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第7話:ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し
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アーロンが、ルーイと一緒にクエストをこなし始めて、半年がたった。
カイラとニーアは、ハチミツ牧場でアーロンとルーイがキスをしていた件を誰にも話さなかったようで、噂が広まることはなかった。
相変わらず、女の子も交えてクエストに行っていたが、ルーイに彼女ができる気配はなかった。
今日もクエストを大過なく終了し、女の子たちと爽やかに挨拶して解散した。
その後、ルーイの家で、一緒に晩御飯を食べている。
今日のクエストはダンジョン探索だったが、帰り道で食材がけっこう手に入った。
帰りがけに鴨を獲り、街の肉屋でさばいて、パーティメンバーで分けてきた。
ルーイは、キッチンに紐で吊るしてあるニンニクをひとかけ取って刻み、塩と、これまた帰り道に道端で採ったハーブとともに鴨肉にまぶして、グリルで焼いた。
その間に、キャベツと干したキノコでスープを作る。
アーロンも一緒に作ると言ったことがあるが、ルーイは「俺は、100%俺がこうだと思う味のものを食べたいんだ」と言って、いつも作ってくれる。
アーロンは、特に食事の味は気にしないほうだが、ルーイの料理は好きだった。なんだか他の人とちょっと違う味付けがする。
しょっぱいだけではなくて、うまみがあるし、何よりルーイにお世話されている感じが嬉しかった。
「いっただきまーす!」
「今日も、特に出会いがなかった……」
パンをむしり、スープとともに食べながら、ルーイがぼそっと言った。
ルーイの中では、アーロンとのキスは「なかったこと」になっているようだ。
アーロンには、わかっていた。
ルーイは、どの女の子のことも、好きになっていないのだ。
鋭い嗅覚と野生の勘を持つアーロンには、相手が自分のことを好きか嫌いか、ある程度わかる。
アーロンにとって好ましい匂いがする人とは、たいてい仲良くなれるし、相手もアーロンのことを好きになってくれる。
なんだかイヤな感じの匂いがする人とは、たいてい仲良くなれない。そしてこの場合、相手もたいていアーロンのことを嫌っている。
ちなみに、母親によれば、「世界で一番いい匂いで、いつまでもずっと嗅いでいたい匂いのする人」が「運命の人」なのだそうだ。
アーロンにとっては、ルーイが世界で一番いい匂いがする。
さらに最近は、ルーイが相手のことを好きか嫌いかまでわかるようになった。
ルーイが発する匂いが変わるのだ。
どうやらルーイは、フィンガルとアーロン以外の「デカい男」が嫌いらしい。そういう相手に会うと、ルーイの全身から、嗅いでいるアーロンまで毛穴が逆立ってピリピリするような、警戒心を帯びた匂いがする。
逆に、ルーイが好ましいと思っている相手と会う時には、ルーイの身体から、甘い、ホンワカした匂いが出る。
ハチミツ牧場でルーイとキスをした時、ルーイからは世にもかぐわしい匂いが漂っていた。
女の子と会う時に、ルーイがこれほどいい匂いを出すことはない。
アーロンとこうやって二人きりでいる時、ルーイは時々、そのいい匂いをかすかに漂わせるようになった。
いつものいい匂いが、さらに香り立つように強くなり、少し甘い匂いがまざる。
──ルーイは、俺が一番大好きってことだよな……。
なんだかんだ言いながら、ルーイは確実にアーロンを意識している。
考えただけで、デヘヘと口元が緩んでしまう。
しかし、このままではダメだ。
ルーイが、「俺は普通に結婚するんだ」と言い張っている限り、進展はない。
──ルーイが告白してくんなくちゃダメだ。
アーロンは考えた。
できれば、噴水の前とか、満点の星空の下とか、そういうロマンチックなところがいい。
『アーロン、好き……』
『今まで素直になれなくて、ごめんな……』
アーロンの脳裏には、頬を染めて恥ずかしがりながら告白するルーイの姿が、ありありと浮かんだ。
「でへへへへ……」
「……何笑ってるんだ?」
ルーイの冷たい視線に、アーロンはふっと我に返った。
「なんでもない。でへへ」
「……気持ち悪い奴だな……」
ルーイは、あきれたようにため息をついた。
ルーイは、ベッドの上に座り、アーロンに毛布を投げてよこすと、
「明日もクエストあるだろ。さっさと寝ろ」
とそっけなく言って、アーロンに背中を向けて横になった。
アーロンも、毛布をかぶって床に転がった。
「なかったこと」になっているはずなのに、ハチミツ牧場でキスして以来、一緒の布団で寝かせてもらえなくなった。
──ホントはルーイも、うろ覚えでも覚えてるんだと思うんだよなあ……。まあいいや。
ルーイが眠りに落ちたところを見計らって、アーロンはルーイの布団に潜り込んだ。
起こさないように、そっと抱きしめると、ルーイの匂いが、アーロンの鼻孔をくすぐった。
ルーイの家の匂い、服の匂い、飲んでいたはちみつ酒の匂い、汗の匂い、そして、ルーイそのものの匂い……。
温かくて落ち着く匂いだ。干したお布団の匂いや、アップルパイの匂いのようだ。
スンスン、スンスン……。
アーロンも、ルーイに対する気持ちは、ヤバいハチミツでおかしくなったからなのではないか、と思ったことがあった。
しかしこうやって実際に抱きしめてみると、ルーイへの想いは、いっそう強くなるばかりだった。
──勘違いなんかじゃない。俺は、ルーイを自分のものにしたいんだ。
