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第二十八話 VS獅子浜高校

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5月中旬、天気は快晴。
この日の気温は23℃で、ピッチ上には爽やかな春の風が吹き抜けていた。

そんなスポーツをするにはうってつけの気候の中、控え室から両校の選手たちがピッチ上へと姿を現す。

桜色のユニフォームを身に纏うのは、桜ヶ峰高校の選手たち。
そのユニフォームには、高校の象徴でもある桜の花びらが各所に散りばめられていた。

一方で、太陽のように燃える赤色のユニフォームに袖を通しているのが、獅子浜高校の選手たち。そのユニフォームと同様に、選手たちの目はギラギラと熱く燃えていた。

「うへー、お相手はやる気満々って感じっスねー。」

一人だけ緑色のゴールキーパー用ユニフォームを着た宇田川は、相手選手たちの姿を見て、ゴクリと唾を飲んだ。

「戦う前から雰囲気に飲まれちゃダメよ春菜。さっ、みんなもこっちに来て。円陣組むわよ。」

鞍月の合図の元、桜ヶ峰選手一同は輪になり肩を組む。

「今日まで皆、本当に良く頑張ってくれたわ。初陣から片桐監督を賭けたゲームになっちゃったけれど、今までやってきた練習を信じてやり続ければ、獅子浜にだって勝てる。そのことを証明しましょう。
それじゃあ、行くよ!桜ヶ峰ーーーーーーファイッ!!」

「オォッ!!」

大きな掛け声の後円陣を解き、桜ヶ峰の選手たちは各々のポジションへと配置につく。

桜ヶ峰の布陣は4-3-3。

ゴールキーパーは宇田川。
ディフェンスラインは右から小宮山、矢切、仙崎、犬塚。

中盤の底、ボランチのポジションにはキャプテンの鞍月が入り、ゲームのコントロールを行う。

鞍月よりもう一つ前の位置、攻撃的な中盤の位置には右から辻本、影野が虎視眈々とゴールを狙う。

そして、最前線には右に白鳥、センターには長身の九条、左には絶対的ストライカーの呉が入るのであった。


対する獅子浜高校の布陣は4-4-2。
ディフェンスラインは桜ヶ峰と同じく四人。
ボランチが二人で、左と右のウィングに一人ずつ。
最大の脅威となる本郷は、センターフォワード。そして、その後ろでサポートする形のセカンドトップには三田が入るという布陣であった。

「……フォーメーション自体は、去年と変わってはいないようだな。さて、上手くいってくれるといいが…」

修人がそんなことを呟く間に、ピッチのセンターサークルにはボールが置かれ、審判がコイントスを行っていた。
コイントスの結果、獅子浜高校のボールから始まることとなった。

試合前独特の雰囲気に、会場全体がしんと静まり返る。

その数秒後、主審の笛が試合開始の合図を鳴らす。

ピィーーーーーーーーーッ!

キックオフ。桜ヶ峰高校の監督を賭けた初陣が始まった。

本郷は三田にちょこんとパスを出すといきなり前線へ向かって走り出した。

しかし、三田は本郷へパスは出さず、いったん後方の選手へボールを預ける。

三田からパスを受けた選手はたっぷりと助走をつけて、前線の本郷に向かって大きくロングボールを蹴り込んだ。

ボールの落下地点には、しっかりと本郷が待ち構える。
本郷にはそのボールを胸でトラップし、反転してシュートを狙うというビジョンが見えていた。

しかし、その目論見通りにはいかなかった。

「らぁっ!」

落下地点のその手前、矢切は高い跳躍をしながら頭でボールを弾き出した。

弾いたボールは、守備の要である仙崎に渡る。桜ヶ峰高校のカウンター攻撃が始まった。

「鞍月先輩っ!」

仙崎から鞍月へとパスが通る。
その鞍月の元へはボールを奪おうと相手選手が潰しにくる。

しかし、鞍月はそれを読んでいた。
鞍月はパスを足元に収めず、ダイレクトでボールを左サイドの前線へと大きく蹴り出す。

その先にはーー

絶対的エース、呉 泉美がいるのであった。

その呉には獅子浜高校のディフェンダーが二人、ぴったりとマークについていた。
呉には絶対にボールを触らせない。
そんな強い意思を持っているかのように呉の周りをガチガチに固めているのであった。

鞍月が蹴り出したボールは目測を誤ったのか、呉たちの頭上を高々と超え、そのままゴールラインの外へと出てしまいそうであった。

呉は何とかボールを足元に収めようと、諦めずにボールを追い続ける。

一方で、獅子浜高校のディフェンダー二人はゴールラインを割るだろうと予想し、ボールを追うのを止めていた。

落下してきたボールは、ゴールラインのギリギリ手前でバウンドする。
そしてそのままゴールラインの外へと出てしまう、かに思われた。


ギュルッ


強烈なバックスピンがかかっていたボールは、外へは出ずに呉の足元へと転がる。

「さっすが、鞍月先輩。上手いなぁ。」

呉はニヤリと笑うと、そのままドリブルを開始する。

これに焦った獅子浜ディフェンス陣は呉を止めようと全力で走りだす。しかし、

「遅い!遅い!遅すぎるぜ!」

外側からペナルティエリア内へと一瞬で切り込んでいく呉のドリブルを誰も止めることは出来なかった。

そしてーーーー


ズバァッ!


右脚一閃。


左斜め45度の角度から放たれた呉のシュートは、ゴールマウスの右上隅を突き刺した。

獅子浜のゴールキーパーも呉のシュートには反応していたが、わずかに手が届かなかった。


ピッ、ピーーーーーーーー。


ゴールを告げる笛がピッチ上に高らかに鳴り響く。

その時間、開始わずか1分。

獅子浜高校の選手たちが呆然と立ち尽くす中、呉は両手を上げ、褒めてくれてもいいんだぜと言わんばかりのドヤ顔で、味方選手たちの方を見る。

呉の元には、フィールドプレイヤーのほぼ全員が駆け寄り、ゴールを決めた呉を手放しで賞賛しまくるのであった。

「ナイスシュート!呉さん!」
「フッ…いきなりゴールするとはね…大した選手だよ、君は。」
「よっしゃーーーー!よくやったぜ、呉!」

それに対して呉は鼻高々になりながら、自画自賛するのであった。

「ふっふっふ。まっ、これがストライカー呉の実力です!……といいたい所ですが。」

そう話を続ける呉は、鞍月の方に向き直りペコリと小さく頭を下げた。

「ナイスパスでした、鞍月先輩!私まだまだいけるんで、どんどんパスください!」

「ええ!もちろん!次も期待してるわよ!泉美!
さあ!皆切り替えて!向こうはさらに攻勢を強めてくる!しっかりと守るわよ!」

「おぉっ!」

鞍月は慢心することなく、チームメイト全体を鼓舞する。

その光景をピッチの外から見ていた修人はこれ以上ない結果に、小さくガッツポーズをした。

「よしっ!奇襲は大成功!最高の結果じゃないか!だが、ここからが本当の勝負どころだ……しっかり頼んだぜ、みんな!」


そう戒めた修人であったが、自身が監督となって初めて入ったこの得点に、大きな手応えを感じていた。

もしかしたらこの試合、行けるかもしれない。

そう思ってしまうほど、修人は自信に満ち溢れていた。




試合状況

桜ヶ峰 1-0 獅子浜

得点者
呉 泉美 1分
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