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NNTC合宿編
第七十ニ話 光華とヨウ
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とある日の夕暮れの河川敷。
「ヘイ、ヘイ!こっちにボールちょうだい!」
「ナイスパス!光華!」
少年少女たちが一生懸命サッカーボールを追っかけていた。
ピッ、ピーーーーーーー!
そして、試合終了を告げる笛が鳴り響く。
試合に勝ったチームが全力で喜びを露わにする一方、試合に負けてしまったチームは一触即発の険悪なムードに包まれていた。
そして、事は起きた。
ドン。
負けたチームのゴールキーパーが、チームメイトである少年を両手で突き飛ばした。
「痛っ!」
突き飛ばされた少年はチームメイトの誰よりも小柄であった為、たまらずその場で尻餅をついてしまう。
そして、畳み掛けるようにゴールキーパーは少年に向かって悪態をつくのであった。
「お前さあ、まともにボールも蹴れねーのかよ!お前が下手すぎるせいで、負けちゃったじゃないか!」
周りにいたチームメイトもゴールキーパーに同調するようにうんうんと頷く。
「ご……ごめんなさい……。」
チームメイト全員から非難を浴びた少年は涙目になりながら、か細い声で謝ることしか出来なかった。
『僕なんかが、こんな所に来るんじゃなかった。』
その少年は、河川敷に来たことを激しく後悔していた。
---------------------------------------
少年は幼い頃から身体が弱く、人見知りな性格も相まって、あまり外で遊ぶことはなく、家の中に引きこもっていた。
それを見かねた父親は、少年にサッカーボールを手渡した。
「なんで、サッカーボールなの?」
「お父さん、昔サッカーやっていたんだよ。お前にもサッカーの楽しさ教えてやろうと思ってな。」
「最新作のゲームが欲しかったのに…。」
「ハッハッハ!まあそう言うな。もしサッカーがつまらなかったら、代わりにゲーム買ってやるよ。」
「……約束だよ?」
そうして、庭に小さなサッカーゴールを作り、父親によるサッカー教室が始まった。
初めはとっとと飽きた態度を示し、ゲームを買ってもらおうと思っていた少年であったが、ボールを蹴っていくうちに少しずつ気持ちが変化していった。
「なんか……サッカー楽しいかも!」
それを聞いた父親は嬉しそうに笑う。
そして、少年にあるひとつの提案をした。
「よし!それじゃあ今度は、他の子供たちと一緒にやってみようか。」
「うん!みんなと一緒にやってみたい!」
そうして少年は、希望に満ちた目で河川敷を拠点とするサッカーのジュニアスクールの門を叩いたのであったーー
---------------------------------------
しかし、その少年の希望は早々に打ち砕かれた。
初めてみんなと一緒にやったサッカーは、少年にとって「最悪」そのものであった。
パスをもらっても、まともに受けられずボールを外に出してしまい、やっと取れたかと思いきや、簡単にボールを奪われてしまう。
終いには、味方からパスさえももらえなくなり、フィールドの隅っこで邪魔にならないよう縮こまっていることしか出来なかった。
負けて文句を言われるのも無理はない。
今までまともに運動したこともなかったのに、いったい何を勘違いしていたのだろう?
少しでも思い上がっていた自分を恥じた。
そしてついに少年の目からは大粒の涙がこぼれる。
「ほんとうに……ごめんなさい……。もう、もうここには来ないので……許してください……!」
惨めな気持ちになりながら、少年は深々と頭を下げようとしたその時ーー
パシーーーン!
一人の少女が、ゴールキーパーの後頭部を思い切り引っ叩いた。
「痛えっ!!何しやがる光華!」
「だっさいことしてんじゃないわよ!アンタたち!!」
その少女は、よってたかって非難する男子たちに食ってかかる。
「こいつが下手過ぎんだよ。まともにボールを運ぶこともできやしねー。」
「誰だって初めはそうでしょ!それをカバーしてあげるのがチームなんじゃないの!?」
ギャンギャンと畳みかけるように吠える少女ーー
もとい幼少期の鞍月 光華は、一回り大きい男子たち相手にも怯むことはなかった。
「なんだよ全く……そんなに怒ることかよ?けっ、くだらねー。帰ろ帰ろーっと。」
光華の眼光から逃げるように、そそくさとその場を後にする男子たち。
そして、光華は泣きじゃくる少年に対して、優しく手を差し伸べた。
「大丈夫?怪我してない?」
「う…うん、大丈夫。助けてくれて、ありがとう……」
少年は光華の手を取り、立ち上がる。
「あいつら馬鹿だから。気にしなくていいよ。」
「う……うん。でも、サッカーはもう、今日で終わりにするよ。」
「どうして?」
「これ以上、チ…チームに迷惑かけたくないから……」
少年は涙をぬぐいながら、寂しそうに笑った。
しかし、それが光華の心に火をつけた。
「じゃあさ!サッカー上手くなって、アイツらを見返してやろーよ!」
「え、ええ!?君、話聞いてた?だから僕は今日でサッカーをやめるんだってば!」
「せっかく入団したんだもん!今日でやめちゃうのは、もったいないよ!私たちがサッカーの楽しさもいーっぱい教えてあげるから!ほら!こっちこっち!」
「ちょ…ちょっとーーーーー!!」
この少女のどこにそんな力があるのか。少年はなすすべなく、光華に手をひっぱられてしまう。
強引だなと思いつつも、不思議と嫌な気はしなかった。
もう少しだけ、サッカー続けてもいいかもな。
光華に手を引っ張られる少年、もとい藤宮 要は、そう思った。
「ヘイ、ヘイ!こっちにボールちょうだい!」
「ナイスパス!光華!」
少年少女たちが一生懸命サッカーボールを追っかけていた。
ピッ、ピーーーーーーー!
