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第三話 脱力系ゴールキーパー
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「俺が…監督……?」
鞍月の突拍子もない提案に修人は呆気に取られていた。
一瞬理解が追いつかなかったが、言葉の意味をようやく理解し、その提案をあっさり却下した。
「断る。お前ら女子サッカー部にサッカー教えて俺になんかメリットがあるのか?大体、俺は誰かにサッカーを教えたことなんてないし、俺自身もサッカーをやるつもりはない。悪いが他を当たってくれ。」
冷たい態度で鞍月を突き離し、修人は校門を抜けようとする。
その背中を見送りながら鞍月は誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。
「ウチの部活、可愛いJK結構いるんだけどなー…」
鞍月のその呟きを修人は聞き逃さなかった。そして、今日の昼休みの辻本とのやり取りを思い出す。
『え…選手って、この学校で?』
『はい、そうですよ。女子サッカー部に所属しております。まだ公式戦で1勝もしたことないんですけどね…』
そして修人は鞍月に尋ねる。
「えー鞍月…さんって言ったっけ?後学の為に聞いておきたいんだが、その女子サッカー部には辻本さんも所属してるのかい?」
「後学の為って…お前、その質問から何を学ぶつもりだよ。」
矢切から至極真っ当な突っ込みが入る。
しかし、鞍月はあっけらかんとした態度で修人の質問に答える。
「ああ!美希ちゃんのこと?もちろんいるよ!ウチのチームに欠かせない大事なメンバーだよ!」
「そりゃあ、6人しかいないみたいだからな。」
修人の言葉に鞍月は「うぐっ!」と呻き、痛い所を突かれたという表情をした。
でも、と修人は言葉を続ける。
「一度ぐらいなら…その…練習を見てやらんこともない…」
その言葉を聞き、鞍月は頬を紅潮させ喜びを爆発させた。
「ホント⁉︎ホントに⁉︎やったあ!じゃあ早速部室に行こう!善は急げって言うしね!さあさあ、早く早く!」
この小柄な身体のどこにそんな力があるのか。鞍月は修人をズルズルと引っ張って部室へと連れて行こうとした。
「おっ…おい!話聞いてたか⁉︎一回だけだぞ!あ…姉御ぉ!助けてくれ!」
その矢切はというと、先程の修人の反応から何かを感じ取ったようで「ははーん?そーゆーことね。」といいたげな表情で、修人の顔をニヤニヤと覗いていた。
これは面白いものが見れそうだと判断した矢切は、修人を助けるでもなく鞍月に同行するのであった。
------------------------------------------
桜ヶ峰高校部室棟。ではなく、
修人と矢切は、そこから少し離れたボロボロのほったて小屋の扉の前に案内されていた。
「まさかとは思うが、ここが女子サッカー部の部室か…?」
修人はゴクリと息を飲む。
「そうだよー。元々用具入れだった場所を改装して使ってるんだ。」
鞍月は気にも止めない様子で淡々と答える。
「にしたってよぉ…こりゃあんまりじゃねぇか?」
矢切もこの部室に対して、修人と同じような感情を抱いていた。
「しょうがないよ。ウチらの部活なんの実績もあげてないし、そもそもメンバーだって満足に揃っていないからねー。
ささ、立ち話もなんですし、ボロい部室ではございますがどーぞどーぞ。」
謙遜でもなんでもなく普通にボロい部室へと招かれた修人と矢切は、意を決して中へ足を踏み入れた。
「へぇ…中は案外しっかりしてるんだな。」
修人は思いがけず感心した。
ゴミ一つ落ちてないピカピカの床、各々のロッカーはきれいに畳まれたユニフォームが置かれており、外見とは裏腹に清潔感があった。
「えへへ…これでも私たちの大事な部室だからね。練習後にみんなで掃除してるの。」
そう言った鞍月は少し得意げな顔をした。
しかし、ここで修人はある疑問を口にする。
「ところで、他の部員はどこにいるんだ?」
部室の中は綺麗になってはいるものの、誰もおらずガランとしていた。
「えっとー…実は私以外の部員は、他の部や委員会と掛け持ちでして、全員集まる方が珍しいぐらいなんだ…もうそろそろ誰か来ると思うんだけど。」
