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第三十三話 決着
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後半アディショナルタイム2分。
スコアは3-2のまま、桜ヶ峰高校がリード。獅子浜高校の怒涛の攻撃を何とか凌いでいた。
そしてラストチャンスになるであろうこの場面で、獅子浜のキーパーまでもが前線に上がり、攻撃に加わるのであった。
守備を完全に捨て去った、玉砕覚悟の獅子浜の攻撃。
その選手たちは皆、ゴールを射抜かんと目をギラつかせていた。
ペナルティエリアから少し離れた位置で、本郷が味方からのパスを受ける。
ドリブルで突破してくるか?或いは味方を使うか?
桜ヶ峰の選手たちは、本郷の一挙手一投足に注目し、次の行動を予測する。
「一つ、選択肢が抜け落ちてるんじゃないか?」
そう言い放った本郷は、迷わずその場で右足を振り抜いた。
高速レーザーの如き鋭いシュートが、桜ヶ峰のゴールマウスに襲いかかる。
本郷のシュートの威力は、速い且つ重い。
並のゴールキーパーでは、弾くのが精一杯である。
現に宇田川はこの試合で力負けし、失点を許してしまっていた。
本郷の目論見は、その弾いたボールのこぼれ玉にあった。
もちろん、そのままゴールネットを揺らせれば万々歳だが、こぼれ玉を他の味方が押し込んでも同点。弾いてゴールラインを割っても、コーナーキックを得ることができ、チャンスは続く。
獅子浜の選手たちは本郷の意図を瞬時に感知し、オフサイドラインを超えないよう注意しながら、前線へと駆け上がる。
ボールをこぼしたが最後。
何が何でもゴールに結びつける。そんな鬼気迫る表情で、チャンスを狙う獅子浜選手たち。
しかし、その時がやってくることは無かった。
バシイイイイイィーーーーーーーン!!
宇田川が横っ飛びしながら、ボールを挟むように両手でキャッチをする。
倒れ込みながらボールをガッチリと抱える宇田川を見て、こぼれ玉を狙っていた選手たちの足はピタリと止まってしまうのであった。
「そ…そんな…キャプテンのシュートをキャッチするなんて…」
信じられないという表情で、宇田川を見る獅子浜選手たち。
そんな中、宇田川はゆらりと立ち上がり大事そうに抱えたボールを、愛でるようにうっとりと見つめる。
「うへへ…玉田くん…やぁっと捕まえましたヨォ…もう二度と離さないッスからネェ…」
「えっ…何?あの人ボールに向かって何か喋ってる…怖っ!」
恍惚な表情を浮かべながら、ぶつぶつとボールと会話し始める宇田川を見て、獅子浜の選手たちは戦慄を覚える。
一方で、小宮山はやれやれといった表情で呆れたように溜息を吐いた。
「終盤も終盤で、やーっと春菜のエンジンがかかってきたみたいだね。全くもう!遅すぎるよ!」
「妄想の旅行人」。それが宇田川 春菜の能力である。
彼女はトランス状態に入ると、迫り来るサッカーボールは彼女の脳内でイケメン美少年へと擬人化され、そのイケメン美少年を優しく包み込むように受け止めることができるようになる(本人談)。
真実はさておき、結果として本郷の渾身のシュートも見事止めて見せたのであった。
そして宇田川がボールを前に投げた直後ーーーー
ピッ、ピッ、ピーーーーーーーーー!
