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エルト王国編
Report24. 開戦
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陽が真上に登る正午。
既にディストリア帝国軍がいつ攻めてきてもおかしくない時間帯となっていた。
イサミと共に戦闘配置に付いているソニアは、おもむろに懐から魔導書を取り出した。
「さて、そろそろ戦いに備え、出しておこうかの…いでよ!リーゼロッテ!」
ソニアがそう唱えると、魔導書は緑色に発光し始め、地面には同色の魔導陣が現れる。
そしてその陣の中心からは、羽根の生えた人型の召喚獣が姿を現わしたのであった。
人間よりもふた回りほど大きく、透き通るような美しい緑色の肌のその召喚獣は、女神のような神々しさを放っていた。
リーゼロッテと呼ばれたその召喚獣は、イサミの姿を捉えると優しく微笑んだ。
「あら、あなたがソニア様をお守りしているイサミくんね?私は風を司る召喚獣のリーゼロッテと申します。以後、よろしくお願い致します。」
「ソニアと契約を結んだ召喚獣の一人か。よろしくな、リーゼロッテ。」
「はい!よろしくお願いします♡」
そう言うとリーゼロッテは、その大きな身体でイサミを包み込むように抱きしめた。
「なっ…⁉︎リーゼ!お主何をしとるのじゃ‼︎」
「何って…ただのスキンシップですよ、ソニア様。どうしたんですか?そんなに焦った顔して。」
「べ…別に焦ってなどおらぬわ!」
「そんなこと言って、ホントは羨ましいんでしょ?素直じゃないなあ。我が主様は。」
「羨ましくなんてないもん!」
自らの主人をからかうリーゼロッテは、どこか楽しそうな表情を浮かべていた。
「それに…これはソニア様のせいでもあるんですよ?」
「む?それはどういう意味じゃ?」
「召喚獣というものは、契約を結んだ召喚士の性格や願望などを色濃く受け継いじゃうものなんです。ソニア様がハグをするのが大好きだから、私にもその性格が移っちゃったんですよ?」
リーゼロッテの言葉を聞いたソニアの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「う、嘘じゃ!そ…そんなこと、どんな本にも書いてなかったもん!」
「はい、嘘です♡でも、ソニア様ってやっぱりハグ大好きなんですね!」
「ム……ムキーーーーーッ!」
ソニアの怒りが爆発し、リーゼロッテの足をポカポカと叩く。
一方で、叩かれているリーゼロッテは愉快そうにケラケラと笑っているのであった。
それを遠巻きに見ていたマークは、呆れたように大きなため息を吐く。
「全く…戦の前だと言うのに、緊張感がまるで無いな。」
「まあまあ、いいじゃないッスか。逆に緊張感が和らぐってもんですよ。」
「ラスの言う通りだ。」
召喚獣のハグから解放されたイサミは、ラスの意見に賛同する。
「緊張感というものは、ある程度は必要ではあるが、ありすぎるというのも困りものだ。
極度の緊張状態は、思考能力や運動能力といったパフォーマンスを低下させる。俺にはリーゼロッテがなんとかこの場を和ませようと気を利かせてるように思えるけどな。」
それを聞いたマークは、なるほどといった表情を見せた。
「この場の張り詰めた空気をいち早く察していたという訳か。フッ…召喚獣にしてやられたな。」
「すぐに空気を読んで場を和ますなんて、さすが風の召喚獣って感じッスね!」
「フッフー、でも!私の能力はそれだけじゃないんですよ!」
「うわっ!びっくりした!」
突如ラスの背後に現れたリーゼロッテは、自信ありげなドヤ顔を見せる。
「例えばー」
リーゼロッテは右手の人差し指をクイッと上に向ける。
すると、イサミたちの身体は宙に浮いたのであった。
「す…すごいッス!身体が空中に浮いてるッス!しかも自由に動けて、まるで空を飛んでるみたいッス!」
ラスは嬉しさのあまり空中で一回転をする。
「フッフーン、これは風の召喚獣の加護よ。この加護があれば数時間は自由に空を飛べるんですから!」
「すごい…!この機動力ならすぐに味方の元へ駆けつけられるぞ!ありがとう、リーゼロッテ!」
イサミはリーゼロッテにお礼を言う。
有頂天となった風の召喚獣は胸を張り、今日一番のドヤ顔を見せるのであった。
「ちょっと!リーゼロッテを召喚したのは、わらわじゃぞ!」