鞍月は少し寂しげに言った。
「こりゃ先が思いやられるなぁ。」
修人がそう言ってため息をついた直後、背後から気の抜けた声が聞こえた。
「すみませーん。遅れてしまったッス。おや、誰ッスか?そこのお二方は?」
ボサボサの髪の毛にジャージ姿、見るからに身だしなみには気を使ってなさそうな女子が部室の入り口に立っていた。
「あっ!春菜ちゃん!お疲れ様!この二人は片桐修人君と矢切茜ちゃん!片桐君は年代別の日本代表にも選ばれたことのあるすごい選手で、今日サッカーを教えてもらえることになったの!」
興奮気味に説明する鞍月とは対照的に春菜と呼ばれた女子はどうでも良さげな態度で話を聞いていた。
「ヘェ、そうなんスか。そりゃすごいッスね。あ、申し遅れました、ワタシは宇田川 春菜と言いまッス。サッカー部兼アニメ鑑賞同好会の掛け持ち部員でして、いちおーポジションはゴールキーパーやらせて貰ってますッス。今日はよろしくお願いしますッスー。」
宇田川は、覇気のない声で一通り自己紹介をした後、グネッとうな垂れるようにお辞儀をした。
「ゴールキーパー…なの?」
「ええ、まあそうッスね。」
修人はもう一度確かめるように宇田川に尋ねた。
というのは、このようなタイプのゴールキーパーには今まで会ったことがなかったからである。
ゴールキーパーはいわば守備における最後の砦。
相手にゴールを割らせないために身体を張ってシュートを止めたり、フィールドの選手たちを一番後ろから鼓舞する精神的支柱でもある。
故に、ゴールキーパーは責任感が強いタイプの人間が多い。
しかしこの宇田川の雰囲気からは、責任感というよりも脱力感が漂っていた。
ここで鞍月からのフォローが入る。
「春菜ちゃんの反射神経ってすごいんだよー。うちの絶対的守護神なんだ!」
「またまたー、持ち上げすぎッスよー」
などと談笑しているうちに、もう一人部員がやってきた。
「すみません!遅くなってしまいました!」
ここまで走って来たのか、息を切らしながら部室に入ってきたのは辻本だった。
「あれ?片桐くん!部活、見に来てくださったんですね!」
修人の姿を見つけ、辻本は嬉しそうに言った。
「今日はよろしくね、辻本さん。」
修人はヘラっと笑って返事をする。
その中で、鞍月はスマホを見て難しい顔をしていた。
「んー他の子は忙しくて来れないみたい。今日は3人だけど始めちゃおうか。そうだ!茜ちゃんも一緒にどうかな?」
「おっいいのか?ラーメン食う前のいい運動になりそうだな!参加させてもらうわ!」
矢切はノリノリで鞍月の提案に乗った。
「つっても、四人だけでどんな練習するんだ?」
修人は鞍月に尋ねたが、グラウンドに着いてからのお楽しみ!と言うだけで何も教えてはくれなかった。
------------------------------------------
女子サッカー部の練習場。
そこにはテニスコートのぐらいの広さのラインが引かれ、中央にはネットに見立てられたコーンが設置されていた。
「なるほど、サッカーテニスか。確かにこれなら少ない人数でも出来るな。じゃあ俺が審判やるから2-2でチーム分けしてくれよ。」
修人の提案に鞍月は意義を唱えた。
「いーや!片桐君にも参加してもらうよ!ここは公平にジャンケンで決めます!」
「えー…結局巻き込まれるのかよ…」
サッカーテニスとは、その名前の通りサッカーとテニスを掛け合わせたゲームで、ラケットではなく自分の足で敵陣のコートにサッカーボールを蹴り込む。
一見お遊びのようにも見えるが、理にかなった練習法である。
相手から来たボールをトラップして足元に収め、瞬時に敵陣にボールを返す。強く蹴り上げるとアウトしてしまい、弱すぎると手前のネットに引っかかる。
これがなかなか難しい。ボールをコントロールするという点において、サッカーテニスはうってつけの練習なのだ。
「じゃあまず、チーム分けジャンケンね!」
鞍月が元気よく提案し、ジャンケンの結果、修人と矢切ペア、鞍月と辻本ペア、審判は宇田川となった。
「おっ片桐とペアか!よろしくな!でもお前膝怪我してるって言ってたけど大丈夫か?」
矢切の問いに修人は問題ないといった様子で答える。
