上 下
9 / 49
転生編

Report09. 反撃の狼煙

しおりを挟む
メアリーに案内されながら歩くこと数分、イサミたちは木の家々が立ち並ぶ集落へとたどり着いた。

その集落に足を踏み入れると、そこに住む人々から大きな歓声が上がる。

「ソニアお嬢様!よくぞご無事で!」

「生きていらっしゃると、ずっと信じておりました!」

「あなたは私たちの希望なのです!ソニア様、万歳!」

そこにいる誰もがソニアが無事であったことを喜び、涙を流していた。
ソニアはその住人たちの期待に応えるように、羽織っていた黒いローブをバサッと脱ぎ捨て、全員に聞こえるよう高らかに声を張り上げた。

「皆のもの!不安な思いをさせてすまなかった!わらわはこの通り無事である!だいぶ待たせてしまったが、我々の反乱はここから始まる!皆の力で必ずや、ディストリア帝国を奪還するのじゃ!」

ソニアの力強い演説により、住民のボルテージがさらに上がる。
集落全体があっという間にお祭り騒ぎの状態となってしまうのであった。

その中で、イサミは一人冷静にソニアの演説を聞いていた。

「…反乱?」

その呟きを聞いたメアリーが、イサミの肩を優しく叩く。

「事情は私の家で説明するわぁ。ソニアも当分は解放されないでしょうし、先に向かいましょう?」

イサミはメアリーに促され、家の中へと招かれるのであった。

---------------------------------------

メアリーの家の中に入った瞬間、薬品独特のツンとした匂いが鼻を突き抜けた。

机の上には試験管に入った様々な色の薬液がズラリと並んでおり、棚にはそれに使うであろう薬草が種類ごとに収納されていた。

「ごめんなさいねぇ。家の中、あまり良い香りしないでしょう?」

メアリーは申し訳なさそうにしながら、紅茶が注がれたティーカップをイサミに差し出した。

「ありがとう。それと、匂いは気にならないから大丈夫だ。」

「そう、それなら良かったわぁ。」

メアリーは安堵の表情を見せ、イサミに笑いかけた。

「メアリーは薬学の研究者なのか?」

イサミは机の上に並べられた薬液を眺めながら、メアリーに問いかける。

「ええそうよぉ。ここで薬草を調合して、色々な魔法薬を作っているの。」

「興味深いな。どんな薬を作ってるんだ?」

「そうねぇ…主なものとしては、傷や状態異常を回復させる薬、ヒーリングポーションを作っているわぁ。後はお客様から依頼があった薬を特注で作ったりとかかしらねぇ。興味があるようなら、今度イサミくんにも簡単なお薬の作り方教えてあげるわぁ。」

「ありがとう、助かるよメアリー。」

「それよりも…さっきの質問が途中だったわねぇ。私に聞きたいことって何かしら?」

「ああ、ソニアとメアリーはどんな関係なんだ?メアリーもディストリア帝国の人間だったりするのか?」

「そうねぇ…何から話せばいいかしら?まず私はディストリア帝国民ではないわぁ。私はエルト王国の人間なの。
ソニアと知り合ったのは三年前、彼女がエルト王国に魔法留学に来た時だったわぁ。その時のお世話係が私で、それがきっかけで仲良くなったの。
大国の王女様だから最初は私もすごく緊張していたのだけれど、ソニアは私を含め、誰に対しても分け隔てなく優しく接してくれたから…すぐに打ち解けることができたわぁ。」

「メアリーとソニアを見ていると、なんだか本当の姉妹のような感じがするよ。」

「うふふっ、一国の王女様にこんなことを言うのは失礼かもしれないけど、私もソニアは可愛い妹のように思っているわぁ。」

メアリーは顔を綻ばせて嬉しそうに笑った。しかし、その顔は徐々に暗くなる。

「だから…あの知らせを聞いた時は、本当に気が気じゃなかったの…」

「あの知らせ…というのは?」

「ディストリア帝国の崩壊…たった一夜にして、大陸一の軍事大国であるディストリアが滅びてしまったの…」

「ディストリア帝国が滅びた…?ちょっと待ってくれ。じゃあソニアの親族は…」

「ソニアの父であるディストリア王をはじめ、全員…殺されてしまったと聞いているわ…」

「……!どうしてそんなことに…ディストリアと敵対する国に奇襲をかけられたのか?それとも身内のクーデターによる内乱か?とにかく、一夜にして国が滅びるなんて普通じゃない。」

