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第十六話 懺悔
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「ここに来るのも久々だなー。最後に来たのは小学生の時以来か。」
部活での練習が終わった後、修人は一人とある場所を訪れていた。
オレンジ色を基調としたエンブレムの旗が掲げられたクラブハウス、そしてその横には手入れの行き届いた芝生のサッカーグラウンドが広がっていた。
修人が訪れていた場所は、プロサッカークラブ『清水イングレス』の下部組織、ジュニアユースの練習場。
練習を終えたばかりのユース選手の二人組が遠巻きに修人を見ながら、ヒソヒソ声で会話をしていた。
「クラブハウスの前にいるあの人…片桐修人選手じゃない?まさか、うちに来てくれるのかなあ⁉︎」
「いやいや、それはないって。片桐選手はサッカーやめたんだよ。私、雑誌で見たしー。」
「じゃあ、なんでこんなとこ来てんのさ!」
「うーん…なんでだろ?」
そこに一人の大柄な中年男性が、話をしていた二人の間に割って入る。
「こら、お前たち!練習は終わったんだぞ!さっさと帰った帰った!」
「「はーい」」
その男性はユース選手たちをシッシッと追い払う。
その後、修人の姿を見つけるとニヤッと笑い、足早に修人の方へ向かってきた。
「よう修人、久しぶりだな!昨日いきなりお前から連絡が来たもんだから、びっくりしたぞ!」
「お久しぶりです、堀内さん。突然連絡してしまってすみませんでした。」
「なぁに、良いってことよ。武人の息子の頼みだからな!断るわけにはいかねぇさ。」
堀内はガハハと豪快に笑いながら、修人の肩をバンバンと叩く。
この大柄な男の名は堀内 智久。
修人の父である片桐 武人とは旧知の仲で、家族ぐるみの付き合いをしていた。選手時代は日本代表に選ばれるほどの実力者で、武人と共に日の丸を背負い世界の強豪と戦った過去を持つ。
引退後は清水イングレスのジュニアユースの監督を務めており、修人自身も幼い頃から、この堀内によくサッカーの指導をしてもらっていた。
「それで?電話で言ってた話したいことがあるってのは、一体何のことだい?そろそろ教えちゃくれねーか?」
堀内はこの場所に訪れた理由を修人に尋ねる。
修人は門前払いになることを恐れ、今日の今日までここに来た理由を堀内に伏せていたのであった。
「わかりました、単刀直入に言いましょう。今日俺がここに来たのは、かつてこのユースにいた呉 泉美について聞きたかったからです。
何故呉はここのジュニアユースを辞めたのか、教えていただけますか?」
修人は力強い眼差しで、堀内の目を真っ直ぐに見据える。
堀内は眉を少しだけピクリと動かし、キョロキョロと辺りを見回した。
「ここで話すのもなんだ。とりあえず、中で話を聞こうじゃねぇか。」
修人は堀内に促され、クラブハウスの中へと入っていくのであった。
---------------------------------------
クラブハウス内にあるミーティングルームに招かれた修人は、折りたたみ式のパイプ椅子に腰を下ろす。
机をはさんで、修人と対面になるように堀内も着席した。
数秒間の沈黙の後、堀内が重い口を開ける。
「…さて、呉が辞めた理由を聞きたいんだったな。だが、その前に修人。どうしてお前は呉のことについて知りたいんだ?お前ら接点なんてあったか?」
「そうですね…実は最近知り合ったんです。俺と同じ桜ヶ峰高校に通ってましてね。まさか将来を期待されたクラブのエースストライカーが、一学年下のクラスにいるとは思いませんでしたよ。」
修人の言葉に堀内は大きな声で笑い出した。
「それは、呉から見たお前も似たようなもんだろうが!まさか年代別日本代表の司令塔が、自分の一学年上にいるとは思ってないだろうて!」
「はは…確かにそうかもしれません。」
修人は気恥ずかしそうに笑いながら、頬をポリポリとかいた。
「天才同士は惹かれあうって言うんかねぇ……それで?呉とは友達になったのか?」
「いや…友達って言うのとはちょっと違うんです。指導者と選手の関係というか……まあ、まだチームの一員にはなってはいないんですが、いずれ必ず呉をうちのチームに迎え入れる予定です。」
「待て待て待て!修人、お前何を言ってる?誰が指導者だって?」
「俺です。実は俺今、桜ヶ峰女子サッカー部の監督をやってるんです。」
「おいおい!本当かよ!武人はそのことを知ってるのか⁉︎」
「いや、親父は多分…知らないと思います。まあ、そんなこと今は別にどうでもいい。
それよりも、呉のことです。俺はこの前呉を部活に誘ってみたのですが、彼女いわくもうサッカーへの情熱は冷めてしまったのだと、だからもうサッカーはやらないと断られてしまいました。」
「……そうか。」
堀内は腕組みをしながら、何かを考え込むように相槌を入れた。
それを見た修人はさらに追い討ちをかけるように話を続ける。
「俺はその原因が、ジュニアユース時代に起きたある出来事がきっかけなんじゃないかと思っているんです。
堀内さん…ここの指導者であるあなたなら、俺が何を言いたいかもうお気づきですよね?