そして、試合終了を告げる笛が鳴り響く。
試合に勝ったチームが全力で喜びを露わにする一方、試合に負けてしまったチームは一触即発の険悪なムードに包まれていた。
そして、事は起きた。
ドン。
負けたチームのゴールキーパーが、チームメイトである少年を両手で突き飛ばした。
「痛っ!」
突き飛ばされた少年はチームメイトの誰よりも小柄であった為、たまらずその場で尻餅をついてしまう。
そして、畳み掛けるようにゴールキーパーは少年に向かって悪態をつくのであった。
「お前さあ、まともにボールも蹴れねーのかよ!お前が下手すぎるせいで、負けちゃったじゃないか!」
周りにいたチームメイトもゴールキーパーに同調するようにうんうんと頷く。
「ご……ごめんなさい……。」
チームメイト全員から非難を浴びた少年は涙目になりながら、か細い声で謝ることしか出来なかった。
『僕なんかが、こんな所に来るんじゃなかった。』
その少年は、河川敷に来たことを激しく後悔していた。
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少年は幼い頃から身体が弱く、人見知りな性格も相まって、あまり外で遊ぶことはなく、家の中に引きこもっていた。
それを見かねた父親は、少年にサッカーボールを手渡した。
「なんで、サッカーボールなの?」
「お父さん、昔サッカーやっていたんだよ。お前にもサッカーの楽しさ教えてやろうと思ってな。」
「最新作のゲームが欲しかったのに…。」
「ハッハッハ!まあそう言うな。もしサッカーがつまらなかったら、代わりにゲーム買ってやるよ。」
「……約束だよ?」
そうして、庭に小さなサッカーゴールを作り、父親によるサッカー教室が始まった。
初めはとっとと飽きた態度を示し、ゲームを買ってもらおうと思っていた少年であったが、ボールを蹴っていくうちに少しずつ気持ちが変化していった。
「なんか……サッカー楽しいかも!」
それを聞いた父親は嬉しそうに笑う。
そして、少年にあるひとつの提案をした。
「よし!それじゃあ今度は、他の子供たちと一緒にやってみようか。」
「うん!みんなと一緒にやってみたい!」
そうして少年は、希望に満ちた目で河川敷を拠点とするサッカーのジュニアスクールの門を叩いたのであったーー
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しかし、その少年の希望は早々に打ち砕かれた。
初めてみんなと一緒にやったサッカーは、少年にとって「最悪」そのものであった。
パスをもらっても、まともに受けられずボールを外に出してしまい、やっと取れたかと思いきや、簡単にボールを奪われてしまう。
終いには、味方からパスさえももらえなくなり、フィールドの隅っこで邪魔にならないよう縮こまっていることしか出来なかった。
負けて文句を言われるのも無理はない。
今までまともに運動したこともなかったのに、いったい何を勘違いしていたのだろう?
少しでも思い上がっていた自分を恥じた。
そしてついに少年の目からは大粒の涙がこぼれる。
「ほんとうに……ごめんなさい……。もう、もうここには来ないので……許してください……!」
惨めな気持ちになりながら、少年は深々と頭を下げようとしたその時ーー
パシーーーン!
一人の少女が、ゴールキーパーの後頭部を思い切り引っ叩いた。
「痛えっ!!何しやがる光華!」
「だっさいことしてんじゃないわよ!アンタたち!!」
その少女は、よってたかって非難する男子たちに食ってかかる。
「こいつが下手過ぎんだよ。まともにボールを運ぶこともできやしねー。」
「誰だって初めはそうでしょ!それをカバーしてあげるのがチームなんじゃないの!?」
ギャンギャンと畳みかけるように吠える少女ーー
もとい幼少期の鞍月 光華は、一回り大きい男子たち相手にも怯むことはなかった。
「なんだよ全く……そんなに怒ることかよ?けっ、くだらねー。帰ろ帰ろーっと。」
光華の眼光から逃げるように、そそくさとその場を後にする男子たち。
そして、光華は泣きじゃくる少年に対して、優しく手を差し伸べた。
「大丈夫?怪我してない?」
「う…うん、大丈夫。助けてくれて、ありがとう……」
少年は光華の手を取り、立ち上がる。
「あいつら馬鹿だから。気にしなくていいよ。」
「う……うん。でも、サッカーはもう、今日で終わりにするよ。」
「どうして?」
「これ以上、チ…チームに迷惑かけたくないから……」
少年は涙をぬぐいながら、寂しそうに笑った。
しかし、それが光華の心に火をつけた。
「じゃあさ!サッカー上手くなって、アイツらを見返してやろーよ!」
「え、ええ!?君、話聞いてた?だから僕は今日でサッカーをやめるんだってば!」
「せっかく入団したんだもん!今日でやめちゃうのは、もったいないよ!私たちがサッカーの楽しさもいーっぱい教えてあげるから!ほら!こっちこっち!」
「ちょ…ちょっとーーーーー!!」
この少女のどこにそんな力があるのか。少年はなすすべなく、光華に手をひっぱられてしまう。
強引だなと思いつつも、不思議と嫌な気はしなかった。
もう少しだけ、サッカー続けてもいいかもな。
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