しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

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第十話 8人目

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仙崎を探しに学校中を駆け回った修人であったが、結局見つけ出すことはできなかった。

何の成果もあげられず、部室に戻ってきた修人は大きな溜め息を吐き、部室のドアを開ける。

そこには、鬼のような形相の鞍月が仁王立ちしていた。

「ちょっと監督!部活をほっぽりだして一体どこまであの娘を探しに行ってたのよ‼︎」

鞍月はものすごい剣幕で、修人に食ってかかった。

「わ、悪い悪い。でも俺、やっぱり花恋を諦められねーんだよ。アイツは間違いなくこのチームの即戦力になる。
俺が説得して必ず入部させるからさ、もうちょい待っててくれよ、な?鞍月。」

修人の弁解にも鞍月はまだ納得がいかないといった様子だった。

「てゆーか、さっきまであの娘入部にかなり前向きだったじゃん。それがなーんで、こんなにこじれちゃってんのよ?」

「う…そ、それは…俺にもよくわからん…」

釈然としない修人の態度を見て、鞍月は呆れたような溜め息をついた。

「しっかりしてよね、全く。ま、いいわ。これから予定していたミーティングを始めるから、それにはしっかり参加してもらうからね!…とその前に監督に一つ朗報があります!」

「ん?そりゃ一体なんだ?」

「なんと!我がサッカー部に新しく部員が入りました!」

「本当か⁉︎で、で?そりゃあ一体誰なんだ⁉︎」

「ふっふっふー。まぁまぁ落ち着いて。それじゃあ美希ちゃん。あの娘呼んできてー」

「はーい♩少々お待ちをー」

そう言って辻本は部室のドアを開け、新入部員を呼びにいく。
程なくして、部室のドアが再び開く。
そこに辻本と共に現れたのは…

「君は…影野さん!サッカー部に来てくれたんだな!」

球技大会でスカウトした影野ひよりであった。

「こ…こんにちは…片桐くん。」

影野は注目をされるのが恥ずかしいようで、修人に向けて遠慮気味に手をひらひらと振った。

そんなことはお構いなしといった修人は影野に近づき、その小さな手を力強く握った。

「ありがとう!影野さん!俺は君が来てくれると信じてた!」

「あ…あうぅ…また…顔が近いですぅ…」

唐突に手を握られた影野の顔は、球技大会の時と同様に真っ赤に染まる。
修人の爛々とした真っ直ぐな瞳を直視することが出来ず、影野は思わず目を逸らした。

「監督って案外タラシなんスねー。」

このやり取りを静観していた宇田川が、修人に茶々を入れる。

「お、おい!人聞きの悪いことをゆーな!それにしても、どうして来てくれたんだ?いやまあ、誘ったのは俺なんだけどさ。元々入ってた部活の方とかは大丈夫なのか?」

修人の質問に対して、影野は照れながら小さな声で答える。

「いえ…今まで私はどの部活にも所属していなかったんです。私みたいな影の薄い人なんて、居ても居なくても同じだろうって、今までずっとそう思ってました。でも、それは違うんだって片桐くんが教えてくれたんです。」

この日始めて、影野は修人の目を見て優しく微笑んだ。その可愛らしさに今度は修人の顔がほんのりと赤くなる。

「お…俺が…?」

「はい、そうです。球技大会の時に言ってくれましたよね。私にしかできないことがあるって。その言葉が本当に嬉しかったんです。こんな私でもみんなの役に立つことができるかもしれない、もう少しだけ自分を信じてみようと思ったんです!
私にしかできないこと…それが一体何なのかを確かめる為に入部しました。」

「…そうか!正直本当に心強い限りだよ。俺が考えるチームの中で影野さんは必要不可欠な存在だったからさ。」

「へ?ええっ⁉︎わ、私がですかぁ⁉︎でも、私サッカー初心者なんですよ?私なんかが必要だなんて…」

「ほら、また私なんかって言ってる。」

「あ…すみません。」

修人はクスッと笑って、改めて影野の前に手を差し出した。

「まずは自信を付ける所から始めないとな。技術の部分についても心配することはないよ、俺やみんなが付いてるさ。
まあ、何はともあれ…ようこそ、サッカー部へ。」

影野は、差し出された修人の手をしっかり握る。

「はいっ!不束者ですが、これからよろしくお願いします!」

その後、他の部員全員から拍手が送られ、部室の中は暖かい雰囲気に包まれるのであった。
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