しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人

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第二話 告白と出逢い

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辻本が去った後、修人の机の周りには大勢の人だかりが出来ていた。

「委員長が言ってたこと、本当かよ!」

「片桐武人って聞いたことある!サッカー日本代表だった人じゃん!」

「てか、片桐クンも代表に選ばれてたってコト⁉︎やばくね?」

「なんでこの高校に?もっとサッカー強いとこあるでしょー。」

クラスメイトの止まらない修人への質問責め。今やクラス中が熱狂の渦に包まれていた。

あまりの大フィーバーぶりに修人は完全に困惑しきっていた。

確かに今のこの状況は、皆が自分に注目してくれているまたとないチャンスだ。
俺は日本代表に選ばれるくらいすごいサッカー選手なんだぜと言えば、この中の何人かは自分の友達になってくれるかもしれない。

でも違う、そうじゃない。
俺が望んだものはこんなんじゃない。

例え皆にそっぽ向かれようと、本当のことを話さないといけない。
そうじゃなきゃ、本当の俺自身を見てもらえない。

意を決した修人は机を大きくバン!と叩き、皆にはっきりと聞こえる声で話し始めた。

「皆、聞いてくれ!」

大騒ぎしていたクラス内が一瞬にして静まり返った。

「俺、実はもうサッカーをやるつもりはないんだ。俺の足、大怪我負っちゃって、もう満足に走ることも出来ないんだよ。
あとは…情けない話なんだけどさ、周囲からの期待やプレッシャーに耐えきれなくなって…要は逃げてきたんだ。普通の人生を送りたくて、この学校に来た。
だから、俺は全然すごくなんかない。皆が期待しているような人間じゃないんだよ…ごめんな。」

修人は自分がこの高校に来た理由を洗いざらいぶちまけた。
自分への期待がガラガラと音を立てて崩れ落ちていく感覚。修人が子どもの頃から嫌と言うほど味わってきた気持ち悪い感覚に陥っていた。

しかし、悔いはない。
どんな結果になっても受け入れようと決心した。

その時、制服を着崩したヤンキー風の女子が修人の前に立ち、その見た目とは裏腹に優しく修人に語りかけた。

「なんで、そこで謝るんだよ。」

「え、いや…だって…」

「周りに勝手に担ぎ上げられて、すげープレッシャーの中で戦ってて、アタシら一般人にはワカンねぇけど…辛かったんだろ?
いいじゃねーか、逃げたって。ホラ、なんつったっけ?三十八計逃げるに如かずってやつだ。」

「姉御、二計ほど多いっす。」

周りにいた一人が突っ込みを入れる。

「う、うっせーな!とにかくこれから普通の人生送るんだろ?だからさ、これから仲良くやってこーぜ?」

姉御と呼ばれたその女子生徒はニカっと明るく笑いながら、修人に手を差し伸べた。

「…!ありがとう!これから…よろしくな。」

差し伸べられた手をガッチリと握り、二人は友情を確かめ合うのであった。
周りからは温かな拍手が二人に送られた。

「そういえば姉御の名前を聞いてなかったな。何て呼べばいいんだ?」

「ああ、そういや言ってなかったか。アタシは矢切 茜やぎり あかね。呼び方は好きなよーに呼んでくれていいぜ。」

「そっか、よろしくな姉御!」

「って結局姉御なのかよ‼︎」

矢切が修人に突っ込みを入れて、ドッと笑いが起きる。

その輪から少し離れた場所で、委員長会議から戻ってきた辻本は二人の様子を伺うのであった。

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そして放課後。
修人にとって激動の1日が終わろうとしていた。
しかし、修人自身はとても充実していた。色々あったがクラスの一員になることが出来た。そのことが何よりも嬉しかった。
修人が意気揚々と帰ろうとした時、それを呼び止める声が聞こえた。

「おーい、片桐!これから一緒にラーメン食いに行かねーか?この近くにすげー美味い店があんだよ!」

声の主は矢切だった。

「おっ、姉御!俺も一緒に行っていいのか?」

「堅っ苦しいなぁ。いいに決まってんだろ!ホントに美味いラーメンだからさ、片桐に食わせてやりてーんだよ!」

「そうか?じゃあご一緒させてもらおうかな。いやあ、誰かと一緒に寄り道して帰るって…青春だなあ…」

しみじみと感動する修人に矢切はプッと吹き出した。

「お前の青春、ハードル低すぎだろ~」

そんな他愛のない話をしながら校門に着くと、小柄な女子生徒が一人、下校していく生徒たちにビラを配っていた。

「女子サッカー部でーす!部員、募集中でーす!!」

元気よく生徒たちに近寄っては勧誘活動をしている彼女を見て、修人はちょこちょこと動き回る可愛らしい小動物を連想した。
修人は彼女のことについて矢切に尋ねる。

「あの子、女子サッカー部員なのか?」

「ああ、鞍月くらつきのことか?あいつは確か女子サッカー部のキャプテンだったぞ。
つっても部員が6人しかいないみたいだから、部として機能してんのかビミョーなとこだけどなぁ。
どうする?興味あんなら話聞いてみるか?」

「いや、いい。とっとと通り抜けちまおうぜ。」

しかし、時すでに遅かった。少し離れた位置から、その鞍月と呼ばれた女子が驚きの声を上げた。

「あああああーーーーーーーーーー!」

修人の姿を捉えた彼女は全速力でこちらに向かってきた。そして、校門を塞ぐように二人の前に立ちはだかる。

「君、片桐くんだよね!年代別日本代表の片桐修人くんだよね!」

鞍月ははしゃぐ子どものように修人に尋ねる。

「元、日本代表な。俺はもうサッカーは辞めたんだ、悪いけどな。」

「えーーー!なんで!君ほどの才能がサッカー辞めちゃうなんてもったいないよ!ねぇ、どう?考え直してみて、ウチのサッカー部に入ってみない?」

「うっさいな!俺にも色々事情ってモンがあんの!てか、女子サッカー部なんだから俺が入れるわけないだろが!」

「あっ、そういやそっか。えっとじゃあーー。」

鞍月は少し考えた後、修人に提案する。

「うちのサッカー部の監督、やってみない?」

「俺が…監督……?」

鞍月の突拍子もない提案に修人はポカンと呆気に取られるのであった。
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