ。どう言う基準で若返ったのだろう?って言うか、あの管理人も説明位してくれても良かったのでは無いかと思う。

 この世界の成人年齢の15歳や日本の成人年齢の20歳とか言うのなら解らないでも無いのだが、何故に18歳?

 それに先程の体術にしても、魔法についても謎が多い。管理人が全てを司っているとは思えない。その上の存在が居る可能性が高い。神か?

 あの空間からこの世界は一方通行だと言って居た。つまり、管理人にもう一度会って話を聞くと言うのは不可能だと言う事だ。

 果たして、この謎が解ける時が来るのだろうか?

 俺にこれだけの大きな力を与えて、何をさせようとしているのだろう?そう言えば、勇者や魔王と言う選択肢もあった。もし、この世界に混乱を招くのが管理人の役目だとしたら、俺は道具に使われていると言う可能性もある。

 やはり、ここは慎重に動く必要がありそうだ。
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