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NNTC合宿編
第九十七話 病室にて
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NINEナショナルトレーニングセンターにあるメディカル施設。
その病室には修人と楓、そしてベッドで眠り続ける鞍月 光華がいた。
「……ふう。これで一旦は落ち着いたわね。」
楓は一つ息を吐いて、袖口で額の汗を拭った。
「ああ……そうだな。」
その隣にいる修人もまた安堵の溜息を漏らす。
「とりあえず、今日と明日は絶対安静にすること。いい?監督。」
「ああ。俺もその方がいいと思う。だけど、こいつが起きたらなんて言うかなあ……。」
修人は穏やかな寝息を立てている鞍月を心配そうに見つめる。
「……焦る気持ちはわかるけど、身体を壊しちゃ元も子もないわ。」
楓はそう言うと、修人の肩をポンと叩いた。
「じゃあ、私は皆の所に戻るから。後はよろしくね、監督。」
「えっ⁉︎おい!俺より医療の心得がある楓が残った方がいいんじゃないのか⁉︎」
「だーいじょーぶよ。ここには優秀なメディカルスタッフが何人もいる。何かあったらその人たちを呼べばいいから。とにかく、今は監督が側にいてあげて。」
「あ、ちょっ、待てって……」
修人の制止も虚しく、楓はヒラヒラと手を振りながら病室を後にするのであった。
「……ったく、どうしたもんかなぁ。」
病室で二人きりとなった修人は居心地が悪そうに部屋の中を右往左往していたが、やがてベッドの横にある小さな椅子に腰をかけた。
「……。」
修人は、視線の先にいる少女をじっと見つめる。
整った目鼻立ちながらも幼さが残る横顔、華奢な腕、鞍月は同年代の女性と比べても一回り小柄な体型だ。
そして、フィジカルコンタクトが多いサッカーという競技において、身体が小さい選手は圧倒的に不利である。
それでも、鞍月はそのことに対して不満を漏らすことは一切無かった。
倒されても倒されても立ち上がり、フィールドの中にいる誰よりも大きな声を出すその勇ましい姿に、修人は強く感銘を受けていた。
「本当にすげぇ奴だよ、お前は。」
修人が発したのは、心からの尊敬の言葉だった。
「う……ん……。」
その言葉に反応してか、鞍月のまぶたがゆっくりと開く。
「鞍月!大丈夫か⁉︎」
修人は勢いよく椅子から立ち上がる。
「あれ?私……グラウンドで練習してたはずじゃ……?」
鞍月は上体を起こし、辺りをキョロキョロと見渡した。
「鞍月、お前は練習中に倒れてこの病室に搬送されたんだ。日頃の疲れが出たんだろう。お医者さん曰く、今日明日は安静にしていろとのことだそうだ。」
「……そんなに待てないよ。今すぐ皆と合流しなきゃ!」
すぐさまベッドから降りようとする鞍月の腕を、修人がガッチリと掴む。
「離してよ、監督。」
「聞こえなかったのか?俺は安静にしてろって言ったんだ。」
「こんなに恵まれた環境で練習できることなんて、そうそう無いんだよ?こんなとこでゆっくり安静になんて、出来る訳ないよ。」
「……監督命令だ。お前は今日明日ここで休んでいろ。」
「もう大丈夫なんだって!心配しすぎだよ監督。ほら!もうこんなにピンピンして……」
「鞍月っ‼︎」
修人は鞍月の両腕を掴みながら、そのままベッドに押し倒した。
「キャッ……!な、なな、何するのよ⁉︎」
押し倒された鞍月は動揺を隠せず、顔を真っ赤にしてしまう。
しかし、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、修人は真面目なトーンで話し始める。
「一体、何をそんなに焦ってるんだよ?」
「……そりゃ焦るよ。だって、皆ものすごい速度で成長してるのが目に見えてわかるんだもん。」
「鞍月だって、成長してるだろ。」
鞍月は小さく首を横に振る。
「全然だよ……監督が根気強く教えてくれてるのに、私はそれに全然応えられてない。」
「そんなことない。鞍月は本当によくやってくれてるよ。」
「……お世辞はやめてよ。本当はもう……とっくに気づいてるんだ。」
「鞍月、お前何言って……!」
