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第三十七話 ウチのヒーロー
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「今日はね、部活で使うソックスとスネあてを買いに来たんだよ!あっ!見て見て楓ちゃん!このリストバンド可愛くない⁉︎どーしよーこれも買っちゃおうかなー。」
「あぁうん……いいんじゃない?」
首を左右に傾げながら悩む犬塚を横目に見ながら、楓はどうでも良さそうな態度で返事をする。
『はぁ…私はなんでこんなことしてるんだ…』
スポーツ用品店の前で犬塚とバッタリ会った楓は、そのまま強引に店の中へと引っ張られショッピングに付き合っていた。
結局小一時間ほど悩んだ末、犬塚はリストバンドを買うことを決意し、会計をしにレジヘと向かう。しかし、
「あれ?ちょっと足りなかったかぁ…むむむ…仕方ない、リストバンドは諦めよう…」
財布の中身を見た犬塚はガックリと肩を落とす。
そして、名残惜しそうにリストバンドを商品棚に戻そうとした所を楓が呼び止めた。
「待って、京子。」
楓は自らの財布からお金を取り出すと、犬塚の手からリストバンドをひったくる。
「私が買ったげるわよ。アンタ、これが欲しかったんでしょ?」
思いもよらない楓の言葉に、犬塚は目を丸くする。
「えぇっ!い…いいよいいよ!またお小遣い貯めて買うから大丈夫だよ!」
「あー、うるさいうるさい。」
アタフタと慌てふためく犬塚を無視して、楓は手早く会計を済ます。
「ん、どーぞ。」
そして、そのリストバンドが入った紙袋をグイッと犬塚に押し付けるのであった。
「ホ…ホントにいいの…?楓ちゃん?」
犬塚は困惑しながら楓に聞く。
「いーから。早く受け取りなさいよ。」
それを聞いた犬塚は遠慮がちに、楓の手から紙袋を受け取る。
「えへ…ありがとう!楓ちゃん!大切にするね!」
その後、裏表の無い満面の笑顔で楓にお礼を言うのであった。
「べ…別にいーわよ、好きに使ってくれれば。」
それを見た楓は、照れ臭そうにしながらそっぽを向くのであった。
---------------------------------------
スポーツ用品店を後にした二人は近所の公園のベンチに座り、コンビニで買ったアイスを頬張っていた。
楓の隣に座った犬塚は、嬉しそうに笑っている。
「なーに、ニヤニヤ笑ってるのよ。」
「フフッ、こうやって二人で話すの久々だなって思ったら、なんか嬉しくなっちゃって。さらに楓ちゃんにリストバンドも貰っちゃったし、今日はなんだかすっごい幸せな日だよ!」
「……あっそ。」
なんで、コイツは私なんかにそこまで…
「……楓ちゃん、覚えてる?中学の時、この公園でウチが虐められてた所を楓ちゃんが割って入って助けてくれたんだよ。」
「ああ、覚えてるよ。アンタ、ボロボロにされてもずっとヘラヘラ笑ってたから、見てらんなかったんだよね。助けたのは気まぐれだよ、気まぐれ。」
違う。気に食わないとすぐに手をあげる私のDV親の機嫌を損ねないように、無理して笑う自分にダブって見てられなかっただけ。
「でも、ウチはその気まぐれに助けられた。その時からずっと、楓ちゃんはウチにとってのヒーローなんだよ。」
「なにそれ…勝手に決めつけないでよ。」
違う、違う。私はそんな善人なんかじゃない。結局私もそいつらと同じようなことを京子にしてたんだ。
だからやめて。
そんな、キラキラした目で見ないで。
「ううん。ウチが困った時にはいつも駆けつけてくれたんだもん。だから楓ちゃんはウチの…」
「やめてって言ってるでしょ‼︎」
突然の楓の怒鳴り声に、犬塚はビクッと肩を震わせる。
「か…楓ちゃん…?」
「私はアンタのその目がずっと嫌いだった!完全に人を信じきったようなその目が!一度痛い目にあってるのに、それでも人を信じて疑おうともしない!重いんだよ!私はアンタが思うような心の綺麗なヒーローなんかじゃねーんだよ!」
楓はひとしきり怒鳴った後、ゼーゼーと肩で息をする。
そして、その瞳からは一筋の涙が零れ落ちるのであった。
