しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

文字の大きさ
上 下
54 / 101

第五十話 DFの苦悩

しおりを挟む
『了が作ってくれたこのチャンス!絶対に決めてみせる!』

ゴール前の混戦の中、九条はその場にいたどの選手たちよりも頭一つ分高く跳躍した。

後は自分に向かって飛んでくるクロスボールを頭で合わせるだけ。

そう思った矢先ーー

九条の目の前に一つの影が飛び込んでくる。
そして、

パシッ

その影から伸びた長い手が、無情にもあっさりとボールを掴んでしまうのであった。

「そんな!」

「ふぅ……。今のは、ちょっと危なかったねぇ。」

千載一遇の桜ヶ峰の決定機。
その芽を摘んだのは、藤沢純王の絶対的守護神、一ノ瀬であった。

チャンスを決めきれなかった桜ヶ峰の選手たちの士気は下がり、今まで張り詰めていた緊張の糸が一瞬緩む。

その瞬間を一ノ瀬は見逃さなかった。

しかし、修人もまたそれを感じ取りピッチ内にいる選手たちに向かって大声で叫ぶ。

「落ち込んでる暇は無いぞみんな!カウンターが来る!戻れ!」

修人の言う通り、ボールを持った一ノ瀬は驚異的なロングスローで、前線にボールを投げ入れる。

そして、そのボールの落下地点にいるのはやはり、藤沢純王の要、暁月 摩里香であった。

「絶対に止める!!」

カウンターの危険をいち早く察知した鞍月は、暁月を止めにかかる。

パスの出しどころを探し、キョロキョロと周りを見渡す暁月。
チャンスと見た鞍月は、ボールを奪おうと身体を寄せに行く。

しかし、

スッ

暁月は、ボールを隠すように身体を回転。
そしてボールを奪おうと前のめりになっていた鞍月をまるで闘牛士のようにヒラリとかわした。

マルセイユルーレット。
先程、鞍月と小宮山が披露した技を、お返しと言わんばかりに、いとも簡単にやってのけてしまうのであった。

「なっ……!?」

あまりのレベルの違いに呆然とする鞍月。

一方で、暁月の勢いは止まらない。
そして、それに連動するように桂木をはじめとする藤沢純王のFW陣が桜ヶ峰のゴール前に集まり始める。

桜ヶ峰のディフェンダーの人数は小宮山が攻撃参加に回った為、一人少ない状況にあった。
対して、藤沢純王の攻撃にかける人数は十分に出揃っている。
桜ヶ峰はいわゆる数的不利の苦境に立たされていた。

そして、暁月にとってはパスの出しどころが選び放題のこの状況。

その選択肢の中でチョイスしたのはやはり、

「伊織っ!」

先制点を決めたエースストライカー、桂木であった。

「これ以上はやらせねぇっ!」

その桂木には矢切がマークにつく。

「矢切さん…って言ったっけ?アンタは高さがあるけど、の動きにはまるでついていけないよね。」

「なんだとぉっ!」

「こんな風にさっ!」

一瞬のうちにドリブルで振り切られ、矢切は簡単に突破されてしまうのであった。

「な……にっ!?」

しかし、仙崎はそれを見越しており、矢切のカバーに入る。

「絶対に打たせないんだからっ!!」

「……まーた花恋か。でも残念だけど、シュート打ってゴール決めるだけじゃ、藤沢純王のレギュラーフォワードは務まらないんだよね。」

「えっ……?」

ニヤリと笑った桂木は、ヒールでボールを後ろに流す。

そのボールが暁月の足元に収まる。

そして間髪入れずに、右足を振り抜いた。


ズシャアッ


右足一閃。
推定25メートルからのミドルシュートが、桜ヶ峰のゴールネットに突き刺さる。
宇田川もシュートに反応して、指先でボールを触ったものの、枠の外へ弾くには至らなかった。

ワアアアァーーーーーーーーーッ!

暁月のゴールにグラウンドの応援席からは歓声が沸き起こる。
しかし当の暁月は、喜ぶことなく小さくガッツポーズをするだけに留まっていた。

そして、2失点目を喫した桜ヶ峰選手一同はガックリと肩を落とすのであった。

アシストを記録した桂木は失意の状態にある仙崎を残念そうに見つめる。

「……花恋、私はホントに残念でならないよ。アンタほどの実力だったら、間違いなく藤沢純王のレギュラーになれただろうに。こんな悔しい思いをする必要も無かったのにね。」

「くっ…伊織……!」

「これが絶対王者、藤沢純王なんだよ花恋。アンタはそのスカウトをけって、桜ヶ峰を受験した。既に後悔し始めてるんじゃないの?こんな素人守備陣のお守りをさせられてさ。」

「そんなことない!」

「まあいーや。後二、三点は取るつもりだから覚悟しといてよね。」

そう言い残した桂木は不敵に笑いながら、その場を去っていった。

「伊織のやつ~!相変わらず調子に乗ってくれちゃって~。」

仙崎は恨めしそうに桂木の後ろ姿を睨みつける。そこに、相棒でもある矢切が申し訳なさそうにやってくるのであった。

「すまねぇ…花恋。簡単にやられちまってよ……。ホントにアイツの言う通りだ。私が不甲斐ねぇから、いつも花恋に無理をさせちまってる。本当に……ごめん……!」

悔しそうに仙崎に頭を下げる矢切。

バシンッ

それを見た仙崎は、矢切の背中を力強く叩くのであった。

「いってぇ!何すんだ花恋!」

「いや、姉御らしくないなーって思ってさ。気合注入ってやつ?」

「だからって、そんな力いっぱい叩かんでもいいだろーー!」

「うん!よし、元に戻ったね。」

「なんにも良くなんかなーーーい!」

吠える矢切を見て、仙崎は小さく笑ってみせる。

「その意気その意気。これからだよ、姉御。それに誤解の無いように言っておくけど、私は一度たりともお守りをしてるだなんて思ったことは無いからね。
最初は、修兄ちゃんを追って入ったサッカー部だったけど、今はこの桜ヶ峰サッカー部が大好きなんだ。だから、で勝とうよ!あの憎たらしい藤沢純王にさ!」

「花恋……!ああ、そうだな!まだ負けたわけじゃねぇ!一泡ふかしてやろうじゃねぇか!連中によ!」

そう力強く言い放った矢切の目には、再び闘志の炎が宿るのであった。



試合状況(後半12分)

桜ヶ峰 0-2 藤沢純王

得点者
桂木 伊織 8分
暁月 摩里香 55分
















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

華の令嬢5

橋本 
青春
 僕は貴族や財閥の指定が通う超名門校に入学した。  そこにまちうけていたものは、学園を牛耳る5人の悪役令嬢、華の5人であった。  彼女らに目をつけられたものの、彼女らの根性をいれかえてやろうと思う僕であった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

処理中です...