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第四十七話 VS藤沢純王高校
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藤沢純王高校のレギュラーFW、桂木 伊織は人知れず闘志を燃やしていた。
「呉 泉美……!今日こそはウチの方が上だってことを証明してやるぅ……。」
ピッチの端でウォーミングアップをしている呉を睨みつけながら、桂木はボソリと呟いた。
「どうした伊織?向こうに誰か気になる選手がいるのか?」
そこに藤沢純王のゴールマウスを守る長身のGK、一ノ瀬 煌が、桂木に声をかける。
「ああ、イッチー先輩ですか……呉ですよ。中学時代からずっと比べられてきた、まあライバルみたいなもんす。」
「ああ、私も中学時代に聞いたことあるよ。伊織と呉、どっちがFWとして優れているかって論争ね。私はキーパーだからあまり興味はなかったけど、部内のFW陣はよく二人のことを話し合ってたな。」
「ふふーん。ウチの武勇伝がイッチー先輩の学校にも轟いてしまってましたかー。有名人は辛いっすねー。」
「うん。でも、ちょっと小耳に挟んだ感じだと呉派の方が若干多かったかな?」
「えぇーーーっ!?そ……そんなぁ!」
桂木は分かりやすくガックリと肩を落とす。
「まあまあ、元気だしなよ伊織。」
「うぅ……。じゃあ、イッチー先輩はどっち派なんすかぁ!」
「私は伊織派だよ。」
「え?」
一ノ瀬は平然とした顔で、さも当たり前のように答える。
「というか、私は伊織以上にすごいFWは見たことないよ。」
「ふへっ!?」
「キーパーからの視点だからあまり参考にならないかもしれないけど、守備もしっかり頑張ってくれるし、ここぞって時に得点も決めてくれる。チームメイトとして、すごく心強い存在だよ。」
「えっ……えっ……!?」
「伊織はFWとしての理想系。パーフェクトな選手だと思うな。」
「わーーーーっわーーーーっ!分かった!分かったっすよもう!恥ずかしい!そこまで言われると恥ずかしいっす!」
「え?恥ずかしいことだったかな?思ってたことをそのまま口に出しただけなんだけど。」
「天然だからなおさらタチ悪いんだよなぁ……。」
桂木は、顔を真っ赤にしながらボソッと呟く。
「ん?何か言った?」
「なーんでもないっすよ。でもおかげさまで元気出ました!ありがとーございます!イッチー先輩!」
「ん、元気になったなら何より。さてそろそろ試合開始の時間だ、整列するよ伊織。」
「えへへ……。ハイっす!」
すっかり元気を取り戻した一年生ストライカーは、意気揚々とピッチの中へと入るのであった。
---------------------------------------
試合開始時刻の午前10時。
ピッチのセンターサークル付近には両高校の選手が並んでいた。
お互いに軽く握手を交わした後、選手は各々のポジションにつくために散っていく。
コイントスの結果、桜ヶ峰高校のボールからスタートすることとなっていた。
桜ヶ峰高校のフォーメーションとスターティングメンバーは、獅子浜戦、島木戦と変わらず4-3-3。
対する藤沢純王も、桜ヶ峰と全く同じ4-3-3のフォーメーションを取っていた。
最前線には一年生ストライカーの桂木、殿には守護神の三年生ゴールキーパー、一ノ瀬。
そして、中央にはゲームを支配する司令塔、暁月が立ち塞がるのであった。
ピーーーーーーーッ!
