ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し

ぽんぽこまだむ

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第3話:初めてのクエスト

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 アーロンは、さっそくルーイにギルドに連れて行ってもらった。

 扉を開けて、たくさんの冒険者たちでにぎわうホールに入ると、一瞬、周囲からの目線を感じてアーロンはあたりを見回した。

 敵意のある目ではない。女の子が何人か、こちらを見ているようだ。



「ルーイさん、今回は男の冒険者と組むんですか? 珍しいッスね!」

 少し長めのショートヘアの女の子が元気に話しかけてきた。

「ああ、カイラ。アーロンは幼馴染で、戦士ギルドに入ったばかりなんだ」

 カイラと呼ばれた女の子は、敬礼のようなポーズを取って、アーロンにあいさつした。

「カイラっス! 蛇の部族出身で、温度で生き物の場所を見ることができるんで、索敵とかが得意ッス!」

 あいさつすると、カイラは珍しそうにアーロンを見つめ、小さな声で話しかけてきた。

「ルーイさん、男の人が苦手なのかなと思ったんですけど、仲がいい友達もいるんッスね」



 ルーイはいつも、女性の冒険者と一緒にクエストに行ってるという。粗暴な男が多い業界の中で、ルーイは、怒鳴らないし、言葉遣いが乱暴じゃないし、自分ばっかり活躍しようとして、女性冒険者をぞんざいに扱ったりしないため、パーティを組む相手として、女性冒険者に人気なのだという。

 ルーイが女性冒険者と組むのは、婚活目的なのだが、カイラには「男の人が苦手なのだろう」と解釈されていたようだ。

 婚活を続けているということは、「相手が見つからない」という証左でもあるが、それでもルーイが女の子と冒険に行っていると聞くと、アーロンはなぜかムカムカしてきた。



「カイラは、ルーイと一緒にクエストに行ったことがあるの?」

「何回かあるッス。自分の友達のニーアも一緒に行ったことがあるッスね」



 ──何回か一緒に行ったことがある女の子がいるなんて……。俺はまだルーイと一度もクエストに行ったことがないのに……。

 アーロンは、自分が戦士ギルドに登録されたばかりなのも忘れて、心の中で悔しがった。



「ルーイ、今日は俺と行くクエスト探しに来たんだよね! 一緒に選んでよ!」

 アーロンは、依頼票の貼ってある掲示板にルーイを引っ張っていこうとしたが、ルーイは、

「最初だからな。ちゃんと職員に相談して決めよう」

 とアーロンをカウンターにずいずいと押していった。



 ◇ ◇ ◇



「フィンガルさんのところのアーロン君じゃないですか。ようやく戦士ギルドに入れたんですね」

 枯れた雰囲気のメガネのギルド職員は、この街の出身らしく、アーロンを知っていた。

「おじさん、俺のこと知ってるの?」

「もちろんですとも。戦士ギルド期待の新人ですからね」

 アーロンは、途端にごきげんになった。



 戦士ギルドに入るための試験を15歳の時に受けた時、試合相手となった副長に、「オッサン口臭いよ! 歯磨きし直して!」と言ったせいで、2年間試験を受けさせてもらえなかったが、ちゃんとアーロンの実力は評価されていたようだ。



「初めてだから、グループでの戦闘に慣れるよう、俺も含めて3~4人向きで、適当なクエストありませんか」

 ルーイが職員に尋ねると、

「ちょうど、4名くらいが適切なクエストに、2名だけ応募があって、残りのメンバーを募集しているものがありましたよ」

 と言って、書類挟みから1枚の依頼票を取り出し、二人に示した。



 “ヒグマの討伐(10頭程度)

 報酬:4000G、場所:北の森の花畑ハチミツ牧場

 興奮・幻覚作用のあるハチミツ、『マッドハニー』を食べたヒグマが暴走して困っています。助けてください”



「ヒグマか~……。古代遺跡の探索とか、ドラゴン退治とかがよかったなぁ~」

 アーロンが口をとがらせてぼやくと、ルーイが眉間にシワを寄せて小言を言った。

「何を言っているんだ。初めてのクエストとしては、十分だと思うぞ。報酬もそれなりにあるし、4000Gと、4人パーティを想定したような金額じゃないか」

 職員も、苦笑いをしながらフォローした。

「ヒグマは、いわゆる『モンスター』と異なり、ただの『動物』ですが、かなり強いですよ。人の役にも立ちますし、決してつまらないクエストではありません」

「……まあ、ルーイと一緒にクエストに行けるんだったらいいや」

 アーロンはしぶしぶ承諾した。



 ◇ ◇ ◇



「カイラでッス! よろしくッス!」

 残り二人の冒険者は、カイラとその友人のニーアだった。



 ニーアは、魔術師とのことで、アイボリーの生地に紅の刺繍が施されたローブに、編み上げロングブーツを履いて、豊かに波打つ赤毛をハーフアップにした、上品な雰囲気の女の子だった。