このぬくもりを、いつでも好きな時に思う存分、味わいたい。他の誰かに渡すなんてできない……。
良い狩人ハンターは、好機を待てるものだ。アーロンは、おとなしく目を閉じた。
カイラとニーアは、ハチミツ牧場でアーロンとルーイがキスをしていた件を誰にも話さなかったようで、噂が広まることはなかった。
相変わらず、女の子も交えてクエストに行っていたが、ルーイに彼女ができる気配はなかった。
今日もクエストを大過なく終了し、女の子たちと爽やかに挨拶して解散した。
その後、ルーイの家で、一緒に晩御飯を食べている。
今日のクエストはダンジョン探索だったが、帰り道で食材がけっこう手に入った。
帰りがけに鴨を獲り、街の肉屋でさばいて、パーティメンバーで分けてきた。
ルーイは、キッチンに紐で吊るしてあるニンニクをひとかけ取って刻み、塩と、これまた帰り道に道端で採ったハーブとともに鴨肉にまぶして、グリルで焼いた。
その間に、キャベツと干したキノコでスープを作る。
アーロンも一緒に作ると言ったことがあるが、ルーイは「俺は、100%俺がこうだと思う味のものを食べたいんだ」と言って、いつも作ってくれる。
アーロンは、特に食事の味は気にしないほうだが、ルーイの料理は好きだった。なんだか他の人とちょっと違う味付けがする。
しょっぱいだけではなくて、うまみがあるし、何よりルーイにお世話されている感じが嬉しかった。
「いっただきまーす!」
「今日も、特に出会いがなかった……」
パンをむしり、スープとともに食べながら、ルーイがぼそっと言った。
ルーイの中では、アーロンとのキスは「なかったこと」になっているようだ。
アーロンには、わかっていた。
ルーイは、どの女の子のことも、好きになっていないのだ。
鋭い嗅覚と野生の勘を持つアーロンには、相手が自分のことを好きか嫌いか、ある程度わかる。
アーロンにとって好ましい匂いがする人とは、たいてい仲良くなれるし、相手もアーロンのことを好きになってくれる。
なんだかイヤな感じの匂いがする人とは、たいてい仲良くなれない。そしてこの場合、相手もたいていアーロンのことを嫌っている。
ちなみに、母親によれば、「世界で一番いい匂いで、いつまでもずっと嗅いでいたい匂いのする人」が「運命の人」なのだそうだ。
アーロンにとっては、ルーイが世界で一番いい匂いがする。
さらに最近は、ルーイが相手のことを好きか嫌いかまでわかるようになった。
ルーイが発する匂いが変わるのだ。
どうやらルーイは、フィンガルとアーロン以外の「デカい男」が嫌いらしい。そういう相手に会うと、ルーイの全身から、嗅いでいるアーロンまで毛穴が逆立ってピリピリするような、警戒心を帯びた匂いがする。
逆に、ルーイが好ましいと思っている相手と会う時には、ルーイの身体から、甘い、ホンワカした匂いが出る。
ハチミツ牧場でルーイとキスをした時、ルーイからは世にもかぐわしい匂いが漂っていた。
女の子と会う時に、ルーイがこれほどいい匂いを出すことはない。
アーロンとこうやって二人きりでいる時、ルーイは時々、そのいい匂いをかすかに漂わせるようになった。
いつものいい匂いが、さらに香り立つように強くなり、少し甘い匂いがまざる。
──ルーイは、俺が一番大好きってことだよな……。
なんだかんだ言いながら、ルーイは確実にアーロンを意識している。
考えただけで、デヘヘと口元が緩んでしまう。
しかし、このままではダメだ。
ルーイが、「俺は普通に結婚するんだ」と言い張っている限り、進展はない。
──ルーイが告白してくんなくちゃダメだ。
アーロンは考えた。
できれば、噴水の前とか、満点の星空の下とか、そういうロマンチックなところがいい。
『アーロン、好き……』
『今まで素直になれなくて、ごめんな……』
アーロンの脳裏には、頬を染めて恥ずかしがりながら告白するルーイの姿が、ありありと浮かんだ。
「でへへへへ……」
「……何笑ってるんだ?」
ルーイの冷たい視線に、アーロンはふっと我に返った。
「なんでもない。でへへ」
「……気持ち悪い奴だな……」
ルーイは、あきれたようにため息をついた。
ルーイは、ベッドの上に座り、アーロンに毛布を投げてよこすと、
「明日もクエストあるだろ。さっさと寝ろ」
とそっけなく言って、アーロンに背中を向けて横になった。
アーロンも、毛布をかぶって床に転がった。
「なかったこと」になっているはずなのに、ハチミツ牧場でキスして以来、一緒の布団で寝かせてもらえなくなった。
──ホントはルーイも、うろ覚えでも覚えてるんだと思うんだよなあ……。まあいいや。
ルーイが眠りに落ちたところを見計らって、アーロンはルーイの布団に潜り込んだ。
起こさないように、そっと抱きしめると、ルーイの匂いが、アーロンの鼻孔をくすぐった。
ルーイの家の匂い、服の匂い、飲んでいたはちみつ酒の匂い、汗の匂い、そして、ルーイそのものの匂い……。
温かくて落ち着く匂いだ。干したお布団の匂いや、アップルパイの匂いのようだ。
スンスン、スンスン……。
アーロンも、ルーイに対する気持ちは、ヤバいハチミツでおかしくなったからなのではないか、と思ったことがあった。
しかしこうやって実際に抱きしめてみると、ルーイへの想いは、いっそう強くなるばかりだった。
──勘違いなんかじゃない。俺は、ルーイを自分のものにしたいんだ。
このぬくもりを、いつでも好きな時に思う存分、味わいたい。他の誰かに渡すなんてできない……。
良い狩人ハンターは、好機を待てるものだ。アーロンは、おとなしく目を閉じた。
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