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NNTC合宿編
第九十五話 サッカー馬鹿野郎
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洋一郎と麻上が退散した後も、矢切と小宮山はまるでガードマンのように通路を塞ぎ続けていた。
それから数分ほど経った後、休憩室の通路から仙崎 花恋が姿を現す。
「えっ?姉御と小宮山先輩?二人ともこんな所で一体何をしているんですか?」
花恋はギョッとした目で二人を見る。
しかし矢切と小宮山は、そんなことはお構いなしと言わんばかりに花恋の元へと詰め寄った。
「まあまあ、いいじゃないですか花恋さん。そんな細かいことは。」
「そ・れ・よ・り・も!ネタはあがってるんだぜい。私らは目撃したんだ!片桐と二人きりでこの休憩エリアの中に入っていったのをな!」
「で?実際の所どうなんです?このデートを通じてなにか進展はございましたか?」
マイクに見立てた小宮山の右手が花恋へと向けられる。
二人のインタビュアー風の小芝居には呆れつつも、花恋は正直に答えるのであった。
「ううん、その逆。告白したんだけど、修兄ちゃんにきっぱり断られちゃったよ。」
「え……?」
予想だにしなかった答えに、インタビュアーの二人は絶句する。
「俺は監督だから選手と特別な関係にはなれない、だから花恋の気持ちには応えられない……だってさ。本当に馬鹿がつくほどマジメだよねぇ。修兄ちゃんは。」
花恋は先ほど修人に言われたことを二人に伝え、苦笑する。
「………私の10年の恋がこんなにあっさり終わっちゃったのは少し寂しいけどさ。でも、正直に気持ちを伝えられて良かったよ。だから……ホントに……思い残すことなんて何もないよ。」
そう言う花恋の表情は、ポジティブな言葉とは裏腹に今にも泣き崩れてしまいそうなほどの悲しみを帯びていた。
明らかに無理をしているその顔を見た矢切と小宮山は、何も言うことなく花恋をギュッと抱きしめる。
「よしよし。頑張ったね、花恋ちゃん。」
「こんな時、無理して自分に嘘をついちゃダメだぞ花恋。私らの前でも正直な気持ちをぶつけてくれよ。」
二人の言葉がきっかけとなり、花恋の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
「う……あぁ……ごめんなさい……二人とも……私……」
「謝ることなんて、何もないよ花恋。」
「あぁ。了の言う通りだぜ。私らでよければいくらでも話を聞くからさ。とりあえず、ここじゃなんだから別の場所に移動しようか。」
「……うん。」
その後も子どものように泣きじゃくる花恋を、二人は優しく撫で続けるのであった。
---------------------------------------
修人や他のチームメイトに連絡を入れ、予定時間よりも早めに娯楽室を後にした3人は、花恋の部屋へと場所を移す。
最初こそは、花恋が長年抱えていた修人への想いを聞いていた二人であったが、徐々に花恋を振った修人に対しての怒りがふつふつと込み上げてくるのであった。
「……こんなに一途で可愛い花恋を、あの野郎は振りやがった。」
「本当にもったいないことをしたよね!片桐くんは!」
「え……ちょっとちょっと、突然どうしたの?」
矢切と小宮山が急に怒りだしたことに、花恋は困惑する。
しかし、火が付いた二人が止まることはない。
「全くもってあいつは馬鹿だ!サッカー馬鹿野郎だ!」
「そうだそうだ!サッカー馬鹿野郎だ!女の子の気持ちなんか微塵も考えたことなんてないんだ!」
「えっ?えっ?二人とも一体何が言いたいの?」
修人をサッカー馬鹿呼ばわりする二人を見て、花恋はますます困惑の色を深める。
「だからさ!見返してやりゃいいんだよ!あのサッカー馬鹿野郎をさ!」
「見返す……?」
「そうそう。自分を磨いて、今度はサッカー馬鹿野郎の方から告白させるんだよ。」
「でも、あれだけはっきり断られたらもう無理なんじゃ……」
「いやいや。片桐が言ってたのは監督と選手だから無理だって話だろ?だから、卒業してからはもう監督と選手の関係じゃ無くなる訳だから、チャンスは全然あるだろーよ。」
「それはそうかもしれないけど、ただ断るための嘘だったかもしれないし……」
「だから、その卒業までの間に自分を磨いて振り向かせるってことだよ。」
「でも、磨くったって一体何をすれば……修兄ちゃんはサッカーしか興味なさそうだし。」
「おいおい、花恋。もう自分で答えを言ってるじゃねーか。」
「え……あ!そうか!」
花恋は少し考えた後、二人が何を言わんとしているのかを理解した。
「私が誰にも負けないくらいのサッカー選手になればいいってことね!」
その花恋の答えを聞いて、矢切と小宮山はニヤッと笑う。
「その通り!あいつが一番惹かれるのって結局そこしかないだろ。」
「どう?やる気出てきたかな?花恋?」
小宮山の問いに対して、花恋は不敵に笑って見せる。
その目にはもう、迷いはない。
そして、二人に負けじと大声で修人への力強い想いを叫ぶのであった。
「うん!修兄ちゃんの、サッカー馬鹿野郎ーーーーーーーーー!!!サッカー上手くなって、絶対に振り向かせてやるんだからーーーーー!」
「おっ!いいねえ!もっと言ってやれ言ってやれ!」
花恋の表情からは悲しみが消え、いつも通りの笑顔が戻っていた。
その後も、女子3人による修人の愚痴大会は夜が更けるまで続いていたという。
---------------------------------------
一方。
「へっくしっ!」
自室に戻った修人は、くしゃみをして鼻を啜っていた。
