しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

文字の大きさ
上 下
65 / 101

第六十一話 新たなリーダー

しおりを挟む
「はぁ…はぁ……くっ!」

獅子浜高校のサッカーグラウンド。

満身創痍の桜ヶ峰の攻撃陣五人の前には、屈強な男性ディフェンダーが六人、ゴール前に佇んでいた。

「どしたどしたあ!もうギブアップかぁ?」

そしてゴールマウスの横にいる火野は、ボロボロの五人に対して檄を飛ばす。

「くそっ!男相手に勝ち目なんかあるわけねーだろ……!」

火野の言葉に呉は不満を漏らす。

目の前には自分たちよりも一回り以上大きいディフェンダーの壁が立ち塞がっている。
スピードで翻弄しようにも、フィジカルの差を埋めることができず、何度も何度も潰されてしまっていた。

火野の与えた試練は、このディフェンダー陣の壁を破ってゴールを決めること。

とてもシンプルな内容であった。
しかし、試練を始めて30分たった今もなお、決定機すら作り出せずにいるのであった。

「……一旦終了!お前ら!ちょっとこっち来い!」

見かねた火野は、疲労困憊の五人を自分の元へと呼び寄せる。

「はぁーーっ!ぜんっぜんだめだな、お前ら。攻撃の形すら作れちゃいねえ。」

深いため息を吐く火野に対して、呉は異議を唱えた。

「男相手に、しかも数的不利な状況で勝てる訳ねぇだろ!フィジカルだってスピードだって向こうが上なんだ!こんなのどうやったって……」

「無理だと、そう言うつもりか?」

呉の言葉を遮り、火野は冷たく言い放つ。
しかし、負けじと今度は辻本が反論を試みる。

「しかし、これではあまりにも力量差があり過ぎて練習になりません。せめて女子選手が相手であればもう少し攻撃の形が作れるはずなんです。」

「言い訳だなそりゃ。じゃあ聞くが、お前らは藤沢純王相手にまともに攻撃ができていたのか?」

「そ…それは……」

火野の指摘に辻本は口ごもる。

「少なくとも、俺の目から見たら攻撃陣はまともに機能していなかった。全員が全員、バラバラな動きをしてんだよ。」

火野の指摘に、ついに五人は沈黙してしまう。

「呉は個人技で突破を試みようとしたが、徹底的なマークによって潰されていた。挙げ句の果てにはボールを奪われ、チームのピンチを招いていたな?」

「……ちっ。」

「九条。お前はあの最後のヘディングで味方に落とすか、自分で打つか一瞬迷っただろ?俺に言わせれば、あれは決められたゴールだった。その一瞬の迷いがあったから、暁月に止められちまったんだよ。」

「その……通りです。」

「白鳥はPKを獲得した以外は、試合での存在感がまるで無かったな。単純に実力不足だ。」

「……返す言葉もない。」

「辻本は、ボールをキープし過ぎて攻撃を停滞させていた。自力で何とかしようとしていたんだろうが、結局活路を見いだせず消極的なパスばかり。あれじゃあ、チャンスなんて作れる訳がねぇ。」

「くっ…!悔しいけど正論だから何も言えないわね……!」

「唯一、及第点をあげれるとすれば、影野。お前だ。」

「えっ……!私……ですか?」

予想外の火野の評価に、影野はキョトンとしていた。

「影野は、ポジショニングの取り方がずば抜けて上手い。」

「そう……なのですか?」

「その自覚は無いのか?」

「自分ではよく……まだはっきりとは分かりません。ただ、なんとなくなんですけど、。一瞬の相手の隙というんでしょうか……?この場所に走り込めばチャンスになるんじゃないかっていうのが、最近ぼんやりわかるようになってきたんです。」

「……フッ!なるほどな……!」

影野の言葉に火野は嬉しそうにニヤリと笑う。そして、全員に言い聞かせる。

「攻撃については影野、お前が指示を出せ。オフェンスリーダーとして、攻撃陣をまとめあげるんだ。」

「はい、分かりまし……って、エェッ!わ…私がみ……皆さんに指示を出すんですかあ!?」

ワンテンポ遅れて驚く影野に対して、火野は自信満々の表情を浮かべているのであった。


---------------------------------------


それから、10分後。


ザシュッ!


今までの苦戦が嘘のように、影野の放ったシュートがゴールネットを揺らすのであった。

「は…入った……!やった…!やったよ!みんなーー!」

「すげぇ!あのディフェンダーたちを簡単に出し抜いた……!影野先輩!アンタすごいよ!」

嬉しそうな声をあげ、影野は他の四人と喜びを分かち合う。

一方で屈強なディフェンダー陣はゴールキーパーを含め、誰一人として反応することすら出来ず、ゴールマウスに吸い込まれるボールを呆然と見送ることしかできないでいた。

「な…なんで……?マークに付いていたのに、いつの間にかに外されていた……?」

影野に付いていたディフェンダーは、何が起きたのか理解できず、ただただ困惑するばかりであった。

そして、それをゴール横で見ていた火野は愉快そうに大声で笑う。

「はっはっは!こりゃー恐れ入った!ただポジショニングが良いだけじゃない!あいつ点の取り方を完全に理解してやがる!修人!お前とんでもない逸材を見つけたな!」

「いや……俺も予想外だった。まさかこんなに出来るとは思っていなかった。でも…これは思わぬ収穫だよ。桜ヶ峰はまだまだ強くなれる。」

影野を中心とした、新たな攻撃の形を見た修人は確かな手応えを感じていた。








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします! 6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします! 間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。 グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。 グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。 書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。 一例 チーム『スペクター』       ↓    チーム『マサムネ』 ※イラスト頂きました。夕凪様より。 http://15452.mitemin.net/i192768/

処理中です...