ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し

ぽんぽこまだむ

文字の大きさ
上 下
5 / 20

第5話:ファーストキッスは蜜の味

しおりを挟む
「アーロン! 起きろ! ヒグマが来てるぞ!」

 ルーイに肩を揺さぶられて、アーロンは目を開けた。

 どうやら、ポカポカとした日差しに誘われて、居眠りしてしまったようだ。



「二頭、別々の方向にいるッス!」

 緩やかに起伏する花畑の向こうに一頭、すでにこちらに気づいてのっしのっしと近づいてきている。

 後ろを向くと、森の奥から灌木をかき分け、ひときわ大きなヒグマが一頭、ガサガサと姿を現した。まだこちらには気づいていない様子で、ゆったりとした足取りだ。



「ここは二手に分かれよう。俺とアーロンは、デカいほうをやる。カイラとニーアはもう一頭を頼む」

「了解ッス!」

 

 アーロンは即座に、大きなヒグマに向かって走り出した。

 後ろからルーイが追いかけてくる。魔法を撃つことを予測して、真正面から少し脇に避けると、予想通り、後ろから魔法が飛んできた。



「アイス・スパイク!」

 氷のつららがヒグマに突き刺さった。

 しかしアーロンがヒグマにたどり着くよりも早く、ヒグマは氷のつららを振り払い、くるっと向きを変えると、森の奥に向かって逃げ出した。



「待てー!」

 二人はヒグマを追いかけた。後ろからルーイが魔法を撃つが、ヒグマは意外と速く、なかなか当たらない。



「くそっ」

 追いかけていると、少し開けた場所が見えてきた。

 木の小屋があり、「ハチミツ」と書いた樽が脇に積んである。どうやらハチミツを収穫して樽詰めする作業をするための建物のようだ。

 従業員はすべて避難しているので、今は無人だ。



 ヒグマは小屋の後ろに駆け込んだ。

「アーロン、俺は右から行くからお前は左から回り込め」

 追いついてきたルーイが言いながら、小屋の裏手に向かっていった。

 挟み撃ちにするため、アーロンも反対側から回り込む。



 すると、

「うわああっ!」

 という悲鳴とともに、ドボン! ドボン! という音が聴こえてきた。



「ルーイ!?」

「アーロン来るな、危な……ごぶっ」



 アーロンが驚いて裏手に回り込むと、小屋の裏手には、二メートル四方ほどの深い穴が掘られていた。

 中がハチミツで満たされており、先ほどのヒグマとルーイが、ずぶずぶとハチミツ溜まりの中に沈んでいくところだった。



 ヒグマは、立ち泳ぎのような姿勢で溺れそうになりながらも、ルーイそっちのけでハチミツをガブガブ飲んでいる。

 ふと気が付くと、アーロンの立っている側に立て札が立っており、

「ヒグマ用落とし穴あり。危ないから近寄らないこと!」

 と書いてある。ルーイの回り込んできた側には、何も立て札がない。

 どうやらヒグマをかけるための罠に、ルーイもかかってしまったようだ。



「ルーイ、これにつかまって!」

 アーロンは戦斧ハルバードを差し出した。

 地面がハチミツでヌルヌルと滑り、しっかりふんばっていないとアーロンも落ちてしまいそうだ。

 ルーイが戦斧ハルバードの柄を掴んだのを確認すると、アーロンはルーイをたぐりよせ、どうにか引き上げた。



「ぜえ、はぁ、ぜえ、はあ……」

 全身ハチミツまみれになって、どうにかルーイは立ち上がった。



「アーロンがいなかったら危なかった……」

「ルーイ大丈夫? ハチミツ飲んじゃった?」

「ああ、ちょっとな……」

 そう言うとルーイは、落とし穴から離れて、角を曲がり、小屋の壁に体を寄りかからせた。



「なんか……気分悪い……」

 ハチミツの効果だろうか。

 毒消しなどのポーション類は、ルーイが持っていたが、バックパックごとハチミツ溜まりに沈んでしまった。



「ルーイ、自分に状態異常回復の魔法かけられる?」

「……」

 アーロンは声をかけたが、だんだんルーイの目つきが胡乱になってきた。



 ──どうしよう、どうしよう。

 カイラとニーアを呼んだ方がいいのだろうが、匂いがだいぶ遠い。声を出しても聞こえないだろう。



「……服がベタベタして気持ち悪い……。アーロン、着替え持ってるか」

 そう言うとルーイは服を脱ぎ始めた。

 アーロンが自分のバックパックから、念のため持ってきた着替えを出して振り返ると、ルーイはもう、パンツ一枚になっていた。



 ドックン、ドックンとアーロンの心臓が激しく音を立てている。

 ルーイの上半身に、首筋からハチミツがしたたり落ち、陽光に反射してキラキラと光っている。

