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エルト王国編

Report28. 戸惑い

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イサミによって2回目のダウンを取られたガーレンは、集中的に殴られた腹を抑えながらゆっくりと立ち上がる。

そして、よろめきながらも何とか戦闘の構えを取るのであった。

「まだ、やるのか?」

イサミは呆れたような小さい溜め息を吐きながらも、戦闘態勢を整える。

満身創痍のガーレンは、先程までの威勢の良さとは打って変わって静かに口を開いた。

「……認めよう。お主の力はワシ以上だ。パワー、テクニック、スピード、そして戦闘における才能……そのどれもがワシを上回っておる。」

「なら、何故戦いを続ける必要がある?負けると分かっているなら、これ以上はお互いにとって無益だ。続行する必要性が見当たらない。」

イサミの言葉に対して、ガーレンは何か納得したようにニヤリと笑った。

「なるほどのう……先程の違和感の正体が分かったわい。お主、人間ではないだろう?」

ガーレンの推理に、イサミは眉をピクリと動かす。

「……どうして、そう思った?」

「どんな人間であれ、発する言葉や拳には魂が宿る。ワシはその魂を敏感に察知することが出来るのだが……お主を殴り、お主に殴られ、そしてお主の言葉を聞いても、ワシの魂には何も響いてこなかった。全てが『無』であったのだ。」

「無……だと?」

「そうだ。お主の中には何もない。『無』だ。お主はただ、目の前の敵を殲滅するという目的だけで動いておるのか?」

「そう、なのか俺は……?」

「まあ、ワシにとってはお主が人間であろうがなかろうがどうでも良いことだ。
まあ、理詰めでしか考えられんお前に教えておいてやろう。
真の漢ってぇのは、負けると分かってる戦いでも!引き下がらんのだ!」

そう言い放ったガーレンは真っ向からイサミに攻撃を仕掛ける。

「じゃあ、俺が今まで感じていたものは、何だったんだ…?全部……偽物……?」

一方でイサミは上の空でブツブツと独り言を呟いていた。

「余所見なんざしてんじゃねえぞお!」

ガーレンの拳は、イサミを顔面を確実に捉えたかに思えた。
しかし、イサミは身体を捻り、その拳をいとも簡単にいなす。

「ぬうっ……⁉︎」

肩透かしを食らったような形になったガーレンは、勢い余って身体のバランスを崩した。

そこをイサミは見逃さない。三度ガーレンの懐に飛び込み、先程の連打を打ち込むモーションに入る。

しかし、ガーレンはそれを読んでいた。

「かかったな!阿呆が!最奥義、覇道砲はどうほう‼︎」

ガーレンはイサミに向かって口をガバッと大きく開く。
ガーレンの口内はマグマが煮えたぎっているかのように、真っ赤に燃えていた。

「これは……まずい!」

いち早く危機を察知したイサミは、右脚でガーレンの顎を思い切り蹴り上げた。

ガーレンの顔が跳ね上がる。

その刹那ーーー。

ガーレンの口から、赤い光線が上空に向かって放たれた。

恐ろしいまでの熱量を帯びたその光線は雲をも突き抜け、もう目視では確認できない所まで伸びていった。

ひとしきり光線を出し尽くしたガーレンは口を閉じ、小さく舌打ちをした。

「ちっ!顎を跳ね上げ、覇道砲を逸らしおったか!」

ガーレンが悔しそうに地団駄を踏む中、イサミは一人不思議な感覚に陥っていた。

今の光線を受けていたら、間違いなく全身を溶かされ、死んでいた。

仮に避けていたとしたら、後方にそびえ立つエルト王国が大惨事になっていた。

結果的には最善の策を取ることができたイサミであったが、選択を誤った時のことを考えた瞬間、イサミの中に重くのしかかるがあった。

「なんだ…これは?なんだ?この嫌な信号の正体は?」

自分の中に突如発生した謎の信号の正体を探ろうと、イサミは自問自答を繰り返す。

だが、当然ガーレンはそんな時間を与えない。

「次は…外さん。あまりやりたくはなかったが……もうなりふり構ってはおれん。覇道砲の最大出力で、エルト諸共消し炭にしてくれよう!お前ら!力を貯める間ワシを守れぇ!」

ガーレンは、周辺で見守っていたディストリア兵たちに声をかける。

「サー!イエッサー!」

ディストリア兵たちは、指示に素早く反応し、ガーレンを取り囲むように防衛の布陣を敷いた。

「僕も協力してやるよ、ガーレン。ありがたく思うことだね。」

突如として、イサミとガーレンたちの間に割って入って来たのは、ハリルであった。

「誰だ、アンタは?新たな敵か?」

イサミの問いに対して、ハリルは栗色の前髪をかきあげ、自信たっぷりに自己紹介を始める。

「お初にお目にかかるね、イサミくんとやら。僕の名はハリル・ワードニクス。帝国の最大戦力である五龍星の一人にして、ディストリア帝国を継ぐものさ。」

「ディストリア帝国を…継ぐもの…?ちょっと待て。ディストリア帝国の次期王は、ソニアではないのか?」

イサミの疑問に対して、ハリルは困ったように小さく笑った。

「おやおや、そうかい。ソニアからは何も聞いていないのか、全く冷たいなあアイツは。それじゃあ、もう一つ紹介を付け加えさせてもらうよ。
僕はソニア・ミラ・ディストリアのであり、帝王第一候補のハリル・ワードニクスだ。以後、よろしくねイサミくん。」

ハリルは不気味な笑顔を浮かべながら、イサミに対して恭しくお辞儀をするのであった。









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