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第六十五話 合宿の場所は
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「監督っ!おーい、片桐監督!」
マネージャーの楓は、ボーっとしている修人の顔の前で手をヒラヒラと振ってみせる。
数秒遅れでそれに気づいた修人は、ようやく我に返るのであった。
「あ…ああすまん。で、一体何の用だ?」
「今日の練習メニューが一通り終わったから、次は何するのってさっきから聞いてるじゃない!」
「そ、そうか、そりゃすまん。じゃあ今日は早めに切り上げて、みんなを部室に集めてくれ。」
「まったく、しっかりしてよね!」
「はは…。ホントにすまん。」
修人は申し訳なさそうに、頭をかいた。
ディフェンス陣の修行が終わってから三日。
修人は花恋のキスが忘れられず、今もなお上の空の状態が続いていた。
修行はその後、気絶した洋一郎の代わりに副キャプテンの麻上が引き継ぐ形で進んだが、修人はその後の内容をあまり覚えてはいなかった。
それでもディフェンダーの面々は修行を通して、何かしらコツを掴んだようで、以前にも増して生き生きとしていた。
そんなこんなで、各ポジションの修行が終わったことで、個人のレベルは大幅に上昇したのであった。
そして、その集大成として行われるのがーー
「合 宿 よ!!」
鞍月は部室にいる皆の注目を集める為、大きな声を張り上げた。
「おぉーーっ!なんか部活っぽいッスね!」
歓喜の声をあげる桜ヶ峰の選手たち。
一方、修人は呑気に麦茶を飲みながらある疑問を鞍月に投げかける。
「でも合宿場所はどうするんだ?この学校に泊まり込みでやるのか?」
「それについては、綾音!説明よろしくね!」
「は…はいっ!」
鞍月に背中を押される形で九条が前に出る。
「コホン…えー、合宿場所についてなんですが、『NINEナショナルトレーニングセンター』で行います!」
「ブーーーーッ!!」
「うべえっ!何すんだ片桐ぃ!」
それを聞いた修人は驚きのあまり、口に含んだ麦茶を吹き出してしまう。
運悪く修人の前に座っていた矢切は、それをモロにかぶってしまうのであった。
「ちょ……ちょっと待て!そこってプロアスリートが使う、トレーニング施設じゃねーか!」
「そ…そんなにすごいとこなのか!?その…ナインなんちゃらセンターってのは。」
矢切はタオルで顔を拭きながら修人に尋ねる。
「すごいなんてもんじゃねえよ!最先端のトレーニングマシンが完備されてて、アスリートたちがこぞって行きたがる超人気トレーニング施設だぞ!」
「NINEってあれだよね。有名スポーツブランドのNINEのことだよね。トレーニング施設なんて持ってたんだ?」
小宮山の問いには、九条が答える。
「はい。スポーツブランドメーカーとして、選手たちを支えたいという想いのもとに生まれたのがこのナショナルトレーニングセンターなんです。サッカーに関する最新鋭トレーニング器具も、もちろん取り揃えておりますよ。」
「でも、なんだってそんな良い施設を抑えることができたんだ?一高校の部活が使えるような所じゃないだろ?」
呉の真っ当な疑問に対して、九条は少し考えた後、意を決したように力強く言い放つ。
「じ……実は私!NINEグループ創業者の一族なんです!お爺ちゃんに頼み込んで今回使わせてもらうことになりました!」
九条の告白に、鞍月、辻本以外の全員が口をポカンと開ける。
そして、言葉の意味を理解した瞬間、
口を揃えて驚きの叫び声をあげた。
「「な、なんだってーーーーー!!!!」」
「綾音ちゃん、NINEグループの御令嬢だったんスかぁ!?」
「ウチ、サッカー用品は全部NINEで揃えてるんだよ!まさか身近に作ってる人がいたなんて夢にも思わなかったよ!」
「あ……えーと、京子ちゃん?作ってるのは別に私ではないのだけれど……。」
「なんでそんな巨大グループの娘さんが、こんなフツーの高校にいるんだ?」
「あ、それはえーと……」
九条への質問が止まらない中、事情を知る鞍月が間に割って入る。
「はい、ストップ!ストーーップ!!質問は一旦ここまで!話が進まなくなっちゃうでしょ!それにドサクサに紛れてフツーの高校って言うんじゃないわよ泉美!」
「う……すんません。」
鞍月の一喝でようやく静かになったのを見た九条は話を続ける。
「合宿は来週から一週間、夏休みを使って行います。そして、その最終日には練習試合も予定しています。」
「もうスケジュールも決まってるのかよ!てか、監督の俺を差し置いて勝手に話を進めるなよな。」
不貞腐れる修人を見て、九条はしてやったりと言わんばかりに、ニコニコと笑う。
「サプライズってやつです。一度やってみたかったんですよ。」
「そうかいそうかい。で、その最終日の練習試合の相手ってのは誰なんだ?