それを見た犬塚は、楓の腰に手を回すと優しくギュッと自分の胸に抱き寄せる。
「……ごめんね楓ちゃん。ウチ、楓ちゃんの気持ちも考えずに、ずっと楓ちゃんを苦しめていたんだね。こんなんじゃ、嫌われて当然だよね。」
優しく諭すように語りかける犬塚に対して、楓は泣きじゃくりながら強く否定する。
「……違う!そうじゃないの!京子と違って、私は卑怯だから……人を信じることが怖いから!だから…京子を傷つけて、弱い自分を守ってた!私は、京子よりもずっとずっと弱い人間なんだよ……!」
その後、楓はずっと嗚咽を漏らしながら犬塚の胸の中で泣き続けた。
それに対して犬塚は何も言うことなく、ただただ楓を優しく抱きしめているのであった。
---------------------------------------
日もとっぷりと暮れ、街灯が灯る夜の公園。
ひとしきり泣いた楓は腫れた目を擦ると、何事も無かったかの如くいつものように悪態をつく。
「さすがの京子も幻滅したでしょ?私の本音を聞いてさ。」
しかし、犬塚はなんの迷いもなく顔を左右に振る。
「ううん。全然、そんなことないよ。こんなこと言うと怒られちゃうかもしれないけど…ウチ、楓ちゃんの本音を聞けて嬉しかったな!」
「フフッ……あっそ。」
どこまでも純真な犬塚の笑顔を見て、完全に毒が抜けた楓は呆れたように笑った。
「それでさ楓ちゃん…。今度、ウチの学校で練習試合があるんだけど、もし良かったら楓ちゃんも見に来てくれないかな?」
「練習試合って、サッカーの?なんで私が?」
「ウチの監督が言ってたんだけどね……サッカーって味方を信頼することが大事なスポーツなんだって!ウチもね、サッカーをやってみて初めてわかったの。お互いに信頼し合えるチームの力って、ホントに強いんだってことを。だから、楓ちゃんにも知って欲しいんだ。信じることの強さを。
じゃ、練習試合は今週の土曜日の朝9時からだからね!よろしくね!楓ちゃん!」
「あーはいはい、わかったわよ……もう。まったく、変な所で強引なんだから京子は。」
結局、犬塚に押し切られる形で試合を見に行く約束を取り付けてしまう楓なのであった。
「あぁうん……いいんじゃない?」
首を左右に傾げながら悩む犬塚を横目に見ながら、楓はどうでも良さそうな態度で返事をする。
『はぁ…私はなんでこんなことしてるんだ…』
スポーツ用品店の前で犬塚とバッタリ会った楓は、そのまま強引に店の中へと引っ張られショッピングに付き合っていた。
結局小一時間ほど悩んだ末、犬塚はリストバンドを買うことを決意し、会計をしにレジヘと向かう。しかし、
「あれ?ちょっと足りなかったかぁ…むむむ…仕方ない、リストバンドは諦めよう…」
財布の中身を見た犬塚はガックリと肩を落とす。
そして、名残惜しそうにリストバンドを商品棚に戻そうとした所を楓が呼び止めた。
「待って、京子。」
楓は自らの財布からお金を取り出すと、犬塚の手からリストバンドをひったくる。
「私が買ったげるわよ。アンタ、これが欲しかったんでしょ?」
思いもよらない楓の言葉に、犬塚は目を丸くする。
「えぇっ!い…いいよいいよ!またお小遣い貯めて買うから大丈夫だよ!」
「あー、うるさいうるさい。」
アタフタと慌てふためく犬塚を無視して、楓は手早く会計を済ます。
「ん、どーぞ。」
そして、そのリストバンドが入った紙袋をグイッと犬塚に押し付けるのであった。
「ホ…ホントにいいの…?楓ちゃん?」
犬塚は困惑しながら楓に聞く。
「いーから。早く受け取りなさいよ。」
それを聞いた犬塚は遠慮がちに、楓の手から紙袋を受け取る。
「えへ…ありがとう!楓ちゃん!大切にするね!」
その後、裏表の無い満面の笑顔で楓にお礼を言うのであった。
「べ…別にいーわよ、好きに使ってくれれば。」
それを見た楓は、照れ臭そうにしながらそっぽを向くのであった。
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スポーツ用品店を後にした二人は近所の公園のベンチに座り、コンビニで買ったアイスを頬張っていた。