納得のいかないソニアは、頰を膨らましてヤキモチを焼く。
「あ…すまない。もちろんソニアにも感謝しているぞ。」
「そんな取って付けたように言ったって…」
「待って!」
ソニアがイサミに文句を付けようとしたその時、先程までドヤ顔をしていたリーゼロッテが真剣な顔で会話を遮る。
「風の流れが変わった……来ます!」
リーゼロッテの警告の後、突如空に暗雲が立ち込める。
そして、黒く淀んだ空には一筋の亀裂が入った。
「まさか…!」
その亀裂は徐々に左右に広がっていき、やがて空には大きな穴が開くのであった。
---------------------------------------
「空間転移でやって来たと言うのか!」
エルト城のバルコニーで、指揮を執っていたエルステラは動揺を隠せずにいた。
襲撃の時間までは予測できたエルステラであったが、どのような手段で襲ってくるかまでは読めていなかったのである。
そして、めったに動じることのないエルステラが心底驚いたのには更なる理由があった。
「空間転移は、エルトの上級魔法使いの一部にしか教えられていない秘伝の術。それがディストリア帝国に漏れているということは…信じたくはないがこの中に……内通者がいる……!」
エルステラは悔しそうに唇を噛んだ。
しかし、そんなことは御構いなしと言わんばかりに、空間の穴から次から次へとディストリア兵がパラシュートで降下してくる。
そしてその兵士たちの後ろには、不気味に黒く輝く巨大な飛行戦艦が佇んでいるのであった。
「あれはディストリア帝国の戦艦ライオネル!くっ…本気でエルト王国を堕としに来たという訳じゃな……ん?なんじゃあれは?船首に誰かいるようじゃが……なっ…あれは!」
ソニアはライオネルの船首にいる人物を捉えるや否や、驚きの声をあげた。
人とは思えないほどの巨大な体躯。
五龍星が一人、ガーレンが腕を組み船首で仁王立ちをしているのであった。
ガーレンはこれから自分が戦う戦場を見下ろし、うっとりとした恍惚の笑みを浮かべる。
「グワッハハハ……なんとも、絶景よのう。暴れがいがあるってもんだわい。さあさあ…退屈させてくれるなよ、エルト王国の兵どもよ!」
ガーレンは高らかに笑いながら、ライオネルの船首から飛び降りる。
こうして、エルト王国とディストリア帝国の戦争の火蓋が切って落とされたのであった。
既にディストリア帝国軍がいつ攻めてきてもおかしくない時間帯となっていた。
イサミと共に戦闘配置に付いているソニアは、おもむろに懐から魔導書を取り出した。
「さて、そろそろ戦いに備え、出しておこうかの…いでよ!リーゼロッテ!」
ソニアがそう唱えると、魔導書は緑色に発光し始め、地面には同色の魔導陣が現れる。
そしてその陣の中心からは、羽根の生えた人型の召喚獣が姿を現わしたのであった。
人間よりもふた回りほど大きく、透き通るような美しい緑色の肌のその召喚獣は、女神のような神々しさを放っていた。
リーゼロッテと呼ばれたその召喚獣は、イサミの姿を捉えると優しく微笑んだ。
「あら、あなたがソニア様をお守りしているイサミくんね?私は風を司る召喚獣のリーゼロッテと申します。以後、よろしくお願い致します。」
「ソニアと契約を結んだ召喚獣の一人か。よろしくな、リーゼロッテ。」
「はい!よろしくお願いします♡」
そう言うとリーゼロッテは、その大きな身体でイサミを包み込むように抱きしめた。
「なっ…⁉︎リーゼ!お主何をしとるのじゃ‼︎」
「何って…ただのスキンシップですよ、ソニア様。どうしたんですか?そんなに焦った顔して。」
「べ…別に焦ってなどおらぬわ!」
「そんなこと言って、ホントは羨ましいんでしょ?素直じゃないなあ。我が主様は。」
「羨ましくなんてないもん!」
自らの主人をからかうリーゼロッテは、どこか楽しそうな表情を浮かべていた。
「それに…これはソニア様のせいでもあるんですよ?」
「む?それはどういう意味じゃ?」
「召喚獣というものは、契約を結んだ召喚士の性格や願望などを色濃く受け継いじゃうものなんです。ソニア様がハグをするのが大好きだから、私にもその性格が移っちゃったんですよ?」
リーゼロッテの言葉を聞いたソニアの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「う、嘘じゃ!そ…そんなこと、どんな本にも書いてなかったもん!」
「はい、嘘です♡でも、ソニア様ってやっぱりハグ大好きなんですね!」
