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第9話:泊まりはダメだぞ(フラグ)

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 アーロンの背中で、ルーイが微かに身じろぎをした。

「う……ん……」

「あ、ルーイ、 目が覚めた?」

 ルーイは、魔力を使い果たして気絶してしまい、アーロンがおんぶして町へ戻ることになったのだ。

「ああ……」

 ルーイは気だるげな声で返事をして、顔を上げて前を見た。少し先をイスラとローナが歩いている。

「ハーピーは全部倒したよ! すごいねルーイ!」

 ルーイが最後に放ったメテオ・ストライクで、残っていたハーピーも全滅した。

「いや、お前も……」

 背中のルーイの心拍数がちょっと上がったのを感じて、アーロンは、でへへと笑った。



 ──俺も、ちょっとはカッコよく活躍できたかなぁ……。

 だったら告白してくれてもいいのにな。

 そう思ったが、ルーイは、

「悪いなおんぶなんかしてもらって。もう下ろしてくれていいぞ」

 と体を起こして背中から降りようとした。



「いいよ。疲れたでしょ。町までおぶっていくよ」

 ルーイをおんぶしていると、あったかいルーイのぬくもりが伝わってくる。背中からいい匂いも漂ってくる。

 このぬくもりを手放したくない……。



 ルーイは、きまり悪そうに、

「町のちょっと手前で下ろしてくれよ」

 と言ったが、力を抜いてアーロンの背中に寄りかかり、さっきより少しだけ体温の上がった頬が、首の後ろにもたれかかった。



 ──えへへ、嬉しいな……。

 アーロンの心が、わっふるわっふるしてきた。



「……ちっちゃい頃、ルーイにおんぶしてもらった時みたい。あの時とは逆だけど」

「あれは、お前が勝手に俺におぶさってきたんだろ」

 今では、アーロンのほうが、ルーイよりも頭1個分は背が高い。もうルーイがアーロンをおんぶするのは、とうてい無理だろう。



「あったかくて気持ちよかったな~」

「やめろよ恥ずかしい……」



 ──トクン、トクン、とルーイの心臓の音が伝わってきた。

 ルーイは、疲れたのかそれ以上ごたくを並べることはせずに、おとなしくアーロンの背中に顔を埋めて、また眠り始めた。



 ◇ ◇ ◇



 ギルドに報告に行くと、当日は報酬の半額、翌日担当者と依頼主が直接現場を確認して、ハーピーが全滅していれば残りの半額が支払われる、ということになった。

「高額報酬のクエストって、やっぱりちゃんとチェックがあるんだな」

 ルーイが感心していた。ギルドのクエスト管理の仕組みは雑すぎる、と日頃ぷりぷりしていたが、高額報酬にはちゃんとこのような仕組みがあるようだ。

「残り半額、ちゃんと明日もらえるんでしょうか……」

 ローナが、心配そうな顔でうつむいた。

「大丈夫だって!」

 イスラが励まし、とりあえず半額の報酬、10万Gを四人で2万5千Gずつ分配した。



「この後どうする? 晩御飯食べに行く?」

 アーロンが聞いた。女の子を誘っているように見えて、実はそうではない。

「どうせ女の子からルーイと一緒に食べに行きたいって言われるけど、結局普通に仲良く解散して、俺とルーイで部屋で二次会やるだけだから、それだったら最初からルーイと二人で晩御飯食べたい」という意味だ。



「私は、家に帰ります。ありがとうございました」

 ローナが、小さな声で言った。2万5千の報酬を受け取ったとは思えない、小さな声だ。

「え、いいの? せっかくだから食べて行こうよ」

 イスラが声をかけたが、

「いいんです。……また明日」

 と言って、とぼとぼと立ち去っていった。

「ローナ、疲れてるのかな。じゃあ、晩御飯は、せっかくだし皆で食べたいから、明日残りの報酬を受け取ってから、また考えよっか」

 イスラもそう言うと、手を振って帰って行った。



「よし! これで家が買えるかも……」

 二人だけになると、ルーイは金貨の入った革袋を見つめて目を輝かせた。

「そっか! よかったね! ……じゃあ、おいしいもの買って、ルーイの家で食べようよ!」

 アーロンはそう言って手を突き上げ、ルーイの腕を取って、ぐいぐい引っ張っていった。

「ちょ……ちょっと……! なんで俺ん家なんだよ」

 ルーイは、慌ててアーロンを振りほどこうとした。

「え、ダメ?」

 アーロンはきょとんとして言った。アーロンの家に来てもいいが、アーロンの母親は、ルーイが来るとわかったら、張り切って色々料理してしまうので、かえってルーイに気を使わせてしまうのだ。



「……いいか、ちゃんと皿は洗えよ。それから泊まりはダメだぞ、ちゃんと帰るんだぞ」

 ルーイは、しぶしぶ仕方なく、といった表情で、了承した。

「うん!」

 ルーイからは、嫌がっている匂いは全然しなかった。アーロンはわっふるわっふるとついていった。



 アーロンにはわかっていた。

 昨日の夜、こっそり布団に潜り込んで一緒に寝た翌朝のこと。

 早朝、ルーイがアーロンの腕の中で目を覚まし、めちゃくちゃドキドキしていたことを。

 あれは、「目が覚めたらアーロンがいたのでびっくりした」じゃなくて、「目が覚めたらアーロンがいたのでドキドキした」匂いだった。

 なのにルーイは、頑張って起きてないフリをして、そのままアーロンの腕の中で寝ていたのだ。

 顔を真っ赤にして目をつぶっている姿を、薄目を開けて見ていたら、触りたくなってしまったので、アーロンは仕方なく、こっそり床に戻って、最初からそこで寝ていたようなフリをした。



 そうしたら、ルーイがおもむろに、「たった今目覚めました」みたいなていで、「う~ん」などと伸びをしてベッドの上に起き上がったのだ。



 ──ルーイ、かわいかったなあ。でへへへへ……。

 

 もちろん、アーロンは今日も泊まって行くつもりだった。
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