「ああ、これぐらいの練習だったら大丈夫だ。さすがに全力で走ったり蹴ったりとかってのは無理だけどな。」
宇田川から簡単なルール説明が入る。
「ボールはワンバウンドまでがセーフッス。それまでに敵陣に返さないと相手の得点になっちゃうので、注意してくださいネ。サーブは1点入るごとに交代。先に11点取った方が1セットで、3セット先取した方が勝ちとなりますッス。説明はこんなもんッスかね。」
「オーケーわかった。じゃあサーブを決めようか。」
代表者の修人と鞍月がコートの前に出て、ジャンケンを行なった。
結果、最初のサーブ権は鞍月・辻本ペアとなった。
「それじゃあ、私たちのサーブからだね!全力で行かせてもらうよ!」
鞍月がやる気満々なのに対して、修人はお手柔らかにとだけ言って余裕の表情を見せていた。
修人自身もこのサッカーテニスを幾度となく経験していたので、ある程度のことはわかっていた。
せいぜい素人の矢切をカバーしながらボールを繋いでいけば、そこそこいい練習っぽくなるだろう、それぐらいの認識でいた。
鞍月がサーブを打つ前までは。
「それじゃー行っくよー!」
鞍月がサーブを受ける修人に呼びかける。
「おう!バッチこーい!」
ドッ! バンッ!
「え?」
余りに突然の出来事で、修人は一体何が起きたのか理解するまでに時間がかかった。
自陣にはボールがバウンドした跡がついており、ボールは自分の後方にテンテンと転がっていた。
あまりの速さに修人は一歩も反応が出来なかった。
「はーい、鞍月・辻本ペアに一点ッスー。」
宇田川が鞍月・辻本ペアに得点が入ったことを知らせる。
「言ったでしょ?全力で行かせてもらうって!こんなもんじゃないよね?片桐くん?」
鞍月は不敵に笑い、修人を煽った。
修人はまんまとそれに乗せられる。
「ほーう…おもしろい…姉御、わりぃけど腹ごなし程度の運動じゃ済まなそうだ。こっちも全力で行くぞ!!」
修人の言葉に矢切がニヤリと笑う。
「そうこなくっちゃな!あの二人に一泡吹かしてやろうぜ!」
こうして、戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
鞍月の突拍子もない提案に修人は呆気に取られていた。
一瞬理解が追いつかなかったが、言葉の意味をようやく理解し、その提案をあっさり却下した。
「断る。お前ら女子サッカー部にサッカー教えて俺になんかメリットがあるのか?大体、俺は誰かにサッカーを教えたことなんてないし、俺自身もサッカーをやるつもりはない。悪いが他を当たってくれ。」
冷たい態度で鞍月を突き離し、修人は校門を抜けようとする。
その背中を見送りながら鞍月は誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。
「ウチの部活、可愛いJK結構いるんだけどなー…」
鞍月のその呟きを修人は聞き逃さなかった。そして、今日の昼休みの辻本とのやり取りを思い出す。
『え…選手って、この学校で?』
『はい、そうですよ。女子サッカー部に所属しております。まだ公式戦で1勝もしたことないんですけどね…』
そして修人は鞍月に尋ねる。
「えー鞍月…さんって言ったっけ?後学の為に聞いておきたいんだが、その女子サッカー部には辻本さんも所属してるのかい?」
「後学の為って…お前、その質問から何を学ぶつもりだよ。」
矢切から至極真っ当な突っ込みが入る。
しかし、鞍月はあっけらかんとした態度で修人の質問に答える。
「ああ!美希ちゃんのこと?もちろんいるよ!ウチのチームに欠かせない大事なメンバーだよ!」
「そりゃあ、6人しかいないみたいだからな。」
修人の言葉に鞍月は「うぐっ!」と呻き、痛い所を突かれたという表情をした。
でも、と修人は言葉を続ける。
「一度ぐらいなら…その…練習を見てやらんこともない…」
その言葉を聞き、鞍月は頬を紅潮させ喜びを爆発させた。
「ホント⁉︎ホントに⁉︎やったあ!じゃあ早速部室に行こう!善は急げって言うしね!さあさあ、早く早く!」
この小柄な身体のどこにそんな力があるのか。鞍月は修人をズルズルと引っ張って部室へと連れて行こうとした。
「おっ…おい!話聞いてたか⁉︎一回だけだぞ!あ…姉御ぉ!助けてくれ!」
