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第二十一話 呉の独白2
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堀内監督に直談判しに行った後も、私たちの状況は変わらなかった。
チームの成績も好転することはなく、いつの間にかリーグ順位は下から数えた方が早い位置にまで落ちていた。
堀内監督は毎試合ごとに頭を抱えているけど、頭を抱えたいのはこっちの方だっての。
試合後のロッカールームでは、愛佳がチームメイトに当たり散らしていた。
「もっと近い位置にいてくれないとパスの出しどころが無いんだよ!なんでもっと考えて動いてくれないかなぁ⁉︎」
「ご、ごめん…間宮さん。」
愛佳がボールを持ち過ぎてんのが悪いんだけどな。
謝る必要なんて全くねーのに。やっぱり、逆らうと私らのようになるって愛佳に言われてんだろうな。
正直、スタメンで出れねーのには納得できねーが、試合に負ける方がもっと胸糞悪りぃ。
しゃーない。ここはひとつ言っとくか。
「なあ、ちょっといいか?」
「なに?私になんか意見するつもり?」
「そう噛み付くなよ、愛佳。だがまあ、はっきり言わせてもらうとお前んトコが穴になってる。それは自分でも感じてるだろ?」
「私が司令塔なんだから、狙われるのは当然よ。だからもっと周りがサポートしなさいって言ってんのよ!」
「それは甘えに聞こえるぜ。お前優奈のプレーをちゃんと見たことあるかよ?あいつは味方の動きに合わせてパスの早さや長短を使い分けてる。これは各チームメイトの試合のVTRを何度も何度も見て、ようやく会得した技術なんだ。
勘違いすんじゃねーぞ。司令塔は王様じゃねえ。ましてや、チームメイトはお前の手下じゃねーんだよ。」
「……言いたいことはそれだけかしら?」
……チッ、やっぱこいつがこの程度で改心なんてするわけねーか。
「言いたいことは他にも山ほどあるが、今日はこれぐらいで勘弁してやるよ。」
愛佳は私を睨みつけた後、ロッカールームの扉を乱暴に開け出て行った。
「なあ?お前らはこれでいいと思ってんのかよ?」
ロッカールームに残ったチームメイトたちに問いかけてみたけど、皆俯くばかりで誰も私に目を合わせようとしなかった。
その中には優奈も含まれていた。
「どうした優奈?お前もこのままじゃまずいと思うだろ?」
「えっ……あ、うん、そうだね。ダメだよね、このままじゃ。」
優奈はまた、私に対して弱々しくニコリと笑うだけだった。
---------------------------------------
最近優奈が元気無いことに疑問を覚えた私は、優奈の行動を見張るようにした。
そしたら、その原因はすぐに明らかになった。
練習が終わった後のロッカールーム。
ユース生が帰っていく中、優奈と愛佳、そして愛佳の取り巻き二人がそこに残っていた。
私はというと、帰ったふりをしてロッカールームの扉の外から中の様子を伺っていた。
「ねえ佐和田さん。この前の件、答えは出してくれたかしら?」
愛佳は威圧感たっぷりに、優奈に問いかける。
「うん…そのことなんだけどね。やっぱり私はこのクラブでまだ頑張りた…」
「佐和田さん!」
愛佳の突然の怒鳴り声に優奈は肩をビクッと震わせる。
「邪魔なのよ…あなたが本当に邪魔で邪魔でしょうがないの!
最初は道端に転がる石ころ程度の存在だったくせに……!屈辱だった!あなた如きにスタメンを奪われたのが!
スタメンに戻った今でも…あなたは私の枷になり続けてる…!
私が出た時より、あなたが出た時の方が勝てるなんて、あってはならないことなのよ!
あなたが視界に入る度に屈辱的な気持ちになる。劣等感に苛まれる。
私が再び輝くには、あなたにこのクラブから出て行ってもらうしかないのよ!それがどうしてわからないの!」
愛佳は半狂乱になりながら、優奈に罵声を浴びせた。
「でも…でも!私だって諦められない!泉美と約束したんだ!二人でまたこのチームを勝たせるんだって。」
「そう……あなたは、もっと痛めつけてやらないとわからないのね。あなたの心をへし折るまでね…今までの比じゃないわよ。覚悟しなさい。」
もっと痛めつけてやらないと……?
