16 / 49
エルト王国編
Report16. 魔力の代償
しおりを挟む
一方で現世。
イサミが倒れたとの知らせを受けた日比谷は、この日行われていた著名な発明家たちが集う交流会を早退し、車で自身の研究所へと向かっていた。
「ええい!もっとスピードは出せないのか羽倉!」
日比谷はドライバーの羽倉に文句を垂れる。
「心配なのはわかるが、公道でこれ以上の速度は出せねぇよ!ギリギリいっぱいだ!」
「くそっ!」
羽倉の怒声に対して、軽く舌打ちした日比谷は車窓から外の景色を眺め、こみ上げてくる不安を紛らわす。
「頼むから無事でいてくれよ…イサミ…!」
日比谷は、祈るように小さく呟くのであった。
---------------------------------------
研究所に到着するや否や、日比谷は車のドアを開け、全速力で実験室へと向かう。
実験室の扉を勢いよく開け、ゼーゼーと肩で息をしながら、監視を行っていたナナコに確認を取る。
「ナナコ!現在の状況はどうなっている!イサミは無事なのか⁉︎」
ナナコは日比谷の目をじっと見て、神妙な面持ちで話し始めた。
「……落ち着いて聞いて下さいマスター。イサミは…」
「ああ。イサミは?どうなった?」
日比谷はゴクリと唾を飲む。
「バッテリー切れにより、強制的にスリープモードに入りました。恐らくあと一時間もすれば目を覚ますでしょう。」
それを聞いた日比谷はホッと胸を撫で下ろした。
「はーぁ、なんだ良かった。ただのバッテリー切れか。ナナコが意味ありげな顔して言うもんだから、致命的な故障かと思ってヒヤヒヤしたぞ。」
「申し訳ございませんでした、マスター。」
ナナコは日比谷に対して深々と頭を下げて謝罪した。
「日比谷、お前という奴は何もわかってねーなー。」
日比谷より少し遅れて、羽倉が実験室に到着する。
「何もわかっていないというのは、一体どういう意味だ羽倉?」
「ナナコちゃんがお前に出してるサインのことだよ。」
「サイン…?」
「そうさ。お前ここ最近はイサミばっかりで、ナナコちゃんに全然構ってあげられてないだろ?
つまり、ヤキモチ妬いてんのさ。少しでもお前に振り向いてもらえるように気を引いてんのがわかんねぇのかよ?」
「何⁉︎そうだったのか、それならそうと言ってくれればいいじゃないかナナコ。」
羽倉の言ったことが図星だったのか、ナナコの頭からは蒸気が立ち昇る。
その後ナナコは無言でツカツカと羽倉の前に歩み寄ると、強めのボディブローを叩き込んだ。
「ぐふぇえぇ!な、なんで…ナナコ…ちゃん…」
羽倉は強烈な一撃に悶絶し、たまらずその場に崩れ落ちる。
「黙りなさい、このゴミクズ野郎。」
ナナコは蔑むような目で羽倉を見下ろした。
「ゴミを見るような目つきのナナコちゃんも…アリ…だな。あ…ありがとうございました…ガクッ」
そんなナナコを見た羽倉は何故か満足そうな笑みを浮かべ、そのまま気を失うのであった。
そしてナナコは何事も無かったかのように日比谷の方に向き直り、再び深々と頭を下げる。
「お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでしたマスター。」
「いや…いい。それより、いつも私の研究を手伝ってくれてありがとな。ナナコがいつも側にいてサポートしてくれることを当たり前のように思っていたのかもしれない。
でも本当に感謝しているんだ。だから、たまにはワガママ言ったっていいんだぞ。私にできることならなんだってしてやるさ。」
「なんでも…ですか、マスター?」
「ああ、何でも言ってみろ。」
「で…では、その…私の、マスターへの気持ちを伝えてもよろしいでしょうか…?」
「そんなんでいいのか?いくらでも聞いてやるとも。」
ナナコは、おずおずと照れくさそうな仕草をしていたが、意を決して日比谷に告白をし始める。
「わ、私…今までずっとマスターのことがす…す…ガッ…ガガッ」
「すガ?なんだそれは?」
ボンッ!