その施設を使うって考えるなら並のチームじゃないんだろ?」
「ええ、片桐監督のおっしゃる通り。練習試合の相手は清水イングレスの下部組織、清水イングレスユースです。」
そのチーム名を聞いた瞬間、呉は突然ガタッと立ち上がる。
「清水イングレスユースだって?」
「はい。同時期にイングレスユースもナショナルトレーニングセンターで合宿を行うそうで、向こうの監督さんからも了承をいただいております。」
「堀内さんか…。あの人、俺が監督としてちゃんとやれてるか確かめる気だな……。呉にとっちゃ因縁の相手だろうけど、大丈夫か?やれるか?」
修人は心配そうに尋ねたが、呉は鼻息をフンフンと鳴らし、俄然やる気に満ち溢れていた。
「清水イングレスユースねぇ~。上等じゃねぇか!ギッタンギッタンに(サッカーで)叩き潰してやるぜ!首を洗って待ってろよ愛佳!」
こうして、清水イングレスユースとの戦いの火蓋は切って落とされた。
次回、様々な想いが交錯する、合宿編スタート。
マネージャーの楓は、ボーっとしている修人の顔の前で手をヒラヒラと振ってみせる。
数秒遅れでそれに気づいた修人は、ようやく我に返るのであった。
「あ…ああすまん。で、一体何の用だ?」
「今日の練習メニューが一通り終わったから、次は何するのってさっきから聞いてるじゃない!」
「そ、そうか、そりゃすまん。じゃあ今日は早めに切り上げて、みんなを部室に集めてくれ。」
「まったく、しっかりしてよね!」
「はは…。ホントにすまん。」
修人は申し訳なさそうに、頭をかいた。
ディフェンス陣の修行が終わってから三日。
修人は花恋のキスが忘れられず、今もなお上の空の状態が続いていた。
修行はその後、気絶した洋一郎の代わりに副キャプテンの麻上が引き継ぐ形で進んだが、修人はその後の内容をあまり覚えてはいなかった。
それでもディフェンダーの面々は修行を通して、何かしらコツを掴んだようで、以前にも増して生き生きとしていた。
そんなこんなで、各ポジションの修行が終わったことで、個人のレベルは大幅に上昇したのであった。
そして、その集大成として行われるのがーー
「合 宿 よ!!」
鞍月は部室にいる皆の注目を集める為、大きな声を張り上げた。
「おぉーーっ!なんか部活っぽいッスね!」
歓喜の声をあげる桜ヶ峰の選手たち。
一方、修人は呑気に麦茶を飲みながらある疑問を鞍月に投げかける。
「でも合宿場所はどうするんだ?この学校に泊まり込みでやるのか?」
「それについては、綾音!説明よろしくね!」
「は…はいっ!」
鞍月に背中を押される形で九条が前に出る。
「コホン…えー、合宿場所についてなんですが、『NINEナショナルトレーニングセンター』で行います!」
「ブーーーーッ!!」
「うべえっ!何すんだ片桐ぃ!」
それを聞いた修人は驚きのあまり、口に含んだ麦茶を吹き出してしまう。
運悪く修人の前に座っていた矢切は、それをモロにかぶってしまうのであった。
「ちょ……ちょっと待て!そこってプロアスリートが使う、トレーニング施設じゃねーか!」
「そ…そんなにすごいとこなのか!?その…ナインなんちゃらセンターってのは。」
矢切はタオルで顔を拭きながら修人に尋ねる。
「すごいなんてもんじゃねえよ!最先端のトレーニングマシンが完備されてて、アスリートたちがこぞって行きたがる超人気トレーニング施設だぞ!」