試合開始を告げる、主審の笛が鳴り響く。
桜ヶ峰のCFW九条は、鞍月へボールを下げる。
それに反応して、桂木が鞍月に向かって一直線に襲いかかる。
「……!」
鞍月はさらに最終防衛ラインの仙崎にボールを下げる。
その間にも、藤沢純王の選手たちは前へ前へとラインを押し上げ、プレッシャーをかけ続ける。
その後も桜ヶ峰の選手は安全なボール回しを続け、藤沢純王相手にボールを触らせないでいた。
そして再び鞍月にボールが渡ったその時、
呉が相手選手のマークを引き剥がし、全力で前線へと走り出す。
「呉だっ!」
藤沢純王の選手たちの意識は呉に向く。
しかし鞍月の狙いは、呉と同時に走り出していた影野にあった。
影野にマークはついていない。
鞍月は相手選手の股を抜き、影野に優しくパスを出す。
しかしーー
パシッ
その鞍月のパスが影野に渡ることはなかった。
「……!暁月っ……!」
そのパスを冷静にカットしたのは、司令塔の暁月であった。
藤沢純王の選手たちが呉に注目する中、暁月ただ一人だけがこのパスコースを読んでいた。
「伊織っ!」
怯んでいる間に、暁月の鋭い縦パスが鞍月の横を矢のように走り抜ける。
あまりに鋭い暁月のキラーパスに桜ヶ峰ディフェンス陣が誰一人として反応できない。
しかしその中で、ディフェンスラインを抜け出した桂木がボールに触る。
オフサイドはない。
ゴールキーパーの宇田川と一対一の場面。
宇田川は必死に身体を投げ出し、シュートコースを塞ぐ。
しかし、
桂木は冷静であった。
低い弾道のシュートで宇田川の股の下を射抜く。
ガシャッーー
桂木のシュートはゴールネットを静かに揺らした。
ピッ、ピーーーーーーーーー!
ギャラリーの歓声が沸き起こる。
ゴールを決めた桂木は、人差し指を天高く掲げ喜びを露わにし、さらにはチームメイトも桂木の元へ駆け寄り、背中に覆い被さり全力で祝福するのであった。
一番後方でゴールマウスを守る一ノ瀬は桂木の元へは行けなかったが、よくやったと言わんばかりに親指を小さくグッと立てるのであった。
「だから言ったんだ。伊織はやっぱり最高のFWだよ。」
試合状況(前半8分)
桜ヶ峰 0-1 藤沢純王
得点者
桂木 伊織 8分
「呉 泉美……!今日こそはウチの方が上だってことを証明してやるぅ……。」
ピッチの端でウォーミングアップをしている呉を睨みつけながら、桂木はボソリと呟いた。
「どうした伊織?向こうに誰か気になる選手がいるのか?」
そこに藤沢純王のゴールマウスを守る長身のGK、一ノ瀬 煌が、桂木に声をかける。
「ああ、イッチー先輩ですか……呉ですよ。中学時代からずっと比べられてきた、まあライバルみたいなもんす。」
「ああ、私も中学時代に聞いたことあるよ。伊織と呉、どっちがFWとして優れているかって論争ね。私はキーパーだからあまり興味はなかったけど、部内のFW陣はよく二人のことを話し合ってたな。」
「ふふーん。ウチの武勇伝がイッチー先輩の学校にも轟いてしまってましたかー。有名人は辛いっすねー。」
「うん。でも、ちょっと小耳に挟んだ感じだと呉派の方が若干多かったかな?」
「えぇーーーっ!?そ……そんなぁ!」
桂木は分かりやすくガックリと肩を落とす。
「まあまあ、元気だしなよ伊織。」
「うぅ……。じゃあ、イッチー先輩はどっち派なんすかぁ!」
「私は伊織派だよ。」
「え?」
一ノ瀬は平然とした顔で、さも当たり前のように答える。
「というか、私は伊織以上にすごいFWは見たことないよ。」
「ふへっ!?」
「キーパーからの視点だからあまり参考にならないかもしれないけど、守備もしっかり頑張ってくれるし、ここぞって時に得点も決めてくれる。チームメイトとして、すごく心強い存在だよ。」
「えっ……えっ……!?」
「伊織はFWとしての理想系。パーフェクトな選手だと思うな。」
