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エルト王国編
Report35. 怒り
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『今、確かに聞こえた……メアリーの助けを求める声が。そして、それが聞こえていたのはどうやら俺だけのようだな。』
イサミはプロトの連続切りをかわしながら、今しがたメアリーが発した言葉について、自分なりの分析を始める。
『涙を流しながら、助けてくれとメアリーは言った。先程まで一貫して冷徹な表情を保っていたのにも関わらずにだ。
ということは、自分の姉であるエルステラに手をかけたのは不本意だったということか?
それとも俺を陥れる為の、演技か…?
いや、この優位な状況下で涙を見せてまでの演技をする必要性は感じない。
そういえば、エルト城の書庫で人の心を操作できる禁呪についての文献を読んだことがある……相当高位な魔法使いでないと使えないようだが、この場にその禁呪を使いこなせそうな人物が一人いる……
確証はないが、以上の事柄から俺が導きだした結論はこうだ。』
「ランドルフ・エリックノード……!お前がメアリーの心を操って、エルステラを手にかけさせた……。違うか?」
魔晶石を取り込んで、有頂天となっていたランドルフの眉がピクリと動く。
「なんじゃと……?」
「エルステラを殺害しようとしたのは、メアリーの意思ではない。その頬を伝う涙がそれを物語っている。」
ランドルフは棒立ち状態のメアリーの方を見やる。
イサミの言う通り、メアリーの瞳からは大粒の涙がボロボロと零れていた。
「ちぃっ……!ワシの洗脳術式を自力で破ろうとしておるのか……!そうはさせるかっ!」
ランドルフは、自身の右手をメアリーのいる場所へと向けた。
「あああぁぁっーーーーーーーーー!」
ランドルフの洗脳魔法を受けたメアリーは、その場に崩れ落ち、頭を抱えながら苦痛の叫び声をあげ始める。
「やめろっ!ランドルフ!」
「余所見をするナ……」
プロトのナイフがイサミの頬をかすめる。
しかし、イサミに焦りはなかった。
「メアリーが無理強いされていることがわかったんだ……。そこをどいてくれ、プロト。」
「……おレのミッションは、お前を殺すコと。それをすることはでキない。おレのミッションは、お前を殺すコと。おレのミッションは、お前を殺すコと。殺ス殺す殺ス殺す殺ス殺す殺ス殺す殺ス殺す。」
完全に正気を失ったプロトに、イサミは哀れみの目を向ける。
「まだ、AIとしてはかなり不完全だったようだな。残念だがプロト。お前の動きはもう完全に学習したよ。」
プロトがイサミの胴を突き刺そうと懐へと踏み込む。
しかし、イサミは距離を取らず最小限の動きで刃をいなすと、カウンター気味にプロトの顔面に強烈な拳を叩きこむ。
「殺ッ…ガッ……!」
瞬間、プロトの攻撃が止まる。
そのチャンスをイサミが見逃すはずがなかった。
「日比谷流百式奥義其の五十二。回し蹴り一閃。」
スパンッ!
音速で繰り出されたイサミの回し蹴りは、およそ打撃とは思えないほどの鋭さでプロトの首を跳ねた。
ゴロンと床に転がるプロトの頭。先程まで不気味に光り輝いていた赤い目は、その光を徐々に失っていき、やがて完全に消滅した。
そして、頭を失った身体はフラフラと2、3歩前進した後、そのまま床に崩れ落ちてしまうのであった。
プロトを倒したイサミは、大きく息を吐くと、真に倒すべき相手となるランドルフに目を向ける。
「メアリーに向けた手を下ろせ、ランドルフ。」
「役立たずの人形が……!だからワシは反対したのだ。こんなものを連れていく必要はないと。」
ランドルフはもう動かなくなったプロトを悔しそうに睨みつけながら吐き捨てた。
「お前に対しては、容赦はしない。早くその手を下ろせ、ランドルフ・エリックノード。」
イサミの最終通告に対して、ランドルフは渋々メアリーに向けた手を下ろす。
そして、ランドルフの魔術から解放されたメアリーは気を失い、その場に倒れ伏してしまうのであった。
「お前がこの国を滅茶苦茶にした。己の私利私欲のためだけに……メアリーを巻き込み、エルステラに手をかけた。
恐らく、これが人間の『怒り』という感情なのだろうな……。俺は、お前を許せそうにない。罪は償ってもらうぞ、ランドルフ。」
表面上は、冷静を装っているイサミであったが、内心ではランドルフに対する怒りに支配されていた。
しかし、追い詰められているはずのランドルフは不気味に笑いだす。
「ククククク……機械人形風情が、怒りだなんだと……人間みたいなことをほざくなぁっ!」
唾を撒き散らしながら、ランドルフはイサミに向かって吠える。
「ワシが追い詰められてると思っておるのか?ならば見せてやろう。魔晶石を取り込んだワシの力をなぁっ!ハァアアアーーーーーーッ!」
老人とは思えないほど、大きな雄叫びをあげたランドルフの全身からは、赤い血管が浮かび上がる。
その後、腰の曲がった身体は徐々に真っ直ぐに伸び、白髪だった髪色は魔晶石のような深紅の色に染まる。
そして、しわくちゃだった顔面は容姿端麗な優男のような風貌へと様変わりする。
そうして、齢80歳を超えた賢者の見た目は、20代前半ほどの若さを取り戻したのであった。
「これが、魔晶石の力だイサミ……。命を乞いたってもう遅いぞ。この国もろとも…滅茶苦茶にしてやる……!」
そう宣言したランドルフの口調はあくまでも穏やかであったが、その表情は全てを破壊しつくさんとする狂気に満ち溢れているのであった。
イサミはプロトの連続切りをかわしながら、今しがたメアリーが発した言葉について、自分なりの分析を始める。
『涙を流しながら、助けてくれとメアリーは言った。先程まで一貫して冷徹な表情を保っていたのにも関わらずにだ。
ということは、自分の姉であるエルステラに手をかけたのは不本意だったということか?