呉が起こした暴力事件について、その時何が起きたのかを正直に話していただけませんか?」
言い切った修人は睨みつけるように、堀内の顔を見つめる。
目を閉じて考え込んでいた堀内は観念したのか、突然立ち上がり机に両手を付け深々と頭を下げた。
「すまん!俺が…俺が不甲斐ないばかりに!呉は…佐和田は…ユースを辞めることになったんだ…!彼女たちには、謝っても…謝りきれない…」
「その話、詳しく聞かせていただけますか?」
感情的になりながら告白する堀内に対して、修人は冷ややかな態度で全てを白状するよう促すのであった。
部活での練習が終わった後、修人は一人とある場所を訪れていた。
オレンジ色を基調としたエンブレムの旗が掲げられたクラブハウス、そしてその横には手入れの行き届いた芝生のサッカーグラウンドが広がっていた。
修人が訪れていた場所は、プロサッカークラブ『清水イングレス』の下部組織、ジュニアユースの練習場。
練習を終えたばかりのユース選手の二人組が遠巻きに修人を見ながら、ヒソヒソ声で会話をしていた。
「クラブハウスの前にいるあの人…片桐修人選手じゃない?まさか、うちに来てくれるのかなあ⁉︎」
「いやいや、それはないって。片桐選手はサッカーやめたんだよ。私、雑誌で見たしー。」
「じゃあ、なんでこんなとこ来てんのさ!」
「うーん…なんでだろ?」
そこに一人の大柄な中年男性が、話をしていた二人の間に割って入る。
「こら、お前たち!練習は終わったんだぞ!さっさと帰った帰った!」
「「はーい」」
その男性はユース選手たちをシッシッと追い払う。
その後、修人の姿を見つけるとニヤッと笑い、足早に修人の方へ向かってきた。
「よう修人、久しぶりだな!昨日いきなりお前から連絡が来たもんだから、びっくりしたぞ!」
「お久しぶりです、堀内さん。突然連絡してしまってすみませんでした。」
「なぁに、良いってことよ。武人の息子の頼みだからな!断るわけにはいかねぇさ。」
堀内はガハハと豪快に笑いながら、修人の肩をバンバンと叩く。
この大柄な男の名は堀内 智久。
修人の父である片桐 武人とは旧知の仲で、家族ぐるみの付き合いをしていた。選手時代は日本代表に選ばれるほどの実力者で、武人と共に日の丸を背負い世界の強豪と戦った過去を持つ。
引退後は清水イングレスのジュニアユースの監督を務めており、修人自身も幼い頃から、この堀内によくサッカーの指導をしてもらっていた。
「それで?電話で言ってた話したいことがあるってのは、一体何のことだい?そろそろ教えちゃくれねーか?」
堀内はこの場所に訪れた理由を修人に尋ねる。
修人は門前払いになることを恐れ、今日の今日までここに来た理由を堀内に伏せていたのであった。
「わかりました、単刀直入に言いましょう。今日俺がここに来たのは、かつてこのユースにいた呉 泉美について聞きたかったからです。
何故呉はここのジュニアユースを辞めたのか、教えていただけますか?」
修人は力強い眼差しで、堀内の目を真っ直ぐに見据える。
堀内は眉を少しだけピクリと動かし、キョロキョロと辺りを見回した。
「ここで話すのもなんだ。とりあえず、中で話を聞こうじゃねぇか。」
修人は堀内に促され、クラブハウスの中へと入っていくのであった。
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クラブハウス内にあるミーティングルームに招かれた修人は、折りたたみ式のパイプ椅子に腰を下ろす。
机をはさんで、修人と対面になるように堀内も着席した。
数秒間の沈黙の後、堀内が重い口を開ける。
「…さて、呉が辞めた理由を聞きたいんだったな。だが、その前に修人。どうしてお前は呉のことについて知りたいんだ?お前ら接点なんてあったか?」
「そうですね…実は最近知り合ったんです。俺と同じ桜ヶ峰高校に通ってましてね。まさか将来を期待されたクラブのエースストライカーが、一学年下のクラスにいるとは思いませんでしたよ。」
修人の言葉に堀内は大きな声で笑い出した。
「それは、呉から見たお前も似たようなもんだろうが!まさか年代別日本代表の司令塔が、自分の一学年上にいるとは思ってないだろうて!」
「はは…確かにそうかもしれません。」
修人は気恥ずかしそうに笑いながら、頬をポリポリとかいた。
「天才同士は惹かれあうって言うんかねぇ……それで?呉とは友達になったのか?」
「いや…友達って言うのとはちょっと違うんです。指導者と選手の関係というか……まあ、まだチームの一員にはなってはいないんですが、いずれ必ず呉をうちのチームに迎え入れる予定です。」
「待て待て待て!修人、お前何を言ってる?誰が指導者だって?」
「俺です。実は俺今、桜ヶ峰女子サッカー部の監督をやってるんです。」
「おいおい!本当かよ!武人はそのことを知ってるのか⁉︎」
「いや、親父は多分…知らないと思います。まあ、そんなこと今は別にどうでもいい。
それよりも、呉のことです。俺はこの前呉を部活に誘ってみたのですが、彼女いわくもうサッカーへの情熱は冷めてしまったのだと、だからもうサッカーはやらないと断られてしまいました。」
「……そうか。」
堀内は腕組みをしながら、何かを考え込むように相槌を入れた。
それを見た修人はさらに追い討ちをかけるように話を続ける。
「俺はその原因が、ジュニアユース時代に起きたある出来事がきっかけなんじゃないかと思っているんです。
堀内さん…ここの指導者であるあなたなら、俺が何を言いたいかもうお気づきですよね?
呉が起こした暴力事件について、その時何が起きたのかを正直に話していただけませんか?」
言い切った修人は睨みつけるように、堀内の顔を見つめる。
目を閉じて考え込んでいた堀内は観念したのか、突然立ち上がり机に両手を付け深々と頭を下げた。
「すまん!俺が…俺が不甲斐ないばかりに!呉は…佐和田は…ユースを辞めることになったんだ…!彼女たちには、謝っても…謝りきれない…」
「その話、詳しく聞かせていただけますか?」
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