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NNTC合宿編

第六十七話 一日目

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「ぜぇ……ぜぇ……。」

「はぁ……はぁ……。」

NINEナショナルトレーニングセンターのランニングルーム。

その部屋には、最新鋭のランニングマシーンが横一列にズラリと並んでいた。

そして、そのマシーンの上では桜ヶ峰の選手全員が黙々と走り続けているのであった。

「宇田川……それと、小宮山が疲れてきているな。楓、今の走行距離はどれくらいだ?」

「9.2kmよ。監督の言う通り、宇田川さんと小宮山さんの呼吸が乱れ始めてるわね。」

監督の修人と部活のマネージャーである楓は、隣にあるガラス張りの部屋からその様子を眺めていた。

「それにしても、わざわざ最新鋭のトレーニングセンターまでやって来て、いきなり耐久マラソンだなんて。アンタ一体何考えてんの?他にもやること色々あるでしょ?」

楓はあまりにも地味なトレーニング内容への不満を口にする。
しかし修人は、チームにとって必要なことだと前置きし、その理由を説明し始める。

「楓はさ、一試合あたり平均で選手たちがどれぐらいの距離を走っているか知ってるか?」

「え、うーん……7、8kmぐらいかな?」

「いいや、平均で10~12kmだと言われてる。もちろんそれ以上に走ってる選手もいるけどな。」

「ええ!?そんなに走ってたっけ?」

「ああ。しかも、試合中はただ走る訳じゃない。急激にスピードをあげたり、跳んだりしないといけないからより筋肉に負担がかかるのさ。」

「そっか……そうだよね。だからこうして鍛えてるって訳ね。」

「確かに鍛えないといけない部分ではあるが、今回の目的は鍛える為じゃない。目的は選手たちのを正確に把握することにある。ここにある最新鋭のランニングマシーンなら、そのデータを得ることができるって訳だ。」

「あー……なるほど。」

納得した楓は、横にあるモニターをチラリと見る。

そこには、選手一人一人の心拍数や筋肉の疲労度、呼吸の乱れ具合など様々なデータがリアルタイムで表示されていた。

「楓も知っての通り、ウチには交代できる選手がいない。それが最大の欠点だ。
だからこそここにある機器を使って、選手たち一人一人がどれだけ走れるのかをデータとして正確に知っておく必要があるんだよ。」

「もし、一試合平均の距離を走れない人がいたらどうするの?」

「そうだな……。無理をさせる訳にいかないし、部員を増やすためにまた学校中を探し回るしかないな。その時は楓も手伝ってくれないか?」

困り顔で懇願する修人を見て、楓は呆れ顔をする。

「しょーがないわねぇ!私も手伝ってやるわよ。」

「すまないな、恩に着るよ楓。」

そう言って、修人は申し訳なさそうに笑うのであった。


---------------------------------------


「うん、こんな所だろう。お疲れ、みんな!走るのやめていいぞ!」

走行距離が12kmを過ぎた所で、修人は走り続ける選手たちに終了の合図を送った。

「ひい……ひい……もうダメぇ……。」

「一生終わらないかと思ったよ……。」

いつ終わるかを知らされないまま、今まで延々と走り続けていた桜ヶ峰一同は、終了の合図と同時に、疲労からその場に崩れ落ちてしまう。

しかし、結果として脱落者はおらず見事全員走り切ってみせたのであった。

「すごいよみんな!12kmを走り切っちゃうなんて!」

楓は一人一人にフェイスタオルとスポーツドリンクを渡しながら、激励の言葉を送る。

「うんうん、ホントに大したもんだよー。みんな、しっかり鍛えられてるねぇ。」

楓の背後から、不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「え…?って、うわぁっ!あなたさっきの……ミツルギさん……だっけ?なんでこんなとこにいるのよぉっ!?」

楓の後ろには、爽やかな笑顔の三剣斗真が立っていた。

「んー?だって、修人が僕のこと全然呼んでくれないんだもん。痺れを切らして、こっちから来ちゃったよー。」

「いやいや来ちゃったよーって、斗真さんと別れたのつい三時間前ぐらいじゃないっすか……。」

修人は呆れたような目で三剣を見る。

「そっちの方のトレーニングは大丈夫なんですか?」

「うん、個人トレーニングの方はバッチリ終わったよー!今はクールダウンがてら、修人たちの様子を見に来たんだー。」

屈託の無い笑顔の三剣を見て、これ以上ツッこむのはやめようと悟った修人は、大きくため息を吐いた。

「はぁ…まったくこの人は。斗真さん、ただ様子を見に来ただけじゃないですよね?」

修人の推察に、三剣は嬉しそうにニヤリと笑う。

「さっすが修人ー!話が早くて助かるよー。」

「え?監督…?一体どーゆうことですか!?」

三剣のファンである辻本は、少し興奮気味に修人に聞く。

「あー…なんていうかさ、この人は昔っから筋金入りの世話好きでな……。すぐに誰かの助けになろうとするんだよ。」

「そう!だから、僕に何か出来ること無いかなーって思ってつい来ちゃったんだー。」

「えっ!それじゃあ、この人に先生になってもらおうぜ!プロサッカー選手なんだろ?」

矢切は嬉しそうにしながら修人に尋ねる。

「ほらっ!あの子もそう言ってることだし、ドーンと僕に任せてみないか修人?」

「うーーーむ……」

その場にいる全員が修人を見つめていた。
その空気に耐えられなくなった修人はついに観念して、申し出を承諾するのであった。

「わかったよ。それじゃあ今日の予定を変更して、斗真さんにお願いするよ。」

「わーーーい!やったーーー!」

三剣を含めた全員がその場で小躍りしながら喜びを露わにする。
どうやら、部員たちは全員プロサッカー選手に教えてもらえることを望んでいたようだ。

「よしっ!それじゃあみんな、早速外のグラウンドにーー」

三剣が意気揚々とグラウンドへ向かおうとしたその時、

バターーーーン!

ランニングルームの扉が勢いよく開き、
一人の大柄な男性が姿を現す。

「あ……はは、これはちょっとやばいかもー……。」

その男性を見た三剣は、さっきまでの勢いはどこへやら、恐怖の余り目が泳いでいた。

そして修人は驚きのあまり、目を見開いていた。


「な、なんでアンタがここに……!?」


そこには、自分の父親である片桐武人がものすごい剣幕で仁王立ちしているのであった。






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