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NNTC合宿編

第八十六話 辻本美希

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私は、ずる賢く生きてきた人間だと思う。

幼い頃から物事を打算的に考え、自分にとってメリットがあるかどうかを常に判断の基準としていた。

もちろん、そんな自分の本性を表に出すような愚かなことはしない。
いつもニコニコと仮初の笑顔を作って、クラスメイトと良好な関係を築いてきた。

味方は多いに越したことはない。
いざという時に助けてくれるから。

味方を増やす為の努力を、当時の私は惜しまなかった。

テストでは常に学年トップで、
スポーツでも男子を上回るスコアを残して、
さらには小学校の生徒会長なんかも務めたりしていた。

すると、自然と私の周囲には人が寄ってくる。
次第に先生たちからも認められ、信頼も得られるようになった。


「さすがだなあ、辻本は。」

「辻本さんは本当に、頼りになるなあ。」

「君のような優秀な生徒は初めて見たよ。」


私、そんなに出来た人間じゃないけどね。

でも耳障りの良い賞賛の声は、私にとってすごく気持ちの良いものだった。

この小学校で私を否定する人間は誰もいない。
しかし、と呼べる人もまた、誰一人としていなかった。


---------------------------------------


そんな中、私はサッカーというスポーツに出会う。

テレビでやっていたサッカー中継を何気なく見ていたのがきっかけだった。
最初は何気なく見ていたはずだったのに、試合が進むに連れ、いつの間にか夢中になっていた。

「……すごい……!」

私の目は、とある一人の選手に釘付けになっていた。

背番号10番を背負ったその選手は圧倒的なテクニックで、自分より一回り大きい相手選手を翻弄し続けていた。
そして右足を振り抜くと、鮮やかにゴールを決めてしまうのであった。

「片桐……武人って言うんだ……。」

気づけば、私はすっかりその選手の虜になっていた。

「私も、あんな風にできるかな?」

そう思ってからは早かった。

家の軒下に放置されていたゴムボールを引っ張り出し、その選手の真似事をしてみせる。

だけど当然テレビで見た選手のように上手くできるはずもなく、明後日の方向にボールを蹴ってしまったり、足を滑らせ転んだりしていた。

思い通りにいかない私を見兼ねて、母親が私に声をかけてきた。

「美希、私の弟が河川敷でサッカースクールをやっているんだけど、興味があるんだったら行ってみる?」

当時の私にとって、それは願ってもない提案だった。私は二つ返事で「行ってみたい!」と口にしていた。

そうして私は、母親に連れられ三保野FCへと入団するのであった。


---------------------------------------


「辻本 美希です!学年は小学4年生です!よろしくお願いします!」

三保野FCの入団初日。
軽めの自己紹介を終えた後、近くにいた女子児童に声をかけられた。

「よろしくね!美希ちゃん!」

屈託の無い笑顔を向けるその少女に対して、私も負けじとお得意の仮初の笑顔を作った。

「よろしくお願いします。えっと……あなたは?」

「私は鞍月 光華って言うの!同い年の女の子が入団してくれて嬉しいな!」

「同い年?」

「うん?そうだよ。小学4年生、10歳でしょ?」

光華と最初に出会った時は、自分と同学年だとは到底思えなかった。
私よりも一回り背が低く、幼さの残るあどけない表情から、せいぜい小学校の低学年ぐらいだと思っていた。

「そ…そう。同い年なんですね。」

「あ。美希ちゃん、今私のこと年下だと思ったでしょ?」

「えっ…いや、そんなこと……ないですよ?」

光華は昔から鋭かった。

「フフッ、いーよ別に。言われ慣れてるから!」

「す…すみません……。」

「その代わりそれ、やめてね。」

「それ?」

「敬語よ敬語!なんかかたっ苦しいから敬語はなしでよろしくね!」

「あ……はい、わかりまし……じゃなくて、わかったよ、光華ちゃん。」

「うん!それでヨシ!」

光華は明るくニコッと笑う。
私には出来ない、裏表の無い笑顔だ。

私はというと、笑顔の裏でまた打算的に物事を考えていた。

このクラブにいる間はしばらくはこの少女について行こう。そうすれば仲間はずれになることは無さそうだ。
とりあえず、そこから周囲の人たちと仲良くなっていけば良いか。

最初は、そういう風に自分の立ち位置ばかりを気にしていた。


それが私と、初めてのとの出会いだった。











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