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第十八話 間宮の陰謀

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「以上、明日の東京ユナイテッドユースとの試合はこのスタメンでいく。」

清水イングレスユースの練習場、そのミーティングルームにて堀内は白板を叩き、ユース生全員の注目を集めた。

白板に書かれているスターティングメンバーを見たユース生からは一斉にどよめきが起きる。

「間宮さんの代わりに佐和田がスタメン…?」

「これって…大丈夫なの?」

ユース生からの不安の声をかき消すように、堀内は一段と大きい声で今回のスタメン起用について説明を始めた。

「あー、今回のスタメンは練習で調子の良いやつを基準に選考した。初の試みではあるが、この選考はチーム内の競争意識を高めるという目的も兼ねている。
だから、選ばれなかったものについても肩を落とす必要は全くないぞ!
ポジションを奪われたら、奪い返す。そういう気持ちを持って普段の練習に臨むんだ。いいな、お前たち!」

「「はーい」」

元気よく返事するもの、不貞腐れたように返事するもの、ユース生の間では明暗がはっきりと分かれていた。

不貞腐れた返事をした者の中には、今回佐和田にポジションを奪われた、間宮 愛佳まみや あいかも含まれているのであった。

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その日の帰り道、呉の隣を歩く佐和田は嬉しそうにニヤついていた。

「まーだニヤついてんのかよ、優奈?」

呉が呆れたように笑うと、佐和田はさらに顔を綻ばせながら笑った。

「だって改めて聞くとまた嬉しくなっちゃって。それに実感もなくってさ…まだ夢を見てるみたいだよ。」

「ふ…前にも言ったけど、もっと自分に自信を持てよ。実力で勝ち取ったスタメンなんだからさ。
だが、今後はチーム内の競争が一段と激しくなる。しっかり定着できなきゃ意味ねぇからな。あんま浮かれすぎんなよ?」

「わかってるよ、泉美。それにしても堀内監督も結構思い切ったことをしたよねー。」

「ああ。今までは割と固定されたスタメン選考だったから、今回の改革をあまり面白く思ってないユース生もいるかもしれないなー、特に愛佳辺りなんかは納得してなさそう。」

「うう…泉美、そういうこと言う…?」

間宮からポジションを奪う形でスタメンとなった佐和田は、罪悪感からか少し落ち込んだ様子で呉に文句を垂れた。

「何だよ、別に優奈が落ち込むことはないだろ?これからは一軍も二軍も関係ねぇ、実力あるものが選ばれるスタメン争いが始まったワケなんだからな。面白くなってきやがったじゃねーか。」

「泉美は元からスタメンなのに、今回のことすんなり受け入れるんだね。」

「ああ、もちろん。最近のスタメン組は気合が足りねぇと思ってた所だしな。あいつらにとっても良い刺激になるだろうよ。
私だって競争上等だ!無論誰にもスタメンを譲るつもりはねぇからな!」

「フフッ、泉美は強いんだね。」

「そうか?むしろ今までがおかしいと思ってたぐらいだよ私は。
トップチームの監督の娘だからって、優先的にスタメンにされてたりしてさ。実力的には優奈の方がずっと上だと思ってたから、堀内監督は英断だったと思うわ。」

「ちょっと泉美!誰かに聞かれてたらヤバイよ!」

「何だよ、別にいいじゃねーか。なんてったって、優奈からのパスが一番しっくり来るんだからな。だから私自身もワクワクしてる。優奈と一緒に試合に出れることがな。」

「あ…う…」

「どうした、優奈?なんか顔が赤いぞ。」

「泉美はズバッと恥ずかしいことを言うから、油断ならないなぁ。」

「ありゃ、そうだったか。思ったことを考えずにすぐ言っちゃうからなぁ私は。それでチームメイトとトラブったりすることもあるし、気をつけねーとなー。」

呉の反省を聞いた佐和田は小さく首を横に振った。

「泉美はそのままでいいんだよ。遠慮する泉美なんて、なんか気味悪いし。ズバズバ言ってくれる方が好きだな、私は。」

それを聞いた呉はブッと吹き出した。

「お前も思ったこと言ってるじゃねーかよ!しかもそれ褒めてんのかわかんねーし!」

「そうだった?フフッ、ハハハ…」

夕暮れの桜並木には二人の笑い声がいつまでも響いていた。

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ユース生が全員帰ったミーティングルームでは堀内が一人、東京ユナイテッドユースの試合をモニターで見ながら戦術を考えていた。

そこに扉をノックする音が聞こえてくる。

「どうぞ。」

「邪魔するぞ。」

そこに現れたのは白髪混じりの髪をオールバックにした初老の男性であった。

「間宮…監督。愛佳のお迎えですか、お疲れ様です。」

「それだけだったら、わざわざ君の所まで訪ねたりはせんよ。私が何を言いにここへ来たか、君はもうわかっているのではないのかね?」

「……明日の試合のスタメンについて、ですか。」

「そうだ。我が娘の愛佳をスタメンから外したそうじゃないか。これは一体どういうつもりかね、堀内?」

「愛佳は最近パフォーマンスが低調だったので外しました。これからは固定されたスタメンではなく、調子の良い選手をスタメンにするという方針に切り替えていくつもりです。
ご自身の娘さんを大事に思う気持ちも分かりますが、ここはひとつ納得してもらえませんか?」

「ふむ…よくわかったよ堀内くん。君はユース監督の分際で、トップチームの監督である私に逆らうというわけだね。」

「そこに上下関係はないと思いますが?」

堀内を問い詰めるこの男、間宮 泰三まみや たいぞうは間宮 愛佳の父親でありながら、清水イングレストップチームの監督を務めていた。

間宮 泰三は冷静な分析力で、相手チームの戦術の隙を突くインテリジェンスな監督としてクラブオーナーからも絶大な信頼を寄せられているが、一人娘の愛佳を溺愛しているという側面を持っていた。
それはユースでの練習を終えた娘を、毎日高級な自家用車で迎えに来るほどである。

おおよそ、自分の娘からスタメンを外されたことを聞き、クレームをつけにここへ訪れたのだと容易に想像できた。

「それなら私にも考えがある。楽しみにしていたまえ、堀内ユース監督。」

間宮は不気味にニヤリと笑い、ミーティングルームを後にした。

「俺、クビになるかもしれないなー…」

堀内は弱々しく苦笑いしながら、明日の試合の研究に戻るのであった。
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