「初めまして、魔術師のニーアです。修行のために冒険者をやっています。破壊魔法が得意です。よろしくお願いします」

 と丁寧にお辞儀をした。

 アーロンとルーイも挨拶した。

「俺はアーロンで、狼族の戦士だ! こっちはルーイ。魔術師で、破壊魔法、治癒魔法、補助魔法、色んな魔法が使えるし、錬金素材とかにも詳しいんだ!」

「アーロン、自分よりも俺のことを詳しく紹介してどうする。アーロンは、ギルドに入ったばかりで、今回のクエストが初めてだ。嗅覚に優れているので、匂いでヒグマを探したりするのに役立つと思う。身軽で足も速い」



 ◇ ◇ ◇



 四人は、さっそくクエストの場所である、北の森ハチミツ牧場に向かった。

 依頼人である小太りの牧場主によると、「マッドハニー」は、特定の花から、その地域に住むミツバチだけが作る、興奮・幻覚作用のあるハチミツだそうだ。

 多量に摂取すれば中毒症状を起こすが、少量であれば薬として用いることができるため、許可を得て栽培しているのだという。

 てっきりイケナイ薬物だと思っていたアーロンは、心の中で反省した。



 村はずれから広がる広大な森に、点々と作られた花畑にミツバチの巣箱が設置され、「マッドハニー」が栽培されている。

 今年はどうやら山で木の実があまり成らなかったようで、ヒグマが人里に下りてきて、マッドハニーを食い漁るようになったのだという。

 マッドハニーを食べたヒグマは暴れまわり、倉庫や巣箱などを破壊して、マッドハニーをさらに食い漁った。牧場主や従業員も、罠や弓矢などで対応したが、興奮状態のヒグマは傷を負っても構わず暴れまわり、とても歯が立たなかったという。



「よし、じゃあ、アーロンは鼻が利くから、アーロンにヒグマのいる方向を探してもらおう。近づいたら、カイラも赤外線視力を活かして、ヒグマに気づかれる前に皆に位置を知らせる。俺とニーアが遠距離から破壊魔法で体力を削る。マッドハニーで興奮しているから、氷系で足止めするのがいいだろう。最後はアーロンとカイラの近距離攻撃でとどめを刺そう」

 ルーイが、作戦を考えると、

「了解ッス!」

 とカイラが敬礼ポーズで了承した。



「ルーイ、俺、一人でヒグマ全部倒すから!」

 アーロンは、大きな戦斧ハルバードをブンブンと振り回し、背中に担いだ。

 一番得意なのは長剣だが、今回は間合いで優位に立つため、戦斧ハルバードを持ってきた。



「あのなアーロン。クエストで大切なのは、目立つことじゃなくて、まずは無事に帰ること。次にクエストを達成することで……チームプレイが……」

 ルーイの小言に、「期待してるぞ」とか「カッコイイぞ」などの言葉を期待していたアーロンは、口を尖らせた。



「それからアーロン、お前何も防具をつけてないが、大丈夫なのか」

 アーロンは、戦斧ハルバードの他にショートソードを腰にぶら下げているだけで、ほぼ普段着……というか、事実普段着そのままの恰好をしていた。



「俺の持ち味は、強さと、それから速さなんだ。防具で遅くなったら意味ないじゃん」

 アーロンは腕組みをして言い張った。

「う~ん……。しょうがないな。物理防御が上がる魔法かけてやるから、今度から、せめて腹とかは守れよ」

 そう言いながらルーイは、キュルキュルと呪文を唱え、アーロンに物理防御上昇の魔法をかけてくれた。



 ──ルーイが俺にサポート魔法かけてくれてる……。なんかすっげー「一緒にパーティ組んでる」感がする~!



「でへへ……」

「……何ニヤニヤしてるんだよ」

 ルーイが不審そうな目でアーロンを見た。

 こうやって、なんだかんだルーイは、アーロンの面倒を見てくれるのだ。それがアーロンにはこそばゆくて、なんだかわっふるわっふるして、ドキドキする。



「二人とも、仲がいいんですね」

 ニーアが、そんな二人の様子を見て、くすっと笑った。

「うん! 俺たち幼馴染なんだ!」

 そう言ってアーロンがルーイと肩を組むと、ルーイが迷惑そうに肩を縮めた。

「まあ、素敵ですね!」

 ニーアがほほえましそうに笑うのを見て、アーロンはなんとなく、誇らしげな気持ちになった。
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