ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し

ぽんぽこまだむ

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第13話:おうち探し

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 月々の収入が3000G~5000G、毎月の家賃が1000G。生活費が500G、冒険者としての必要経費がだいたい700G、月額貯金800G~2000G。

 これまでの貯金が、3万2千G。

 今回のクエストで得た報酬、5万G。

 当座の生活費をある程度残して、家を買う予算はだいたい7万Gちょっとだ。



 ルーイは、意気揚々と、住宅や店舗、土地などを商うクロイステル商会へと向かった。

 アーロンも後ろから、わっふるわっふるとついてきた。鼻歌を歌いながらごきげんだ。

「へへへ……」

 そっとルーイの手に、指を絡めようとしてきたので、

「お、おいっ! 何やってんだよっ!」

 とルーイが手を振り払うと、アーロンは、「キュウ~~ン」というような悲しい目をして、

「なんでだよぉ~。昨夜ゆうべあんなにラブラブチュッチュしたのにぃ~」

 と、唇を尖らせた。



「そっ! そんなんじゃないだろっ! お前、往来で何言ってるんだよっ!」

 ルーイは顔を真っ赤にして、慌てて周りに人がいないか見回した。

「大丈夫だって~。俺は見られても平気だし~」

 とアーロンがまたしてもデヘヘと笑ったので、ルーイは、追いつかれないよう急ぎ足でクロイステル商会に向かった。



「そのご予算で、ギルドに近いお家になりますと、木の家になりますね~」

 ──な、なんだと……!

 応対したクロイステル商会の手代に、あっさりと言われて、ルーイは愕然とした。

 ルーイは、冒険者としてはそこそこ稼いでいるほうだ。強いアーロンがパーティに加わったこともあって、最近はかなり効率よくクエストをこなしている。

 リスクが高い商売ほど収入が高いのは世の常で、ルーイは、職人や農夫などとは比べ物にならないほど稼いでいた。



 それなのに、木の家しか買えないと聞いて、ルーイは衝撃を受けた。

 基本的に、この世界の「木の家」とは、板しか壁がない家を指す。

 日本の木造住宅のように、分厚い木材と木材の間に、断熱素材を挟んだものではない。板一枚の向こう側は、外気なのだ。

 太い柱で軸組を作り、梁を巡らせ、レンガや漆喰など、なんらかの断熱性能のある素材で隙間を埋めた家は、「レンガの家」や「漆喰の家」などと呼ばれる。

 一番いいのは、石造りの家だ。分厚い石壁は夏涼しく冬温かい。石材にもこだわれば、限りなく豪華な家を建てることができる。

 ただし、石造りの家は、とてつもなく高い。100万Gくらいはするし、そもそも建築に適した土地で、便利なところはもうだいたい他の建物が建っている。



「新築じゃなくていいんです。中古でいいから、せめて漆喰の家がいいんですが……」

 ルーイは、食い下がった。

「狭くてもいいですから……」

「やだ! 俺の部屋がなくなるじゃん!」

 アーロンが横から大きな声で文句を言った。

「なんで俺が家を買うのにお前の部屋が必要なんだよ!」

 とルーイが反発すると、

「だって俺とルーイは──」

「わーーー!」

 アーロンが余計なことを言いそうになったので、ルーイは慌てて大声で遮った。



 とりあえず、クロイステル商会の手代の提案に従って、売り出し中の物件を色々と見せてもらうことになった。



 まずは、石造りの家だ。町の広場を見下ろす坂の上にあり、日当たりや眺望も抜群だ。

「おお、このかまど、一つの炉で、鍋を二か所かけられるんだな」

「はい~。火元からの距離で、火力を調整するんですよ~」

「網焼きグリル用の場所もあるな。やっぱり一戸建てだと煙突が好きな場所につけられるのがデカい」

 自炊派のルーイは感動していた。

「寝室は四部屋、それぞれタンス、ベッドフレーム、戸棚が付いています。布団はご自身で持ち込みですね~。他に地下室、中庭、物置が付いています。中庭には使える井戸もあります。いい物件ですよ~」

 そうは言っても150万Gもする。ルーイにはとうてい手が出せない。

「広すぎるし、ここまでの家は、ちょっと要らないかな~」



 次は、レンガ造りの家だ。

 ギルドから徒歩10分くらいの、少し静かな場所にある。同じ通りには食料雑貨店や武器屋、錬金屋などもあって、人気のエリアだ。アーロンの家もこのあたりにある。

 赤いレンガが貼られ、ちょこんと煙突の突き出た小さな家だ。

「ここは、ちょっと手狭なんですけど、その分お安いですよ~。4万Gです」

 それならば、今のルーイの手持ちのお金でも手が届く。

「寝室は1部屋、それと屋根裏部屋が1つですね。暖炉もありますよ~」

「う~ん……」

 確かに暖炉はあるが、小さすぎて本格的な料理をすることはできないだろう。

 飲み食いする店は近所にいっぱいあるから、外食が前提なのだろう。

 しかし、さすがに小さすぎる。表は人通りも多いのに、ドアを開けるとすぐに暖炉のあるダイニングがあって、なんだか落ち着かない。隣の狭い寝室と、梯子で登る屋根裏部屋だけが、この家のすべてだ。暮らせることは暮らせるが、ここに4万Gも払う気にはなれない。



