しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

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NNTC合宿編

第七十三話 幼き日の出会い

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「ヨウっ!こっちにボールちょうだい!」

「光華ちゃん!」 

藤宮 要ふじみや かなめは鋭いロングパスを光華に送る。

そのパスはディフェンスラインを抜け出した光華の足元にピタリと収まった。

「ナイスパーーース!」

ゴールキーパーとの一対一。

オフサイドは、ない。

光華よりも一回り大きい体を投げ出し、死に物狂いでシュートコースを塞ごうとする相手のゴールキーパー。

しかし、光華は至って冷静だった。

迫り来るキーパーを軽やかにかわし、右足で無人のゴールにボールを流し込んだ。

ピッピーーーーーーッ!

ゴールを告げる笛の音が鳴り響く。

ゴールを決めた光華の元には仲間たちが駆け寄ってくる。

「ナイッシュー!光華ちゃん!」

藤宮は光華とハイタッチを交わした。

「ヨウが最高のパスを通してくれたおかげだよ!ありがとっ!ヨウ!」

光華は藤宮をギュッと力強く抱きしめる。

「は…恥ずかしいよ光華ちゃん……!」

藤宮は顔を真っ赤にしながらはにかむ。



藤宮 要が入団してから一年。

味方に突き飛ばされ泣きじゃくっていた少年は、今やチームには欠かせない存在となっていた。

藤宮は持ち前のセンスでメキメキと頭角を現し、ついにレギュラーの座を掴み取ったのであった。


---------------------------------------


「ついに悲願の全国大会だね、光華ちゃん!」

試合後の帰り道。

藤宮は嬉しそうに光華に話しかける。

先ほどまで行っていた試合は全国大会出場をかけた、県大会の決勝戦だった。

その試合に快勝した光華たちの所属するサッカークラブ「三保野みほのFC」は、クラブ史上初の全国大会の切符を掴みとったのであった。

「うん、今から楽しみで仕方ないよ!」

光華もまた嬉しそうにニカッと笑う。

「全国にはどんな強敵がいるんだろうな?早く戦ってみたいよ。」

光華の姉、摩里香も嬉しさを隠せない様子だった。

「まったく、相変わらずのサッカー馬鹿姉妹ね。」

その隣では、辻本 美希がやれやれと呆れながら毒を吐く。

「でも、美希ちゃんも嬉しそうだよ。」

後ろから遠慮がちにつぶやいたのは、九条 綾音だ。

「結局、みんな楽しみにしてるってことだよね!」

「そうだね!フフッ…アハハハハハッ!!」

光華のその言葉で、その場にいる全員が吹き出した。

こんなにもサッカーが好きで、強い絆で結ばれたこのチームなら、全国大会でもきっと優勝することができる。

藤宮は笑いながらも、そう確信していた。


---------------------------------------


ザシュッ!


自陣のゴールネットにボールが突き刺さる。

この音を、今日何度聞いただろうか?

力強いゴールを決めた相手チームの選手は、決めて当たり前だと言わんばかりに、一切喜びを露わにすることなく自陣へと帰っていく。


全国大会の第一回戦。


得点板には、新たなスコアが刻まれた。


三保野FC  0-8  町田リユニオンFC

10  片桐 修人
17  片桐 修人
33  神楽坂 春樹
52  片桐 修人
64  片桐 修人
66  周防 義輝
75  神楽坂 春樹
84  片桐 修人


「はぁっ…はぁっ……!」


圧倒的、すぎる。

藤宮は相手チーム、町田リユニオンFCとの実力差に絶望していた。

特に5得点3アシストという全得点に絡む片桐 修人という男は、手がつけられなかった。


ピッピッ、ピーーーーーーー!


そして、無情にも鳴り響く試合終了を告げる笛。

三保野FCのチームメイトは、全国大会のレベルの高さを目の当たりにし、一様にうなだれていた。

ただ一人を除いては。


鞍月 光華は相手チームのエース、片桐 修人の元へ歩み寄ると右手をスッと差し出した。

「完敗だわ。あなた、すごいサッカー上手いのね!」

光華は爽やかな笑顔を修人へと向ける。

「……どうも。」

修人は握手に応えながらも、そっけなく返事をする。

「どうして、そんなに周りが見えてるの?どうして、あんなゴールを決められるの?とにかくすごくて、私びっくりしちゃった!」

目をキラキラと輝かせ、憧れの眼差しを向ける光華。

しかし修人は首を横に振り、無表情で言葉を返す。

「俺は全然すごくなんてないよ。まだまだ全然、足りない。今日の試合も反省点がたくさんあったし。もっと、もっと上手くなって皆の期待に応えないとダメなんだよ。」

そう答えた修人の顔は、大勝したにも関わらずどこか寂しそうだった。

それを見た光華は不満そうに目を細め、修人の肩をバシッと叩く。

「いたっ…何すんだよ。」

「私にとっては、すごかったの!」

「ああ、そう。」

「とにかく!私はもっともーーーっと練習して、君みたいなすごい選手になってやるんだから!そして次はぜっっったいに負けないんだから!覚悟しときなさいよ!片桐 修人!」

言うだけ言って、怒りながら帰っていく光華を見て、修人は呆気に取られていた。

「一体何だったんだあの子……?でも……楽しそうにサッカーしてたな。」

自陣に戻った光華は、泣いているチームメイト一人一人を励ましていた。

自分だって相当悔しいだろうに。
他のチームメイトを一生懸命励ますなんて。

「変なヤツ……。」

勝つことは、当たり前。
それでいて高いレベルを示すことが自分の存在証明だと認識していた修人は、久しく忘れていた感情を思い出していた。

「俺も、あの子みたいに楽しくサッカーしたかったな……。」

10歳の片桐 修人は、一生懸命チームメイトを励ます光華を見て、寂しそうに一人その場を後にするのであった。
















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