審判が試合終了を告げる笛を鳴らす。
その合図を聞いた獅子浜の選手たちは、天を仰いだり、俯いたり、各々が悔しそうな表情を見せる。
一方で桜ヶ峰の選手たちは全員、疲れからピッチの上に倒れ込んでしまうのであった。
終了の笛を聞いた修人は、喜ぶこともなくただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
「勝った…?本当に…勝ったんだよな?俺たち。」
「ああ、そうだな。おめでとう、片桐監督。」
修人の問いに答えるように、毛利監督が獅子浜ベンチからやってきた。
穏やかな笑みを浮かべた毛利は右手を差し出し、修人に握手を求める。
「毛利監督…!ありがとうございます!」
修人はその握手に応え、ガッチリと毛利の手を握る。
「君の采配は素晴らしかった。我々の完敗だ。手加減はしない…と言ったが、我々の心の中に何処か油断があったのかもしれないな…だが、次はこうはいかない。高校選手権では我々が勝つ。覚悟しておくことだ。」
そう言い放ち、毛利は踵を返し自身のベンチへと帰っていく。
「毛利監督!今日は本当に、ありがとうございました!」
その背中に対して、深々とお辞儀をする修人。
そして毛利と入れ替わるように、今度は修人の前に本郷が姿を現すのであった。
「……晶。」
悔しさからなのか、本郷の目からは涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「グスッ…今日はウチの負けだ。でも…でも!次は絶対に負けないんだからな!」
「……ああ。」
「それでさ、その……」
「うん。」
「今度ウチらが勝った時には修人…お前に言いたいことがあるんだ。」
「……それは、今言うんじゃダメなのか?」
「ダメなんだ!修人に勝ってからじゃないと…私は!わた…し…は。」
そこまで言った所で本郷の言葉は続かなくなり、じっと俯いてしまうのであった。
そんな本郷を、修人は優しくそっと抱きしめる。
「わかったよ。またその時に聞いてやるから、もう泣くなって。といっても、俺らだって次も負けるつもりはないからな。また、今日みたいな楽しい試合をやろうぜ。」
修人はニカッと笑いながら、本郷の頭をクシャクシャと撫でる。
「う…うん。」
一方で本郷は顔を真っ赤にしながら、目を逸らすのであった。
その様子を少し離れた位置から見ていた桜ヶ峰イレブン。
本郷がそそくさと修人の元から離れると、ものすごいスピードで修人に詰め寄るのであった。
「ちょっと!修兄ちゃん⁉︎私たち頑張って勝ったっていうのに、敵のキャプテンとイチャついてるなんて、どーゆーこと⁉︎」
「これは由々しき事態だなぁ。チームの士気に影響が出る。ふむ、これは何かお仕置きが必要だな。」
「そうだな!よし、んじゃみんなあれで行くか!おいコラ片桐!頑張った私たちをもっと褒めろ褒めろーーーーーー!」
「うわ…うわーーーーやめろお前らーーーーーー!」
矢切の合図を皮切りに修人の上に次々と選手たちが覆いかぶさっていく。
きっちり11人分。
修人は以前よりも更にもみくちゃにされてしまうのであった。
---------------------------------------
試合後。
荷物を積み、バスに乗り込む桜ヶ峰選手一同。
全員乗ったことを確認した修人が最後にバスに乗ろうとした時、不意に背後から声をかけられる。
「待てよ、修人。」
「……英翔か。なんだよ、勝負は俺たちの勝ちだろ?だから選手に戻れなんて言うのはもうナシだぜ。」
「ちげーよ。んなことを言いに来た訳じゃねぇ。だからさ…その…謝りにきたんだ。」
「謝る?何をだ?」
「お前が監督なんて性に合わねぇって言ったことだよ。実際お前はウチに勝った。本当に大したもんだ。」
「ああ…いいよ。別に気にしてない。それより、お前はスランプからは抜け出せそうなのか?」
「どうだろな…それは、わからねぇ。ま、地道に探すさ。」
「そうか……なあ、英翔。俺にはな同世代で一人だけ、本当に尊敬してる選手がいるんだ。」
「お前が同世代で尊敬してる選手…?」
「ああ。そいつはな、どんな劣勢の時でも諦めず、熱い気持ちでチームを鼓舞し続けた。そして、自らがゴールを決めることで活路を切り開くような奴だった。