「ム……ムキーーーーーッ!」
ソニアの怒りが爆発し、リーゼロッテの足をポカポカと叩く。
一方で、叩かれているリーゼロッテは愉快そうにケラケラと笑っているのであった。
それを遠巻きに見ていたマークは、呆れたように大きなため息を吐く。
「全く…戦の前だと言うのに、緊張感がまるで無いな。」
「まあまあ、いいじゃないッスか。逆に緊張感が和らぐってもんですよ。」
「ラスの言う通りだ。」
召喚獣のハグから解放されたイサミは、ラスの意見に賛同する。
「緊張感というものは、ある程度は必要ではあるが、ありすぎるというのも困りものだ。
極度の緊張状態は、思考能力や運動能力といったパフォーマンスを低下させる。俺にはリーゼロッテがなんとかこの場を和ませようと気を利かせてるように思えるけどな。」
それを聞いたマークは、なるほどといった表情を見せた。
「この場の張り詰めた空気をいち早く察していたという訳か。フッ…召喚獣にしてやられたな。」
「すぐに空気を読んで場を和ますなんて、さすが風の召喚獣って感じッスね!」
「フッフー、でも!私の能力はそれだけじゃないんですよ!」
「うわっ!びっくりした!」
突如ラスの背後に現れたリーゼロッテは、自信ありげなドヤ顔を見せる。
「例えばー」
リーゼロッテは右手の人差し指をクイッと上に向ける。
すると、イサミたちの身体は宙に浮いたのであった。
「す…すごいッス!身体が空中に浮いてるッス!しかも自由に動けて、まるで空を飛んでるみたいッス!」
ラスは嬉しさのあまり空中で一回転をする。
「フッフーン、これは風の召喚獣の加護よ。この加護があれば数時間は自由に空を飛べるんですから!」
「すごい…!この機動力ならすぐに味方の元へ駆けつけられるぞ!ありがとう、リーゼロッテ!」
イサミはリーゼロッテにお礼を言う。
有頂天となった風の召喚獣は胸を張り、今日一番のドヤ顔を見せるのであった。
「ちょっと!リーゼロッテを召喚したのは、わらわじゃぞ!」
納得のいかないソニアは、頰を膨らましてヤキモチを焼く。
「あ…すまない。もちろんソニアにも感謝しているぞ。」
「そんな取って付けたように言ったって…」
「待って!」
ソニアがイサミに文句を付けようとしたその時、先程までドヤ顔をしていたリーゼロッテが真剣な顔で会話を遮る。
「風の流れが変わった……来ます!」
リーゼロッテの警告の後、突如空に暗雲が立ち込める。
そして、黒く淀んだ空には一筋の亀裂が入った。
「まさか…!」
その亀裂は徐々に左右に広がっていき、やがて空には大きな穴が開くのであった。
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「空間転移でやって来たと言うのか!」
エルト城のバルコニーで、指揮を執っていたエルステラは動揺を隠せずにいた。
襲撃の時間までは予測できたエルステラであったが、どのような手段で襲ってくるかまでは読めていなかったのである。
そして、めったに動じることのないエルステラが心底驚いたのには更なる理由があった。
「空間転移は、エルトの上級魔法使いの一部にしか教えられていない秘伝の術。それがディストリア帝国に漏れているということは…信じたくはないがこの中に……内通者がいる……!」
エルステラは悔しそうに唇を噛んだ。
しかし、そんなことは御構いなしと言わんばかりに、空間の穴から次から次へとディストリア兵がパラシュートで降下してくる。
そしてその兵士たちの後ろには、不気味に黒く輝く巨大な飛行戦艦が佇んでいるのであった。
「あれはディストリア帝国の戦艦ライオネル!くっ…本気でエルト王国を堕としに来たという訳じゃな……ん?なんじゃあれは?船首に誰かいるようじゃが……なっ…あれは!」
ソニアはライオネルの船首にいる人物を捉えるや否や、驚きの声をあげた。
人とは思えないほどの巨大な体躯。
五龍星が一人、ガーレンが腕を組み船首で仁王立ちをしているのであった。
ガーレンはこれから自分が戦う戦場を見下ろし、うっとりとした恍惚の笑みを浮かべる。
「グワッハハハ……なんとも、絶景よのう。暴れがいがあるってもんだわい。さあさあ…退屈させてくれるなよ、エルト王国の兵どもよ!」
ガーレンは高らかに笑いながら、ライオネルの船首から飛び降りる。
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