「ううん、イサミくん。そうじゃないの。私も…本当に信じられないのだけれど、ディストリア帝国は突如として現れた、たった一人の人間の手によって滅ぼされたらしいの…」

「たった一人でだって?一体何者なんだそいつは…?」

「残念ながらこの人物の情報については、ほとんど入って来てはいないわ。たったひとつわかっていることは、その人物が名乗っていたという名前だけよ。」

「その名前っていうのは…?」

「その人物は自分のことをワンと名乗っていたらしいわ。
ディストリア帝国を陥落させた後は行動を起こしてはいないみたいだけど、十中八九ディストリア帝国の王位に就いて、国を牛耳っていると思う…ワンの目的が何なのかもわからないから、近隣諸国は戦々恐々としているわ。」

ワン…か。」

イサミはポツリと呟いて、その人物の名前を最重要記憶の中に保存するのであった。

---------------------------------------

ディストリア帝国城内にある病室。

長い間そのベッドの上で眠っていたオージェは意識を取り戻し、ゆっくりと目を開いた。

「ここは…ディストリア城…か。」

オージェは殺風景な病室を見回し、自らの置かれている状況を確認する。

「俺は…そうか、あの男に負けたのか…だが、なぜ俺は生きている…?」

「キミが敵に情けをかけられたからだよ、五龍星ごりゅうせいの恥晒しめ。」

オージェへの暴言を吐きながら、小柄な一人の少年が病室に入ってくる。

「ハリル…!テメェ今なんつった!」

「ディストリア帝国が誇る最強戦力、五龍星の看板に泥を塗るなって言ってんだよオージェ。」

「こいつ!もう容赦しねぇ…グッ…!」

ハリルに殴りかかろうとしたオージェであったが、イサミから受けた傷の痛みで、その場にうずくまってしまう。

「まだそれだけ吠える元気はあるんだね。まっどの道君はもう用済みだからさ。とっとと荷物をまとめて、この城を出て行ってくれよ。」

「ちょっと待てハリル…そりゃ一体どういうことだ?」

「そのままの意味だよ、ワン様直々のお達しだ。本日よりオージェ・ハイドライドを五龍星から抹消し、ディストリア帝国から永久追放とする。その辞令書、読む?」

そう言ってハリルは鞄の中から羊皮紙を取り出し、オージェの前でヒラヒラとチラつかせた。

オージェはすぐさまその羊皮紙を奪い取り、書かれている文章に目を走らせる。
そこには先程ハリルが言ったことと、ほぼ同義の内容が書かれているのであった。

「さて…と、キミにクビを宣告する役目も終えたことだし、僕はこれにて失礼する。まあ処刑されないだけありがたいと思いなよ。なんせ、キミは宝具レガリアまで盗まれてしまうという大失態を犯しているんだからね。」

「なんだと⁉︎俺の七星の銃セブン・ガンズが盗まれただと!」

「今、捜索隊が血眼になって探しているところだよ。負けた上に帝国の宝を盗まれるなど…全く本当に、救いようのない男だキミは…頼むから一時でも早くこの国から出て行ってくれないか?不愉快でしょうがない。」

ハリルはそう吐き捨て、病室を後にした。

取り残されたオージェは、怒りから病室の床を思い切り叩く。

「くそっ…くそっ…!この俺が国外追放だと…!千里眼のオージェが…!許さねぇ…あの男!どんな手を使っても俺が必ず仕留める…!そして…五龍星に返り咲いてやる…!」

地位も名誉も全て失ったオージェは、イサミへの復讐を固く心に誓うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

『おっさんが二度も転移に巻き込まれた件』〜若返ったおっさんは異世界で無双する〜

たみぞう
ファンタジー
50歳のおっさんが事故でパラレルワールドに飛ばされて死ぬ……はずだったが十代の若い体を与えられ、彼が青春を生きた昭和の時代に戻ってくると……なんの因果か同級生と共にまたもや異世界転移に巻き込まれる。現代を生きたおっさんが、過去に生きる少女と誰がなんのために二人を呼んだのか?、そして戻ることはできるのか?  途中で出会う獣人さんやエルフさんを仲間にしながらテンプレ? 何それ美味しいの? そんなおっさん坊やが冒険の旅に出る……予定? ※※※小説家になろう様にも同じ内容で投稿しております。※※※

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

処理中です...