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第11話:DVクソモブ男がボコられる回
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きょとんとする二人にイスラが説明した。
高額報酬をもらっても、特に嬉しそうにするでもなく、とぼとぼと去っていくローナが気になって、イスラはこっそり後をつけていったのだという。
「……それが、この辺りなんだけど……」
ゴミが散乱した汚い裏路地に、古い飲み屋が軒を連ねている。軒先で樽や木箱に腰をかけて安酒を飲んでいるのは、粗野な浮浪者や、冒険者とは名ばかりのヤクザ者だ。
地元住民でも絶対に足を踏み入れない、荒んだ地域だった。
「いやな匂いがする……」
アーロンが顔をしかめた。
「こんなところに、あのローナが……?」
ルーイは怪訝な顔をした。
ローナとは今回初めて会ったが、内気でおとなしそうで、とてもこんなところに住んでいるようには見えなかった。
「この建物に入っていったから、飛んでみて、何階に入ったのか窓からのぞいてみたんだけど……」
建物同士が寄りかかるようにして立っている、古びた五階建ての建物の、屋根裏のすぐ下を、イスラが指さした。
「……! ……!」
内容まではわからないが、何やら罵声が聴こえてくる。
「中を……見てみてくれない……?」
苦渋の表情を浮かべて、イスラが言った。
ルーイは魔法で空中に浮き、アーロンはイスラにぶら下げられて、ふよふよと五階まで飛んでいった。
窓の脇からこっそりと、中の様子をうかがってみる。
「残りの金はどうしたんだよ!」
いきなり罵声が飛んでくると、ガシャーン! と何かを壁に叩きつけるような音がした。
「報酬の……残りは、ちゃんとクエストが達成されたかどうか、ギルドが確認してから……」
ローナのか細い声が微かに聴こえてきた。
バシーン! と何かを叩くような音がして、
「きゃあっ!」という悲鳴が聴こえた。
ルーイとアーロンがぎょっとして窓の中を覗きこむと、
「デカい口叩いてんじゃねーよ!」
ガラの悪い大男が、ローナに馬乗りになり、殴りつけていた。
「……あっ……うっ……ごめんなさ……」
ローナは男の下から這い出ようとするが、すぐに引きずり戻される。
「きゃあっ!」
バシン!バシン!
男はさらに強く頬を張ると、
「やめて欲しけりゃ金を用意しろって言ってんだよ! ああ!?」
とローナの髪の毛を手綱のように掴んで引っ張りあげた。
「「デカい口を叩いているのは……!!」」
「「お前だーーー!!」」
アーロンはイスラに振り子のようにぶら下げたままぶん回してもらい、
ガシャーーン!!
とキックでガラスを突き破って部屋に飛び込んだ。
その後に続いてルーイが部屋の中に降り立つ。
示し合わせたわけでもないのに、なぜかセリフが被ってしまった。
「誰だてめえ……ぶべっ!!」
誰何すいかする間もなく、大男はアーロンの拳で壁に叩きつけられ、
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
ルーイのライトニングで黒焦げになった。
「ローナ大丈夫!?」
イスラがローナに駆け寄った。
「み、みんな……」
ローナは、腫れ上がった頬を治癒魔法で治すこともなく、手で顔を覆い、ボロボロと涙を流した。
◇ ◇ ◇
少し落ち着いたローナから話を聞くと、男はダグと言って、冒険者とは名ばかりのならず者だった。
とっくにギルドを追放されているのに、それを隠してローナに近づき、ローナが魔術は使えても気が弱いと見るや、報酬をすべて取り上げられるようになったのだという。
逃げようとしても捕まってボコボコにされ、言われるがままに報酬を取り上げられ……。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
ローナはしきりに謝った。
「ローナは悪くないよ」
イスラが優しく声をかけた。
