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第二十七話 初陣
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「本郷さんは片桐監督のことが昔から好きなんスよね?なのになーんで、あんな愛想の無い態度を取っちゃうんですか?」
グラウンド脇にあるベンチにて、口封じからようやく解放された呉は不機嫌そうに本郷を問い詰める。
「うう…だって、私この部活の主将だし、皆が見てる前では威厳を保たないといけないからつい意地張っちゃって…」
いじける本郷を見て、呉は大きな溜め息をついた。
「はあ…多分ですけど、他の部員も全員知ってると思いますよ?だって、見ててバレバレなんですもん。」
「えぇっ⁉︎そそそ、そうなのかっ⁉︎」
動揺する本郷に対して、呉はさらに話を続ける。
「ちなみに言っときますと、当時のアンダー15選抜の女子選手は全員知ってましたし。」
「う…嘘でしょーーーー⁉︎な、なんで言ってくれなかったの⁉︎」
「いやあ…暁月さんがプライベートなことだから、そっとしとけって言ってたんで。」
「ぐぬぬ…まさか呉……修人にそのことを言って…?」
「いや、神に誓って言ってないです。もし本郷さんがその気なら、私も協力はしますよ?」
呉の申し出に、本郷は少し考えた後小さく首を横に振った。
「いやいい。実は私の中で一つ決めていることがあってな。修人が率いたチームに勝ったら、この気持ちを伝えようって思っているんだよ。
私は今まで幾度となく修人に戦いを申し込んできたけど、結局一度もあいつに勝つことができなかった。
だから今日、あいつの率いるチームに勝って私を認めてもらいたいんだ。強くなったなって言ってもらえてようやく、あいつの隣に並べることができると思ってるんだ。
呉の申し出はありがたいけど、自分の問題は自分で解決しなくちゃな!」
負けるつもりなど毛頭ない。
本郷はそんな自信に満ち溢れた目で呉を見る。
「……そうですか。じゃあ、交渉決裂ですね。私らはこの試合で片桐監督を賭けているんだ。悪いですけど本郷さん。そうやすやすとあなたに告白なんてさせませんよ。」
そう言って、呉は不敵な笑みを浮かべるのであった。
--------------------------------------
「さあ、皆さん着きましたよ。ここが我々のグラウンドです。」
三田の案内で、グラウンドに到着した桜ヶ峰女子サッカー部一行は自分たちの練習場との違いに唖然としていた。
「はぇーーすごいなーこれ。天然の芝だよ。」
小宮山はそう言うといきなり大の字に倒れ、コロコロと芝生の上を寝転がり始める。
小宮山の言う通り、広いグラウンドには一面天然の芝が敷かれており、そこで練習している部員たちは、様々な設備や道具を使ってトレーニングを行っていた。
充実した練習場にしばらく見惚れていた桜ヶ峰サッカー部員たちの所に一人の女性が歩み寄り声をかける。
「ようこそ、獅子浜高校へ。」
黒いスーツを身に纏ったその女性は、どこか凛とした雰囲気を漂わせていた。
「獅子浜高校女子サッカー部の監督を務めております毛利と申します。今日はよろしくお願いしますね、片桐監督。」
毛利は右手を修人の前に差し出し、握手を求める。
「あ…どうも、桜ヶ峰高校監督の片桐です。今日はよ…よろしくお願い致します。」
大人の余裕をちらつかせる毛利に対して、修人はガチガチに緊張しながらその握手に応えた。
「フフ…あなたのことはもちろん知っていますよ、片桐監督。かつては天才の名を欲しいままにした世代別代表プレイヤー…こういう形でもお会いすることができて嬉しい限りですわ。」
毛利の言葉に、修人は満更でも無さそうに顔を赤くする。
「ハハ…そう言ってもらえて光栄です。今日は胸を借りるつもりで、挑ませてもらいますよ。」
「ええ。我々も高校生の監督だからと言って、一切手を抜くつもりはありません。獅子はどのような相手であっても全力をもってして戦う…今日はそんなサッカーをお見せして差し上げますわ。」
「望む所ですよ。」
長い握手を解いた後、修人と毛利はお互いの目を真っ直ぐに見据える。
その両者の間には、試合が始まる前から既に熱い火花が飛び散っているのであった。
--------------------------------------
桜ヶ峰高校側の控え室。
修人はホワイトボードを使いながら、選手たちと作戦の最終確認を行なっていた。
「……作戦は以上だ。何か質問のあるやつはいるか?」
「はい。」
手を上げたのは、左サイドバックの犬塚だった。
「向こうの監督さん…全力で来るって言ってたけど、ウチらホントに勝てるのかな…?」
「……不安か犬塚?」
「そりゃ、ふ…不安だよ!だってウチ素人だし!向こうの人たちのレベルは高いし、負けたら監督いなくなっちゃうし!初試合なのにハードル高すぎるよぉ!」
半ベソをかいて弱音を吐く犬塚に対して、修人は言い聞かせるようにゆっくりと話し始める。
「犬塚、サッカーっていうのはな一人のミスをみんなで補うことができるスポーツなんだ。一番やっちゃいけないのはミスを恐れて終始無難なプレーをすることだ。
いいか!ミスを恐れるな!
リスクを冒さなきゃ活路を見出だすことなんてできないんだ!
俺はお前らが勝てるって信じてる!
自信を持って何度でも言ってやる!