敵にしちゃ脅威だが、味方にいて、そいつほど心強い奴を俺は他に知らないよ。」
「お…おい、それって…」
「ああ。お前のことだよ、英翔。お前の熱さとゴールがいつも俺たちを奮い立たせてくれたんだ。お前が気付いてたかどうかはしらないけどな。」
「そ…そうだった…のか。」
「俺が認めた選手は、俺がいなくなっただけで自分を見失うような奴なのかよ?」
「ぐっ…そ、それは…」
「いつまでもグズグズ悩んでんじゃねーよ、お前らしくない。いつもみたいに前だけを見てりゃいいんだお前は。」
「くっ!言わせておけばてめぇ!」
「それが唯一俺が認めたストライカー、火野英翔なんだからよ。」
「……ちっ!」
決まりが悪そうに舌打ちをする火野。それを見た修人はクスッと笑う。
「またな、英翔!今度の代表戦、見に行ってやるからヘマすんじゃねーぞ。」
「はっ!てめーなんかいなくたって、点を取れるってことを証明してやらぁ!スタンドで黙って見とけや修人!」
火野の目には再び闘志溢れる炎が宿る。
それを確認した修人は、穏やかな笑みを浮かべバスに乗った。
バスの外では火野がまだ色々と騒いでいるようだったが、それを無視して運転手にバスを出すよう合図を送る。
「……彼、大丈夫そうなの?」
鞍月は車窓から火野を見ながら、修人に尋ねる。
「ああ…あいつはもう、問題ねーよ。」
そう言った修人は、どこか嬉しそうな表情をしながらバスのシートに腰をかけるのであった。
「そう…なら良かったわ。それじゃあ心置きなく焼肉に行けるわね!皆!監督の奢りで、このまま焼肉屋に向かうわよーーー!」
「おぉーーーーーーーーーーっ!」
修人を除く、桜ヶ峰の選手たちからは大きな歓声が上がる。
唐突な鞍月の発言に修人は思わず吹き出してしまうのであった。
「おい!ちょっと待て!勝ったら焼肉ってのは、お前らがどうせならモチベーションの上がる合図が良いって言ったからそうしたんだろうが!誰もホントに行くなんて言ってねーだろ!」
「あら監督?じゃああの時、嘘の指示を私たちに出してたってことになるのかしら?」
「これは由々しき事態だなぁ。チームの士気に影響が出る。ふむ、これはやはり焼肉を奢ってもらう他なさそうだ。」
「うんうん。敵のキャプテンとイチャついてたし、それぐらいのペナルティがあっても罰は当たらないよね♪」
「なっ…まだ根に持ってたのかよ……てゆーか、勝ったのにあんまり過ぎるだろ!こんな仕打ちーーーーーー!」
悲痛な叫びも虚しく、その後きっちり13人分(運転手含む)の焼肉代を支払うハメとなった修人なのであった。
試合結果
桜ヶ峰 3-2 獅子浜
得点者
呉 泉美 1分 88分
本郷 晶 24分 45分+1
影野 ひより 73分
スコアは3-2のまま、桜ヶ峰高校がリード。獅子浜高校の怒涛の攻撃を何とか凌いでいた。
そしてラストチャンスになるであろうこの場面で、獅子浜のキーパーまでもが前線に上がり、攻撃に加わるのであった。
守備を完全に捨て去った、玉砕覚悟の獅子浜の攻撃。
その選手たちは皆、ゴールを射抜かんと目をギラつかせていた。
ペナルティエリアから少し離れた位置で、本郷が味方からのパスを受ける。
ドリブルで突破してくるか?或いは味方を使うか?
桜ヶ峰の選手たちは、本郷の一挙手一投足に注目し、次の行動を予測する。
「一つ、選択肢が抜け落ちてるんじゃないか?」
そう言い放った本郷は、迷わずその場で右足を振り抜いた。
高速レーザーの如き鋭いシュートが、桜ヶ峰のゴールマウスに襲いかかる。
本郷のシュートの威力は、速い且つ重い。
並のゴールキーパーでは、弾くのが精一杯である。
現に宇田川はこの試合で力負けし、失点を許してしまっていた。
本郷の目論見は、その弾いたボールのこぼれ玉にあった。
もちろん、そのままゴールネットを揺らせれば万々歳だが、こぼれ玉を他の味方が押し込んでも同点。弾いてゴールラインを割っても、コーナーキックを得ることができ、チャンスは続く。
獅子浜の選手たちは本郷の意図を瞬時に感知し、オフサイドラインを超えないよう注意しながら、前線へと駆け上がる。
ボールをこぼしたが最後。
何が何でもゴールに結びつける。そんな鬼気迫る表情で、チャンスを狙う獅子浜選手たち。
しかし、その時がやってくることは無かった。
バシイイイイイィーーーーーーーン!!