「NINEってあれだよね。有名スポーツブランドのNINEのことだよね。トレーニング施設なんて持ってたんだ?」
小宮山の問いには、九条が答える。
「はい。スポーツブランドメーカーとして、選手たちを支えたいという想いのもとに生まれたのがこのナショナルトレーニングセンターなんです。サッカーに関する最新鋭トレーニング器具も、もちろん取り揃えておりますよ。」
「でも、なんだってそんな良い施設を抑えることができたんだ?一高校の部活が使えるような所じゃないだろ?」
呉の真っ当な疑問に対して、九条は少し考えた後、意を決したように力強く言い放つ。
「じ……実は私!NINEグループ創業者の一族なんです!お爺ちゃんに頼み込んで今回使わせてもらうことになりました!」
九条の告白に、鞍月、辻本以外の全員が口をポカンと開ける。
そして、言葉の意味を理解した瞬間、
口を揃えて驚きの叫び声をあげた。
「「な、なんだってーーーーー!!!!」」
「綾音ちゃん、NINEグループの御令嬢だったんスかぁ!?」
「ウチ、サッカー用品は全部NINEで揃えてるんだよ!まさか身近に作ってる人がいたなんて夢にも思わなかったよ!」
「あ……えーと、京子ちゃん?作ってるのは別に私ではないのだけれど……。」
「なんでそんな巨大グループの娘さんが、こんなフツーの高校にいるんだ?」
「あ、それはえーと……」
九条への質問が止まらない中、事情を知る鞍月が間に割って入る。
「はい、ストップ!ストーーップ!!質問は一旦ここまで!話が進まなくなっちゃうでしょ!それにドサクサに紛れてフツーの高校って言うんじゃないわよ泉美!」
「う……すんません。」
鞍月の一喝でようやく静かになったのを見た九条は話を続ける。
「合宿は来週から一週間、夏休みを使って行います。そして、その最終日には練習試合も予定しています。」
「もうスケジュールも決まってるのかよ!てか、監督の俺を差し置いて勝手に話を進めるなよな。」
不貞腐れる修人を見て、九条はしてやったりと言わんばかりに、ニコニコと笑う。
「サプライズってやつです。一度やってみたかったんですよ。」
「そうかいそうかい。で、その最終日の練習試合の相手ってのは誰なんだ?
その施設を使うって考えるなら並のチームじゃないんだろ?」
「ええ、片桐監督のおっしゃる通り。練習試合の相手は清水イングレスの下部組織、清水イングレスユースです。」
そのチーム名を聞いた瞬間、呉は突然ガタッと立ち上がる。
「清水イングレスユースだって?」
「はい。同時期にイングレスユースもナショナルトレーニングセンターで合宿を行うそうで、向こうの監督さんからも了承をいただいております。」
「堀内さんか…。あの人、俺が監督としてちゃんとやれてるか確かめる気だな……。呉にとっちゃ因縁の相手だろうけど、大丈夫か?やれるか?」
修人は心配そうに尋ねたが、呉は鼻息をフンフンと鳴らし、俄然やる気に満ち溢れていた。
「清水イングレスユースねぇ~。上等じゃねぇか!ギッタンギッタンに(サッカーで)叩き潰してやるぜ!首を洗って待ってろよ愛佳!」
こうして、清水イングレスユースとの戦いの火蓋は切って落とされた。
次回、様々な想いが交錯する、合宿編スタート。
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