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エルト王国編

Report40. 違う道 part.3

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いつからだったろうか?
弟に対して、嫉妬の感情を抱きはじめたのは。

AIロボットの研究を始めた当初は互いに切磋琢磨しあい、ああだこうだと夜が明けるまで議論を交わしていた。

対等な相手と真っ向から議論をぶつけ合うことは、俺にとって至上の喜びであった。
だが、その議論の中で俺の感情にはある変化が生まれる。

焦りだ。
そして、そうさせているのは恭二のおそるべき発想力にあった。

恭二は引っ込み思案であまり強くものを言えないタイプであったが、その内に秘めたる発想は時に他を驚かせた。
俺自身もその一人だ。

あいつは、誰もが考え付かないような革新的なシステム技術をさも当たり前のように平然と言ってのけ、そしてそれを成し遂げてしまう。

誰もが考えつきもしなかったことをいとも簡単にやってしまうことに、俺は焦りや恐怖を感じていた。


そして、そんな恭二が各国の発明家たちの目に留まるのに、そう長い時間はかからなかった。


--------------------------------------------------

とある晩のこと。

恭二は、父に自分の部屋へ来るように呼び出されていた。

家族でもめったに入ることができない父の部屋。

不思議に思った俺は二人の後を付け、部屋の扉越しに二人の会話に耳をそばだてた。




「エルヴィス工科大学からお誘いの手紙……ですか?」

「ああ。お前宛てのものだ、恭二。」

日比谷家の大黒柱、日比谷 定春は海外から届いた便箋を恭二に手渡す。

「一体どうしてまた……?」

「エルヴィス工科大学の名誉博士、アルバード・ヴェイガーがお前の論文を見てぜひうちに来てほしいとのことだ。」

「ロボット工学の権威でもあるアルバード博士のお誘いはとても光栄なことです……しかし、あの論文は誠一兄さんと共同で書いたものです。私だけの力ではありません。もちろん誠一兄さんにも同じものが届いているんですよね?」

定春は深いため息を吐き、首を大きく横に振る。

「……!それはおかしなことです父上。論文を見て誘いが来たというのなら、誠一兄さんにも当然同じものが来るはずです。こんな不公平なやり口、到底納得はできません。申し訳ないですがこの件は無かったことにして…」

「恭二!!」

父親の一喝に、恭二は肩を震わせる。

「それがどうした?お前、そんなくだらない理由でこの誘いを蹴るとでもいうのか?」

「……くだらない、ですって?上から物をいうだけのあなたにはわからないでしょうね。これは誠一兄さんと私が血の滲むような思いで書き上げた論文なんです!その評価は平等に受けて然るべきだ!」

「フン…随分と言うようになったな。だがな、恭二。口ではそう言ってはいるが、賢しいお前も薄々感づいているんじゃないのか?に才能が無いことに。」

「なん…ですって…?」

「無いんだよ、誠一には。モノを生み出す才能ってやつがな。全く期待外れも良いところだ。折角手塩にかけて英才教育を施してやったというのに。」


オレニ…サイノウガナイ……?


その父の言葉を聞いた時、俺の中で何かが弾けた。

その後の二人の会話はよく覚えていない。

なんとなく覚えているのは、恭二が今まで聞いたことないぐらいの怒号で父に猛反発していたということぐらいだ。



そして、その翌日。

恭二は、小さな荷物を抱え日比谷家を出ていった。

その別れの間際、なぜか恭二は俺に頭を下げ謝ってきた。

「ごめんなさい、誠一兄さん。昨日の夜、父上と大喧嘩しちゃってさ。その……勘当されちゃったんだよ。だから僕ここを出ていくよ。でも、共同研究は続けていこうね。色々落ち着いたらまた連絡するからさ。それじゃあまたね、誠一兄さん。」

俺はそれに対して、何も言うことはできなかった。
恭二は少し寂しそうに笑った後、そのまま振り返ることなく朝靄の中に消えていったのだった。


--------------------------------------------------


残された俺も居心地が悪くなり、程なくして日比谷家を出ていった。
自身で研究所を立ち上げ、四六時中AIロボットの研究に明け暮れた。

その際に恭二から何度も連絡が届いたが、俺はそれらを全て無視した。

俺ののAIロボットで世間を認めさせてやる。
恭二より、俺の方が上だってことを。それを次のAIロボティクス・アワードで証明してやる。

半ば意地に近い、俺のプライドだった。

しかしーーー

「今年のAIロボティクス・アワード、栄えある最優秀賞が贈られるAIロボットは…!キョウジ・ヒビヤ作、人命救助AIロボット『SUBARUスバル』に決定いたしました!」

まただ。

またしても選ばれたのは、恭二の方だった。

どうしてだ?
どうしていつも、あいつばかりが脚光を浴びる?

「クソがぁっ!!!」

研究所へと戻ってきた俺は、机の上に山積みになっていた研究資料を全て床にぶちまけた。

「クソがクソがクソがクソがクソが。あいつさえ!恭二さえいなければ!今頃俺が賞賛を受けているはずなんだ!」

弟に抱く感情は、いつしか憎しみと嫉妬に変わっていた。

そして、顔がまったくの瓜二つということが憎しみに更なる拍車をかける。

「日比谷博士!この度はAIロボティクス・アワード大賞受賞おめでとうございます!少しインタビューさせてもらってもよろしいですか?」

「……帰れ。俺はそいつじゃない。」

「えっ……あっ!すみません!日比谷博士のお兄様の方でしたか!これは大変失礼しました!」

インタビューに来た記者は、恭二じゃないと分かるや否や逃げるように去っていく。

その去り際に、「紛らわしいな。おんなじ顔しやがって。」

とボソッと呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。

好き好んで同じ顔になった訳ではない。
姿形は同じなのに、どうしてここまで差がついてしまったんだ?

どこまでも付き纏う、弟の呪縛。

俺はそれを振り払うが如く、さらに研究に没頭していった。


そしてその研究の最中、ある事件が研究所で起きる。

開発中AIロボットの暴走だ。

無茶な学習プログラムの果てに暴走したAIロボットは、その場にいた研究員を次々と亡き者へと変えていく。

そして俺自身もーー

グサッ

「か…はぁっ………!」

暴走AIの腕に、胸を貫かれその場で倒れ伏す。

俺もここまでか……

薄れゆく意識の中、何者かが研究所内に入ってくるのが見える。

「人命救助AIロボットSUBARUスバルデス!ただ今より、暴走AIロボットの鎮圧に当たりまス!生存者は、速やかにここから退去してくださイ!」

「……!」

助けに来たのは、恭二が作ったあのAIロボットだった。

まったく、どこまで俺を苦しめれば気が済むのか。
結局俺は、最後の最後までアイツを超えることは出来なかった。

そうして俺は、暴走したAIロボットとアイツのロボットが戦っている光景を最期に、ひっそりと息を引き取った。

全く、実に馬鹿馬鹿しい、道化のような人生だった。












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