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第十一話:【回想編】ウルリックとの思い出(3)
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次に向かったのは、ブラックドラゴンの住まう「闇の城」であった。
ここにはアンデッドや毒のあるモンスターがウヨウヨしており、毒耐性のある聖職者が必要だった。
そこで出会ったのが、リザードマンのサドラだった。
リザードマンは、毒に耐性があり、体力と魔法防御に優れているが、姿かたちがドラゴンに似ていることから、近年とみに差別を受けるようになった。
闇の城の近くにある、ジメジメとした、ユルトの故郷以上に治安と水はけの悪い町には、住みよい町から追い出され、路上をあてもなくさまようストリート・リザード・チルドレンがあふれていた。
「あっち行け! このドラゴンもどき!」
町のゴロツキは、リザードマンの子どもに遠慮なく石を投げた。
「ああっ」
リザードマンの子どもは、石に打たれ路上に倒れ伏した。
そこにフードの人物が駆け寄り、回復魔法をかけた。
「大丈夫カ? ナンテヒドイコトヲ……」
駆け寄ったローブの裾から尻尾が生えているのを見たゴロツキどもは、さらに石を投げた。
「ドラゴンもどきは失せろ! ダンジョンに帰れ!」
「お前らのおかげで農作物に被害が出てるんだ!」
フードの人物は子どもの上に覆いかぶさり、決してゴロツキに歯向かうこともなく、しかし屈することもなく、子どもを守り続けた。
「やめろ」
痛めつけられるリザードマンとゴロツキどもとの間に、ウルリックが立ちふさがった。
「ドラゴンが憎いのなら、なぜドラゴンに立ち向かわない」
ゴロツキたちは、シーンと静まり返った。ドラゴンに立ち向かう勇気など、まったくないのだ。だからドラゴンよりずっと弱い者を痛めつける。
「ちっ……!」
どう見ても強そうなウルリックを見て、ゴロツキどもは、唾を吐いて立ち去って行った。
「アリガトウ」
立ち上がったフードの人物は、やはりリザードマンだった。
胸に下げた宝珠は、彼が聖職者であることを示している。ローブの下は動きやすそうな括袴《くくりばかま》で、脚絆の下から立派な鉤爪の生えた脚がのぞいている。どうやら僧兵のようだ。
「仲間になってほしい。ともにドラゴンを倒し、こんな悲しい事を終わらせよう」
「イイノデスカ……? 私ノヨウナ身分ノ低イりざーどまんヲ仲間ニシテ……」
「取り分は平等に分ける。子供たちのぶんまで余計に分けてあげることはできないが、それが問題なければあとは関係ない」
冒険に旅立つのはいいが、この街に残されるストリート・リザード・チルドレンが心配だ。サドラがそう言ったので、ユルトは街のゴロツキどもをちょいとばかり絞め上げてやることにした。
ウルリックとともに冒険と戦いの日々を送っていたユルトは、めちゃくちゃ強くなっており、そんじょそこらのゴロツキなど、一人で始末できるくらいのレベルに達している。
夜中ふらりと宿屋を出ると、ユルトは酒場でたむろしている連中を全員タコ殴りにして、差別のない公平な街づくりを誓わせた。
腹に鉄板を仕込んでいる奴をうっかりぶん殴ってしまい、拳をさすりながら宿屋に戻ると、待ち構えていたウルリックに両肩をつかまれた。
「無事だったかユルト! 俺が守ると言ったのにすまない」
「はあ? モンスターとの戦いと、ゴロツキとのケンカは違うだろ。このくらい、後で回復魔法かけてもらえばどうってことねーよ」
「しかし……」
「裏稼業の連中シメるのは、どっちかっていうと盗賊職の仕事だろ」
「しかし……」
ウルリックは、赤く腫れたユルトの拳を両手で包み込んで、拝むように顔を近づけた。
近い近い。顔が近い。
なんだかユルトの心拍数が上がり、包まれている手がもぞもぞした。