ナナコの身体から小さな爆発音が鳴り、ナナコも羽倉同様その場に崩れ落ちる。
慌てた日比谷は咄嗟にナナコの身体を抱き抱え、その身体の熱さに目を丸くした。
「まずい!オーバーヒートを起こしている!一体どうなっているんだ⁉︎ナナコ!しっかりしろナナコー!」
その後、日比谷はナナコをメンテナンスルームへと連れて行き、修理対応に追われるハメになるのであった。
---------------------------------------
それから、数時間後。
「……おい!…おい!起きろ羽倉!」
日比谷は気絶している羽倉を目覚めさせようと身体を揺する。
その甲斐もあって羽倉は意識を取り戻し、ゆっくりと瞼を開ける。
「んあ…?なんだよ…日比谷?今ナナコちゃんといい所だったのによ…」
「何を寝ぼけているんだ!そんなことより、イサミについて非常にまずいことがわかったんだ。」
それを聞いた羽倉は夢見心地の状態から一気に現実に引き戻された。
「なにぃ⁉︎そりゃ、一体どーゆーこった?やばい故障でもしちまったのか?」
「いや、そういう訳ではないんだが…これを見てくれないか?」
そう言って日比谷は、計測記録が記されたある一枚のレポート用紙を羽倉に渡す。
「えーと、何々…こりゃあ、イサミのバッテリー残量の計測記録か?」
羽倉の問いかけに日比谷は小さく頷く。
「ああそうだ。その計測記録のマーカーで囲ってある部分を見てくれないか?」
日比谷が言った通り、レポート用紙にはピンク色のマーカーで囲ってある箇所があった。
羽倉はその部分に目を通す。
「なんか…このあたりで急激にバッテリー残量が減ってんな…そんで、その後すぐにゼロになって、行動不可になったって訳か…」
「その通りだ。そしてそのバッテリーが急激に減った時イサミは何をしていたか、モニターを見ながらバッテリー計測記録と照らし合わせてみた。そしたら…」
「そしたら…なんだ?」
「イサミが火炎球を使ったタイミングで、バッテリーがごっそり減ってしまっていたんだ。」
「え?つーことは、つまり…」
「ああ、イサミが魔法を一発撃つだけでバッテリーを相当食う。魔法は…相当コスパが悪いものだということが……今回で判明してしまったんだ……」
日比谷の声のトーンは徐々に暗くなっていき、最終的には消え入るようなボリュームになっていた。
「え…えぇー…」
がっくりと肩を落とす日比谷に対して、全く理解が追いつかない羽倉はただただ困惑するしかなかった。
イサミが倒れたとの知らせを受けた日比谷は、この日行われていた著名な発明家たちが集う交流会を早退し、車で自身の研究所へと向かっていた。
「ええい!もっとスピードは出せないのか羽倉!」
日比谷はドライバーの羽倉に文句を垂れる。
「心配なのはわかるが、公道でこれ以上の速度は出せねぇよ!ギリギリいっぱいだ!」
「くそっ!」
羽倉の怒声に対して、軽く舌打ちした日比谷は車窓から外の景色を眺め、こみ上げてくる不安を紛らわす。
「頼むから無事でいてくれよ…イサミ…!」
日比谷は、祈るように小さく呟くのであった。
---------------------------------------
研究所に到着するや否や、日比谷は車のドアを開け、全速力で実験室へと向かう。
実験室の扉を勢いよく開け、ゼーゼーと肩で息をしながら、監視を行っていたナナコに確認を取る。
「ナナコ!現在の状況はどうなっている!イサミは無事なのか⁉︎」
ナナコは日比谷の目をじっと見て、神妙な面持ちで話し始めた。
「……落ち着いて聞いて下さいマスター。イサミは…」
「ああ。イサミは?どうなった?」
日比谷はゴクリと唾を飲む。
「バッテリー切れにより、強制的にスリープモードに入りました。恐らくあと一時間もすれば目を覚ますでしょう。」
それを聞いた日比谷はホッと胸を撫で下ろした。
「はーぁ、なんだ良かった。ただのバッテリー切れか。ナナコが意味ありげな顔して言うもんだから、致命的な故障かと思ってヒヤヒヤしたぞ。」
「申し訳ございませんでした、マスター。」
ナナコは日比谷に対して深々と頭を下げて謝罪した。
「日比谷、お前という奴は何もわかってねーなー。」
日比谷より少し遅れて、羽倉が実験室に到着する。
「何もわかっていないというのは、一体どういう意味だ羽倉?」
「ナナコちゃんがお前に出してるサインのことだよ。」
「サイン…?」
「そうさ。お前ここ最近はイサミばっかりで、ナナコちゃんに全然構ってあげられてないだろ?