宇田川が横っ飛びしながら、ボールを挟むように両手でキャッチをする。
倒れ込みながらボールをガッチリと抱える宇田川を見て、こぼれ玉を狙っていた選手たちの足はピタリと止まってしまうのであった。
「そ…そんな…キャプテンのシュートをキャッチするなんて…」
信じられないという表情で、宇田川を見る獅子浜選手たち。
そんな中、宇田川はゆらりと立ち上がり大事そうに抱えたボールを、愛でるようにうっとりと見つめる。
「うへへ…玉田くん…やぁっと捕まえましたヨォ…もう二度と離さないッスからネェ…」
「えっ…何?あの人ボールに向かって何か喋ってる…怖っ!」
恍惚な表情を浮かべながら、ぶつぶつとボールと会話し始める宇田川を見て、獅子浜の選手たちは戦慄を覚える。
一方で、小宮山はやれやれといった表情で呆れたように溜息を吐いた。
「終盤も終盤で、やーっと春菜のエンジンがかかってきたみたいだね。全くもう!遅すぎるよ!」
「妄想の旅行人」。それが宇田川 春菜の能力である。
彼女はトランス状態に入ると、迫り来るサッカーボールは彼女の脳内でイケメン美少年へと擬人化され、そのイケメン美少年を優しく包み込むように受け止めることができるようになる(本人談)。
真実はさておき、結果として本郷の渾身のシュートも見事止めて見せたのであった。
そして宇田川がボールを前に投げた直後ーーーー
ピッ、ピッ、ピーーーーーーーーー!
審判が試合終了を告げる笛を鳴らす。
その合図を聞いた獅子浜の選手たちは、天を仰いだり、俯いたり、各々が悔しそうな表情を見せる。
一方で桜ヶ峰の選手たちは全員、疲れからピッチの上に倒れ込んでしまうのであった。
終了の笛を聞いた修人は、喜ぶこともなくただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
「勝った…?本当に…勝ったんだよな?俺たち。」
「ああ、そうだな。おめでとう、片桐監督。」
修人の問いに答えるように、毛利監督が獅子浜ベンチからやってきた。
穏やかな笑みを浮かべた毛利は右手を差し出し、修人に握手を求める。
「毛利監督…!ありがとうございます!」
修人はその握手に応え、ガッチリと毛利の手を握る。
「君の采配は素晴らしかった。我々の完敗だ。手加減はしない…と言ったが、我々の心の中に何処か油断があったのかもしれないな…だが、次はこうはいかない。高校選手権では我々が勝つ。覚悟しておくことだ。」
そう言い放ち、毛利は踵を返し自身のベンチへと帰っていく。
「毛利監督!今日は本当に、ありがとうございました!」
その背中に対して、深々とお辞儀をする修人。
そして毛利と入れ替わるように、今度は修人の前に本郷が姿を現すのであった。
「……晶。」
悔しさからなのか、本郷の目からは涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「グスッ…今日はウチの負けだ。でも…でも!次は絶対に負けないんだからな!」
「……ああ。」
「それでさ、その……」
「うん。」
「今度ウチらが勝った時には修人…お前に言いたいことがあるんだ。」
「……それは、今言うんじゃダメなのか?」
「ダメなんだ!修人に勝ってからじゃないと…私は!わた…し…は。」
そこまで言った所で本郷の言葉は続かなくなり、じっと俯いてしまうのであった。
そんな本郷を、修人は優しくそっと抱きしめる。
「わかったよ。またその時に聞いてやるから、もう泣くなって。といっても、俺らだって次も負けるつもりはないからな。また、今日みたいな楽しい試合をやろうぜ。」
修人はニカッと笑いながら、本郷の頭をクシャクシャと撫でる。
「う…うん。」
一方で本郷は顔を真っ赤にしながら、目を逸らすのであった。
その様子を少し離れた位置から見ていた桜ヶ峰イレブン。
本郷がそそくさと修人の元から離れると、ものすごいスピードで修人に詰め寄るのであった。
「ちょっと!修兄ちゃん⁉︎私たち頑張って勝ったっていうのに、敵のキャプテンとイチャついてるなんて、どーゆーこと⁉︎」
「これは由々しき事態だなぁ。チームの士気に影響が出る。ふむ、これは何かお仕置きが必要だな。」
「そうだな!よし、んじゃみんなあれで行くか!おいコラ片桐!頑張った私たちをもっと褒めろ褒めろーーーーーー!」