そうか。最近元気が無かったのは、それが原因か。
自分勝手な理由で優奈を退団するように執拗に追いつめてたんだ。肉体的、精神的に痛めつけて。私の親友を。
許 せ ね ぇ。
こいつはもう救いようがない。そう思った時にはもう、ロッカールームの扉を押し開けていた。
「愛佳ああぁっ!」
右の拳で愛佳の左頬を思い切り殴る。
「お前は…やっちゃいけねーラインを超えた!今まで優奈に何をしてきた!言え!言えよコラァ!」
私は愛佳にマウントを取りながら殴り続ける。
「やめて!泉美!」
「お前ら!ここで何してる!」
優奈の泣き叫ぶ声が聞こえる。
騒ぎを聞きつけてやってきた堀内監督の怒鳴り声が聞こえる。
それでも冷静さを欠いていた私は殴るのをやめることができなかった。
結局私はその場で取り押さえられ、そのままクラブハウスの事務所に連れてかれた。
その後のことは、あんまり覚えてない。
だからまあざっくり簡単に言うと、現行犯で取り押さえられたからクラブとしては擁護できない。他のユース生との関係にも支障が出る、とのことから自主退団を進められた。
「……わかりました。」
自分でも驚くぐらいに、あっさりとその場で了承をしてしまった。
きっともう、色々疲れてしまっていたんだと思う。
楽しくてやってたはずのサッカーだったのに。
なんでこんなことになったんだろうな。
なあ、優奈。
約束、守れなくてごめんな。
でもお前なら、きっとこのユースでまた輝くことができるって信じてるよ。
「この道を歩くのも、これで最後かあ…」
歩き慣れたいつもの桜並木の帰り道。
強く吹く風の音を聞きながら一人、クラブハウスを後にする。
こうして、私のサッカー人生は幕を閉じたのだった。
チームの成績も好転することはなく、いつの間にかリーグ順位は下から数えた方が早い位置にまで落ちていた。
堀内監督は毎試合ごとに頭を抱えているけど、頭を抱えたいのはこっちの方だっての。
試合後のロッカールームでは、愛佳がチームメイトに当たり散らしていた。
「もっと近い位置にいてくれないとパスの出しどころが無いんだよ!なんでもっと考えて動いてくれないかなぁ⁉︎」
「ご、ごめん…間宮さん。」
愛佳がボールを持ち過ぎてんのが悪いんだけどな。
謝る必要なんて全くねーのに。やっぱり、逆らうと私らのようになるって愛佳に言われてんだろうな。
正直、スタメンで出れねーのには納得できねーが、試合に負ける方がもっと胸糞悪りぃ。
しゃーない。ここはひとつ言っとくか。
「なあ、ちょっといいか?」
「なに?私になんか意見するつもり?」
「そう噛み付くなよ、愛佳。だがまあ、はっきり言わせてもらうとお前んトコが穴になってる。それは自分でも感じてるだろ?」
「私が司令塔なんだから、狙われるのは当然よ。だからもっと周りがサポートしなさいって言ってんのよ!」
「それは甘えに聞こえるぜ。お前優奈のプレーをちゃんと見たことあるかよ?あいつは味方の動きに合わせてパスの早さや長短を使い分けてる。これは各チームメイトの試合のVTRを何度も何度も見て、ようやく会得した技術なんだ。
勘違いすんじゃねーぞ。司令塔は王様じゃねえ。ましてや、チームメイトはお前の手下じゃねーんだよ。」
「……言いたいことはそれだけかしら?」
……チッ、やっぱこいつがこの程度で改心なんてするわけねーか。
「言いたいことは他にも山ほどあるが、今日はこれぐらいで勘弁してやるよ。」
愛佳は私を睨みつけた後、ロッカールームの扉を乱暴に開け出て行った。
「なあ?お前らはこれでいいと思ってんのかよ?」
ロッカールームに残ったチームメイトたちに問いかけてみたけど、皆俯くばかりで誰も私に目を合わせようとしなかった。