楓の隣に座った犬塚は、嬉しそうに笑っている。
「なーに、ニヤニヤ笑ってるのよ。」
「フフッ、こうやって二人で話すの久々だなって思ったら、なんか嬉しくなっちゃって。さらに楓ちゃんにリストバンドも貰っちゃったし、今日はなんだかすっごい幸せな日だよ!」
「……あっそ。」
なんで、コイツは私なんかにそこまで…
「……楓ちゃん、覚えてる?中学の時、この公園でウチが虐められてた所を楓ちゃんが割って入って助けてくれたんだよ。」
「ああ、覚えてるよ。アンタ、ボロボロにされてもずっとヘラヘラ笑ってたから、見てらんなかったんだよね。助けたのは気まぐれだよ、気まぐれ。」
違う。気に食わないとすぐに手をあげる私のDV親の機嫌を損ねないように、無理して笑う自分にダブって見てられなかっただけ。
「でも、ウチはその気まぐれに助けられた。その時からずっと、楓ちゃんはウチにとってのヒーローなんだよ。」
「なにそれ…勝手に決めつけないでよ。」
違う、違う。私はそんな善人なんかじゃない。結局私もそいつらと同じようなことを京子にしてたんだ。
だからやめて。
そんな、キラキラした目で見ないで。
「ううん。ウチが困った時にはいつも駆けつけてくれたんだもん。だから楓ちゃんはウチの…」
「やめてって言ってるでしょ‼︎」
突然の楓の怒鳴り声に、犬塚はビクッと肩を震わせる。
「か…楓ちゃん…?」
「私はアンタのその目がずっと嫌いだった!完全に人を信じきったようなその目が!一度痛い目にあってるのに、それでも人を信じて疑おうともしない!重いんだよ!私はアンタが思うような心の綺麗なヒーローなんかじゃねーんだよ!」
楓はひとしきり怒鳴った後、ゼーゼーと肩で息をする。
そして、その瞳からは一筋の涙が零れ落ちるのであった。
それを見た犬塚は、楓の腰に手を回すと優しくギュッと自分の胸に抱き寄せる。
「……ごめんね楓ちゃん。ウチ、楓ちゃんの気持ちも考えずに、ずっと楓ちゃんを苦しめていたんだね。こんなんじゃ、嫌われて当然だよね。」
優しく諭すように語りかける犬塚に対して、楓は泣きじゃくりながら強く否定する。
「……違う!そうじゃないの!京子と違って、私は卑怯だから……人を信じることが怖いから!だから…京子を傷つけて、弱い自分を守ってた!私は、京子よりもずっとずっと弱い人間なんだよ……!」
その後、楓はずっと嗚咽を漏らしながら犬塚の胸の中で泣き続けた。
それに対して犬塚は何も言うことなく、ただただ楓を優しく抱きしめているのであった。
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日もとっぷりと暮れ、街灯が灯る夜の公園。
ひとしきり泣いた楓は腫れた目を擦ると、何事も無かったかの如くいつものように悪態をつく。
「さすがの京子も幻滅したでしょ?私の本音を聞いてさ。」
しかし、犬塚はなんの迷いもなく顔を左右に振る。
「ううん。全然、そんなことないよ。こんなこと言うと怒られちゃうかもしれないけど…ウチ、楓ちゃんの本音を聞けて嬉しかったな!」
「フフッ……あっそ。」
どこまでも純真な犬塚の笑顔を見て、完全に毒が抜けた楓は呆れたように笑った。
「それでさ楓ちゃん…。今度、ウチの学校で練習試合があるんだけど、もし良かったら楓ちゃんも見に来てくれないかな?」
「練習試合って、サッカーの?なんで私が?」
「ウチの監督が言ってたんだけどね……サッカーって味方を信頼することが大事なスポーツなんだって!ウチもね、サッカーをやってみて初めてわかったの。お互いに信頼し合えるチームの力って、ホントに強いんだってことを。だから、楓ちゃんにも知って欲しいんだ。信じることの強さを。
じゃ、練習試合は今週の土曜日の朝9時からだからね!よろしくね!楓ちゃん!」
「あーはいはい、わかったわよ……もう。まったく、変な所で強引なんだから京子は。」
結局、犬塚に押し切られる形で試合を見に行く約束を取り付けてしまう楓なのであった。
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