その矢切はというと、先程の修人の反応から何かを感じ取ったようで「ははーん?そーゆーことね。」といいたげな表情で、修人の顔をニヤニヤと覗いていた。
これは面白いものが見れそうだと判断した矢切は、修人を助けるでもなく鞍月に同行するのであった。
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桜ヶ峰高校部室棟。ではなく、
修人と矢切は、そこから少し離れたボロボロのほったて小屋の扉の前に案内されていた。
「まさかとは思うが、ここが女子サッカー部の部室か…?」
修人はゴクリと息を飲む。
「そうだよー。元々用具入れだった場所を改装して使ってるんだ。」
鞍月は気にも止めない様子で淡々と答える。
「にしたってよぉ…こりゃあんまりじゃねぇか?」
矢切もこの部室に対して、修人と同じような感情を抱いていた。
「しょうがないよ。ウチらの部活なんの実績もあげてないし、そもそもメンバーだって満足に揃っていないからねー。
ささ、立ち話もなんですし、ボロい部室ではございますがどーぞどーぞ。」
謙遜でもなんでもなく普通にボロい部室へと招かれた修人と矢切は、意を決して中へ足を踏み入れた。
「へぇ…中は案外しっかりしてるんだな。」
修人は思いがけず感心した。
ゴミ一つ落ちてないピカピカの床、各々のロッカーはきれいに畳まれたユニフォームが置かれており、外見とは裏腹に清潔感があった。
「えへへ…これでも私たちの大事な部室だからね。練習後にみんなで掃除してるの。」
そう言った鞍月は少し得意げな顔をした。
しかし、ここで修人はある疑問を口にする。
「ところで、他の部員はどこにいるんだ?」
部室の中は綺麗になってはいるものの、誰もおらずガランとしていた。
「えっとー…実は私以外の部員は、他の部や委員会と掛け持ちでして、全員集まる方が珍しいぐらいなんだ…もうそろそろ誰か来ると思うんだけど。」
鞍月は少し寂しげに言った。
「こりゃ先が思いやられるなぁ。」
修人がそう言ってため息をついた直後、背後から気の抜けた声が聞こえた。
「すみませーん。遅れてしまったッス。おや、誰ッスか?そこのお二方は?」
ボサボサの髪の毛にジャージ姿、見るからに身だしなみには気を使ってなさそうな女子が部室の入り口に立っていた。
「あっ!春菜ちゃん!お疲れ様!この二人は片桐修人君と矢切茜ちゃん!片桐君は年代別の日本代表にも選ばれたことのあるすごい選手で、今日サッカーを教えてもらえることになったの!」
興奮気味に説明する鞍月とは対照的に春菜と呼ばれた女子はどうでも良さげな態度で話を聞いていた。
「ヘェ、そうなんスか。そりゃすごいッスね。あ、申し遅れました、ワタシは宇田川 春菜と言いまッス。サッカー部兼アニメ鑑賞同好会の掛け持ち部員でして、いちおーポジションはゴールキーパーやらせて貰ってますッス。今日はよろしくお願いしますッスー。」
宇田川は、覇気のない声で一通り自己紹介をした後、グネッとうな垂れるようにお辞儀をした。
「ゴールキーパー…なの?」
「ええ、まあそうッスね。」
修人はもう一度確かめるように宇田川に尋ねた。
というのは、このようなタイプのゴールキーパーには今まで会ったことがなかったからである。
ゴールキーパーはいわば守備における最後の砦。
相手にゴールを割らせないために身体を張ってシュートを止めたり、フィールドの選手たちを一番後ろから鼓舞する精神的支柱でもある。
故に、ゴールキーパーは責任感が強いタイプの人間が多い。
しかしこの宇田川の雰囲気からは、責任感というよりも脱力感が漂っていた。
ここで鞍月からのフォローが入る。
「春菜ちゃんの反射神経ってすごいんだよー。うちの絶対的守護神なんだ!」
「またまたー、持ち上げすぎッスよー」
などと談笑しているうちに、もう一人部員がやってきた。
「すみません!遅くなってしまいました!」
ここまで走って来たのか、息を切らしながら部室に入ってきたのは辻本だった。
「あれ?片桐くん!部活、見に来てくださったんですね!」
修人の姿を見つけ、辻本は嬉しそうに言った。
「今日はよろしくね、辻本さん。」
修人はヘラっと笑って返事をする。