それとも俺を陥れる為の、演技か…?
いや、この優位な状況下で涙を見せてまでの演技をする必要性は感じない。
そういえば、エルト城の書庫で人の心を操作できる禁呪についての文献を読んだことがある……相当高位な魔法使いでないと使えないようだが、この場にその禁呪を使いこなせそうな人物が一人いる……
確証はないが、以上の事柄から俺が導きだした結論はこうだ。』
「ランドルフ・エリックノード……!お前がメアリーの心を操って、エルステラを手にかけさせた……。違うか?」
魔晶石を取り込んで、有頂天となっていたランドルフの眉がピクリと動く。
「なんじゃと……?」
「エルステラを殺害しようとしたのは、メアリーの意思ではない。その頬を伝う涙がそれを物語っている。」
ランドルフは棒立ち状態のメアリーの方を見やる。
イサミの言う通り、メアリーの瞳からは大粒の涙がボロボロと零れていた。
「ちぃっ……!ワシの洗脳術式を自力で破ろうとしておるのか……!そうはさせるかっ!」
ランドルフは、自身の右手をメアリーのいる場所へと向けた。
「あああぁぁっーーーーーーーーー!」
ランドルフの洗脳魔法を受けたメアリーは、その場に崩れ落ち、頭を抱えながら苦痛の叫び声をあげ始める。
「やめろっ!ランドルフ!」
「余所見をするナ……」
プロトのナイフがイサミの頬をかすめる。
しかし、イサミに焦りはなかった。
「メアリーが無理強いされていることがわかったんだ……。そこをどいてくれ、プロト。」
「……おレのミッションは、お前を殺すコと。それをすることはでキない。おレのミッションは、お前を殺すコと。おレのミッションは、お前を殺すコと。殺ス殺す殺ス殺す殺ス殺す殺ス殺す殺ス殺す。」
完全に正気を失ったプロトに、イサミは哀れみの目を向ける。
「まだ、AIとしてはかなり不完全だったようだな。残念だがプロト。お前の動きはもう完全に学習したよ。」
プロトがイサミの胴を突き刺そうと懐へと踏み込む。
しかし、イサミは距離を取らず最小限の動きで刃をいなすと、カウンター気味にプロトの顔面に強烈な拳を叩きこむ。
「殺ッ…ガッ……!」
瞬間、プロトの攻撃が止まる。
そのチャンスをイサミが見逃すはずがなかった。
「日比谷流百式奥義其の五十二。回し蹴り一閃。」
スパンッ!
音速で繰り出されたイサミの回し蹴りは、およそ打撃とは思えないほどの鋭さでプロトの首を跳ねた。
ゴロンと床に転がるプロトの頭。先程まで不気味に光り輝いていた赤い目は、その光を徐々に失っていき、やがて完全に消滅した。
そして、頭を失った身体はフラフラと2、3歩前進した後、そのまま床に崩れ落ちてしまうのであった。
プロトを倒したイサミは、大きく息を吐くと、真に倒すべき相手となるランドルフに目を向ける。
「メアリーに向けた手を下ろせ、ランドルフ。」
「役立たずの人形が……!だからワシは反対したのだ。こんなものを連れていく必要はないと。」
ランドルフはもう動かなくなったプロトを悔しそうに睨みつけながら吐き捨てた。
「お前に対しては、容赦はしない。早くその手を下ろせ、ランドルフ・エリックノード。」
イサミの最終通告に対して、ランドルフは渋々メアリーに向けた手を下ろす。
そして、ランドルフの魔術から解放されたメアリーは気を失い、その場に倒れ伏してしまうのであった。
「お前がこの国を滅茶苦茶にした。己の私利私欲のためだけに……メアリーを巻き込み、エルステラに手をかけた。
恐らく、これが人間の『怒り』という感情なのだろうな……。俺は、お前を許せそうにない。罪は償ってもらうぞ、ランドルフ。」
表面上は、冷静を装っているイサミであったが、内心ではランドルフに対する怒りに支配されていた。
しかし、追い詰められているはずのランドルフは不気味に笑いだす。
「ククククク……機械人形風情が、怒りだなんだと……人間みたいなことをほざくなぁっ!」
唾を撒き散らしながら、ランドルフはイサミに向かって吠える。
「ワシが追い詰められてると思っておるのか?ならば見せてやろう。魔晶石を取り込んだワシの力をなぁっ!ハァアアアーーーーーーッ!」
老人とは思えないほど、大きな雄叫びをあげたランドルフの全身からは、赤い血管が浮かび上がる。
その後、腰の曲がった身体は徐々に真っ直ぐに伸び、白髪だった髪色は魔晶石のような深紅の色に染まる。
そして、しわくちゃだった顔面は容姿端麗な優男のような風貌へと様変わりする。
そうして、齢80歳を超えた賢者の見た目は、20代前半ほどの若さを取り戻したのであった。
「これが、魔晶石の力だイサミ……。命を乞いたってもう遅いぞ。この国もろとも…滅茶苦茶にしてやる……!」
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