しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

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第二十三話 炎のストライカー

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「……ここだな。が監督をしてるっつー高校は。」

桜ヶ峰高校の正門前。
着崩した学ラン、燃えるような赤い髪色のツンツン頭、人相の悪い三白眼という、不良の要素を全て詰め込んだような男が一人、腕を組みながら仁王立ちをしていた。

鋭い目つきで校内をにらみ続ける赤髪の男は、どこか威圧感のある雰囲気を纏っており、下校中の桜ヶ峰生徒はその男と関わるまいと、距離を置きながらそそくさと正門をすり抜けていくのであった。

しかしそんな中、勇気ある一人の生徒がその男に声をかける。

「あのー…ウチの学校になんか用ッスか?その学ラン、獅子浜高校の人ッスよね?」

男に声をかけたのは、女子サッカー部のキーパーの宇田川であった。
男は宇田川の方に向き直り、その見た目とは裏腹に人懐っこい口調で話始めた。

「おうよ!俺は獅子浜高の火野ってモンなんだが、実はこの高校にいる片桐 修人って男を探してるんだ。どうやら、女子サッカー部の監督をやってるらしいんだがよぉ…お嬢さん、なんか心当たりあるかい?」

「ああ!それウチの監督ッスよ!ワタシその女子サッカー部なんで、呼んできましょーか?」

「おお!ホントかい!こりゃ幸先いいぜぇ!頼む!そいつを呼んできちゃくれないか?」

火野は深々と頭を下げて頼みこんだ。宇田川はその頼みを躊躇することなく快諾する。

「いいッスよー。ちょっと待ってて下さいネ…って、おや?どうやら呼んでくるまでもなさそうッスね。お目当ての人物が向こうからやってきましたヨ。」

宇田川が指をさした先には、ジャージを着た修人が歩いて来るのが見えた。

「おーい、宇田川ー。外周ランニング終わったかー?次の練習メニューを説明するからグラウンドに…」

「修人おおおおおぉっ!!!」

火野は修人の姿を捉えるや否や、雄叫びをあげながら全速力で修人の元へ走り出す。
そしてそのままジャージの胸ぐらに掴みかかり、鋭い目つきで修人の顔をにらみつけるのであった。

「ぐえぇ!誰だ⁉︎い…いきなり何すんだよ…ってお前…英翔えいしょうか⁉︎なんでこんなところにいるんだよ?」

「しゅ…修人ぉ…。」

火野は怒るのかと思いきや、今度はいきなり滝のような涙を流し始める。

「お…おい、おいおいおい。なんだよ英翔。どうしたいきなり?全然話が見えてこねーんだけど…」

「俺は!お前がいないと駄目なんだああぁああっっ!!!!」

火野の言葉に周囲にいた桜ヶ峰生徒たちがざわつきだす。その一方で宇田川は、

「あ…熱い展開キターーーー!」

なぜか頰を紅潮させ、鼻息を荒くしているのであった。

火野は修人にすがりつきながら、わんわんと大声で泣き始める。

「修人ぉ!俺の元へ戻ってきてくれよおおぉ!」

「往来で誤解を招くようなこと言うんじゃねーーー‼︎」

宇田川を除く周囲の生徒たちの反応が、ざわめきからどよめきに変わる。
その反応を見た修人はこれはまずいと思い、弁解を試みる。

「い、いやあの、違うんです!こいつは昔やってたサッカーのチームメイトでして、つまりその…俺に選手としてチームに戻ってきてほしいってことを言ってるんだと思います!だから決してあの、そーゆう関係では…」

「俺はお前がいないと生きていけないんだああぁあぁ‼︎」

「てめぇもう黙れよおおおおおぉ‼︎」

周囲への弁解はもう無理だと悟った修人は、この場からの撤退を試みることにした。

「とりあえず、こいつを部室に連れて行くしかねぇ…すまんが宇田川、こいつを連れてくの手伝ってくれねーか…って、何してんだ?」

宇田川はそんな二人を見ながら、ありがたそうに両手を合わせて拝んでいた。

「いやいや…お二人の姿が尊すぎて、拝まずにはいられません……ワタシの創作意欲もムクムクと湧いてきましたヨ。ヒノ×カタ…?いや、カタ×ヒノもアリ⁉︎」

「おーい、何ぶつぶつ言ってるんだ?」

独り言をつぶやく宇田川は、修人の呼びかけに我に返る。

「ハッ⁉︎またうっかり妄想してしまってたッス!いやいや、それにしても本当に良いモノを拝ませていただきました。ご馳走さまでした!片桐監督!」

「いや、お前…ホント何言ってんの?」

宇田川はそれ以上何も言うことはなく、ただただ清々しい爽やかな笑顔を、修人に向けるだけであった。

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「ふう…すまん修人。久々にお前の顔を見て、感情が爆発しちまった。他の部員の人たちも、迷惑かけてすまなかった!許してくれ!この通りだ!」

桜ヶ峰女子サッカー部の部室内。
ようやく気持ちが落ち着いた火野は、その場にいたサッカー部員たちに深々と頭を下げる。

修人は大きくため息を吐き、火野に頭を上げるよう促した。

「もういいよ…別に。それよりお前、俺を連れ戻しにわざわざここまでやってきたのか?」

「ああもちろんだ!俺はお前を現役復帰させる為、説得しにきたんだよ!」

「あのなぁ…前にも連絡したけど、俺は今ここで監督やってんだよ。そして選手に復帰する気はさらさらない。話は終わりだ、さあ帰った帰った。」

そう言って修人は、火野を部室から追い出そうとする。しかし、火野は頑としてそこから動こうとしなかった。

「いーや!諦めねぇ!お前が首を縦に振るまではな!」

「なんでだよ!てか第一、日本代表にも選ばれてるお前がなんで俺を連れ戻そうとするんだよ?俺より優秀な奴なんていくらでもいるだろうが。」

修人のその言葉を聞いた辻本が、何かを思い出したような顔をして、二人の会話に割って入る。

「もしかして…火野さんってあの『炎のストライカー』の火野英翔さんですか⁉︎」

それを聞いた火野は、嬉しそうな顔をしながら辻本の顔を見る。

「おうよ!俺がその『炎のストライカー』火野英翔さ!」

「美希ちゃーん。この人、そんな有名なんスか?」

宇田川はにわかに信じられないと言いたげな顔で辻本に問いかける。

「ええ…U-15日本代表で最多得点記録を持っているのは、他でもないこの人よ。かつて修人くんと火野さんのホットラインで、強豪のドイツ代表を破ったことは今でも語り草になってるぐらいだわ。」

「へぇ…そうなんスか…本当になんでそんなすごい人が、説得する為だけにこんなところまで来たんスかねぇ?」

火野は沈痛な面持ちで、その宇田川の問いに答えた。

「スランプになっちまったんだ…」

「え?」

「修人…お前がいなくなっちまってから、全然ゴールを決められねーんだよおおおおぉ!うわあああぁーーーん‼︎」

そう言って火野は再び大声で泣き始める。

一方で修人は、とてつもなくめんどくさいものを持ち込んでしまったと、頭を抱え後悔するのであった。
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