つまり、ヤキモチ妬いてんのさ。少しでもお前に振り向いてもらえるように気を引いてんのがわかんねぇのかよ?」
「何⁉︎そうだったのか、それならそうと言ってくれればいいじゃないかナナコ。」
羽倉の言ったことが図星だったのか、ナナコの頭からは蒸気が立ち昇る。
その後ナナコは無言でツカツカと羽倉の前に歩み寄ると、強めのボディブローを叩き込んだ。
「ぐふぇえぇ!な、なんで…ナナコ…ちゃん…」
羽倉は強烈な一撃に悶絶し、たまらずその場に崩れ落ちる。
「黙りなさい、このゴミクズ野郎。」
ナナコは蔑むような目で羽倉を見下ろした。
「ゴミを見るような目つきのナナコちゃんも…アリ…だな。あ…ありがとうございました…ガクッ」
そんなナナコを見た羽倉は何故か満足そうな笑みを浮かべ、そのまま気を失うのであった。
そしてナナコは何事も無かったかのように日比谷の方に向き直り、再び深々と頭を下げる。
「お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでしたマスター。」
「いや…いい。それより、いつも私の研究を手伝ってくれてありがとな。ナナコがいつも側にいてサポートしてくれることを当たり前のように思っていたのかもしれない。
でも本当に感謝しているんだ。だから、たまにはワガママ言ったっていいんだぞ。私にできることならなんだってしてやるさ。」
「なんでも…ですか、マスター?」
「ああ、何でも言ってみろ。」
「で…では、その…私の、マスターへの気持ちを伝えてもよろしいでしょうか…?」
「そんなんでいいのか?いくらでも聞いてやるとも。」
ナナコは、おずおずと照れくさそうな仕草をしていたが、意を決して日比谷に告白をし始める。
「わ、私…今までずっとマスターのことがす…す…ガッ…ガガッ」
「すガ?なんだそれは?」
ボンッ!
ナナコの身体から小さな爆発音が鳴り、ナナコも羽倉同様その場に崩れ落ちる。
慌てた日比谷は咄嗟にナナコの身体を抱き抱え、その身体の熱さに目を丸くした。
「まずい!オーバーヒートを起こしている!一体どうなっているんだ⁉︎ナナコ!しっかりしろナナコー!」
その後、日比谷はナナコをメンテナンスルームへと連れて行き、修理対応に追われるハメになるのであった。
---------------------------------------
それから、数時間後。
「……おい!…おい!起きろ羽倉!」
日比谷は気絶している羽倉を目覚めさせようと身体を揺する。
その甲斐もあって羽倉は意識を取り戻し、ゆっくりと瞼を開ける。
「んあ…?なんだよ…日比谷?今ナナコちゃんといい所だったのによ…」
「何を寝ぼけているんだ!そんなことより、イサミについて非常にまずいことがわかったんだ。」
それを聞いた羽倉は夢見心地の状態から一気に現実に引き戻された。
「なにぃ⁉︎そりゃ、一体どーゆーこった?やばい故障でもしちまったのか?」
「いや、そういう訳ではないんだが…これを見てくれないか?」
そう言って日比谷は、計測記録が記されたある一枚のレポート用紙を羽倉に渡す。
「えーと、何々…こりゃあ、イサミのバッテリー残量の計測記録か?」
羽倉の問いかけに日比谷は小さく頷く。
「ああそうだ。その計測記録のマーカーで囲ってある部分を見てくれないか?」
日比谷が言った通り、レポート用紙にはピンク色のマーカーで囲ってある箇所があった。
羽倉はその部分に目を通す。
「なんか…このあたりで急激にバッテリー残量が減ってんな…そんで、その後すぐにゼロになって、行動不可になったって訳か…」
「その通りだ。そしてそのバッテリーが急激に減った時イサミは何をしていたか、モニターを見ながらバッテリー計測記録と照らし合わせてみた。そしたら…」
「そしたら…なんだ?」
「イサミが火炎球を使ったタイミングで、バッテリーがごっそり減ってしまっていたんだ。」
「え?つーことは、つまり…」
「ああ、イサミが魔法を一発撃つだけでバッテリーを相当食う。魔法は…相当コスパが悪いものだということが……今回で判明してしまったんだ……」
日比谷の声のトーンは徐々に暗くなっていき、最終的には消え入るようなボリュームになっていた。
「え…えぇー…」
がっくりと肩を落とす日比谷に対して、全く理解が追いつかない羽倉はただただ困惑するしかなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説



異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる