上 下
37 / 49
エルト王国編

Report37. 理想郷

しおりを挟む
次元の穴から突如として姿を現した王は、玉座の間の惨状を見て呆れたような大きなため息を吐いた。

「やはり、プロトを戦闘に出すのは早かったか。そして…この私にエルトを滅ぼすなどと大言壮語を吐いていたランドルフも、結局は壁にめり込みノビているという体たらく。
更には五龍星のガーレンとハリルも敗北する始末。全く、どいつもこいつも……役立たず過ぎて反吐が出る。」

王は辺りの状況を見回しながら、ぶつくさと愚痴をこぼした。
そんな王を見て、イサミは再び戦闘の構えを取る。

「お前は何者だ?そして、エルステラに呪いをかけたというのは、一体どういうことだ?」

そのイサミの質問に答えたのは王本人ではなく、エルステラの介抱に当たっていたソニアであった。

「気を付けろイサミ!そやつはディストリア帝国を滅ぼした張本人の王じゃ!」

「何っ!?こいつが…王…?」

ソニアの言葉に、仮面を被った王は感情のない笑い声をあげた。

「ははは。私の言うことに素直に従っていれば、まだ被害は少なかっただろうに…無駄な抵抗をするものだから、悪戯に犠牲を増やした。全くもって愚かな国王だったよ。」

そう冷たく言い放った王に対して、ソニアは感情を剥き出しにして吠えた。

「黙れ!父王を侮辱することはわらわが許さぬ!」

「ああ…前王の娘のソニアか。すぐに逆上する所は、やはり親譲りであるようだな。」

「黙れと言っておる!!」

ソニアは怒りに身を任せ、ローブの懐から魔導書を取り出し呪文を唱え始める。

しかし、それを遮るようにソニアと王の間にイサミが割って入った。

「イサミ!なぜ止める!」

「よせ、ソニア。一旦落ち着くんだ。まずはここに来た目的を奴の口から聞かねばならない。まあ…ロクでもない理由だろうがな。」

そのイサミの様子を見た王は、心底愉快そうに笑うのであった。

「クックック……よもや人間よりAIロボットの方が幾分か建設的な話が出来るとはな。
いいだろう。私が何故ここに来たかの理由を教えてやる。私の目的はソニア。そしてイサミ。貴様たちを奪いに来たのだ。お前たち二人は、私のもとへ来い。」

そう言って王は、二人に向け手を差し伸べる。

しかし、二人は一向に警戒を解くことはなかった。

「断る…と言ったら?」

「強硬手段に出るほかあるまい。」

王は、自身の右手を壁にめり込んで気絶しているランドルフの方へと向ける。

強欲で暴食な右腕グリード・グラット。」


ヒュゴッ


何かを吸引したような音が聞こえた次の瞬間ーー

壁にはりつけになっていたランドルフの姿が無くなっていた。

「なっ…ランドルフが消えた!貴様、いったい何をしたのじゃ!?」

あまりに突然の出来事にソニアは困惑していた。
一方でイサミは、冷静に今しがた起きた出来事を解説する。

「奴の…王の右手の中にランドルフが吸い込まれていった。一瞬の出来事だったから消えたように見えるのも無理はない。」

「ほう、さすがだな。やはりAIロボットの目は欺けないようだ。」

王は感心したようにパチパチと2、3回ほど手を叩いた。
イサミはそれに対して喜ぶわけでもなく、ソニアにさらに後ろへ下がるように促した。

「その右手で、俺たちも吸い込もうというわけだな?」

「話が早くて、助かるよ。」

王は右手をゆっくりとイサミたちがいる方へと向ける。
王が再び吸引の呪文を唱えようとした時、遮るようにイサミはある一つの質問をぶつける。

「王。ひとつ聞きたい。なぜ俺がAIロボットだとわかった?初見で見抜いたものは未だかつていなかったが、お前は俺と会った瞬間から既に、俺がAIロボットであることを見抜いていたように思える。」

「なるほど最もな質問だな。いいだろう、物分かりが良い褒美として教えてやる。
実をいうと、私自身がロボットの発明家でね。そこに転がっているAIロボット、『プロト』も私が作ったものなのさ。だからこそ、ロボットと人間の区別など見分けることなど、私にとって朝飯前というわけさ。」

「この世界にロボットという概念は存在しなかった。だが、お前は当たり前のようにAIロボットと口にし、ノウハウが全くない所からプロトというロボットを生み出した。どんな天才であっても、ゼロからの状態でこれほどまでのロボットを作り出すことは不可能であるはずだ。これは俺の推測にはなるが……王、もしかしてお前もこの世界とは異なる世界から転生してきたのではないか?」

イサミの問いに、王はゆっくりと頷く。

「いかにも。私は向こうの世界で死に、この世界へとやってきた。」

「だとしたら、お前の目的はなんだ?どうして、ディストリア帝国を滅ぼすようなことをした?」

「私の目的はAIが支配する世界を作ることさ。欲にまみれた人間を排除し、AIの秩序によって統制されたクリーンな世界。これこそが私が望む理想郷だ。
ディストリア帝国の連中はその見せしめさ。私の覇道を妨げるものはこういう末路を辿るのだということを、この世界の矮小な人間どもに知らしめる為に滅ぼしたのだよ。」

「そんな…そんなことの為にディストリアを…わらわの家族を…民を…ううっ!」

ソニアの緋色の目からは大粒の涙が溢れ、信じたくない事実から目をそむけるように両手で顔を覆った。

「力を示すには必要な犠牲であった。現にディストリア近隣諸国の連中は大した抵抗もせず簡単に降伏したよ。貴様らエルト王国ぐらいなものだ、ここまで我々に立てついたのはな。」

「もういい。黙れ。」

イサミは小さくそう呟くと、再び戦闘の構えを取った。

「電・光・鉄・華!」

一瞬にして王の懐へと入り、仮面の上から強烈な右拳を顔面に叩き込む。

しかしーーー

ランドルフのように、王が後方へ吹き飛ぶことはなかった。
その代わり、かぶっていたフルフェイスの仮面にヒビが入る。

そのヒビは徐々に全体へ広がっていき、

バカッ

仮面は完全に砕け散り、その顔があらわになるのであった。


王の顔を見たイサミは、大きく目を見開く。

信じたくない。信じられない。
そんな感情が、イサミの全身を駆け巡った。

今まで比較的平静を貫いていたイサミであったが、動揺のあまり思わず王に向けて声を荒らげてしまうのであった。

「そんな…馬鹿な…いったいどうして、あなたがここに……なぜなんです!マスター!」


その仮面の内側は、自分自身を生み出してくれた発明家、日比谷 恭二が不敵な笑みを浮かべながら、イサミを見据えているのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

処理中です...