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第9章 死神の世界

記憶に鍵をして…

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私は死神長と償いの場へと来ていた。
そこには大きな穴がある。
「前にも何回か落ちた記憶がある。」
「それはそうだ、何回も罰を受けているからな。」
死神長は私の言葉に笑った。
私もそうだったと思い出したように笑う。
さっき記憶や感情を思い出した事で、笑う表情も自然と柔らかくなった気がする。
「そうだ。死神長、1つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
私は記憶を思い出してからずっと気になっていた事を尋ねる。
「柚希は…、今元気ですか?ここで幸せに暮らせていますか?」
その言葉に少し驚いている表情になった死神長だったが、
「知らん!!!」
「え!?」
その勢い良く放たれた一言に、次は私が驚かされた。
その様子を見て死神長はケラケラと笑っていたが、すぐに優しい微笑みへと変わる。
「だが、お前が目を掛けていた人間だ。きっと幸せに暮らしているだろう。」
彼の優しい言葉と声に何故か安心を覚える。
柚希が幸せであるという確証は無いのに、彼のおかげで大丈夫な気がした。
「ですね。へへ…。」
私も心配していた事が恥ずかしくなって、照れ笑いをする。
「じゃー行ってこい。待っているぞ。」
「はい、また会いに来ます。」
死神長の大きな手が見送るように、優しく背中を押してくれる。
私は深くて暗い大きな穴へと足を進め、皆を思い出しながら落ちていく。
婆さん、ワガママだったけどあんたからは家族の大切さを教わった。
どんなに喧嘩しても嫌いになれない、今の私にはしっかりと分かるよ。
前山恵、あんたの大切な人を最期まで想う気持ちを尊敬してる。相手の為なら自分の気持ちを押し殺せる、強い女性だよ。
井上紗綾、あんたは親友に嫌われる覚悟で気持ちをぶつけ合って、彼女を変えることが出来た。
誰かの為に怒れるって素敵な事だと思ったよ。
西宮光太、あんた達2人の絆は友情を超えるものだった。
友情も愛情も変わらない、お互いを想い合う気持ちが絆を育てていくんだね。
レンタロー、あんたガキなのにガッツあるよ。親子の愛って本当に温かいんだね。父親の温かい手に触れて育ったあんたが羨ましいよ。
そして柚希、君には恋心ってやつを芽生えさせられた。凄く苦しくてぽかぽかする。君の事忘れていたけど、思い出した今ならはっきりと分かる。君が大好きだよ。
今までこの感情達が何なのか分からなくて戸惑っていたけど、全ての記憶や感情の名前を思い出せた。
だから皆への想いが言葉に出来る。
あんなに表す事が難しかったのに、今は皆への気持ちを伝えられる。
本当にありがとう。
死神長、お父さん。
愛してくれてありがとう。


私は皆の笑っている記憶と共に穴へと落ちていく。
そしてその笑顔は、私が新しい身体になる時に心の奥底に鍵を掛けた。
眠った記憶を、また見つけるまでには時間が掛かると思う。
それでも必ず取り戻す。
だから温かい記憶のまま、もう少しだけ私の傍にいてください。
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