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第九話:弱く儚い者たち(受け視点)
しおりを挟む「どれ、こっちに連れて来い」
ガスパルが顎をしゃくると、女の子の一人が立ち上がり、一切の迷いない手つきで聡の腕をつかんだ。
「え、ちょっと……」
引きずられるようにガスパルに渡されると、ガスパルはぐいっと聡の腕を持ち上げ、口の端をつり上げて笑った。
「隊長にさんざん仕込まれてるんだろ? ゆるマンになってないか試してやるよ」
──え? え? ええっ!?
「やだ! やめろ!」
「おい、暴れるな。どうせ隊長とヤリまくってるんだろ?」
──なんだこいつ、ファビオと知り合いなのか?
「ヤッてない!」
いや、ほぼヤッているに等しいのだが、こいつにご丁寧に教えてやる筋合いはない。
聡の腕力ではとうてい抗えない力で隣の部屋に連れ込まれ、ぐいぐいとベッドの方に押される。
ぐしゃぐしゃで黄ばんだベッドリネンを見て、聡は身震いした。
「隊長の時だって、最初はヤダとかなんとか言ってたのに、今じゃゴキゲンで飼われてるみたいじゃねぇか」
──!!
──抵抗してやる……! 絶対に。多少怪我をしても、殴られても、その次の瞬間に立ち上がって抵抗してやる。
ガスパルの言っていることは事実その通りなのに、聡の胸にムラムラと怒りが沸き起こった。
ドンッとガスパルを拳で殴ったが、軽くかわされ突き飛ばされてベッドに転がされた。
聡の下半身に馬乗りになって、ガスパルは服を脱がそうと上体に手を伸ばしてくる。
「お前、衛兵のクセに女衒……しかも居場所のない子専門の女衒なんかやって、恥ずかしくないのか!」
「うるせえな。だったらガキどもがどうやって稼ぐんだよ。マンコとケツ使うしかねーだろ」
必死に手を払いのけると、服を脱がすのは後回しにすることにしたらしく、ガスパルは片手で聡を押さえつけたまま、ズボンを下ろした。
「隊長のじゃ物足んねーだろ。気持ちよくしてやるよ」
カッと頭に血が上り、聡はガスパルに向かって勢いよく頭突きした。
「ぐッ!」
一瞬のけぞって手を離した隙に、ファビオに持たされたポーションの瓶を握って、喉仏に拳をぶちこんだ。
「あがッ!」
ガスパルがえずきながらうずくまったところで、間髪入れずにご自慢のちんこに思い切り蹴りを入れる。
「ぐッ……」
ガスパルは股間を押さえて床に転がり、うめきながら聡を見上げた。
「……てっ……めえ!」
ガスパルの脇をすり抜けて元の部屋に戻ろうとしたが、すれ違いざまに腕を思い切りつかまれた。
「なめてんじゃねぇぞ」
圧倒的な腕力の差に、なすすべもなく押し倒された。
──くそっ……!
その瞬間。
ガチャーン! と窓ガラスが割れる音がしたかと思うと、ゴッ! と鈍い音とともに、目の前のガスパルが横ざまに吹っ飛んだ。
驚く間もなく身体を抱き上げられると、玄関の扉が打ち破られる音がして、ドカドカといくつもの足音が続いた。
「全員動くな!」
「窓から逃げてもムダだ!」
──あ……、あ……。
「サトル! 大丈夫か!」
「ファビオ……!」
窓から飛び込み、椅子でガスパルを殴打して聡を抱き上げたのは、ファビオだった。
眉間にしわを寄せ、困ったような顔で聡を見つめている。
「どうしてここが……」
「ガスパルとホアンは、もともとマークされていたんだ。でも君にも尾行をつけておけばよかったと、心底後悔しているよ」
フルチンのまま取り押さえられ、手枷をはめられたガスパルは、悔しそうにペッと口に溜まった血を吐いた。
「サトル。ちょっとガスパルとホアンを斬るから、いったん下ろしてもいいかな?」
「えっ! ダメだよ! いくらなんでも殺しちゃダメ!」
聡はファビオの首にしがみついた。
「こいつらがサトルに何をしたかわかっているのかい?」
ファビオは聡の脇に手を入れて下ろそうとしてくる。
「わかるけど! こいつドクズだけど! 裁判は受けさせないと!」
この世界に裁判があるのかどうか知らないが、いきなり斬首はダメだ。聡はますますガシっとファビオの首につかまった。
「サトルは優しいね。ガスパルは、他の売春組織を摘発する傍ら捜査情報をホアンに流して、自分の組織だけを生き残らせていた。そして子どもたちの稼ぎから上前を跳ねていたんだよ」
