しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

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第三十四話 修人と恋愛シミュレーションゲーム

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雨がシトシトと降り続く、ある日の放課後。

部活が休みということもあり、修人は期末テストに向けて、勉強ができる場所を探そうと校舎内を彷徨い歩いていた。

「うわぁ…ここも人がいっぱいだなー…」

修人は生徒たちで溢れ返る食堂を見てガックリと肩を落とす。

桜ヶ峰高校の食堂。

昼休みは学食や弁当を食べる為の場所であるが、放課後も解放されており、その時間になると食堂は生徒たちの憩いの場所へと様変わりする。

勉強するもの、友人と駄弁るもの、カバンを枕にして睡眠を取るもの。それぞれが思い思いの時間をこの場所で過ごす。
そしてこの日は雨が降っているということもあり、食堂はいつにも増して大賑わいとなっているのであった。

「しかたねぇ。家に帰ってやるとするか……ん?」

大勢いる生徒の中から修人はよく知る人物の顔を見つける。

「おーーい、宇田川。」

「ああ、片桐カントク。お疲れ様ッス。」

声に反応したキーパーの宇田川 春菜は、修人の方を振り向く。
宇田川はノートPCで、傍にいる友人二人と何かを視聴している最中のようであった。

「どうしたんスか?こんな所で。」

「いやな、ちょっと勉強できる場所を探しててさ。ここ四人がけのテーブルだろ?もし空いてたらここ使わせて欲しくてさ。ダメかな?」

修人は宇田川と傍にいる友人二人に了承を乞う。
三人はお互いの顔を数秒間見つめあった後、コクンと首を縦に振るのであった。

「いいッスよ!ちょっとうるさくなるかもしれないッスけど大丈夫ッスか?」

「ああ、構わないよ。みんなありがとな。」

修人は愛想の良い爽やかな笑顔を三人に向ける。

しかし、宇田川の横にいた二人は少し顔を赤らめながら修人から視線を外すのであった。
それを見た宇田川は呆れたように肩をすくめる。

「ん、どうしたんだ二人は?俺なんかしちゃったか?」

修人は二人の思わぬ反応を見て、宇田川に助けを求める。

「まったく、そんなテンプレなろう主人公みたいなこと言ってんじゃねーッスよ。」

「はぁ?なんなんだよそれ……てゆーか、宇田川たちはパソコン開いて何やってたんだ?」

宇田川は、呆れた様子から一転、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに唐突に早口で話し始める。

「これッスか⁉︎これは今私たちがハマってる高校サッカーを舞台にした『君のハートにダイレクトボレー』って恋愛シミュレーションゲームをやってたんデス!主人公はサッカー部のマネージャーで、部員たちと様々な恋愛を繰り広げるゲームなんですが、それだけじゃなく、部員同士の友情もとい絡みも見逃せない!熱くて泣けるって今SNSを中心にバズってる神ゲーなんでス!二次創作なんかもガンガン出始めてて、玉田キュン…あっ私の推しキャラの玉田恭平クンって言うんですけど、そのライバルの花城くんとのタマ×ハナの絡みがまた激アツで…」

「ちょ、待て待て待て!落ち着け宇田川!途中から何言ってっかわかんねーよ!」

修人が止めに入った所でようやく宇田川は我に帰る。

「はっ!またやってしまったッス!すみません…好きなものの話になると、つい長々と語ってしまって…」

「いや、別にいいんだけどさ…つまりみんなはサッカーのゲームをやってたってことだな?」

「違いますよぉ。高校サッカーを舞台にした恋愛シミュレーションゲームですって!どーせカントクはウイ◯レとかFI◯Aぐらいしかやったことなさそうだから、言ったってわかんないでしょうケド…」

「すごいな宇田川!どうして俺がやってたゲームをピンポイントで当てれたんだ⁉︎」

感心している修人を見て、宇田川は思わずズッコケる。

「あらら…冗談のつもりでしたが、ホントにサッカーのゲームしかやって来なかったんですネ……でもこの『君ダイ』はサッカーの部分にも結構力を入れてるんデスよ。チームの戦術変更やメンバー選出なんかもできるから、サッカー通の間でも、本格的なゲームだってちょっと話題になってるんスよ。」

その宇田川の話を聞いた修人の眉がピクリと動く。

「ほほう……つまり、主人公がチームを動かすことができる、ということか?」

「ええ。この主人公は試合の流れを読むことができる不思議な力を持っていて、マネージャーでありながら監督や選手たちからすごい信頼されてるんですヨ。ですから実際にチームの全権を握っているのはこの子なんです。」

「……なるほど、試合の流れを読む不思議な力を持った主人公が、チームを全国制覇に導いていくってストーリーか。なんか能力といい境遇といい親近感が湧いてきたぞ!」

「いや…主人公は別に全国制覇とかそんな野望特に持ってないッスけどね…」

訂正の言葉も最早耳に入っていない修人は、宇田川にあるお願いをする。

「その君のハートになんちゃらってゲーム、ちょっと俺もやってみてもいいか?」

宇田川は修人の意外な申し出に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になりノートPCのモニターを修人の方に向ける。

「いいッスよ!ぜひぜひ!やってみてくださいッス!」

心なしか少し浮かれた様子の宇田川は、意気揚々とゲームを起動させるのであった。



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