 アーロンの喉が、ゴクリと鳴った。



 ──なんか……すげー、エロいぞ……。どうしよう……

 たらっとハチミツがルーイの乳首に垂れた。



 ──ルーイと一緒にお風呂に入ったことだってあるのに……。ルーイも俺も、男なのに……。

 動悸は静まるどころか、どんどん高まっていく。



「アーロン……?」

 ルーイは、アーロンを見上げ、力のない声で尋ねた。

 アーロンはルーイに近づき、ハチミツまみれになった元の服を受け取り、自分の持っていた手ぬぐいでルーイの頭や顔を拭き始めた。



 手ぬぐいごしにルーイの肌を感じ、何年かぶりにルーイの身体に触れていることを実感した。



 ──ルーイと、最後に手をつないだの、いつだっけ……。

 どうしても直接触れてみたくなってしまい、アーロンは、ルーイの頬にべたっと張り付いている髪を、耳にかけなおした。

 久しぶりにルーイの肌に直接触れると、触れたところが痺れたようになって、アーロンは震えるほどの動悸を覚え、自分で驚いた。



 指についたハチミツをじっと見つめ、ドキドキしながら、ぺろっと舐めてみた。

 ──甘い……。



 普通においしいハチミツだった。人間が一口含んだだけで錯乱するわけではないようだ。



 ──服を着替えるんだったら、もっとルーイの身体をキレイにしてからにしないと……。

 アーロンは、ルーイの頬をぺろぺろと舐めた。

「ちょ、ちょっと……やめろ……」

 ルーイは、ヘロヘロとした声で言ったが、気分が悪いのか、ぐったりと小屋の壁によりかかったままだ。



 ペロペロと舐めるとハチミツの甘ったるい匂いに混ざって、ルーイの身体のいい匂いがする。

 ──ぺろぺろすると、匂いってより深く味わえるんだな……。



 さっき一瞬だけ嗅いだ、これまでにないいい匂いもする。

 アーロンは、止まらなくなって、ルーイの顔についたハチミツを、全部ぺろぺろと舐めまわした。



 ──なんか頭がぐわんぐわんする……。

 マッドハニーの効果なのだろうか。でもルーイをぺろぺろするのはやめられなかった。

 首筋に垂れたハチミツも、ぺろぺろと舐めとる。



「ひゃっ……」

 ルーイが力なく叫んだ。

 脚に力が入らないようで、小屋の壁にもたれかかり、ズルズルとずり落ちそうになっている。

 アーロンはルーイの肩を抱き、首筋から鎖骨や胸に伝ったハチミツを舐めた。

 ぺろぺろしていては、いっぺんにぬぐい取れないので、唇を押し付けて、ちゅぱちゅぱとしゃぶった。



 甘ったるいハチミツと、かぐわしいルーイの香りを、アーロンは夢中で吸った。

 乳首に垂れたハチミツをちゅぱちゅぱと吸い取ると、ルーイが、

「あんっ」

 と喘いだ。

 その声を聞いたら、アーロンの身体は勝手に、ルーイの唇に唇を押し当てていた。



 ──ルーイの唇、甘い……。

 ルーイも少しハチミツを飲んでしまったと言っていた。舐めとってあげないと……。

 アーロンはルーイの口の中に舌を差し入れた。

 ちゅぱちゅぱと唇を吸い、舌でルーイの口内を探ると、ルーイの舌が絡みついてきた。

 アーロンの服を、ルーイの手がぎゅっと掴んだ。



 焼け付くような胸の痛みと、激しい動悸とともに、アーロンは心の中で叫んだ。

 ──ルーイ、ルーイ大好き……! 俺、ルーイに恋してる……。



 立っていられなくなり、小屋の壁にルーイの背をもたせかけ、二人で地面に座り込み、夢中で唇を交わし、舌を絡めた。

 髪の毛から垂れてきたハチミツがルーイの裸の乳首にかかったので、アーロンが親指でぬぐい取ると、ルーイがビクッと体を震わせた。



 服にハチミツが付くのも構わず、ルーイの裸の背中に腕を回し、ぐっと抱きしめると、ルーイが、

「あっ……」

 と喘いだ。

 アーロンは、熱い欲情に喉を鳴らしてハチミツ混じりの甘い唾液をごくんと飲み込み、意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】 ────────── 身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。 力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。 ※シリアス 溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。 表紙:七賀

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

処理中です...