ルーイは、昔の自分を見ているようで、胸が苦しくなった。ローナもおそらく犯されたりしているのだろう。
ローナに治癒魔法をかけて傷を治してやると、ルーイはイスラに、
「一人にしておくのは心配だ。イスラ、とりあえず合同ギルドの宿舎に連れて行って、まずは休ませてあげよう」
と提案した。
ギルドには、町から町へと渡り歩く冒険者のために、男女別の宿舎がある。相部屋だが、今のローナの状況を考えると、そのほうが安心だろう。
「そうだね。ローナ、歩ける?」
イスラは頷いてローナの肩をさすった。ローナは涙をこぼしながら、黙ってコクコクと頷いた。
「ルーイ、こいつの頭、切り落として町の広場に飾ってもいい?」
アーロンは、フーッ、フーッといきり立って、剣を抜いてダグの巨体をゲシゲシと踏んだ。
「駄目だ、まだ生きてるから、ちゃんと衛兵を呼んで牢屋に入れてもらおう」
ルーイは、アーロンがダグの息の根を止めようとするのを慌てて止めた。
「それから、懐を探れ。ローナから取り上げた報酬を持っているはずだ」
ローナに返してあげなければならない。
アーロンと二人でダグの装備を探したが、2万5千Gの金は、どこからも出てこなかった。
◇ ◇ ◇
ダグは無事、牢屋に収監され、ローナはしばらくギルドの宿舎に身を寄せることになった。
ハーピー退治の報酬の残額は、数日後、無事四人の手に渡った。
「ありがとうございます……。私、こんなにいっぱいもらっていいのかな……」
ローナは取られないお金を手に入れて、かえって困惑していた。
「こらっ、そういうこと言うから、変な男につけこまれちゃうんだよ」
とイスラがたしなめた。
「むしろ残りの報酬が見つからないのが、気になるな……」
ルーイは腕を組みながらつぶやいた。
「渡したらすぐに出かけていったので、きっと、何かに使っちゃったんですよ……。今までも、いくらあげても、すぐに『金がない』『金がない』って言ってましたから……」
ローナはうつむいた。
しかし、その日のうちに使ってしまうなどということがあるのだろうか。
「ローナのお金なのに、ごめんね……」
イスラが肩を落とすと、ローナはかぶりを振った。
「もう、ダグとはかかわりたくないから、これでいいんです……」
その気持ちも理解できなくはない。三人とも複雑な面持ちで、それ以上何も言えなくなった。
◇ ◇ ◇
残りの報酬を分けた後、ルーイとアーロンは家路についた。
「ルーイ、顔色が悪いよ。大丈夫?」
アーロンが声をかけてきた。
「ああ……このままでいいのか気がかりだし、それに、ちょっと寝不足でさ……」
この数日、ルーイはまともに眠れていなかった。
ダグが馬乗りになってローナに暴行を加えている光景が、山賊の玩具として弄ばれていた時の自分を思い出させたのだ。
その時は、ローナを助けることに集中していたので何ともなかったのに、家に帰って眠ろうとしたら、途端に自分がかつて味わった暴力がフラッシュバックして、ルーイを苦しめた。
「駄目だな……切り替えて、家を探しに商会に行ったりしないといけないのに……」
「焦ることないよ。とりあえず今日は、ちゃんと寝なよ」
ルーイが睡眠不足で痛むこめかみを押さえると、アーロンが心配そうにルーイの顔を覗き込んだ。
部屋の前まで来ると、ルーイは扉におでこをこつん、と当ててうつむいた。
──一人になるのが怖い……。
もう何年も前のことで、とっくに大丈夫になっていたと思ったのに……。
すると、アーロンが後ろから、ルーイをハグしてきた。
「ルーイ、怖がってる……。俺、今日は泊まってくよ。ずっとついててあげる」
背中にアーロンの身体の厚みを感じて、ルーイの顔にカーッと熱が上ってきた。
肩に回された腕から、温かくて落ち着く匂いがして、つい顔を埋めたくなってしまう。
胸がきゅんとするのを押さえつけながら、ルーイは、
「す、すけべ目的のクセに何言ってるんだよ」
とツッコミを入れたが、声が思わず上ずってしまった。
「大丈夫だよ。ルーイの嫌がることはしないから」
