しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

文字の大きさ
上 下
57 / 101

第五十三話 対峙

しおりを挟む
試合終了の笛を聞いた桜ヶ峰の選手たちは皆、その場に崩れ落ちた。

最後の力を振り絞って仕掛けた最後の攻撃も、藤沢純王の壁を打ち破ることができなかった。

監督の修人は一つため息を吐いた後、悔しそうに天を仰ぐ。

選手たちは各々の強みを出し、これ以上ないくらいに頑張ってくれていた。

敗因はーー

「俺の采配だ……。」

修人が己の無力さを嘆いている所に、敵将の倉井がやってくる。

「あまり自分を責めるのは良くない傾向だな。」

「倉井監督……。」

「良いゲームだった。桜ヶ峰には、見どころのある選手がたくさんいるな。」

「でも俺は結局……あいつらを勝たせてやることができなかった。」

「全戦全勝の監督などいるものかよ。サッカーというものは敗戦から学ぶことの方が多い。今日の課題をしっかりと一から見直し、さらにチームを成熟させるのが監督の仕事というものだ。」

「それでも、今日だけは勝たなければいけなかったんだ!あいつに……暁月に自分が今までしてきたことを、鞍月に謝って欲しかった!」

「……そうか。お主らがそう思うのも、まあ無理はない。だが、彼女をあまり責めないでやってくれまいか?」

「どうしてですか!?」

「今はまだ……その理由を話すことはできん。だが、いずれ全てが片付いたら洗いざらい理由を話すつもりだ。
ワシから言えることは一つだけ。あいつは私欲のためだけに鞍月家を出て行った訳ではないということだ。」

「何か、言えない事情があるということですか?」

「そうだ。だからこれ以上話すことはできん、本人の意向でな。」

「……そうですか。倉井監督、最後に一つだけ教えてください。どうして俺にそのことを言ってくれたんですか?」

「暁月はワシの教え子だからな……。アイツがたった一人の家族に憎まれているというのは、ワシとしてもやりきれんものがある。アイツはどうしようもなく不器用だからな……こういうやり方しかできんから心配なんだよ。だから、教えたのはただのジジイの気まぐれとでも思っといてくれ。」

「……わかりました。あなたを信じます、倉井監督。」

「ふっ…。いい面構えになったな。またの対戦を楽しみにしておるよ、。」

「……!ええ、いずれまた!次はウチが勝たせてもらいますからね!今日はありがとうございました!倉井監督!」

満足そうな笑みを浮かべた倉井は、ゆっくりと歩きながらグラウンドを後にするのであった。


---------------------------------------


「新設二年目のサッカー部相手に、いささか苦戦しすぎじゃないのかね?倉井監督?」

ロッカールームへと続く通路を歩いていた倉井は、脇にいた白髪の中年男性に話しかけられる。

その男は、その場に似つかわしくない、黒いスーツを身にまとい、威圧感のある鋭い目つきで倉井を睨みつけていた。

「暁月理事長ですか……熱心なことですな、わざわざ一回戦目から試合会場に足を運んでいただけるとは。」

「フン、世辞は良い。今日の試合に関して、何か弁解はあるのか?」

「ありませんな、何も。お互いに全力を出し切ったナイスゲームだったと思いますがね。」

素っ気なく答えた倉井を見て、藤沢純王高校理事長の暁月 業あかつき ごうは呆れたように大きくため息を吐いた。

「藤沢純王は勝って当然。その勝ち方も圧倒的でなければならない。
しかしどうだ?一回戦の相手だと言うのに、まるで薄氷をふむかのような勝利ではないか。これでは我が校の面目も丸潰れというものだ。」

「桜ヶ峰は強いですよ、暁月理事長。もっと上の方で当たっていたでしょうね。」

「おいおい…。ずいぶん人聞きの悪いことを言うじゃないか。」

「あなたの顔が利く高校女子サッカー連盟に、トーナメントの組み合わせを変えてもらうように働きかけていたのは知ってるんですよ、暁月理事長。」

「はっ…何をそんな……。仮にそのようなことをやっていたとして、私になんのメリットがある?」

「あなた自身のウサを晴らすことができる、というだけじゃないですか?目障りなものを早々に叩き潰したいという、あなたのくだらない私欲の為にやったのでしょう?」

「……口には気を付けろよ倉井。貴様も所詮雇われの身だ。私の意向で何とでも出来るのだぞ?」

「あなたが望むのなら好きにすればよい。代わりに常勝藤沢純王の看板は、早々に降ろすことになるでしょうがな。」

「……フン、まあ良いだろう。負けた時が貴様の最後だ。せいぜいクビを切り落とされぬよう気を付けることだな。」

「はい、肝に命じておきますよ、理事長殿。」

恭しくお辞儀をする倉井。
一方で暁月は小さく舌打ちをして、足早にその場を去っていくのであった。

「どこまでも、腐りきった男よ。」

倉井は一つため息を吐いて、誰にいうでもなくポツリと呟いた。

「あの男が来ていたのですね?倉井監督。」

不意に背後から声をかけられた倉井は、その人物がいる方に振り返る。

そこには、キャプテンの暁月 摩里香が立っていた。

「今度は娘の方が来たか……。向こうのチームとの挨拶はもう済んだのか?」

「ええ。他のメンバーももう戻ってきますよ。それにしても、あの男は一体何しにここへ?一度も試合会場に来たことなどないのに。」

「桜ヶ峰がボロボロに負ける様を直に見たかったのだろうさ。本人は不服そうだったがね。」

「そうですか……。どこまでも下衆な男ですね。」

「フッ、育ての親に対してそこまで言うか。」

「もちろんです。私はあの男に心までは許していません。私の心はずっと鞍月に、たった一人の愛する妹、光華とともにあるのですから。」

暁月は嘘偽りのない、凛とした態度で言ってのける。

それを見た倉井は穏やかにニコリと笑うのであった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...