「しかししかしうるせーよ。なんなんだよもう」
ユルトが戦えるし、そのつもりもあるということは、ウルリックもとっくに理解しているはずである。
それなのに、ウルリックはこうやって、ユルトが戦うと変なことを言い出すのだ。
「要するに俺は……」
ウルリックが、自分自身に言っているかのように、目線を手の中のユルトの拳に合わせたままつぶやいた。
「お前が心配なんだ。ユルト」
「へ……?」
バクバクと心臓が早鐘を打ち始めた。
「こんなに細いし、魔法が使えるわけでもない。鎧だって軽装の革鎧だ」
確かにウルリックの分厚い手よりユルトの手ははるかに細く、腕だって丸太と枝のようだ。だがユルトは敏捷性が高く、いわゆる「避ける壁」がやれるくらいなのだ。
「いや、俺だってそこそこ強いし……」
「お前は、俺が守りたい」
話を聞いているのかいないのか、ウルリックは、ユルトの拳を包み込んだ手に力を入れた。
かーっと顔が熱くなり、ユルトは思わず手を引っ込めたくなったが、なぜか手が動かせない。
白銀の髪の毛が、息がかかりそうな距離まで近づいている。
紫色の瞳が、真摯に自分を見つめているのがわかったが、喉元まで飛び上がりそうな鼓動が気になって、目線を合わせることができない。
目を逸らすと、男らしく形のよい顎や、逞しい首肩まわりばかりが視界に入って、どうしてかはわからないが、これはこれでドキドキしてしまう。
「な、なんで……?」
おそるおそるユルトが聞くと、なんだか少しずつ近づいてきていたような気がするウルリックの顔が、ぴたりと止まった。
「…………わからない」
しばしの沈黙の後に、ウルリックは眉を寄せて深刻な面持ちでつぶやいた。
「早めに、サドラに回復魔法をかけてもらってくれ……」
そう言ってウルリックは、自分の部屋に戻っていき、後に残されたユルトは、へなへなとその場にくずおれた。
──な、なんなんだよあいつ……。
バクバクと高鳴る鼓動は、一晩中鳴りやまなかった。
ここにはアンデッドや毒のあるモンスターがウヨウヨしており、毒耐性のある聖職者が必要だった。
そこで出会ったのが、リザードマンのサドラだった。
リザードマンは、毒に耐性があり、体力と魔法防御に優れているが、姿かたちがドラゴンに似ていることから、近年とみに差別を受けるようになった。
闇の城の近くにある、ジメジメとした、ユルトの故郷以上に治安と水はけの悪い町には、住みよい町から追い出され、路上をあてもなくさまようストリート・リザード・チルドレンがあふれていた。
「あっち行け! このドラゴンもどき!」
町のゴロツキは、リザードマンの子どもに遠慮なく石を投げた。
「ああっ」
リザードマンの子どもは、石に打たれ路上に倒れ伏した。
そこにフードの人物が駆け寄り、回復魔法をかけた。
「大丈夫カ? ナンテヒドイコトヲ……」
駆け寄ったローブの裾から尻尾が生えているのを見たゴロツキどもは、さらに石を投げた。
「ドラゴンもどきは失せろ! ダンジョンに帰れ!」
「お前らのおかげで農作物に被害が出てるんだ!」
フードの人物は子どもの上に覆いかぶさり、決してゴロツキに歯向かうこともなく、しかし屈することもなく、子どもを守り続けた。
「やめろ」
痛めつけられるリザードマンとゴロツキどもとの間に、ウルリックが立ちふさがった。
「ドラゴンが憎いのなら、なぜドラゴンに立ち向かわない」
ゴロツキたちは、シーンと静まり返った。ドラゴンに立ち向かう勇気など、まったくないのだ。だからドラゴンよりずっと弱い者を痛めつける。
「ちっ……!」
どう見ても強そうなウルリックを見て、ゴロツキどもは、唾を吐いて立ち去って行った。
「アリガトウ」
立ち上がったフードの人物は、やはりリザードマンだった。