「うわ…うわーーーーやめろお前らーーーーーー!」
矢切の合図を皮切りに修人の上に次々と選手たちが覆いかぶさっていく。
きっちり11人分。
修人は以前よりも更にもみくちゃにされてしまうのであった。
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試合後。
荷物を積み、バスに乗り込む桜ヶ峰選手一同。
全員乗ったことを確認した修人が最後にバスに乗ろうとした時、不意に背後から声をかけられる。
「待てよ、修人。」
「……英翔か。なんだよ、勝負は俺たちの勝ちだろ?だから選手に戻れなんて言うのはもうナシだぜ。」
「ちげーよ。んなことを言いに来た訳じゃねぇ。だからさ…その…謝りにきたんだ。」
「謝る?何をだ?」
「お前が監督なんて性に合わねぇって言ったことだよ。実際お前はウチに勝った。本当に大したもんだ。」
「ああ…いいよ。別に気にしてない。それより、お前はスランプからは抜け出せそうなのか?」
「どうだろな…それは、わからねぇ。ま、地道に探すさ。」
「そうか……なあ、英翔。俺にはな同世代で一人だけ、本当に尊敬してる選手がいるんだ。」
「お前が同世代で尊敬してる選手…?」
「ああ。そいつはな、どんな劣勢の時でも諦めず、熱い気持ちでチームを鼓舞し続けた。そして、自らがゴールを決めることで活路を切り開くような奴だった。
敵にしちゃ脅威だが、味方にいて、そいつほど心強い奴を俺は他に知らないよ。」
「お…おい、それって…」
「ああ。お前のことだよ、英翔。お前の熱さとゴールがいつも俺たちを奮い立たせてくれたんだ。お前が気付いてたかどうかはしらないけどな。」
「そ…そうだった…のか。」
「俺が認めた選手は、俺がいなくなっただけで自分を見失うような奴なのかよ?」
「ぐっ…そ、それは…」
「いつまでもグズグズ悩んでんじゃねーよ、お前らしくない。いつもみたいに前だけを見てりゃいいんだお前は。」
「くっ!言わせておけばてめぇ!」
「それが唯一俺が認めたストライカー、火野英翔なんだからよ。」
「……ちっ!」
決まりが悪そうに舌打ちをする火野。それを見た修人はクスッと笑う。
「またな、英翔!今度の代表戦、見に行ってやるからヘマすんじゃねーぞ。」
「はっ!てめーなんかいなくたって、点を取れるってことを証明してやらぁ!スタンドで黙って見とけや修人!」
火野の目には再び闘志溢れる炎が宿る。
それを確認した修人は、穏やかな笑みを浮かべバスに乗った。
バスの外では火野がまだ色々と騒いでいるようだったが、それを無視して運転手にバスを出すよう合図を送る。
「……彼、大丈夫そうなの?」
鞍月は車窓から火野を見ながら、修人に尋ねる。
「ああ…あいつはもう、問題ねーよ。」
そう言った修人は、どこか嬉しそうな表情をしながらバスのシートに腰をかけるのであった。
「そう…なら良かったわ。それじゃあ心置きなく焼肉に行けるわね!皆!監督の奢りで、このまま焼肉屋に向かうわよーーー!」
「おぉーーーーーーーーーーっ!」
修人を除く、桜ヶ峰の選手たちからは大きな歓声が上がる。
唐突な鞍月の発言に修人は思わず吹き出してしまうのであった。
「おい!ちょっと待て!勝ったら焼肉ってのは、お前らがどうせならモチベーションの上がる合図が良いって言ったからそうしたんだろうが!誰もホントに行くなんて言ってねーだろ!」
「あら監督?じゃああの時、嘘の指示を私たちに出してたってことになるのかしら?」
「これは由々しき事態だなぁ。チームの士気に影響が出る。ふむ、これはやはり焼肉を奢ってもらう他なさそうだ。」
「うんうん。敵のキャプテンとイチャついてたし、それぐらいのペナルティがあっても罰は当たらないよね♪」
「なっ…まだ根に持ってたのかよ……てゆーか、勝ったのにあんまり過ぎるだろ!こんな仕打ちーーーーーー!」
悲痛な叫びも虚しく、その後きっちり13人分(運転手含む)の焼肉代を支払うハメとなった修人なのであった。
試合結果
桜ヶ峰 3-2 獅子浜
得点者
呉 泉美 1分 88分
本郷 晶 24分 45分+1
影野 ひより 73分
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