 最後は、少し町はずれの丘を登ったところにある家だった。

 緩やかな坂道の途中に、三階建ての白い漆喰塗の家が見えてきた。道沿いの斜面にへばりつき、半ば埋め込まれているような形状だ。

 入口のドアを開けると、すぐに階段が上に続いていた。右手は上半分に格子窓のついたドアになっている。

「こちらのドアの向こうが小さい部屋と物置と、浴室、トイレで、二階が台所とダイニング、食料庫パントリー、三階に寝室が二部屋あります」



「そこそこきれいじゃないか」

 漆喰塗の壁は、少し剥げている部分があったが、自分で塗り直せる範囲のようだ。

 三階にダダッと上がっていったアーロンが、

「ルーイ! 見て見て!」

 と歓声を上げた。



 アーロンを追いかけて、入口から続く階段を三階に上がり、右に曲がった廊下を覗くと、二つ並んだ寝室の間には、廊下がさらに続いており、その先から、日の光が差し込んでいた。

 寝室の間の廊下は、すぐに階段になっている。アーロンが階段を駆け上ってドアを開けると、

「わあっ!」

 というアーロンの声とともに、まぶしい光が差し込んできた。

「外!?」



 斜面にへばりつくように建てられているこの家は、丘の上に出る出口がついていたのだ。

 階段から外に出てみると、そこは小さな屋上庭園になっていた。

 しばらく住む者がいなかったため、雑草しか生えておらず、植木鉢がそのままゴロゴロ転がっている。

 さらに小さな石段を登ると、家の敷地の外に出ることができる。

 石段を登って振り返ると、今まで登ってきた坂道と、街並みを見下ろすことができた。

「すっげー眺めいいじゃん!」

 アーロンは、屋上を伝って屋根の上から街を見下ろしている。

 ──高いところが好きなんだな。アーロンらしい。

 ルーイも、この家がなんとなく気に入ってきた。

 値段を聞くと、10万Gだという。



「そっか~、俺の貯金じゃ足りないな……」

 ルーイがちょっとがっかりすると、アーロンが振り返って、

「俺、5万G出すから、ここがいい!」

 とちゅうちょなく言った。

「え、いや……今は、俺の家を探してるんだが?」

 ルーイが言ったが、

「ルーイが5万G持ってて、俺が5万G持ってるんだぞ。何が問題あるんだよ」

 アーロンはさも当然のように言った。

「いや、なんで俺がお前と一緒に住む前提なんだよ」

「俺、全然お金使ってないから大丈夫」

 アーロンは平然と答えた。



 確かにアーロンは実家暮らしなので、クエストの報酬をもらっても、ほとんど使う必要がない。稼いだ金は、ほぼ手を付けずに残っているのだろう。



 ルーイは迷った。

 お金を半分ずつ出すということは、アーロンと一緒に住む、ということだ。

 ──そしたら、また昨夜みたいに、エッチなことを……。

 ルーイの顔に血が上ってきた。



 ルーイは、まだ気持ちの整理がついていなかった。

 家庭を持ちたい。そのためには家を持って、女の子と結婚して……。そう思っていた。

 家は、スペックを気にしなければ買える。



 じゃあ、残りの夢──女の子と結婚する、というのを、自分は本当に望んでいるのだろうか。

 これまで色んな女の子とクエストに行ったが、ルーイの心は全然動かなかった。



 でもアーロンにキスされた時は、頭がくらくらして、身体がフニャフニャになってしまった。

 昨夜なんて、アーロンにさんざんエッチなことをされて、イヤな気分になるどころか、しっかり気持ちよくなってしまった。



 アーロンは、ルーイのことを好きだと言ってくれている。自分は、どうなんだろう……。

 ──アーロンだって、ホントは女の子と結婚しなきゃいけないんじゃないのか、

 とか、

 ──将来を期待されるアーロンに、自分みたいな汚れた使い古しの肉便器は、ふさわしくないんじゃないか、

 とか、あれこれ考えてしまう。



「お買い得ですよ~。ここ、ちょっと補修が必要なのと、大雨の時、対策するのが大変なんでね、平地にこの大きさの漆喰の家が建っていたら、20万Gくらいはしますよ~」

 手代の声に、アーロンが、平地だったら買わない、と返事している。

 ルーイも同感だった。



 屋上庭園の石段に腰かけると、暮れ始めた秋の日が、街に黄昏色の陰を投げかけていた。

 ──きれいだな……。

 きっと夜は星空もきれいだろう。アーロンも喜ぶに違いない。

「……ちょっと、いったん家に帰って考えさせてもらっていいですか」

 ルーイは、手代に言った。
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