その中には優奈も含まれていた。
「どうした優奈?お前もこのままじゃまずいと思うだろ?」
「えっ……あ、うん、そうだね。ダメだよね、このままじゃ。」
優奈はまた、私に対して弱々しくニコリと笑うだけだった。
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最近優奈が元気無いことに疑問を覚えた私は、優奈の行動を見張るようにした。
そしたら、その原因はすぐに明らかになった。
練習が終わった後のロッカールーム。
ユース生が帰っていく中、優奈と愛佳、そして愛佳の取り巻き二人がそこに残っていた。
私はというと、帰ったふりをしてロッカールームの扉の外から中の様子を伺っていた。
「ねえ佐和田さん。この前の件、答えは出してくれたかしら?」
愛佳は威圧感たっぷりに、優奈に問いかける。
「うん…そのことなんだけどね。やっぱり私はこのクラブでまだ頑張りた…」
「佐和田さん!」
愛佳の突然の怒鳴り声に優奈は肩をビクッと震わせる。
「邪魔なのよ…あなたが本当に邪魔で邪魔でしょうがないの!
最初は道端に転がる石ころ程度の存在だったくせに……!屈辱だった!あなた如きにスタメンを奪われたのが!
スタメンに戻った今でも…あなたは私の枷になり続けてる…!
私が出た時より、あなたが出た時の方が勝てるなんて、あってはならないことなのよ!
あなたが視界に入る度に屈辱的な気持ちになる。劣等感に苛まれる。
私が再び輝くには、あなたにこのクラブから出て行ってもらうしかないのよ!それがどうしてわからないの!」
愛佳は半狂乱になりながら、優奈に罵声を浴びせた。
「でも…でも!私だって諦められない!泉美と約束したんだ!二人でまたこのチームを勝たせるんだって。」
「そう……あなたは、もっと痛めつけてやらないとわからないのね。あなたの心をへし折るまでね…今までの比じゃないわよ。覚悟しなさい。」
もっと痛めつけてやらないと……?
そうか。最近元気が無かったのは、それが原因か。
自分勝手な理由で優奈を退団するように執拗に追いつめてたんだ。肉体的、精神的に痛めつけて。私の親友を。
許 せ ね ぇ。
こいつはもう救いようがない。そう思った時にはもう、ロッカールームの扉を押し開けていた。
「愛佳ああぁっ!」
右の拳で愛佳の左頬を思い切り殴る。
「お前は…やっちゃいけねーラインを超えた!今まで優奈に何をしてきた!言え!言えよコラァ!」
私は愛佳にマウントを取りながら殴り続ける。
「やめて!泉美!」
「お前ら!ここで何してる!」
優奈の泣き叫ぶ声が聞こえる。
騒ぎを聞きつけてやってきた堀内監督の怒鳴り声が聞こえる。
それでも冷静さを欠いていた私は殴るのをやめることができなかった。
結局私はその場で取り押さえられ、そのままクラブハウスの事務所に連れてかれた。
その後のことは、あんまり覚えてない。
だからまあざっくり簡単に言うと、現行犯で取り押さえられたからクラブとしては擁護できない。他のユース生との関係にも支障が出る、とのことから自主退団を進められた。
「……わかりました。」
自分でも驚くぐらいに、あっさりとその場で了承をしてしまった。
きっともう、色々疲れてしまっていたんだと思う。
楽しくてやってたはずのサッカーだったのに。
なんでこんなことになったんだろうな。
なあ、優奈。
約束、守れなくてごめんな。
でもお前なら、きっとこのユースでまた輝くことができるって信じてるよ。
「この道を歩くのも、これで最後かあ…」
歩き慣れたいつもの桜並木の帰り道。
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