その中で、鞍月はスマホを見て難しい顔をしていた。
「んー他の子は忙しくて来れないみたい。今日は3人だけど始めちゃおうか。そうだ!茜ちゃんも一緒にどうかな?」
「おっいいのか?ラーメン食う前のいい運動になりそうだな!参加させてもらうわ!」
矢切はノリノリで鞍月の提案に乗った。
「つっても、四人だけでどんな練習するんだ?」
修人は鞍月に尋ねたが、グラウンドに着いてからのお楽しみ!と言うだけで何も教えてはくれなかった。
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女子サッカー部の練習場。
そこにはテニスコートのぐらいの広さのラインが引かれ、中央にはネットに見立てられたコーンが設置されていた。
「なるほど、サッカーテニスか。確かにこれなら少ない人数でも出来るな。じゃあ俺が審判やるから2-2でチーム分けしてくれよ。」
修人の提案に鞍月は意義を唱えた。
「いーや!片桐君にも参加してもらうよ!ここは公平にジャンケンで決めます!」
「えー…結局巻き込まれるのかよ…」
サッカーテニスとは、その名前の通りサッカーとテニスを掛け合わせたゲームで、ラケットではなく自分の足で敵陣のコートにサッカーボールを蹴り込む。
一見お遊びのようにも見えるが、理にかなった練習法である。
相手から来たボールをトラップして足元に収め、瞬時に敵陣にボールを返す。強く蹴り上げるとアウトしてしまい、弱すぎると手前のネットに引っかかる。
これがなかなか難しい。ボールをコントロールするという点において、サッカーテニスはうってつけの練習なのだ。
「じゃあまず、チーム分けジャンケンね!」
鞍月が元気よく提案し、ジャンケンの結果、修人と矢切ペア、鞍月と辻本ペア、審判は宇田川となった。
「おっ片桐とペアか!よろしくな!でもお前膝怪我してるって言ってたけど大丈夫か?」
矢切の問いに修人は問題ないといった様子で答える。
「ああ、これぐらいの練習だったら大丈夫だ。さすがに全力で走ったり蹴ったりとかってのは無理だけどな。」
宇田川から簡単なルール説明が入る。
「ボールはワンバウンドまでがセーフッス。それまでに敵陣に返さないと相手の得点になっちゃうので、注意してくださいネ。サーブは1点入るごとに交代。先に11点取った方が1セットで、3セット先取した方が勝ちとなりますッス。説明はこんなもんッスかね。」
「オーケーわかった。じゃあサーブを決めようか。」
代表者の修人と鞍月がコートの前に出て、ジャンケンを行なった。
結果、最初のサーブ権は鞍月・辻本ペアとなった。
「それじゃあ、私たちのサーブからだね!全力で行かせてもらうよ!」
鞍月がやる気満々なのに対して、修人はお手柔らかにとだけ言って余裕の表情を見せていた。
修人自身もこのサッカーテニスを幾度となく経験していたので、ある程度のことはわかっていた。
せいぜい素人の矢切をカバーしながらボールを繋いでいけば、そこそこいい練習っぽくなるだろう、それぐらいの認識でいた。
鞍月がサーブを打つ前までは。
「それじゃー行っくよー!」
鞍月がサーブを受ける修人に呼びかける。
「おう!バッチこーい!」
ドッ! バンッ!
「え?」
余りに突然の出来事で、修人は一体何が起きたのか理解するまでに時間がかかった。
自陣にはボールがバウンドした跡がついており、ボールは自分の後方にテンテンと転がっていた。
あまりの速さに修人は一歩も反応が出来なかった。
「はーい、鞍月・辻本ペアに一点ッスー。」
宇田川が鞍月・辻本ペアに得点が入ったことを知らせる。
「言ったでしょ?全力で行かせてもらうって!こんなもんじゃないよね?片桐くん?」
鞍月は不敵に笑い、修人を煽った。
修人はまんまとそれに乗せられる。
「ほーう…おもしろい…姉御、わりぃけど腹ごなし程度の運動じゃ済まなそうだ。こっちも全力で行くぞ!!」
修人の言葉に矢切がニヤリと笑う。
「そうこなくっちゃな!あの二人に一泡吹かしてやろうぜ!」
こうして、戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
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