アーロンが耳元で優しくささやいた。
ホントかよ、と思いながら、ルーイはアーロンを部屋に上げた。
高額報酬をもらっても、特に嬉しそうにするでもなく、とぼとぼと去っていくローナが気になって、イスラはこっそり後をつけていったのだという。
「……それが、この辺りなんだけど……」
ゴミが散乱した汚い裏路地に、古い飲み屋が軒を連ねている。軒先で樽や木箱に腰をかけて安酒を飲んでいるのは、粗野な浮浪者や、冒険者とは名ばかりのヤクザ者だ。
地元住民でも絶対に足を踏み入れない、荒んだ地域だった。
「いやな匂いがする……」
アーロンが顔をしかめた。
「こんなところに、あのローナが……?」
ルーイは怪訝な顔をした。
ローナとは今回初めて会ったが、内気でおとなしそうで、とてもこんなところに住んでいるようには見えなかった。
「この建物に入っていったから、飛んでみて、何階に入ったのか窓からのぞいてみたんだけど……」
建物同士が寄りかかるようにして立っている、古びた五階建ての建物の、屋根裏のすぐ下を、イスラが指さした。
「……! ……!」
内容まではわからないが、何やら罵声が聴こえてくる。
「中を……見てみてくれない……?」
苦渋の表情を浮かべて、イスラが言った。
ルーイは魔法で空中に浮き、アーロンはイスラにぶら下げられて、ふよふよと五階まで飛んでいった。
窓の脇からこっそりと、中の様子をうかがってみる。
「残りの金はどうしたんだよ!」
いきなり罵声が飛んでくると、ガシャーン! と何かを壁に叩きつけるような音がした。
「報酬の……残りは、ちゃんとクエストが達成されたかどうか、ギルドが確認してから……」
ローナのか細い声が微かに聴こえてきた。
バシーン! と何かを叩くような音がして、
「きゃあっ!」という悲鳴が聴こえた。
ルーイとアーロンがぎょっとして窓の中を覗きこむと、
「デカい口叩いてんじゃねーよ!」
ガラの悪い大男が、ローナに馬乗りになり、殴りつけていた。
「……あっ……うっ……ごめんなさ……」
ローナは男の下から這い出ようとするが、すぐに引きずり戻される。
「きゃあっ!」
バシン!バシン!
男はさらに強く頬を張ると、
「やめて欲しけりゃ金を用意しろって言ってんだよ! ああ!?」
とローナの髪の毛を手綱のように掴んで引っ張りあげた。
「「デカい口を叩いているのは……!!」」
「「お前だーーー!!」」
アーロンはイスラに振り子のようにぶら下げたままぶん回してもらい、
ガシャーーン!!
とキックでガラスを突き破って部屋に飛び込んだ。
その後に続いてルーイが部屋の中に降り立つ。
示し合わせたわけでもないのに、なぜかセリフが被ってしまった。
「誰だてめえ……ぶべっ!!」
誰何すいかする間もなく、大男はアーロンの拳で壁に叩きつけられ、
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
ルーイのライトニングで黒焦げになった。
「ローナ大丈夫!?」
イスラがローナに駆け寄った。
「み、みんな……」
ローナは、腫れ上がった頬を治癒魔法で治すこともなく、手で顔を覆い、ボロボロと涙を流した。
◇ ◇ ◇
少し落ち着いたローナから話を聞くと、男はダグと言って、冒険者とは名ばかりのならず者だった。
とっくにギルドを追放されているのに、それを隠してローナに近づき、ローナが魔術は使えても気が弱いと見るや、報酬をすべて取り上げられるようになったのだという。
逃げようとしても捕まってボコボコにされ、言われるがままに報酬を取り上げられ……。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
ローナはしきりに謝った。
「ローナは悪くないよ」
イスラが優しく声をかけた。
ルーイは、昔の自分を見ているようで、胸が苦しくなった。ローナもおそらく犯されたりしているのだろう。
ローナに治癒魔法をかけて傷を治してやると、ルーイはイスラに、
