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第五十八話 折場の過去
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「とりあえず!お前らはそこで黙って練習を見ちょれ!くれぐれもワシに近づくんじゃあないぞ!分かったな!!」
「は…はい。わかりました…。」
女性に対して強い拒絶を示した折場は、修人と宇田川をグラウンドの端へと追いやる。
そして、フンフンと鼻息を荒くしながら練習へと戻っていってしまうのであった。
「はぁ……。なんか、怒られちゃいましたネ……。」
「ああ。まさか、あいつがまだ女性嫌いを引きずっていたとは思わなかった……。完全に誤算だったよ。」
「ん?女性嫌い?あの人は腐女子が嫌いなんじゃないんですか?」
「あのな宇田川。あいつが嫌いだって言ってるのはBL系が好きな女性じゃなくて、女性全般を指してるんだ。だからまあ、あまり気にしなくていいぞ。」
「ふじょしって……ああ!そっちの婦女子のことだったんスね!
いや良かった~。いきなり見抜かれたのかと思って、めちゃくちゃ焦りましたよ~。てか、今時女の子のことを婦女子って……。一体いつの時代の人なんスか、あの人。」
そう言いながら、宇田川は練習に励む折場を恨めしそうに睨んだ。
「昔から硬派な奴だったからな、あいつは。」
「ふーん……。てゆーか、さっきから話聞いてて思ったんですが、監督はあの人を昔から知ってるんですか?」
「ああ。寛治とは小学校の時、同じサッカークラブに所属してたんだ。ウチの近所のお寺にいるお坊さんの息子でな。昔からよく一緒に遊んでたよ。」
「へー、そうだったんですか……ってあれ?監督って確か地元は東京でしたよね?としたら、なんで折場さんもこんな県外の田舎の山奥にいるんですか?」
「あいつもお坊さんになる為に親元を離れ、ここに住み込みで勉強しているんだと。」
「立派なことですねぇ……。ワタシには到底マネできませんヨ。」
「キーパーの素質としてはピカイチで、日本代表クラスなんだがな。サッカーをやるのは高校までと決めているらしい。だから、今のうちにと思って来てはみたものの……まさか女性嫌いをまだ克服できてなかったとは。」
「その様子だと、監督はあんな風になっちゃった原因を知っているみたいっスね。一体過去に何があったんですか?」
単刀直入に聞く宇田川に対して、修人はしどろもどろになりながら答える。
「あーー……、なんだ。まあ、その、つまりだな、端的に言うと……昔、女の子にフラれて……だな。それが今でも苦手意識として寛治の心に残っているみたいなんだ。」
「えぇーー……。一体どんな振られ方されたら、ああなっちゃうんスか。」
「俺も知ってる女の子だったけど、すごいいい子だったぜ。よくサッカーの試合も見に来てくれたし。」
「ふむふむ。」
「試合後にはお菓子を振る舞ってくれたり、あとは……必勝祈願のお守りなんかも作ってくれたり、とにかく気さくな子だったな。」
「ふむふむ?」
「ああ、そうそう。その子と二人で映画を見に行ったり、遊園地に遊びにいったりしたこともあったな!」
「えっ」
「その時だけは、なんかその子の様子が妙におかしくてなあ。しおらしいというか、なんというか……。だから何かこっちも調子狂った記憶があるけど……まあ、とにかく全体的に見て良い子だったよ!」
「………は?」
「寛治とも良い感じだったから、くっついてくれれば良かったのになあ。そうしたら、あいつが女性嫌いになることも無かっただろうに。」
「歯ぁ食いしばれーーーーーーっ!!」
パシーーーーーーン!!
「ふべぇっ!?」
悔しそうな表情を浮かべる修人の顔に、宇田川のビンタがクリーンヒットした。
「いきなり何しやがる!宇田川あっ!」
修人は頬を押さえながら、宇田川を恨めしそうに睨んだ。
「全部アンタのせいじゃないですかっっっ!」
「寛治の女性嫌いが俺のせい!?一体どーゆうことだよ?」
「はいはい出ました!またですヨ!まーーーーた、監督の悪い所出ましたよ!なんなんですか本当にもう!!あんた、ハーレムでも作りたいんですかあっ!!」
「はぁ!?ハーレムって一体なんのことだよ!?詳しく説明してーー」
「うるさいぞ!そこの二人ぃ!!黙って見とけって、言ったじゃろうがあ!!」
二人が口論をしている所に、我慢が爆発した折場の怒声が飛んでくる。
そのあまりの声の大きさに、宇田川は空気がビリビリと震えるのを感じた。
そして、その折場の一声で先程までの口論は終焉を迎えるのであった。
「ひえーー……びっくりする程デカい声っスねーー。」
宇田川は目を丸くして、鼻息を荒くしている折場を見つめる。
それに気づいた折場はプイッとそっぽを向き、再びチームメイトにゲキを飛ばすのであった。
「あの声が、味方の選手たちを奮い立たせているのさ。」
気を取り直した修人は、当時を懐かしむようにボソリと呟く。
「味方を……奮い立たせる?」
「宇田川は、ゴールマウスを守ることだけがゴールキーパーの仕事だと思うか?」
修人は、宇田川に諭すように問いかける。
「そりゃあ、ゴールキーパーなんだし。それが仕事なんじゃないですか?」
そう答えた宇田川を見て、修人は意味ありげにニヤリと笑う。
「ここに修行に来たのは、ゴールキーパーの技術を学ぶためじゃない。宇田川、お前をここに連れてきたのは、ゴールキーパーの心得を学ぶ為だ。寛治の姿をよーく見ておけよ。あいつの戦う姿勢こそが、宇田川がキーパーとしてさらに成長する為に必要不可欠なものになるんだからな。」
「は…はい。わかりました…。」
女性に対して強い拒絶を示した折場は、修人と宇田川をグラウンドの端へと追いやる。
そして、フンフンと鼻息を荒くしながら練習へと戻っていってしまうのであった。
「はぁ……。なんか、怒られちゃいましたネ……。」
「ああ。まさか、あいつがまだ女性嫌いを引きずっていたとは思わなかった……。完全に誤算だったよ。」
「ん?女性嫌い?あの人は腐女子が嫌いなんじゃないんですか?」
「あのな宇田川。あいつが嫌いだって言ってるのはBL系が好きな女性じゃなくて、女性全般を指してるんだ。だからまあ、あまり気にしなくていいぞ。」
「ふじょしって……ああ!そっちの婦女子のことだったんスね!