「風邪かな……?今日は少し早めに寝るかあ。」
背筋に寒気を覚えたサッカー馬鹿野郎こと片桐 修人は、毛布に包まり早めの就寝をとったのであった。
それから数分ほど経った後、休憩室の通路から仙崎 花恋が姿を現す。
「えっ?姉御と小宮山先輩?二人ともこんな所で一体何をしているんですか?」
花恋はギョッとした目で二人を見る。
しかし矢切と小宮山は、そんなことはお構いなしと言わんばかりに花恋の元へと詰め寄った。
「まあまあ、いいじゃないですか花恋さん。そんな細かいことは。」
「そ・れ・よ・り・も!ネタはあがってるんだぜい。私らは目撃したんだ!片桐と二人きりでこの休憩エリアの中に入っていったのをな!」
「で?実際の所どうなんです?このデートを通じてなにか進展はございましたか?」
マイクに見立てた小宮山の右手が花恋へと向けられる。
二人のインタビュアー風の小芝居には呆れつつも、花恋は正直に答えるのであった。
「ううん、その逆。告白したんだけど、修兄ちゃんにきっぱり断られちゃったよ。」
「え……?」
予想だにしなかった答えに、インタビュアーの二人は絶句する。
「俺は監督だから選手と特別な関係にはなれない、だから花恋の気持ちには応えられない……だってさ。本当に馬鹿がつくほどマジメだよねぇ。修兄ちゃんは。」
花恋は先ほど修人に言われたことを二人に伝え、苦笑する。
「………私の10年の恋がこんなにあっさり終わっちゃったのは少し寂しいけどさ。でも、正直に気持ちを伝えられて良かったよ。だから……ホントに……思い残すことなんて何もないよ。」
そう言う花恋の表情は、ポジティブな言葉とは裏腹に今にも泣き崩れてしまいそうなほどの悲しみを帯びていた。
明らかに無理をしているその顔を見た矢切と小宮山は、何も言うことなく花恋をギュッと抱きしめる。
「よしよし。頑張ったね、花恋ちゃん。」
「こんな時、無理して自分に嘘をついちゃダメだぞ花恋。私らの前でも正直な気持ちをぶつけてくれよ。」
二人の言葉がきっかけとなり、花恋の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
「う……あぁ……ごめんなさい……二人とも……私……」
「謝ることなんて、何もないよ花恋。」
「あぁ。了の言う通りだぜ。私らでよければいくらでも話を聞くからさ。とりあえず、ここじゃなんだから別の場所に移動しようか。」
「……うん。」
その後も子どものように泣きじゃくる花恋を、二人は優しく撫で続けるのであった。
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修人や他のチームメイトに連絡を入れ、予定時間よりも早めに娯楽室を後にした3人は、花恋の部屋へと場所を移す。
最初こそは、花恋が長年抱えていた修人への想いを聞いていた二人であったが、徐々に花恋を振った修人に対しての怒りがふつふつと込み上げてくるのであった。
「……こんなに一途で可愛い花恋を、あの野郎は振りやがった。」
「本当にもったいないことをしたよね!片桐くんは!」
「え……ちょっとちょっと、突然どうしたの?」
矢切と小宮山が急に怒りだしたことに、花恋は困惑する。
しかし、火が付いた二人が止まることはない。
「全くもってあいつは馬鹿だ!サッカー馬鹿野郎だ!」
「そうだそうだ!サッカー馬鹿野郎だ!女の子の気持ちなんか微塵も考えたことなんてないんだ!」
「えっ?えっ?二人とも一体何が言いたいの?」
修人をサッカー馬鹿呼ばわりする二人を見て、花恋はますます困惑の色を深める。
「だからさ!見返してやりゃいいんだよ!あのサッカー馬鹿野郎をさ!」
「見返す……?」
「そうそう。自分を磨いて、今度はサッカー馬鹿野郎の方から告白させるんだよ。」
「でも、あれだけはっきり断られたらもう無理なんじゃ……」
「いやいや。片桐が言ってたのは監督と選手だから無理だって話だろ?だから、卒業してからはもう監督と選手の関係じゃ無くなる訳だから、チャンスは全然あるだろーよ。」
「それはそうかもしれないけど、ただ断るための嘘だったかもしれないし……」
「だから、その卒業までの間に自分を磨いて振り向かせるってことだよ。」
「でも、磨くったって一体何をすれば……修兄ちゃんはサッカーしか興味なさそうだし。」
「おいおい、花恋。もう自分で答えを言ってるじゃねーか。」
「え……あ!そうか!」
花恋は少し考えた後、二人が何を言わんとしているのかを理解した。
「私が誰にも負けないくらいのサッカー選手になればいいってことね!」
その花恋の答えを聞いて、矢切と小宮山はニヤッと笑う。
「その通り!あいつが一番惹かれるのって結局そこしかないだろ。」
「どう?やる気出てきたかな?花恋?」
小宮山の問いに対して、花恋は不敵に笑って見せる。
その目にはもう、迷いはない。
そして、二人に負けじと大声で修人への力強い想いを叫ぶのであった。
「うん!修兄ちゃんの、サッカー馬鹿野郎ーーーーーーーーー!!!サッカー上手くなって、絶対に振り向かせてやるんだからーーーーー!」
「おっ!いいねえ!もっと言ってやれ言ってやれ!」
花恋の表情からは悲しみが消え、いつも通りの笑顔が戻っていた。
その後も、女子3人による修人の愚痴大会は夜が更けるまで続いていたという。
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一方。
「へっくしっ!」
自室に戻った修人は、くしゃみをして鼻を啜っていた。
「風邪かな……?今日は少し早めに寝るかあ。」
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