AI転生 -自律型AIロボットを異世界に転生させて観察してみた-

橋暮 梵人

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エルト王国編

Report11. AIロボットは魔法を習得できるのか?

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「良いかイサミ?魔法を使うにはイメージが大事なんじゃ。」

「ああ。」

「例えば、火の初級魔法『火炎球フランバル』を使う場合、手のひらの上に火を灯すというイメージを思い描く。」

ソニアはその言葉どおり、手のひらの上に野球ボール程の小さな火球を作った。

「そしてこの火球を対象物に…投げつける!」

ソニアは前方にある手製の的に向かって、火球を思い切り投げつける。
見事、火球は的にクリーンヒットし、爆破音とともに的は木っ端微塵に砕け散った。

「ふぅ…と、まあこんな感じじゃ。火を灯すイメージさえ掴めれば、なんてことはない、簡単な魔法よ。
この大陸に住む全ての生き物は、大なり小なり魔力を宿しておるから、理論上では全員が魔法を使うことができる。
魔法を操る魔物や獣もいるくらいじゃ。だからきっと、イサミにもできると思う。とりあえず今わらわがやったような段取りで、イサミもやってみよ。」

「わかった、やってみよう。」

隠れ里レジーナにあるメアリーの家の前の庭では、ソニアによる魔法習得のマンツーマン指導が行われていた。

イサミはソニアに言われた通り、手のひらに火を灯すイメージを思い描く。

しかし、

一向にイサミの手のひらには、火が灯らない。
数分粘っては見たものの、結局イサミはイメージするのを止め、手を下ろすのであった。

「…ダメだ。火を灯すことができない。」

「うーむ。イメージが上手く確立できていないようじゃな…
まあ、あまり気を落とすでない。練習を重ねれば、すぐできるようなるさ。」

「ああ…すまないなソニア。色々教えてもらったのに。」

「よいよい。わらわで良ければ、またいつでも声をかけてくれ。」

ソニアはあの手この手で魔法を使うためのコツをイサミに教えていたが、いずれも上手くはいっていなかった。

どんよりとした重たい空気が流れる中で、間延びした声が家の中から聞こえてくる。

「お疲れ様、二人ともぉ。お茶を淹れたから少し休憩にしましょう。」

入り口の扉を開けて出てきたのは、家主のメアリーであった。

「どうかしらぁ?修行の調子は?」

「ああ、今ソニアに『火炎球フランバル』の打ち方を習っていたんだが…火を灯すことも出来ず、全くダメだった。どうやら俺には魔法の才能がないらしい。」

「そう早くに決めつけてしまうのは良くないわぁ。魔法の習得は、案外難しく考えない方が上手くいく場合が多いの。
だから、ねっ?一回休憩してリラックスしましょ?」

そう言ってメアリーは、二人を家の中に入るように促した。
その後、自分も家に入ろうとした時に、ふと何かの異変に気付く。

「なんだか…今日はやけに暑いわね…」

庭に出て、空を見上げたメアリーは驚きのあまり大きく目を見開いた。

「どうして、空に太陽が二つあるの…⁉︎いいえ、違う!はまさか…イサミくんの『火炎球フランバル』…?」

しばらく観察していると、一つの太陽が少しずつ小さくなっていき、やがて完全に消滅した。

メアリーは今しがた起こった出来事が信じられず、ただただ呆然とするしかなかった。

「おーいメアリー。何をしとるのじゃー。先にお茶飲んでおるぞー。」

心配で様子を見に来たソニアの声で、我に返ったメアリーは慌てて言葉を返す。

「ごめんなさい、今行くわぁ。」

イサミには、いち早く魔法を制御する力を身につけさせる。
メアリーは、そう固く決心するのであった。

---------------------------------------

一方で日比谷研究所。

イサミモニターの前では日比谷がガックリと肩を落とし、うなだれていた。

それを見兼ねた羽倉は、励ますように優しく声を掛ける。

「あー…その、なんだ。魔法が使えなかったってのは残念だけど、イサミはそんなのに頼らずとも強えーじゃねーか。魔法を使わず、バッタバッタと敵をなぎ倒して行く!俺ぁそっちの方が痛快でカッコいいと思うぜ!」

イサミ視点でモニターを観ている日比谷たちは、イサミが強大な魔力を秘めているということを知らないでいた。

イサミは魔法を覚えるであろうと期待していた日比谷は、その期待が外れひどく落ち込んでいるのであった。

「それによ、メアリーさんが言ってたじゃねぇか。決めつけるには、まだ早いってな。これから覚醒するかもしんねーし、暖かく見守ってやろうや。」

「ああ…そうだな。よし!我々も今使った魔法の検証をしてみよう!何かヒントが隠れてるかもしれん。ナナコ!先程の記録映像を用意してくれ。」

元気を取り戻した日比谷を見て、羽倉はニヤリと笑う。

「その意気だ。やっぱお前はそうしてる方が似合ってるよ。」

さっきまで暗く沈んでいた研究所内が嘘のように、急にバタバタと慌ただしくなるのであった。
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