「私には、才能がない。『皇帝の視野』を会得するだけの才能が、私には無いんだよ。」
そうこぼした鞍月の瞳からは、一筋の涙が流れ落ちた。
その病室には修人と楓、そしてベッドで眠り続ける鞍月 光華がいた。
「……ふう。これで一旦は落ち着いたわね。」
楓は一つ息を吐いて、袖口で額の汗を拭った。
「ああ……そうだな。」
その隣にいる修人もまた安堵の溜息を漏らす。
「とりあえず、今日と明日は絶対安静にすること。いい?監督。」
「ああ。俺もその方がいいと思う。だけど、こいつが起きたらなんて言うかなあ……。」
修人は穏やかな寝息を立てている鞍月を心配そうに見つめる。
「……焦る気持ちはわかるけど、身体を壊しちゃ元も子もないわ。」
楓はそう言うと、修人の肩をポンと叩いた。
「じゃあ、私は皆の所に戻るから。後はよろしくね、監督。」
「えっ⁉︎おい!俺より医療の心得がある楓が残った方がいいんじゃないのか⁉︎」
「だーいじょーぶよ。ここには優秀なメディカルスタッフが何人もいる。何かあったらその人たちを呼べばいいから。とにかく、今は監督が側にいてあげて。」
「あ、ちょっ、待てって……」
修人の制止も虚しく、楓はヒラヒラと手を振りながら病室を後にするのであった。
「……ったく、どうしたもんかなぁ。」
病室で二人きりとなった修人は居心地が悪そうに部屋の中を右往左往していたが、やがてベッドの横にある小さな椅子に腰をかけた。
「……。」
修人は、視線の先にいる少女をじっと見つめる。
整った目鼻立ちながらも幼さが残る横顔、華奢な腕、鞍月は同年代の女性と比べても一回り小柄な体型だ。
そして、フィジカルコンタクトが多いサッカーという競技において、身体が小さい選手は圧倒的に不利である。
それでも、鞍月はそのことに対して不満を漏らすことは一切無かった。
倒されても倒されても立ち上がり、フィールドの中にいる誰よりも大きな声を出すその勇ましい姿に、修人は強く感銘を受けていた。
「本当にすげぇ奴だよ、お前は。」
修人が発したのは、心からの尊敬の言葉だった。
「う……ん……。」
その言葉に反応してか、鞍月のまぶたがゆっくりと開く。
「鞍月!大丈夫か⁉︎」
修人は勢いよく椅子から立ち上がる。
「あれ?私……グラウンドで練習してたはずじゃ……?」
鞍月は上体を起こし、辺りをキョロキョロと見渡した。
「鞍月、お前は練習中に倒れてこの病室に搬送されたんだ。日頃の疲れが出たんだろう。お医者さん曰く、今日明日は安静にしていろとのことだそうだ。」
「……そんなに待てないよ。今すぐ皆と合流しなきゃ!」
すぐさまベッドから降りようとする鞍月の腕を、修人がガッチリと掴む。
「離してよ、監督。」
「聞こえなかったのか?俺は安静にしてろって言ったんだ。」
「こんなに恵まれた環境で練習できることなんて、そうそう無いんだよ?こんなとこでゆっくり安静になんて、出来る訳ないよ。」
「……監督命令だ。お前は今日明日ここで休んでいろ。」
「もう大丈夫なんだって!心配しすぎだよ監督。ほら!もうこんなにピンピンして……」
「鞍月っ‼︎」
修人は鞍月の両腕を掴みながら、そのままベッドに押し倒した。
「キャッ……!な、なな、何するのよ⁉︎」
押し倒された鞍月は動揺を隠せず、顔を真っ赤にしてしまう。
しかし、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、修人は真面目なトーンで話し始める。
「一体、何をそんなに焦ってるんだよ?」
「……そりゃ焦るよ。だって、皆ものすごい速度で成長してるのが目に見えてわかるんだもん。」
「鞍月だって、成長してるだろ。」
鞍月は小さく首を横に振る。
「全然だよ……監督が根気強く教えてくれてるのに、私はそれに全然応えられてない。」
「そんなことない。鞍月は本当によくやってくれてるよ。」
「……お世辞はやめてよ。本当はもう……とっくに気づいてるんだ。」
「鞍月、お前何言って……!」
「私には、才能がない。『皇帝の視野』を会得するだけの才能が、私には無いんだよ。」
そうこぼした鞍月の瞳からは、一筋の涙が流れ落ちた。
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