悲しそうな顔をしたファビオの言葉に、ガスパルが吐き捨てるように言った。
「……隊長だってこのガキをひいきしてるんだ。俺だって自分のお気に入りをひいきして、何が悪い」
ガスパルはどつかれながら連行されていった。衛兵隊本部の地下牢に入れられ、法官による裁きを受けることになる。
子どもたちは取り調べのために連れて行かれた。よくわかっていない子はさておき、色々わかっていて手引きしていたホアンは、罪を免れないだろう、とファビオは言っていた。
◇ ◇ ◇
「サトル。どうして私が、館から出かけさせないようにしていたか、わかったかな?」
ファビオの館で、聡は遅い夕食を食べながらお説教を受けていた。
今日のメニューは、全粒粉のクレープにベーコンと玉ねぎと卵を乗せたものと、キノコの入った温かいスープだ。
「うん……。でもホアンについて行ったのはダメだったけど、出かけたこと自体は、後悔してない」
聡が上目遣いで口をへの字にすると、ファビオはハーッと溜息をついた。
「この街は、戦争が終わって本当に間もないんだね。だから食べていく術のない人たちがたくさんいて……」
聡は目の前のとろとろ半熟卵をじっと見つめた。
いや、食べていくかどうかだけではない。ものの考え方が根本的に異なる人がたくさんいるんだ、と実感した。
「やっぱり、教育と、法に対する信頼、国家観……」
ブツブツとつぶやきながら、スープを口に入れる。
「サトルは賢いね。自分の体験を整理して、学びにすることができる」
ファビオが微笑みながら言った。
キザだな、おべんちゃらかよ、と以前なら思っただろう。でも今はわかる。そういう人はこの世界には少ないのだ。おそらく戦争が長く続き、教育制度が置いてきぼりになっているのだろう。
この国に義務教育はあるんだろうか。司法制度は……。
「明日は図書館に行きたい」
考えながら食事を終えて聡が言うと、ファビオがふふっと笑った。
「君らしいね。でもダメだよ」
赤ちゃんを持ち上げるように、脇に手を入れて聡を抱き上げると、ファビオが頬ずりして言った。
「私がどれだけ心配したと思っているんだ」
──頬ずりなんてやめろよ、メガネがずれるだろ。
これまでならそう言っていたかもしれない。しかし聡は大人しく抱き上げられたまま、ファビオの金色の髪に手を伸ばした。
じっとファビオの瞳を見つめると、エメラルド色の瞳には泣きはらした跡があった。
「ホアンをマークしていたっていうことは、広場で会った時から、僕に接触したのはわかっていたの?」
「……そうだ。魔法を使える者に見張らせていたからね」
「ガスパルも一緒に摘発するために、僕がピンチになるまで待っていたの?」
「……そうだ」
答えた瞬間、ファビオの瞳からボロボロと涙がこぼれた。
「すまない……。すまない……」
抱き上げた聡の胸に顔を埋め、ファビオは涙を流し続けている。
ファビオが聡を「かわいい」「かわいい」と言う理由、ずっと館から出さなかった理由、そして聡をギリギリまで助けなかった理由……。
すべてがわかって、聡はむしろスッキリした気分だった。
「ギリギリにちゃんと助けてくれたじゃん」
「でも……君に怖い思いをさせた……」
聡はファビオの金色の頭を抱き寄せた。
ふわふわした髪の毛の下に丸みを帯びた硬い骨格を感じ、なんだかファビオが当たり前の人間の肉体を持っていることを、今更ながら実感して、胸が痛くなった。
「僕も、ファビオがこの国を良くするために頑張っていることを知らないで、色々言ったし。……ごめん」
「それとこれとは、罪深さが違うよ……。私にはもう、サトルをかわいがる資格は、ないのかもしれない……」
顔を見せずに泣き続け、それでも聡を抱き上げる手を下ろさないファビオの頬に手を当てると、ファビオは真っ赤に泣きはらした目を上げた。
聡は、恥ずかしくて少し目を逸らしながら、
「僕さ……ファビオに『かわいい』って言われるの、イヤじゃなくなってきたみたいなんだよね」
とつぶやくと、震える唇をそっとファビオの頬に触れさせた。
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