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エルト王国編

Report39. 違う道 part.2

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アメリカのカリフォルニア州にある、とあるホテル内。

その一室では、盛大なセレモニーが開かれていた。
華やかな舞台上には様々なタイプのAIロボットがズラリと並んでおり、周囲にいるギャラリーは固唾を飲んで檀上の様子を見守り続けていた。

同じく舞台上に立つセレモニーの司会者は、助手から受け取った一通の封筒を開き、その中身を確認する。

中にはポストカードほどの大きさの一枚の紙が入っていた。
そこに書かれた文字を読んだ司会者は、オーバーリアクション気味に驚いたような素振りを見せる。

その後、咳ばらいを一つして落ち着きを取り戻した司会者は、スタンドマイクを通してギャラリーたちに呼びかけるのであった。

「レディース・エン・ジェントルメン!大変長らくお待たせいたしました!ただいまより、今年のAIロボティクス・アワード、最優秀賞を発表させていただきます!」

ギャラリーからは、待ってましたと言わんばかりの拍手と口笛が鳴り響く。

「今年も数多くのAIロボットが誕生し、様々な社会で活躍をしてまいりました。もはや、AIは人類に欠かせない存在となってきていることを皆様、強く実感していることでしょう。
その中で、特段際立った活躍を見せてくれたAIロボットに、最大級の賛辞を込めてお送りさせていただくのが、このAIロボティクス・アワード。
私も長年このセレモニーの司会を務めておりますが、AIロボットのレベルは年々上がっていると感じております。そして、それに比例するように審査員のハードルも年々上がっているのです!
動作・思考能力・汎用性などなど…チェック項目300を超える厳正なる審査を行ってまいりました!
その厳しい目の中で、最も得点の高かった優秀なAIロボットを、発表させていただきます!」


ダララララララララララララララララララララララ……


照明が落ち、会場内はドラムロールが鳴り響く。

「今年のAIロボティクス・アワード、栄えある最優秀賞が贈られるAIロボットは…!」


ダン!


「キョウジ・ヒビヤ作、人命救助AIロボット『SUBARUスバル』に決定いたしました!」


最優秀ロボットが決まった瞬間──
会場からは、割れんばかりの拍手が沸き起こる。


しかし名前を告げられた当の本人、日比谷 恭二は口をあんぐりと開け、手に持っていたグラスを床に落としてしまうのであった。

まさか自分の作ったAIロボットが最優秀賞に選ばれるなどとは、夢にも思っていなかった日比谷は理解が追い付かず、頭の中が真っ白になっていた。

その隣にいた羽倉は、呆然とする日比谷の背中をドンと押す。

「おい、あんまりギャラリーを待たすもんじゃねーぞ。早く舞台に上がれ、本日の主役さんよ。」

そう悪態をついた羽倉であったが、その言葉とは裏腹に表情は嬉しさを隠しきれないといった様子であった。

「ほ…本当に…私なのか…?こんなの…ゆ…夢なんじゃないのか?」

「夢なんかじゃねーよ。お前が今まで積み重ねてきた努力が、ついに実を結んだんだ。しっかりと胸張って、自信持って行ってこい!」

羽倉は、再び日比谷の背中を強く叩いて送り出す。

「う…うわあっ!」

押し出されるような形で歩き始めた日比谷は、覚束ない足取りでヨタヨタと舞台の方へ進む。

周囲を囲っていたギャラリーは、舞台への通り道を作るために左右へよけ、
日比谷はその作られた道を、さながらモーセのように歩いていくのであった。

ようやく壇上に登った日比谷であったが、一息つく間もなく司会者からマイクを向けられる。

「この度はおめでとうございます、Mr.キョウジ・ヒビヤ。まずは最優秀賞を受賞した率直な気持ちをお聞かせ願えますかな?」

「あ、はい。えーと……まさか、自分が選ばれるなんて、思っていませんでしたので…とても驚いております、はい。」

「なるほど!実の所私自身も結果を見た瞬間、驚いてしまいましてね。もちろん、AIロボットの性能は疑いようの余地はありませんよ。『#SUBARU__スバル#』による様々な場所での救助活動は、人々の記憶に新しいですからね。
ただ!驚くべきはこのロボットを開発した、Mr.キョウジ・ヒビヤのその若さ!
まさかまさか!若干20歳の青年がAIロボティクス・アワードの最優秀賞を受賞するとは!
私、長年セレモニーの司会を務めて参りましたが、このようなことはまさに前・代・未・聞!
この結果には私、大変驚きました。そして同時に、AIロボット界の未来を担う若き天才の誕生に感動しておりまして……私、涙を禁じえません!」

感極まった司会者はハンカチで目を拭う。
それを見たギャラリーの声援はよりいっそう強くなった。

「あ…そうですか。その…ありがとうございます。」

いまいちこの雰囲気に乗り切れなかった日比谷は、その後も無難な返答をすることしかできず、早く終わってはくれまいかと、心の中で強く念じ続けるのであった。



そのインタビューの様子を遠巻きに見ていた恭二の兄である誠一は、手に持ったグラスを置き、セレモニー会場を後にする。
今まで自分より下の存在だと思っていた弟に、初めて上を越された誠一は、強い屈辱感を味わっていた。


「何故だ…何故、私ではなく恭二が選ばれた?私の作ったAIロボットのいったいどこがいけなかった?
あいつのものより、私のロボットの方が断然優れているのに…!審査員の目は節穴か?
くそ…今に見てろよ……!世間を黙らせるぐらい、絶対的なAIロボットを作ってやるからな……!」


執念に燃える誠一の目は、どこか凶器を帯びたような鈍い光を放っているのであった。


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