いや良かった~。いきなり見抜かれたのかと思って、めちゃくちゃ焦りましたよ~。てか、今時女の子のことを婦女子って……。一体いつの時代の人なんスか、あの人。」
そう言いながら、宇田川は練習に励む折場を恨めしそうに睨んだ。
「昔から硬派な奴だったからな、あいつは。」
「ふーん……。てゆーか、さっきから話聞いてて思ったんですが、監督はあの人を昔から知ってるんですか?」
「ああ。寛治とは小学校の時、同じサッカークラブに所属してたんだ。ウチの近所のお寺にいるお坊さんの息子でな。昔からよく一緒に遊んでたよ。」
「へー、そうだったんですか……ってあれ?監督って確か地元は東京でしたよね?としたら、なんで折場さんもこんな県外の田舎の山奥にいるんですか?」
「あいつもお坊さんになる為に親元を離れ、ここに住み込みで勉強しているんだと。」
「立派なことですねぇ……。ワタシには到底マネできませんヨ。」
「キーパーの素質としてはピカイチで、日本代表クラスなんだがな。サッカーをやるのは高校までと決めているらしい。だから、今のうちにと思って来てはみたものの……まさか女性嫌いをまだ克服できてなかったとは。」
「その様子だと、監督はあんな風になっちゃった原因を知っているみたいっスね。一体過去に何があったんですか?」
単刀直入に聞く宇田川に対して、修人はしどろもどろになりながら答える。
「あーー……、なんだ。まあ、その、つまりだな、端的に言うと……昔、女の子にフラれて……だな。それが今でも苦手意識として寛治の心に残っているみたいなんだ。」
「えぇーー……。一体どんな振られ方されたら、ああなっちゃうんスか。」
「俺も知ってる女の子だったけど、すごいいい子だったぜ。よくサッカーの試合も見に来てくれたし。」
「ふむふむ。」
「試合後にはお菓子を振る舞ってくれたり、あとは……必勝祈願のお守りなんかも作ってくれたり、とにかく気さくな子だったな。」
「ふむふむ?」
「ああ、そうそう。その子と二人で映画を見に行ったり、遊園地に遊びにいったりしたこともあったな!」
「えっ」
「その時だけは、なんかその子の様子が妙におかしくてなあ。しおらしいというか、なんというか……。だから何かこっちも調子狂った記憶があるけど……まあ、とにかく全体的に見て良い子だったよ!」
「………は?」
「寛治とも良い感じだったから、くっついてくれれば良かったのになあ。そうしたら、あいつが女性嫌いになることも無かっただろうに。」
「歯ぁ食いしばれーーーーーーっ!!」
パシーーーーーーン!!
「ふべぇっ!?」
悔しそうな表情を浮かべる修人の顔に、宇田川のビンタがクリーンヒットした。
「いきなり何しやがる!宇田川あっ!」
修人は頬を押さえながら、宇田川を恨めしそうに睨んだ。
「全部アンタのせいじゃないですかっっっ!」
「寛治の女性嫌いが俺のせい!?一体どーゆうことだよ?」
「はいはい出ました!またですヨ!まーーーーた、監督の悪い所出ましたよ!なんなんですか本当にもう!!あんた、ハーレムでも作りたいんですかあっ!!」
「はぁ!?ハーレムって一体なんのことだよ!?詳しく説明してーー」
「うるさいぞ!そこの二人ぃ!!黙って見とけって、言ったじゃろうがあ!!」
二人が口論をしている所に、我慢が爆発した折場の怒声が飛んでくる。
そのあまりの声の大きさに、宇田川は空気がビリビリと震えるのを感じた。
そして、その折場の一声で先程までの口論は終焉を迎えるのであった。
「ひえーー……びっくりする程デカい声っスねーー。」
宇田川は目を丸くして、鼻息を荒くしている折場を見つめる。
それに気づいた折場はプイッとそっぽを向き、再びチームメイトにゲキを飛ばすのであった。
「あの声が、味方の選手たちを奮い立たせているのさ。」
気を取り直した修人は、当時を懐かしむようにボソリと呟く。
「味方を……奮い立たせる?」
「宇田川は、ゴールマウスを守ることだけがゴールキーパーの仕事だと思うか?」
修人は、宇田川に諭すように問いかける。
「そりゃあ、ゴールキーパーなんだし。それが仕事なんじゃないですか?」
そう答えた宇田川を見て、修人は意味ありげにニヤリと笑う。
「ここに修行に来たのは、ゴールキーパーの技術を学ぶためじゃない。宇田川、お前をここに連れてきたのは、ゴールキーパーの心得を学ぶ為だ。寛治の姿をよーく見ておけよ。あいつの戦う姿勢こそが、宇田川がキーパーとしてさらに成長する為に必要不可欠なものになるんだからな。」
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