「一人にしておくのは心配だ。イスラ、とりあえず合同ギルドの宿舎に連れて行って、まずは休ませてあげよう」
と提案した。
ギルドには、町から町へと渡り歩く冒険者のために、男女別の宿舎がある。相部屋だが、今のローナの状況を考えると、そのほうが安心だろう。
「そうだね。ローナ、歩ける?」
イスラは頷いてローナの肩をさすった。ローナは涙をこぼしながら、黙ってコクコクと頷いた。
「ルーイ、こいつの頭、切り落として町の広場に飾ってもいい?」
アーロンは、フーッ、フーッといきり立って、剣を抜いてダグの巨体をゲシゲシと踏んだ。
「駄目だ、まだ生きてるから、ちゃんと衛兵を呼んで牢屋に入れてもらおう」
ルーイは、アーロンがダグの息の根を止めようとするのを慌てて止めた。
「それから、懐を探れ。ローナから取り上げた報酬を持っているはずだ」
ローナに返してあげなければならない。
アーロンと二人でダグの装備を探したが、2万5千Gの金は、どこからも出てこなかった。
◇ ◇ ◇
ダグは無事、牢屋に収監され、ローナはしばらくギルドの宿舎に身を寄せることになった。
ハーピー退治の報酬の残額は、数日後、無事四人の手に渡った。
「ありがとうございます……。私、こんなにいっぱいもらっていいのかな……」
ローナは取られないお金を手に入れて、かえって困惑していた。
「こらっ、そういうこと言うから、変な男につけこまれちゃうんだよ」
とイスラがたしなめた。
「むしろ残りの報酬が見つからないのが、気になるな……」
ルーイは腕を組みながらつぶやいた。
「渡したらすぐに出かけていったので、きっと、何かに使っちゃったんですよ……。今までも、いくらあげても、すぐに『金がない』『金がない』って言ってましたから……」
ローナはうつむいた。
しかし、その日のうちに使ってしまうなどということがあるのだろうか。
「ローナのお金なのに、ごめんね……」
イスラが肩を落とすと、ローナはかぶりを振った。
「もう、ダグとはかかわりたくないから、これでいいんです……」
その気持ちも理解できなくはない。三人とも複雑な面持ちで、それ以上何も言えなくなった。
◇ ◇ ◇
残りの報酬を分けた後、ルーイとアーロンは家路についた。
「ルーイ、顔色が悪いよ。大丈夫?」
アーロンが声をかけてきた。
「ああ……このままでいいのか気がかりだし、それに、ちょっと寝不足でさ……」
この数日、ルーイはまともに眠れていなかった。
ダグが馬乗りになってローナに暴行を加えている光景が、山賊の玩具として弄ばれていた時の自分を思い出させたのだ。
その時は、ローナを助けることに集中していたので何ともなかったのに、家に帰って眠ろうとしたら、途端に自分がかつて味わった暴力がフラッシュバックして、ルーイを苦しめた。
「駄目だな……切り替えて、家を探しに商会に行ったりしないといけないのに……」
「焦ることないよ。とりあえず今日は、ちゃんと寝なよ」
ルーイが睡眠不足で痛むこめかみを押さえると、アーロンが心配そうにルーイの顔を覗き込んだ。
部屋の前まで来ると、ルーイは扉におでこをこつん、と当ててうつむいた。
──一人になるのが怖い……。
もう何年も前のことで、とっくに大丈夫になっていたと思ったのに……。
すると、アーロンが後ろから、ルーイをハグしてきた。
「ルーイ、怖がってる……。俺、今日は泊まってくよ。ずっとついててあげる」
背中にアーロンの身体の厚みを感じて、ルーイの顔にカーッと熱が上ってきた。
肩に回された腕から、温かくて落ち着く匂いがして、つい顔を埋めたくなってしまう。
胸がきゅんとするのを押さえつけながら、ルーイは、
「す、すけべ目的のクセに何言ってるんだよ」
とツッコミを入れたが、声が思わず上ずってしまった。
「大丈夫だよ。ルーイの嫌がることはしないから」
アーロンが耳元で優しくささやいた。
ホントかよ、と思いながら、ルーイはアーロンを部屋に上げた。
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