だからお前らも俺の作戦を信じてプレーしてくれ!」
修人の燃えるような真剣な眼差しに犬塚の目にも光が宿る。
「はい…!私にできることを、全力でやりきります!」
「よし!じゃあ行くぞ!獅子浜高校の連中に一泡吹かしてやろうぜ!」
「おぉーーーーーーーーっ!」
控え室には、元気の良い大きな掛け声が響き渡る。
桜ヶ峰女子サッカー部の初陣が今、幕を開けようとしていた。
グラウンド脇にあるベンチにて、口封じからようやく解放された呉は不機嫌そうに本郷を問い詰める。
「うう…だって、私この部活の主将だし、皆が見てる前では威厳を保たないといけないからつい意地張っちゃって…」
いじける本郷を見て、呉は大きな溜め息をついた。
「はあ…多分ですけど、他の部員も全員知ってると思いますよ?だって、見ててバレバレなんですもん。」
「えぇっ⁉︎そそそ、そうなのかっ⁉︎」
動揺する本郷に対して、呉はさらに話を続ける。
「ちなみに言っときますと、当時のアンダー15選抜の女子選手は全員知ってましたし。」
「う…嘘でしょーーーー⁉︎な、なんで言ってくれなかったの⁉︎」
「いやあ…暁月さんがプライベートなことだから、そっとしとけって言ってたんで。」
「ぐぬぬ…まさか呉……修人にそのことを言って…?」
「いや、神に誓って言ってないです。もし本郷さんがその気なら、私も協力はしますよ?」
呉の申し出に、本郷は少し考えた後小さく首を横に振った。
「いやいい。実は私の中で一つ決めていることがあってな。修人が率いたチームに勝ったら、この気持ちを伝えようって思っているんだよ。
私は今まで幾度となく修人に戦いを申し込んできたけど、結局一度もあいつに勝つことができなかった。
だから今日、あいつの率いるチームに勝って私を認めてもらいたいんだ。強くなったなって言ってもらえてようやく、あいつの隣に並べることができると思ってるんだ。
呉の申し出はありがたいけど、自分の問題は自分で解決しなくちゃな!」
負けるつもりなど毛頭ない。
本郷はそんな自信に満ち溢れた目で呉を見る。
「……そうですか。じゃあ、交渉決裂ですね。私らはこの試合で片桐監督を賭けているんだ。悪いですけど本郷さん。そうやすやすとあなたに告白なんてさせませんよ。」
そう言って、呉は不敵な笑みを浮かべるのであった。
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「さあ、皆さん着きましたよ。ここが我々のグラウンドです。」
三田の案内で、グラウンドに到着した桜ヶ峰女子サッカー部一行は自分たちの練習場との違いに唖然としていた。
「はぇーーすごいなーこれ。天然の芝だよ。」
小宮山はそう言うといきなり大の字に倒れ、コロコロと芝生の上を寝転がり始める。
小宮山の言う通り、広いグラウンドには一面天然の芝が敷かれており、そこで練習している部員たちは、様々な設備や道具を使ってトレーニングを行っていた。
充実した練習場にしばらく見惚れていた桜ヶ峰サッカー部員たちの所に一人の女性が歩み寄り声をかける。
「ようこそ、獅子浜高校へ。」
黒いスーツを身に纏ったその女性は、どこか凛とした雰囲気を漂わせていた。
「獅子浜高校女子サッカー部の監督を務めております毛利と申します。今日はよろしくお願いしますね、片桐監督。」
毛利は右手を修人の前に差し出し、握手を求める。
「あ…どうも、桜ヶ峰高校監督の片桐です。今日はよ…よろしくお願い致します。」
大人の余裕をちらつかせる毛利に対して、修人はガチガチに緊張しながらその握手に応えた。
「フフ…あなたのことはもちろん知っていますよ、片桐監督。かつては天才の名を欲しいままにした世代別代表プレイヤー…こういう形でもお会いすることができて嬉しい限りですわ。」
毛利の言葉に、修人は満更でも無さそうに顔を赤くする。
「ハハ…そう言ってもらえて光栄です。今日は胸を借りるつもりで、挑ませてもらいますよ。」
「ええ。我々も高校生の監督だからと言って、一切手を抜くつもりはありません。獅子はどのような相手であっても全力をもってして戦う…今日はそんなサッカーをお見せして差し上げますわ。」
「望む所ですよ。」
長い握手を解いた後、修人と毛利はお互いの目を真っ直ぐに見据える。
その両者の間には、試合が始まる前から既に熱い火花が飛び散っているのであった。
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桜ヶ峰高校側の控え室。
修人はホワイトボードを使いながら、選手たちと作戦の最終確認を行なっていた。
「……作戦は以上だ。何か質問のあるやつはいるか?」
「はい。」
手を上げたのは、左サイドバックの犬塚だった。
「向こうの監督さん…全力で来るって言ってたけど、ウチらホントに勝てるのかな…?」
「……不安か犬塚?」
「そりゃ、ふ…不安だよ!だってウチ素人だし!向こうの人たちのレベルは高いし、負けたら監督いなくなっちゃうし!初試合なのにハードル高すぎるよぉ!」
半ベソをかいて弱音を吐く犬塚に対して、修人は言い聞かせるようにゆっくりと話し始める。
「犬塚、サッカーっていうのはな一人のミスをみんなで補うことができるスポーツなんだ。一番やっちゃいけないのはミスを恐れて終始無難なプレーをすることだ。
いいか!ミスを恐れるな!
リスクを冒さなきゃ活路を見出だすことなんてできないんだ!
俺はお前らが勝てるって信じてる!
自信を持って何度でも言ってやる!
だからお前らも俺の作戦を信じてプレーしてくれ!」
修人の燃えるような真剣な眼差しに犬塚の目にも光が宿る。
「はい…!私にできることを、全力でやりきります!」
「よし!じゃあ行くぞ!獅子浜高校の連中に一泡吹かしてやろうぜ!」
「おぉーーーーーーーーっ!」
控え室には、元気の良い大きな掛け声が響き渡る。
桜ヶ峰女子サッカー部の初陣が今、幕を開けようとしていた。
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