「わーーーーっわーーーーっ!分かった!分かったっすよもう!恥ずかしい!そこまで言われると恥ずかしいっす!」
「え?恥ずかしいことだったかな?思ってたことをそのまま口に出しただけなんだけど。」
「天然だからなおさらタチ悪いんだよなぁ……。」
桂木は、顔を真っ赤にしながらボソッと呟く。
「ん?何か言った?」
「なーんでもないっすよ。でもおかげさまで元気出ました!ありがとーございます!イッチー先輩!」
「ん、元気になったなら何より。さてそろそろ試合開始の時間だ、整列するよ伊織。」
「えへへ……。ハイっす!」
すっかり元気を取り戻した一年生ストライカーは、意気揚々とピッチの中へと入るのであった。
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試合開始時刻の午前10時。
ピッチのセンターサークル付近には両高校の選手が並んでいた。
お互いに軽く握手を交わした後、選手は各々のポジションにつくために散っていく。
コイントスの結果、桜ヶ峰高校のボールからスタートすることとなっていた。
桜ヶ峰高校のフォーメーションとスターティングメンバーは、獅子浜戦、島木戦と変わらず4-3-3。
対する藤沢純王も、桜ヶ峰と全く同じ4-3-3のフォーメーションを取っていた。
最前線には一年生ストライカーの桂木、殿には守護神の三年生ゴールキーパー、一ノ瀬。
そして、中央にはゲームを支配する司令塔、暁月が立ち塞がるのであった。
ピーーーーーーーッ!
試合開始を告げる、主審の笛が鳴り響く。
桜ヶ峰のCFW九条は、鞍月へボールを下げる。
それに反応して、桂木が鞍月に向かって一直線に襲いかかる。
「……!」
鞍月はさらに最終防衛ラインの仙崎にボールを下げる。
その間にも、藤沢純王の選手たちは前へ前へとラインを押し上げ、プレッシャーをかけ続ける。
その後も桜ヶ峰の選手は安全なボール回しを続け、藤沢純王相手にボールを触らせないでいた。
そして再び鞍月にボールが渡ったその時、
呉が相手選手のマークを引き剥がし、全力で前線へと走り出す。
「呉だっ!」
藤沢純王の選手たちの意識は呉に向く。
しかし鞍月の狙いは、呉と同時に走り出していた影野にあった。
影野にマークはついていない。
鞍月は相手選手の股を抜き、影野に優しくパスを出す。
しかしーー
パシッ
その鞍月のパスが影野に渡ることはなかった。
「……!暁月っ……!」
そのパスを冷静にカットしたのは、司令塔の暁月であった。
藤沢純王の選手たちが呉に注目する中、暁月ただ一人だけがこのパスコースを読んでいた。
「伊織っ!」
怯んでいる間に、暁月の鋭い縦パスが鞍月の横を矢のように走り抜ける。
あまりに鋭い暁月のキラーパスに桜ヶ峰ディフェンス陣が誰一人として反応できない。
しかしその中で、ディフェンスラインを抜け出した桂木がボールに触る。
オフサイドはない。
ゴールキーパーの宇田川と一対一の場面。
宇田川は必死に身体を投げ出し、シュートコースを塞ぐ。
しかし、
桂木は冷静であった。
低い弾道のシュートで宇田川の股の下を射抜く。
ガシャッーー
桂木のシュートはゴールネットを静かに揺らした。
ピッ、ピーーーーーーーーー!
ギャラリーの歓声が沸き起こる。
ゴールを決めた桂木は、人差し指を天高く掲げ喜びを露わにし、さらにはチームメイトも桂木の元へ駆け寄り、背中に覆い被さり全力で祝福するのであった。
一番後方でゴールマウスを守る一ノ瀬は桂木の元へは行けなかったが、よくやったと言わんばかりに親指を小さくグッと立てるのであった。
「だから言ったんだ。伊織はやっぱり最高のFWだよ。」
試合状況(前半8分)
桜ヶ峰 0-1 藤沢純王
得点者
桂木 伊織 8分
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