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第五十七話 梁山の弁慶

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「や…やっと着いた……。」

山の中を歩き続けること、一時間。

修人と宇田川の二人は、ようやく折場おりばのいる梁山高校りょうざんこうこうに到着したのであった。

息を乱しながら両膝に手をつく宇田川に対して、修人は汗一つかいておらず、けろりとした態度で宇田川に語りかける。

「よし、俺は事務室に行って手続きしてくるから、宇田川はここで休んでいてくれ。」

「は…はぁい。てゆーか、監督はなんでそんなに元気なんスか……。」

「俺は前によくここに来ていたからな。確かに最初は大変だったけど、もう慣れたもんだよ。」

「ああ……そうですか……。」

修人はそれだけ言い残し、事務室へと向かっていく。
一人取り残された宇田川は、登山の疲れを癒す為、校門のすぐ脇にあるベンチに腰を下ろすのであった。


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待つこと5分。

手続きを済ませた修人が、宇田川の元へと帰ってくる。

「お待たせ、宇田川。入場許可が下りたから、中へ入るぞ。」

「はーいっス。」

体力がある程度回復した宇田川は、修人の後に付いていく。

校舎へと続く一本道の両脇には、立派な太い幹の木々が立ち並び、それは入って来るものに対して、ちょっとした威圧感を与えていた。

「監督ゥ……。梁山高校はなんでこんな山奥に建ってるんですかねぇ……?」

「ああ、そういや言ってなかったか。この梁山高校は、僧侶を養成する教育機関でな。煩悩が蔓延る現世うつしよから離れて、修行をする為に校舎をここに立てたんだと。」

「ええ!?じゃあ、ここの生徒さんは皆ゆくゆくはお坊さんになるっことッスかあ!?」

「まあ進路は人それぞれだろうが、大方の生徒はそうらしい。だから敷地内には修行の為のお寺があったり、滝行するための大きな滝があったりするらしいぞ。」

「うへぇ……修行かぁ。私だったら三日で逃げ出しちゃいますネ…。」

「もちろん、スマホやパソコンなどの電子機器は、連絡以外一切禁止。俗なものを徹底的に排除した厳しい学校らしいぞ。」

「前言撤回します。半日で逃げ出します。」

そんな会話をしているうちに、校庭に到着する修人と宇田川。

そこで不意に野太い怒声が二人の耳に飛んでくるのであった。

「おらああああーーーーーーっ!!!!!!何やっとんじゃあ!高橋いぃっ!!!!そんな生っちょろいシュートじゃあ、入るもんも入らんわ!!!!もっと気を引き締めんかあぁっ!!!!」

怒声を発した人物との距離はおよそ100メートル。その距離からでもはっきりと聞き取れる程の大きな声であった。

「ひ…ひえ……。何すかあの人……。めちゃ怖いっスよ。」

宇田川は怯えた目で修人の方を見る。
一方で修人は、呆れたように溜め息を吐いた。

「また今日も一段と飛ばしてんなー折場おりばのやつ。怯えなくても大丈夫だ、宇田川。練習中はああだけど普段は優しいやつだよ。」

「ん?今あの人のことオリバって言いました?監督?」

「ああ、そうだ。今、味方にゲキを飛ばしているあの大男が、キーパーの極意を教えてくれる折場 寛治おりば かんじだ。」

「マ…マジっすかぁ……。」

愕然とする宇田川をよそに、修人も負けじと大きな声で折場を呼びかける。

「おーーーーい!寛治ーーーー!」

修人の呼びかけに振り向いたその大男は、こちらに向かって全速力で走ってくる。

間近で見るとさらに大きく見え、その身長はゆうに190cmを超えていた。

「久しぶりじゃのう!修人!よくこんな山奥まで来てくれたな!」

先程の怒声とはうってかわって、人懐っこい声で、ニコニコと笑いながら修人の肩を叩いた。

「いやいや、こっちこそ。練習で忙しい所悪いな寛治。今日はよろしくな。」

「おうともよ。新人のキーパーを教えるんじゃったな。で、そいつは今どこにいるんじゃ?」

「ん?あれ?宇田川のやつ、どこいった?」

先程まで隣にいたはずの宇田川は忽然と姿を消し、修人は辺りをキョロキョロと見回す。

その時ーー

ガササッ

近くにある茂みが音を立てて揺れた。

「あっ!あいつあんな所に!」

「うわーーーーん!見つかったッスーーー!」

修人は茂みの中に隠れていた宇田川をとっ捕まえ、ズルズルと引っ張りながら、折場の前に連れて行く。

一方で折場は、宇田川を見るや否や、目を丸くしワナワナと震え出すのであった。

「ん?どうした折場?なんか様子が変だぞ?」

「な……なんで……」

「?」

「なんで、がこの学校にいるんじゃあああああーーーーーー!」

「ガーーーーーーン!」

折場の発言に、宇田川は強烈なショックを受ける。

「そ…そんな……。なんでこの人、ワタシがだって一発で分かっちゃったんでスカ?ワタシ、そんなに見た目腐女子っぽいっスかね?」

「何言っとんじゃあ!どっからどう見てもじゃろうがあ!」

「ガガーーーーーーーーン!!」

再びショックを受け、膝から崩れ落ちる宇田川を無視して、折場は修人へと詰め寄る。

「おい!修人!教える相手が婦女子だなんて聞いてないぞ!ワシが婦女子が苦手なことを知っての狼藉かあ!」

「あーーー……。まあ、その、なんだ。言い忘れてた。すまん。」

「すまんで済むかあっ!!」

「寛治。そこをどうにかよろしく頼むっ!」

「どうにかなるかあっ!婦女子は……婦女子だけはどうしてもダメなんじゃああーーーーーーっ!!」

「うわーーーーーーーん!そうやって何度も腐女子腐女子って言わないで下さいよーーーっ!」

激昂する折場と、ひたすらショックを受け続ける宇田川。

全く話が噛み合わない二人を見て、この先大丈夫だろうかと、先行きが不安になる修人であった。









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