胸に下げた宝珠は、彼が聖職者であることを示している。ローブの下は動きやすそうな括袴《くくりばかま》で、脚絆の下から立派な鉤爪の生えた脚がのぞいている。どうやら僧兵のようだ。
「仲間になってほしい。ともにドラゴンを倒し、こんな悲しい事を終わらせよう」
「イイノデスカ……? 私ノヨウナ身分ノ低イりざーどまんヲ仲間ニシテ……」
「取り分は平等に分ける。子供たちのぶんまで余計に分けてあげることはできないが、それが問題なければあとは関係ない」
冒険に旅立つのはいいが、この街に残されるストリート・リザード・チルドレンが心配だ。サドラがそう言ったので、ユルトは街のゴロツキどもをちょいとばかり絞め上げてやることにした。
ウルリックとともに冒険と戦いの日々を送っていたユルトは、めちゃくちゃ強くなっており、そんじょそこらのゴロツキなど、一人で始末できるくらいのレベルに達している。
夜中ふらりと宿屋を出ると、ユルトは酒場でたむろしている連中を全員タコ殴りにして、差別のない公平な街づくりを誓わせた。
腹に鉄板を仕込んでいる奴をうっかりぶん殴ってしまい、拳をさすりながら宿屋に戻ると、待ち構えていたウルリックに両肩をつかまれた。
「無事だったかユルト! 俺が守ると言ったのにすまない」
「はあ? モンスターとの戦いと、ゴロツキとのケンカは違うだろ。このくらい、後で回復魔法かけてもらえばどうってことねーよ」
「しかし……」
「裏稼業の連中シメるのは、どっちかっていうと盗賊職の仕事だろ」
「しかし……」
ウルリックは、赤く腫れたユルトの拳を両手で包み込んで、拝むように顔を近づけた。
近い近い。顔が近い。
なんだかユルトの心拍数が上がり、包まれている手がもぞもぞした。
「しかししかしうるせーよ。なんなんだよもう」
ユルトが戦えるし、そのつもりもあるということは、ウルリックもとっくに理解しているはずである。
それなのに、ウルリックはこうやって、ユルトが戦うと変なことを言い出すのだ。
「要するに俺は……」
ウルリックが、自分自身に言っているかのように、目線を手の中のユルトの拳に合わせたままつぶやいた。
「お前が心配なんだ。ユルト」
「へ……?」
バクバクと心臓が早鐘を打ち始めた。
「こんなに細いし、魔法が使えるわけでもない。鎧だって軽装の革鎧だ」
確かにウルリックの分厚い手よりユルトの手ははるかに細く、腕だって丸太と枝のようだ。だがユルトは敏捷性が高く、いわゆる「避ける壁」がやれるくらいなのだ。
「いや、俺だってそこそこ強いし……」
「お前は、俺が守りたい」
話を聞いているのかいないのか、ウルリックは、ユルトの拳を包み込んだ手に力を入れた。
かーっと顔が熱くなり、ユルトは思わず手を引っ込めたくなったが、なぜか手が動かせない。
白銀の髪の毛が、息がかかりそうな距離まで近づいている。
紫色の瞳が、真摯に自分を見つめているのがわかったが、喉元まで飛び上がりそうな鼓動が気になって、目線を合わせることができない。
目を逸らすと、男らしく形のよい顎や、逞しい首肩まわりばかりが視界に入って、どうしてかはわからないが、これはこれでドキドキしてしまう。
「な、なんで……?」
おそるおそるユルトが聞くと、なんだか少しずつ近づいてきていたような気がするウルリックの顔が、ぴたりと止まった。
「…………わからない」
しばしの沈黙の後に、ウルリックは眉を寄せて深刻な面持ちでつぶやいた。
「早めに、サドラに回復魔法をかけてもらってくれ……」
そう言ってウルリックは、自分の部屋に戻っていき、後に残されたユルトは、へなへなとその場にくずおれた。
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バクバクと高鳴る鼓動は、一晩中鳴りやまなかった。
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